コメディ・ライト小説(新)
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.18 )
- 日時: 2023/03/31 11:43
- 名前: むう (ID: viErlMEE)
むうです。第2章は4月1日からと言っておいてアレなのですが
プロットを書いていたら、書きたい欲が抑えきれなくなってしまいまして。
少し早いですが連載始めちゃいます! よろしくお願いします。
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第5話「要らない力」
〈宇月side〉
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
天気は曇天。灰色の絵の具をぶちまけたかのような雲に覆われて、お天道様は姿を隠していた。
雨のせいで外出する人は少なく、家の灯だけが夕方の暗闇に映し出される。
しかし現在、閑静とした街の空気に、ボクの地面を蹴る音と荒い息づかいが混じっていた。
「くっそ、たれ……っ!」
「ケケケケ……ケケケケ……」
ボクは背後に迫る敵を睨みつける。蜘蛛のような風体をしている化物だ。黒くて丸い球のような体に、人間の腕が二本生えている。
その腕を使って、地面を這うように動く。
それはまるで有名な害虫・Gのようだ。
「なあ、おい篠木! いつまで待たせんのや、とっとと来らんか!」
ブーブーブーブー。
白衣のポケットにしまっていた通信機器に向かって呼びかけるも、応答はない。
今回の作戦内容は、襲って来た悪霊をボクの能力・操心術(マインドコントロール)でひきつけ、仲間が合流する時間を作り、他のハンターによって倒すというもの。
なのにさっきから連絡は来ないし、キモい悪霊は近寄ってくるし、力の使い過ぎで頭がクラクラしてきたし。
「こ、この土壇場でドタキャンとか頭いかれてるんか……? それとも都会の能力者は、地方からやってきた奴なんてどうでもいいのか……!?」
「ケケ、ケケ!」
もしこのまま来なかったら。悪い予感がする。
と、化物がいきなりこちらに突進してきた。大きな腕が眼前に伸びる。魚を捉える網のように、その掌は広く分厚かった。
「っっぶな!……う゛!」
ギリギリのところを飛んで回避したはいいものの、キーンと耳の奥が鳴った。
能力使用の代償で、一回使うごとに体のあちこちが痛みだすんよな。
今日はまだ頭痛だけで済んでいるけど、これ以上使い続ければ……。
「おい篠木! なあ、返事しろ! おい……、お?」
電話の通話画面に、かわいい猫のアイコンが表示された。
蚊の鳴くようなか細い、けれどもしっかりとした女性の声が響く。
『す、すみません夜芽様! こ、こちらも、大変戸惑っておりまして……』
「ケケ……ケケ!」
「……なかなかしぶといな。 ………この! 〈操心術:一式〉解放!!」
「グ………ァァァァ!」
『夜芽様、どうされました?』
「……はぁ、いや、大丈夫……なんでもない」
電話の応対と攻撃の防御とマインドコントロール。マルチタスクを頑張る自分エライ。
あかん、体力だけじゃなく思考まで馬鹿になっとるみたいや。
今は、あのG(いや化物)が戦意を消失するように操ってるけど、アイツ中々しぶとい。
ちょっとでも気を緩めたら終わりだ。
ボクの力はあくまでサポート専門。攻撃手段として用いるのも憚られるような、汚い能力や。
「戸惑ってるってなんや? どうかしたん」
『そ、それが、そちらに向かう道中で多数の悪霊の襲撃にあいまして。対処するのに精いっぱいで、そちらへ向かうのが難しくて……』
ふうん。多数の悪霊の襲撃ねぇ。
この路地の位置は、あのアパートから北西に二百メートルってとこやな。
あらためて、すっごい効果やなあ。
「あー、オッケー。そういうことなら、こっちもなんとかやってみるわ。忙しいとこ悪いな」
『いやいや、そんな。でもなんでこんなに数が多いんでしょう』
痛いところを突かれて、ボクは顔を見られているわけでもないのに視線を彷徨わせた。
「あー、あれとちゃう? 少子高齢化とか」
『そうなんですか? なんにせよ、前はそこまでじゃなかったのに変ですね。じゃ、じゃあ私戦闘に戻りますねっ。ご武運を!』
「了解。ボクもまあ、できるだけやってみます」
ボクは携帯の電源を切って再びポケットにしまうと、深呼吸をして気持ちを静める。
肩の力が抜けるのを実感してから、「ケケケケ」と不気味な音を立てている化物を見上げた。
あんな体質になってしまったあの子に同情したい気持ちもあるけれど、正直、目の前の化物も篠木さんが戦っている霊の集団も、全部コマリちゃんのせいやろな……。
美祢は「俺が守るから」とか「いい霊の力を」とか言ってるけど、ボクとしては、そんなことで治るような簡単な話ではない気がする。
人が逆憑きになる、根本的な原因がきっとどこかにあるはず。
それがどんなもんかは予想がつかないわ。何事もゆっくり取り組まないといけんな。
さて、まずは目の前の敵さんから始末するとしましょか。
「退魔具使うんは慣れんけど、まあいっか」
ボクは白衣の内ポケットから、黒色の護符を取り出す。夜芽家に伝わるこの護符は、念を籠めるだけで自由自在に形を変えるのだ。
「〈操心術:第二式〉黒呪符」
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.19 )
- 日時: 2023/03/27 08:48
- 名前: むう (ID: viErlMEE)
★本編前のひとこと用語タイム★
『黒呪符』→宇月の奥義・護符に自分の邪気を籠めて戦う技。
『恋魂球』→こいとの能力。恋愛の運気を集めてエネルギーの球にして投げる
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〈コマリside〉
「うぅ……」
私はアパートの自室、トキ兄と共用の狭い部屋のちゃぶ台に突っ伏して、手をバタバタさせた。
広げたノートは真っ白。隅に置いたシャーペンと消しゴムは、全く使われていない。
季節は五月上旬。あれから時が過ぎ、みんな大好きゴールデンウイークに突入した。
よっしゃ、休みだ! 遊ぼう!
そんなワクワクする気持ちを冷めさせるのが、大量に出された課題の山である。
国数英理社のワーク、一冊ずつに加えて新出単語の意味調べに、一日一作文。
家庭科のレポート作成、連休明けテストに向けたプリントと、やることがいっぱい。
小学校時代は頑張っていた勉強も、今は(体質のせいだと言い訳した結果)赤点回避に全力。
「どんなに頑張っても44点なんだから、勉強する意味なくない……?」
「行ける高校無くなるぞ。俺みたいになりたくないなら頑張れよ」
私の対面に座って本を読んでいたトキ兄が、呆れて言う。
彼が中退した高校は、市内で有数の難関校だ。
塾に通ったことがないらしいので、この人の地頭がめちゃくちゃいいってことになる。校則さえ破らなければ、楽々進級できただろう。
「てかお前、どこがわかんないんだよ。言えよ、教えるから」
「問題の意味がわかりません……。英訳しろって言われても読めないんだもん」
ああ、こんなことになるならしっかり勉強しとけばよかった。
せっかくの休みだし、貴重な時間を浪費したくないよ。
「どこだよ」
「ここここ。問2の(2)」
私は英語のワークのページを開いて、トキ兄に差し出した。
「え? 簡単じゃん。Can I help you? Can+人+動詞で~することができますか、転じて~してもいいですかって意味になる。これは直訳すると、『私はあなたを助けてもいいですか』だ」
「な、なるほど」
「でもそれだと不自然だから、この英訳は『どうしたの?』『手伝いましょうか』みたいな感じだな」
ほぇぇぇぇ、なるほど。
英語って進むにつれて単語数は増えるし、覚えること多くて大変だけど、分かると割と楽しいかも……?
「そのあとも同じようなやつだな。Could you~? は、Can you~の丁寧な表現だ。この調子で問2の穴埋めは全部埋めれるはずだよ」
「うわ、すごい! やっぱトキ兄に頼んでよかったぁぁぁ」
あんなに動かなかった手が、今はするする動く。
人に何かを教えるのって、とっても難しいらしいけれど、トキ兄の説明は簡単で分かりやすくて、しかも本人が全然苦じゃなさそうなんだ。
「私、トキ兄と学校行きたかったなあ。絶対楽しそうじゃん。一緒に登下校してさ。授業中、宿題忘れたら見せてもらえるしね」
特に深い意味はなかった。
トキ兄に勉強を教えてもらう時間が好きだから、学校に彼がいたら学校生活がもっと華やかになる気がしたんだ。
「宿題見せてもらえるってお前、俺が隣の席って前提なの?」
「へ?」
「だってそうだろ。机くっつけるお決まりの展開だろ。そんなにピンチならもっと勉強時間増やせよ」
トキ兄は察してないみたいだけど……。
もしかして私、今凄く恥ずかしい考えをしちゃったんじゃ。
横に並んで通学して、しかも隣の席にいてほしいなんて、かんっぜんに私……。
(まるで私が、トキ兄のこと好きみたいじゃん)
とくん、と小さく胸が鳴った。でもそれはすぐに収まる。
スーパーの騒動のあと、なんだか身体がおかしい。急に息苦しくなって、脈が速くなる。
なんだろう、これ。
「おいコマリ。手がまた止まってんぞ。具合でも悪いのか? 休憩したら?」
「いやあ、な、なんでもない。大丈夫だよ」
あれ、なんで私、苦笑いをしちゃったんだろう。ここで苦笑いする必要、全くないのに。
でも、一人でいる時やお風呂に入っている時、思い出してしまうんだ。あの時握られた手の温度。
「そ、そう言えばさトキ兄。この腕輪の効果、すごいね」
「? 腕輪? ああ、宇月に送ってもらったやつか」
私の右腕には、編みこまれた赤い腕輪が巻き付いている。
小さな銀色の鈴がついていて、腕を動かすとシャランと鳴るんだ。
霊能力者がよく使っている魔除けのグッズで、先週これが入った封筒が、トキ兄宛てに宇月さんから送られてきたらしいの。
「私、この前国語の小テストがあったんだけど、56点取れたんだ。初40点以上だよ。ほんっとうに嬉しくて!」
「お、おう。お前だから喜べることだよ……」
トキ兄は、どういう顔をしたらいいか分からないようだ。泣きたいのか、笑いたいのか。片方の目をキュっと細めて、口角をあげた複雑な表情をつくる。
「雨も最近降らないし、あとさ。ポルターガイストもなくなったじゃん」
「それは俺も助かってる。ドアやふすまが揺れるたびに、抑えるのめんどくさかったし」
「宇月さん、嫌味言ってたのに、助けてくれるんだね」
魔よけの腕輪をいじりながら、私は首を傾けた。
宇月さんは今、K区のマンションに住んでいる。私たちのアパートから西方向に車で十分。
この近辺で活動しているハンターさんと情報共有して、悪霊退治を続けているみたい。
「あいつは成果主義だ。意味のないことはしないし、腕輪を送ったのも自分の仕事の負担が減るからとかそういう感じだと思うぜ」
「ふうん。ってあれ、こいとちゃんは?」
やたらと部屋が静かだったのは、ルームメンバーが一人足りなかったからか。
この面子の中で一番騒がしいムードメーカーだ。いないだけで、その場の雰囲気がガラリと変わる。
「ああ。用事があるって、さっき出て行った。行き先を聞いても教えてくれなかった。あれこれ問い詰めるのも失礼だし、そのうち帰ってくるだろ」
ふうん。この前話してた、幽霊友達のところだろうか。
今日は天気もいいし、遊ぶのに越したことはないよね。
(こいとちゃん、楽しんできてね)
私は、どこかの道をあるいであろう幽霊の女の子に心の中でにっこりと笑いかけ、再び課題をやり……いいや、殺りだしだのでした。
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.20 )
- 日時: 2023/03/31 23:23
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
〈再び宇月side〉
「操心術:第二式、黒呪符!」
ボクは念を込めた呪符を、通称ゴキブリ妖怪に向かって投げつける。
シュッと紙切れが宙を切った。
お札は一本の有刺鉄線へと姿を変え、敵の身体を縛り上げる。
「ウ……ウウ……!」
「どうや、抜けへんやろ」
「ァァァァ……アアァァ」
「夜芽家の術は地味やけど、使い手によって威力が変わる。ハンターを怒らせたせたらどうなるか、次から覚えておかんとな!」
妖怪はジタバタと腕を動かすが、それは逆効果だ。
縄についている棘は敵の自由を奪い、体力を消耗させる。
人間の感情のうち、『呪い』は最も強力だ。古代からファンタジーで登場人物を苦しめる魔法として用いられる理由でもある。
「さあさあ、気分はどうや? まあ良くはないわな。なんたって呪いやもんなあ。そこらじゅう痛むやろ、苦しいやろ。楽に逝かせてあげたいけど、生憎ボクは肉弾戦が弱いもんで」
相手の呻き声に対して、ボクの口からは笑いが漏れた。
これは高笑いだろうか。いいや、そんなもんじゃない。
「汚い能力でごめんな。いい成績取って頭なでてもらえるような優等生が羨ましいわ」
……そうだ、これは自虐だ。
『感情を支配するなんて、なんて忌々しい』とか。
『だから、子供の性格が悪くなったんだ』とか。
母ちゃんも父ちゃんも、友達も親戚も仕事の人も。美祢でさえ。
いっつもいっつも、「なんでお前は」ばかり言うて。
自分でもうっすら感づいていることを面と向かって怒鳴られるのが一番きつかった。
空気を読む。周りと合わせる。みんなが簡単そうにやっていることが、ボクは苦手で。
かといって自分のことはちゃんとできるかって聞かれたら、全然そうでもなくて……。
「こんなチカラもう要らんって思っとるのに、このチカラでお金もらって生活しないと生きていけん。あーあ、もっと気楽ーに生きれたらええのになぁ」
両手を広げながら、怪物の周りをくるりと一周する。ボクが近づくたび、悪霊は「グ………ググ……」と苦しそうな声をあげた。
「……そんな顔せんでも、そのうち術がお前を地獄へ送るで。だからもう無駄な抵抗はやめや」
「ウ……ウウ……」
「うわ、めっちゃくちゃ頑張ってるやん。なんなん? 人様困らせたお前が命乞いなんて甚だめいわ」
そこでボクは言葉を切った。冷や汗が背筋を伝う。
なんやこの感覚。どこが根源か分からんけど、嫌ぁな殺気の気配がする。
「っ、まさかまた悪霊が増殖したんか?」
念のため、白衣のポケットから呪符をもう一枚抜き取り、右手にセット。
体制はそのままに、首だけ左右に動かす。
協力者である篠木さんはきっと今頃戦闘中や。助けは呼べん。あかん、今回来はった彼女はめちゃくちゃ強い霊能力者なのに。こっちに移ってきたばっかりで、仲いい人もそんなにおらんし。
「ああ、もうええ! く、来るなら来い!」
全身にグッと力を籠め、右足を一歩前に出して宙を睨んだ。
最悪の場合、受け身でしのげばいいか。な、なんとかなるんだろうか。
しかし予想に反して、殺気の持ち主はボクに襲い掛かってはこなかった。
道路の右側、植え込みの陰から姿を現し、その愛らしい顔を曇らせる。
セーラー服の襟が、風でひらひらと揺れた。
「なんか敵扱いされててマジ草なんですけど~」
相手は、茶色の髪を低い位置で二つ結びにした、幽霊の少女だった。
彼女は桃色のエネルギーの球のようなものを右手のひらに浮かべ、左手の人差し指をゆっくりとボクに突き付ける。
「わたしとちょっとお話しできませんか。夜芽宇月サン」
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.21 )
- 日時: 2023/04/08 13:01
- 名前: むう (ID: viErlMEE)
〈こいとside〉
「なんで、きみが?」
宇月サンは目を見開いた。
数秒前まで士気に燃えていた双眸も、わたしが茂みから顔を出したとたん輝きを失う。
武器を持ったままなのは、わたしが自分に危害を与えると思っているからだろうか。
「桃根ちゃん、なんでここに居るん? コマリちゃんと美祢は? なんで……」
次から次へと投げかけられる質問も、(きっと問い詰められるだろうなぁ)と頭の中で想定していた内容だった。
あらかじめシミュレーションしていて良かった。
アレコレ考えるのが好きなタイプじゃないから、回答をするのにも多少時間がいる。
わたしは結んだ髪の先っぽをいじりながら、薄く微笑んだ。
「遊びに行くって伝えてます。まあ、嘘なんですけどね。さっきも言った通り、わたしはあなたと話したいんです。だから来たんです」
なぜ宇月サンに近づこうと思ったのか。なぜ、コマリさんや美祢さんには相談できないのか。
色々理由はある。でも一番は、目的達成のために彼の存在が必要だったからなんだ。
この前散々悪口を言われたので、言い返してやろうかと燃えていたってのもあるけどね。
ただ、これを言っちゃうと、美祢さんが「俺も一言言ってやらないと気が済まない」と椅子から腰を浮かせるかもしれない。
なるべく一人で、宇月サンの元を訪れたかったのだ。
「はあ? なんで? 桃根ちゃんは、コマリちゃんのサポートをやっとったやん。あの子の側にいるのが筋やろ」
宇月サンは身振り手振りを駆使して話し出す。
わたしを責めていると言うよりも、自分に言い聞かせているような、そんな口ぶりだった。
術でやっと動きを封じたのにも関わらず、敵を仕留めることも忘れて彼は喋り続ける。
「なあ、詳しく説明し……うわっ」
「ガァァァァ!」
有刺鉄線で縛られていた悪霊が、最後の力を振り絞って抵抗してきた。
なんとか縄の間を抜けた腕が、宇月サンの首根っこを掴む。五十キロはあるだろう彼の身体が、猫のように軽々と持ち上げられた。
「……っ! 離っ……! 今、いいとこ、やね……! ぐ……!」
宇月サンがバタバタと両足を振っても、がたいのいい腕はびくともしない。
右手の指に挟んでいた護符が、ふわりとアスファルトの地面に落ちた。
「くっそ、お前どんだけ諦め悪いねん! ……っ、あかん、力が入ら、な……」
ゼエハァと肩で息をする霊能力者の男の子。
その呼吸のリズムも、だんだんゆっくりになっていく。
だ、ダメだ。このままだと、あの人が死んじゃう!
聞きたいこと、話したいこと、いっぱいあるのに。
ここであなたの命を奪わせるわけにはいかない。
……覚悟を決めろ、桃根こいと。今ここで、わたしがやらなきゃ。
もう他人の死を見るのはうんざりだ!
「宇月サン伏せて!」
「……な、に……」
「必殺!!」
技名を唱え、わたしは目をつぶる。右手を天に突き出し、深呼吸。
人間がまとっている運気のエネルギーは、集めると規格外の威力を持つ。
このチカラは、自分の恋愛運をエネルギーの球に変える!
「恋魂球―――――――――――――っ!!!」
集まった霊気の球がピンク色に光りだしたのと同時に、わたしは右腕を力いっぱい振り下ろす。
恋愛運で作られたボールはジリリリリ……と音を立てたのち、一気に爆発し、ゴキブリのような()怪物を数メートル先までぶっ飛ばしたのだった。