コメディ・ライト小説(新)
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.11 )
- 日時: 2023/12/17 12:16
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)
前作のカオスヘッドな僕らを見てくれた人ならわかると思うんですが
相変わらずキャラが変な人しかいない。
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〈こいとside〉
美祢さんがコマリさんに話をつけてくれたおかげで、うちは無事(?)彼女の協力者として家にお邪魔する権利を得た。
ゴーストのキメラである自分は、たまに頭の中に知らない女の人の声が響くことがある。
これが多分、恋愛の神様・オオクニヌシノカミなんだろう。
魂が2つあるからと言って、人格がチェンジしたりすることはない。
たとえば急に背中から羽が生えたり、後光が差したりとか。ノンノン。
基本的には、今喋っているこの人格がメイン。あとは特殊能力的な感じで、神様のチカラを使わせてもらってるだけだ。
(……オオクニヌシノカミ?)
〈なんぞ〉
美祢さんとコマリちゃんが買い物に出かけたのを機に、うちは心の中で相棒に問いかける。
静かで凛とした声音で、オオクニヌシノカミは応えた。
んもう、口調が固いなあ。
神様だからとはいえ、いつまでもそんな冷たい態度じゃ嫌われるよ。
(なんで、うちの身体に入ろうと思ったの?)
〈何か問題でも?〉
生まれつき、オオクニヌシノカミ(長いな。これからはクニたそって呼ぼう)と意思疎通ができてたわけじゃない。
中学1年生で死ぬまでは、うちは普通の人間の女の子だった。
動くことと歌うことが大好きで、アイドルに憧れていてね。
中学校では演劇部で頑張ってたの。
努力をすることを苦痛とは感じなかった。必死に練習して四か月後には、マシな役を貰えるようになって、先輩も同級生も褒めてくれて。好きな人も……できて。
『一緒にアイドルのライブ行こうね』って約束したんだ。
でも。うちの夢は叶わなかった。うちの人生が終わったからだ。終わったはずだった。
――終わらせたはずだった。
(なんでうちを助けたの)
〈アレしか方法がなかったからじゃ。あのままではお前は、奴に吸収されていた。悲惨な最期を遂げることになってしまったんじゃぞ〉
悲惨な最期か。
でも、わたしは彼と一緒にいられるなら、どんな運命でも受け入れるつもりだったよ。
〈こいと。お主のその言い方はまるで、『お前さえいなければ死ぬことができた』と言ってるようなものじゃよ。勝手に自己完結するのはやめたらどうじゃ。お前には嘘が似合わん〉
「………」
〈それに、会いたい相手がおると聞いたが。それはもうよいのかの? 月森のおなごに協力するとか騙っておったが、わらわはもっと別の理由があるとみて踏んでおる〉
「……」
〈お前はそ奴に会うために、月森コマリを利用する。違うか?〉
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.12 )
- 日時: 2023/03/05 21:11
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
お知らせ。次回の更新日は、3・6日です。
お楽しみに。
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.13 )
- 日時: 2023/12/17 12:25
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)
〈美祢side〉
その日の夕方、俺達は夕飯の材料を買いに、近くのスーパーへ行くことにした。
こいとの歓迎会もかねて、たこ焼きパーティーをする予定だ。
俺としては、コマリの世話役が増えて安心している。あいつは何かとガサツで扱いづらい。
その点、こいとは言動こそ荒いものの敬語を徹底しているし、真面目で素直だ。彼女になら任せてもいいだろう。女子同士だし、会話も弾みそう。
「うわああああん、なんで急に降るのぉぉ」
スーパーにつくなり、コマリが泣き崩れた。彼女のスウェットは、突然降りだした雨によってびしょびしょになっている。うっすら下着が……おっと、これ以上はセクハラだ……。
「わー、すごかったですねぇ。これが逆憑き。あはは!」
「こいとちゃん、なんで笑えるのぉぉ」
「幽霊は天気事情とかどうでもいいので」
「ずる過ぎるよおお」
こいとは現在も、空中をゆらゆらと浮遊中だ。
俺たちには高くて届かない棚の商品を、代わりに取ってくれている。
でも俺は見逃さない。今、カートのかごの中に、じゃがりこを放り込んだな?
「さて、なんのことやら」
こいとは『わたし、違いますよ』ってな表情だ。白々しいにもほどがあるだろ。
「返してこい。今すぐ。おまえ昼も俺のお菓子勝手に食ってただろ」
「だって期間限定ですよ!? 明太子味ですよ!」
「明太子が好きなのはわかったから、ほら、閉まって来い。店員さんに気づかれるとやばいんだよ。ちょっとは察しろ」
一般人視点で見ると現在の状況は、かなりカオスだ。
びしょ濡れでガミガミ説教している、桃色の髪の男子高校生。同じく頭から雫を垂らしている女の子。そして、宙に浮いているじゃかりこ(明太子味)。
「そんなんだからモテないんだよ」とかブツブツ言っていたこいとだが、目立つのは避けたかったようで、不服ながらもお菓子を棚に戻す。
「あはは、恋愛の神様に言われちゃったね、トキ兄」
コマリはとっても、嬉しそうだ。
「ほっとけよ」
俺はプイッと顔をそらす。
別にモテたいとか思ってない。恋愛に時間をとられる位なら家でゲームをやってる方がマシだ。
……いや、でも。
もしも自分にチャンスが回ってくるのならば、そんときは、まあ、楽しまないことも、ない。
チラリとコマリの顔を覗き見る。まんまるの瞳。赤みがかった頬。
こいつ、大人しくしとけば意外と………。
って、何考えてんだ俺。無理無理無理。こいつと付き合うとかマジ無理。
ん?? え、待って俺今付き合うって言った?(注:言ってません。心の声です)
「うわああああああああああ!??」
「えっちょ、トキ兄??」
「お、おま、離れ、離れろよ」
「べつに、くっついてないんだけど」
「くっつっ!?」
待て待て待て。落ち着け。なんでこんなに焦ってんだ?
自分でも自分が分からない。どうしちゃったんだ?
ま、まさかまさかまさか……、こいとか?
あいつ確か、運気アップとか言ってたよな。恋愛魂だっけ? あれ、確か出したよな? そのせいで俺達の恋愛運が上がって、異性を意識するようになったとか? か、考えすぎ?
「なに叫んでんの? 怖いんだけど!? く、狂ったの?」
コマリが素っ頓狂な声を出して、そっと右手を俺のおでこに押し当てる。
すべすべした感触が、手のひらからじきに伝わってきて。
「ひゃっ」
「熱はないね。だ、大丈夫? 知恵熱? わ、私が頼りないから無理させちゃったのかな」
「うっ」
彼女の手が、おでこから、今度は俺の右手に移る。指と指が絡まり合う。
「え、あの、え……?」
「いつもありがとう、トキ兄」
「………う……。っ??」
なんで俺はこんなにドキドキしてるんだろう……?
頭がフワフワして、身体に力が入らない。どうしよう。なんだこれ。マジでなんだこれ。
コマリは何も感じていないみたいだ。ただひたすら、赤い顔をして棒立ちになっているパートナーへ、思案気な表情を浮かべている。
「こ、こいと……おまえなんか、やったのか……?」
「え、な、なんのことですか? え、ってか、すごいハアハア言っててヤバいんだけど。大丈夫そ?」
「は、はあ? おまえの能力じゃねえのかよ……」
「ち、ちがいますよ? こんなことできません。恋愛の運気も、美祢さんの場合ずっとゼロですよ」
こいとは、疑われたことへの怒りと、俺の体調の変化への驚きで半々といった具合だ。
もしかして、昼間盛られてた菓子になんか入れられてたか? んな、馬鹿な。
と、不意にコツコツコツ、という靴音がした。
目の前が暗くなる。誰かが俺の目の前に立ったようだ。誰だ……?
身長は俺より一回りほど大きい。百七十センチ前後だろうか。やたらとサイズの大きい白衣を身にまとっており、髪色は艶のある黒。横に垂れている髪だけ長く伸ばし、後ろはウルフカットに整えられている。
「やあやあやあやあ! 久しぶりやなあ美祢」
その男は、おかしな訛り口調でべらべらと言葉を続けた。
「随分あっさりとかかりよったけど。ボクの操心術そんな強ないねん。なんや、弱くなったんとちゃいます?」
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.14 )
- 日時: 2023/12/17 12:24
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)
さあて、どんどんラブコメチック&キャラの心情が入り混じるストーリー
謎の人物とは一体?
本日は二話投稿です♪ 新キャラも愛してね。
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〈コマリside〉
あれ……? 私、今まで何してたっけ?
我に返るのと同時に、自分がトキ兄の両手を強く握っていることに気づき、困惑する。
「え?」
全てを理解し、私の顔は一瞬で赤く染まる。体温が上昇し、鼓動が速くなるのが分かる。
おそるおそる前を見ると。トキ兄が、頬を紅潮させながら目を潤ませていた。
「あっははははははは! こんな簡単にハマるとはなあ!傑作傑作」
後方で、周りの人の視線も気にせず高笑いしているのは、背の高い男の子。
歳は、トキ兄と同じ位かな。端整な顔立ちをしており、率直に言えばかなりのイケメンだ。
彼は腹を抱えながら、ゼエハァと肩で息をしている。笑い疲れて、しんどいようだ。
「……おまえ」
トキ兄の口から、ぞっとするような低い声が漏れた。
顔をこわばらせ、鋭い目つきで相手を睨んでいる。怒ると怖いのは理解していたけれど、ここまで感情をむき出しにしたのは初めてだ。
「なんやねんミネ。いとこにそない怒ることないやろ」
「「いとこぉぉ???」」
「せやでー」
私とこいとちゃんの声が揃う。この子、時常美祢のいとこなの?
それにしては、トキ兄への当たりがいささか強すぎやしないだろうか……。それに、操心術って。この人、一体何者なの?
「あ、自己紹介が遅れたわ。ボクの名前は夜芽宇月。職業はハンター」
彼―宇月さんは白衣のポケットに手を突っ込んだ。
「ハンター?」
「あ、知らん? うーん、君にも分かるように言い換えれば、祓い屋のことやな。霊能力を使って、霊を狩る。ボクの家系は陰陽師の末裔で、微力ながら霊能力が使えるんよ」
れ、霊能力者って、実在するもんなんですね……。
漫画やアニメで馴染みのある言葉ではあるけど、いざ現実に現れるとどう対応していいやら。こ、これも逆憑きの効果かしら?
「なんでここにいるんだよ宇月。おまえ、京都の大学行ってただろうが」
トキ兄の態度は変わらず悪い。どうやら、そんなに仲はよろしくないようだ。
無論、能力とやらで心を操られ、弱みを握られて黙っている人はいないよね。
「ちょっと大学が自分と合わんくてな、中退することになったんや。そのあと、おまえから同棲の連絡が来て。ちょうどボクもハンターの異動で東京に移る予定やったから、連絡も取れてええかなと思って。美祢は昔から口先だけであんまり動かんしな。ボクがコマリちゃんの周辺の霊倒せば、安心して暮らせるやろ?」
「俺がいるだろうが!」
「美祢は何もできんやろ」
トキ兄の叫びを、宇月さんは冷ややかに一掃する。
軽薄な口調の裏には、ぞっとするような圧があった。
「霊が見える。ただそれだけ。それで人を救うなんてあほらしくてしゃあないわ。パンチ一つも打てんやつが、女の子を救えるわけないやんか」
やめて。
「ボクは、なにか間違ってることを言うてるかな? アンタには無理だから、年上に任せろ。そない難しいことやないで。なあ、大人しく言うこと聞けや」
……やめて。
「現に振り回されてるやん、術にもハマるし。なあ、いつまで無能さらしとるん」
………やめて!
「もうやめて!」
考える前に体が動いていた。
私はトキ兄の前に立ち、両手を広げる。足も手もガクガク震える。大きい人に怒鳴るのはこわい。でも、それでも。
「あ、あんた、何なんですか。わ、私のパートナーを、舐めないで、ください!」
「っわ」
宇月さんの腕を強くつかむ。
虚を突かれて、宇月さんが一歩後ろに下がった。
「わ、わたしの、トキ兄を、悪く言わないでください!!!」
トキ兄は無力なんかじゃないよ。私のルームメイトは、ボディーガードは、とっても優秀だよ。
毎日毎日、テレビ電話を繋いで、危険がないか調べてくれたり。宿題で分かんない所があれば、教えてくれたり。
けだるい雰囲気を出しつつも、なんだかんだ言って彼は優しい。私もついつい甘えちゃって……。
「束縛の強い男はフラれるよ」
こいとちゃんがポツリと呟く。
「うちもあんたのこと、大っ嫌いだから」
宇月さんは、数秒間フリーズしていた。
三人から敵意を向けられたことに耐えられなかったのだろうか。それとも、自分の行いを少しは顧みてくれたのだろうか。
「……おい宇月。俺も確かにおまえのこと嫌いだけどさ、昔はこんな感じじゃなかったじゃんか」
トキ兄が縋るように言った。
「少なくても、数カ月前は穏やかだった。一体どうしたんだよお前。きゅ、きゅうに来られて、大学辞めたとか術かけたとか言われても訳分かんねえよ」
宇月さんは、「ハァーーーーーーッ」と長い息を吐く。その息には深い哀愁を帯びていた。まるで、なにかを必死に押し殺しているような、そんな息づかいだった。
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.15 )
- 日時: 2023/12/17 12:17
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)
コロナ・39度の熱で更新が出来ませんでしたが
ようやく熱が下がりました(まだ隔離中ですが)
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〈宇月side〉
「………ごめん。疲れとんのかな、ボク。あかんわ」
なんで、こうも自分は極端なんだろう。
術なんかかけたら、それこそ怒られるに決まってる。あんなきつい言い方したら、当然悪い印象になるのも分かってる。頭ではしっかりと理解してるのに、いざ対面するとこうだ。
生意気で、口が悪くて、プライドが高くて、わがまま。
今日もまた空回り。
「か、帰るわ。ひどいこと言って悪かった」
「お、おいちょっと、宇月?」
「……またな」
ボクはくるりときびすを返すと、逃げるようにして出口へと歩き出した。
くちびるが震えて、目の端からは涙があふれる。あかん、なに泣いてんのボク。泣きたいのはあちら様の方やろ。
と。
「うわぁっ」
「おうわっ」
うつむき加減で移動していたからか、目の前に迫ってきた客と頭をぶつける羽目に。
ゴツン! という鈍い音が響き、ボクも相手も頭を抱えてうずくまった。
「いっっっって!? おいアンタどこ見て……ってあれ、向こうにいるのって月森……?」
「……………へ?」
ぶつかってきた、水色のTシャツを着た中学生くらいの少年の視線が、とある人影を捉える。
視線の先では、先ほど別れたばかりのあの三人衆が、お菓子コーナーの近くで遠巻きにこちらを眺めていた。
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.16 )
- 日時: 2023/12/12 11:48
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)
宇月さんがもし学校に居たら絶対仲良くなれないむうですが
ある意味コイツが一番人間らしいんじゃないかなとは思ってます
はよそのプライド捨てやぁ(親)
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〈コマリside〉
宇月さんを一言で表すなら、『台風の目』だ。
突如現れ、私たちを自分のペースに巻き込み、翻弄し、そしてすぐに去る。その際に、新たな災いを引き寄せる。
出口へ移動するのをずっと目で追っていたわたしは、彼が尻餅をついた音で肩を震わせた。
す、すっごい音したけど、大丈夫かな……?
この位置からじゃ宇月さんの背中しか確認できないけれど、周りのざわめきから察するに、人とぶつかってしまったようだ。
「すっげえ音したな」
「で、ですね」
トキ兄とこいとちゃんも、お互い顔を見合わせる。時間の経過と共に、険しかった二人の表情は、穏やかなものに戻っている。
「あ、頭とか打ってないといいけど……」
「アイツ石頭だからな。大概の衝撃には耐えられるだろ」
トキ兄はフンと腹を鳴らして腕を組む。
散々ひどい目にあわされたので、こういうのは見てて気持ちいいんだろうな。
で、でも、そんな漫画みたいなことにはならないんじゃないかなあ。
あの感じ、わりと派手に転んでるよ……?
「あんな奴なんかほっとけよコマリ。おまえだって操られただろ」
「それはまあ、そうだけど……」
出会って数分しか経ってないけれど、プライドが異常に高いことは充分把握できた。ただ聞いた感じ、あれが素の状態というわけでもなさそうだ。
なんだか話しづらそうにしていたし、声もところどころ裏返ったりかすれたり。スラスラと一定のトーンで喋る、ということがなかなかなかったように感じる。
うーん、よく分からないなあ。
意地悪なことは意地悪なんだけど、かといってめっちゃ悪い人でもなさそうだし……。
それとも私の認識が甘いのかな?
普段使わない頭を一生懸命動かしていると。
「あれ、月森!?」
聞きなれた声が耳に飛び込んできて、私は反射的に顔を上げる。明るいハキハキした口調。
「だ、大福!」
宇月さんの真ん前で倒れていた男の子が起き上がった。その人物を私はよく知っている。
ストレートの短髪。程よく日焼けした肌。155㎝と、男子にしては若干低い身長。
クラスメートで私の友達・福野大吉の声は、私に会えた嬉しさと驚きでいつもより大きかった。
「な、なんで大福がこのスーパーに? 地区違うのに」
大福の家と、私が住んでいるアパートは正反対の方向。
自転車で三十分もかかる距離なのに、なんでわざわざこっちのお店に? 支店なら大福の家の近くにあるじゃん。
「叔母さんちがこっち方面でさ。今日は親戚みんなで集まる日だったんだ。母ちゃんが叔母さんの家まで車で送ってくれたんだ。俺は食材調達係ってことで、スーパーの近くに降ろされたけどな」
「そうなんだ。杏里がいないから珍しいと思って。よくお買い物デートとかしてるもん」
「デートって言うな」
大福は恥ずかしそうに顔をそらした。
杏里に好意を抱いてるのはバレバレなんだから、隠さなくてもいいのにな。
「俺のことはいいんだよ。月森こそ、横にいる人って彼氏? だよな?」
「「あ」」
……………あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ(恥辱+涙)!!
そうだ。私たち、先日カップルと盛大に誤解されたんだったぁぁ。
「え、えっと……」
「うわ、イケメン! しかもめっちゃオシャレ~。高校生っすか? すげえ!」
「いや、その、あの」
トキ兄の今日のファッションは、鎖やらボタンやらがたくさんついた、ゲーマー風のパーカーに黒いズボンだ。蛍光ピンクの髪と相まって、本当にプロゲーマーみたい。
こういう服持ってるなら、着る頻度増やしたらいいのに。
(コマリ……! マジどうするよ)
あああ、トキ兄、目で訴えかけるのやめてぇぇ。
こちらまで居たたまれなくなってくるよ!
ど、どうしよう。流石にこの状況では逃げられない。
こいとちゃんはあの時いなかったから、この件をそもそも知らないし。
「どどどど、どういうことですかっ? カップルって何ですかっ? めっちゃ気になるっ! わあああ」
大福の霊感がないのをいいことに、観戦者としてひとりで盛り上がってる恋愛の神様。
「トキマリってカップル名つけよっかなあ。萌えるなあぁ、いいなあ」
宇月さんは、一瞬『何が起こった?』と目を白黒させていたが……。
数秒後、全てを悟ったのか、口パクで「たすけてあげようか」としきりにサインを出し始めた。
……ほんっとうに憎たらしい。
(ど、どうするトキ兄。カップルの振りでもしてごまかしとく?)
(いや、気まずすぎるだろ。あの恋愛マスターこいとは使えないのかよ)
(ラブコンボールだよ!? お店の商品壊しちゃうよ!)
改めてラブコンボールってひどいな、名前。
もっと、トゥインクル★とか、トキメキ★とか、なかったんだろうか。
(もう真実打ち明けたほうがよくないか?)
(打ち明けてからのコレだからね。勝手に脳内でカップル変換してるからさ……)
(うう、やる、しかないのか?? マジで? さっき事故でやったばかりなのに?)
再び宇月さんの口パク伝言「たすけてあげようか」が発令される。
うう、なんでこの人の能力がよりによって心を操る能力なんだろう。
「彼氏となんかやったりすんの? ちゅ、ちゅーとかさ」
「!? ……え、えと………」
ああ、大福、その純粋無垢な目をこっちに向けないで。
そしてこいとちゃんも、私たち二人が黙ってるのをいいことに「キース、キース」とか言わないでぇぇ!! そして宇月さん、口元が震えてますよ笑わないでください!
「…………仕方ない。コマリ、ちょっと我慢しろよ」
と、トキ兄が小声で告げる。
な、なに? と尋ねようとした瞬間、くいっと右手を引っ張られた。
私の指とトキ兄の指が絡まり合う。
あっという間にわたしの右手は、がっちり握られてしまった。し、しかも、これってその、あの。
こ、恋人繋ぎってやつ、だよね……?
(え、ええええええええええええええええええええええっっ)
やばい、心臓がうるさい。頭が、ぼうっとして体がふらふらして。
今、宇月さんの術はかかっていない。ということはこれは、私の……?
「そうです、俺はコイツの彼氏です。何か問題でもありますか」
トキ兄はややつっけんどんに言うと、大福を下から見上げた。
(ちょ、ちょっとトキ兄、本気―――――――――?)
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.17 )
- 日時: 2023/03/14 16:45
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
閲覧数200突破ありがとうございます!
そして第1章は、こちらで終了となります。第2章は4月から連載します~お楽しみに!
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〈再びコマリside〉
………ホント、びっくりしたなあ。
私はまだドクンドクンと高鳴る胸を服の上から抑えながら、家へと続く坂道を歩いている。
右手には、スーパーのレジ袋。中にはたこ焼きで使う具材やらソースやらが一緒くたになって入れられている。
あのあと、トキ兄の迫真の演技(?)のおかげで、私は余計な検索をされることなく大福と別れることが出来た。
大福はすっかりトキ兄に憧れてしまったみたいで、別れ際「いやあ、ほんと、美祢さんってかっこいいな!」と手をブンブン振っていた。
「あの人に憧れて、次から髪染めてきたりしないだろうな」と苦笑いする反面、「確かにかっこ、良かったな」と納得する自分もいて。
「んじゃ、ボクもおいとまするわ。ほんとごめんな。ミネ、なんかあったら連絡しろよ。ボクが言えた話やないけどな」
ご存知スーパー腹グロ霊能者の宇月さんとも挨拶をし、騒がしい買い物は幕を閉じた。
思えば今日は、こいとちゃんとの出会い、宇月さんの騒動、大福との再会と、イベントが目白押しだったなぁ。
これも全部体質が原因なら、私は〈動く死亡フラグ〉ってことか。嫌だな、こんな二つ名。
「……あのう、お二人さんソーシャルディスタンス取りすぎじゃないですか」
と、沈黙に耐えかねて、後ろを歩いているこいとちゃんが口火を切った。
彼女の眼の前……の人影―すなわち私とトキ兄は、一メートルほどの距離をとっている。
お互い近くに行こうと歩幅を合わせても、無意識に体が離れてしまうのだ。
「まあ、勝手に介在してしまったうちも悪いんですけどね。いいですよ、お二人が邪魔だっていうなら出て行きますよ」
「そ、そんな!」
ぷうっと頬を膨らませるこいとちゃんに、私は慌てて言った。
「そんなと言わないでよ。私、こいとちゃんのこと好きだよ」
兄妹がいない私にとって、彼女の存在は本当の妹のようだった。コマリさん、コマリさんと呼ばれるたび、胸の中に温かい気持ちが溜まって行って。
だからそんな悲しいこと、言わないでほしかった。
「そ、そうですか。あ、ありがとう……ございます」
こいとちゃんは照れたようにうつむく。
自分からはグイグイ行くくせに、言われるのは慣れてないらしい。ほんと、そういうところが無垢でかわいいんだよな。
「…………トキ兄も、もう、大丈夫だよ」
「は?」
スーパーを出てから今までずっとだんまりを決め込んでいたトキ兄は、私の言葉で久しぶりに顔を上げた。
相変わらず目つきの悪い相貌で、こちらを一瞥する。
「何の話?」
「もー、とぼけないでよ。宇月さんのときも、大福のときも。私のこと守ってくれたでしょ」
トキ兄は一瞬なにか言いたそうに口を開いたけど、それは息となって空気に混ざる。
彼はそっと目を伏せた。本音を隠そうとするときの、いつものクセだった。
「別に、あれは守ってない。宇月の話はどれも正論で間違いじゃなかった。コマリの同級生のときは、ああするしか方法がなかった。ただ、それだけだ」
誤解されやすい見た目や発言をしているけど、私は知ってる。
この時常美祢という男は、『ただ、それだけ』のことを、勇気を振り絞って実行できる人だ。
本人にとっては些細なことかもしれない。でも私はあの時、彼に手を握ってもらったおかげで、気持ちが落ち着いたんだ。
「迫真の演技でしたね! どっかで習ってたんですか?」
「いや、あれはカン。あの数分間の思考でできることなんて限られてるしな。宇月にヘルプするのは、その、自分のプライドが許さなかったんで」
「あぁ……。でも、あの頬を赤らめる仕草とか、クオリティ高かったですよ。経験ある私でもドキドキしちゃいましたもん。って何そっぽ向いてんですか美祢さん??」
「うるせえ」
見ると、トキ兄はさらにさらに私とのスペースをとり、塀と歩道ギリギリの所をわざわざ通っている。
え、私、ついに嫌われちゃったんだろうか……?
っていうか、あんな塀に密着してたら服汚れるよ!
「言っときますけど、このラブリーキュートのこいとちゃんに隠しごとなんて出来ませんからね! どこに居てもあなたの運気は筒抜けなんですから。……あれ? お二人とも運気が上がってる。ふんふん……はあはあ、そういうことかあ。しめしめ」
え、待ってこいとちゃん、ひとりでブツブツ呟かないで。しかもニンマリ笑ってるし。
そういうことってどういうことなの??
そしてなぜトキ兄は、あんな隅っこにいるの? か、顔も合わせてくれないし!
「色々と疲れたんでしょう。波乱の一日でしたし」
こいとちゃんは淡々と答える。
流石幽霊、私たちとはちがって、息が切れたり足取りが重いなんてことにならないのが羨ましい。
「そっか。そうだね。よしこいとちゃん! 今日は早く帰って、たこ焼き作りまくろう! ひとつだけワサビ入れて、トキ兄に食べさせたりするのもいいね、うふふ」
「おーい聞こえてんぞー」
わいわいがやがやとお喋りをしながら帰路を辿る私たちの頭上には、満天の星空が広がっていた。
――第1章 END―――
コマリ「第2章は4月1日から連載するよ!」
美祢「第1章以上にドタバタドキドキした日常をお届けするので、楽しみにしててくれよな」
こいと「ラブラブイチャイチャのシーンも増量予定♪」
宇月「キャラの過去に迫るストーリーや、バトルシーンなんかも登場するで!」
作者「それでは、次回もよろしくお願いいたします~」
全員「ばいばーい」