コメディ・ライト小説(新)
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.22 )
- 日時: 2023/09/19 10:57
- 名前: むう (ID: viErlMEE)
むうです。次回の更新は、4月5日(目安)です。
よろしくお願いします!
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〈――XXside〉
『いとちゃん!』
彼は、うちの全てだった。
お日様のような明るい笑顔と、毛布のようなふんわりとした優しさを持った数少ない友人だった。
『いとちゃん、初主演おめでとう! ホラほら見て、チケット買っちゃった! 文化祭、絶対見に行くねっ』
『いとちゃんが好きなアイドルって、歌い手グループだよね。僕ボカロとかあんま知らないけど、一緒にライブ行きたい!』
『わ、この人の高音、すごく綺麗だね。かっこいいねっ』
無邪気で純粋で、汚いもので溢れている世界を素直に美しいと感じられる性格だ。
嘘がつけないあまり騙されやすく、ヒョイヒョイ友達を作っては裏切られていたけど、それでも本人は笑顔を絶やすことはなかった。
『人間関係って難しいねー』
独り言のように呟いて、何事もなかったかのようにうちの前の席に座って。
教室の窓際。日の当たる席で毎日、猫のように伸びをして。
あまりにマイペースだから、時々彼が同学年なのを忘れてしまう。子供っぽい言動が目立つから、わたしも無意識に弟扱いをしてしまっていた。
―――彼も同じ人間だということをを、頭の引き出しに置いてしまっていた。
友人の表の顔だけを見て来たわたしの眼は、彼が屋上の柵に手をかける寸前まで、その事実を受け止めきれなかった。
『いとちゃん。ごめんね』
暖かい風が吹く秋空に零れた、彼の涙。
わたしは慌てて駆け寄り、自分の小さな右手を友人へと差し出した。
なにかが変わるわけではない。なにかを変えるわけでもない。少女の細い腕では、多分相手の苦しみは抱えきれない。
でも、それでも。
それでもわたしは。
「由比! 早くこっちに来て! ……ねえ、帰ろう! 5時間目始まっちゃうよ! ねえ!」
わたしは、あなたを。
あなたのことが、ずっと前から。
「ぶ、文化祭、見に来てくれるんじゃなかったの!? チケット、一番最初に買ってくれて……。ライブだって当選したのに! も、もうすぐ由比の誕生日だし、一緒に遊びに行こうって……」
ずっと。
「ねえ、由比! 戻ってきて! ねえ!」
ずっと、好きだったんだ。
のんびり生きていたはずのあなたが、最期の最期、『ごめんね』と宙に身を投げ出すその瞬間まで。私はあなたが大好きだったんだ……。
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〈こいとside〉
悪霊が消滅し、捕まっていた宇月サンはドスンと床に尻餅をついた。
「~~っっっ!」と打ち付けたお尻をさすりながら、痛みに暫し悶絶する。
「だ、大丈夫ですか? 怪我は?」
わたしは、宇月サンにそっと右手を差し出す。
彼は申し訳なさそうに笑って、よっこらせと立ち上がり、ズボンの埃を手で払った。
「あー、死ぬかと思ったわ。ありがとうな、桃根ちゃん」
「え? いやいや。あの状況で見殺しになんかできませんって」
あわあわと手を振るわたしを、彼は面白そうに見つめた。
な、なんだろう。顔になにかついているのかな?
そっとほっぺたを触ってみるけれど、別に汚れてはいない。あれ?
「なんで頬っぺたなんか触っとるん?」
「なにかついてたかなと思いまして。なにもついてないじゃん。ジロジロ見ないでくれますか」
「なんやその扱い。ボクはただ、きみが助けてくれたのが信じられなかっただけやで」
助けてくれたのが信じられなかった。それは一体どういう意味だろうか。
つまり、わたしが自分を見捨てると思っていたの?
それこそ、信じられないんですけど? 自分の命を大事にしないとかマジでないわ。
あなた流に言い換えるなら、『自分すら大事にできんのに、他人を見下すとか聞いてあきれるわ』ってことです。
「あー、そういうんやない。あの、なんて言えばいいかな。ええと」
宇月さんは、頬を頭でかき、うーんと首をひねる。
「てっきり、敵視されてるんかと」
そりゃあ、ボロクソ言う人がいたら誰だって警戒しますよ。
でもわたし、神様の血が混じってるから分かるんです。かすかな気持ちの揺らぎとか、息の使い方とか。そういう些細な部分。
「え、なにそれウケるんですけど。わたし、あなたのこと結構信頼してますよー」
「あっははは、マジで?」
「うわ」
「どしたん?」
「あなたもそんな砕けた発言するんですね」
「今時しない人の方が珍しいで?」
宇月さんはその場で「よいっしょ」と伸びをすると、戦闘で乱れた髪を手で整え始めた。
サラサラの髪。すらりとした体型。時折見せるリラックスした表情。
それら全てに、彼の面影を重ねてしまうわたしは、やっぱり馬鹿だ。
「それで、桃根ちゃん」
くるりと振り返った宇月さんは、スーパーで会った時と同じように目を細める。
何もかも見透かしたような、周りから離れて物事を俯瞰で見ているような。
強い眼差しがわたしを射抜く。
「ボクに話したいことがあるんやったな。いいで、聞くわ。遠慮なく言ってみ」
すうっと息を吐く。大事なことほど、しっかりした言葉で伝えたいものだ。
唇が上手く動くかどうかを確認して、声に出そうとした単語が適切かどうか吟味して。
長い長い時間をかけて、わたしは自分の想いを発する。
「宇月さんは、幽霊や妖怪を操れるんですよね。霊能力者は、幽霊の存在を、その目で認識できるん……ですよね」
――いとちゃん。いとちゃんは生きて。もうどっか行ってよ。
――五時間目、始まっちゃうよ。
――文化祭で、ヒロインやるんでしょ、いとちゃん。
「守れなかった人がいるんです。……伝えたかったことがある。言えなかった文句も、いっぱい、いっぱいあって。そいつに、あのバカに、どうしても謝りたいんです。コマリさん達に嘘をついてまで、会いたい人がいるんです。探してほしいんです、あなたに」
死んだらもうそれで終わりだとか。死者は蘇生できないとか。
そんなことはとっくに分かってる。
でも、わたしはこの目で見たんだ。
『死んだらハイサヨナラ』の常識が崩れる光景を、あの時あの瞬間。この目で。
「だからお願いします。わたしに、失った時間を取り戻すチャンスを下さい!!」
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.23 )
- 日時: 2023/10/04 09:48
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
★登場キャラクターLog★
キャラクターが多くなりそうなので、ログをつくりました。
また、本作品には『陣営(チーム)』設定があるのでそれもまとめておきます。
同じ記号がついてるキャラは、協力関係にあります!
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〈コマリチーム〉
〇月森コマリ
→『逆憑き』という体質の悪運強し14歳。なるべく楽しく元気よく!
〇時常美祢
→コマリと同室の霊感持ち高校生。コマリの相談役兼ボディーガード。
〇☆?桃根こいと
→浮遊霊。オオクニヌシの魂を持つ。恋愛相談が得意。友人と再会するために奮闘中。
〈霊能力者〉
☆〇夜芽宇月
→美祢のいとこで、心を操る霊能力者。京都府出身。別名:歩くトラブルメーカー。
番正鷹
→あだ名はバン。霊能力者の御三家の筆頭・番家の長男。
世にも珍しい〈憑依系〉の能力を使う。由比の前に猿田彦と絡んでいた人間。過去編に登場するぞ。
番飛燕
→正鷹の弟。中学1年生。活気の良い性格。怪異討伐チームACEに所属する宇月の後輩。
運動能力が非常に高く、「運動馬鹿」と呼ばれている。使う能力は〈使役系〉。
番飛鳥
→飛燕の双子の妹で、コマリのクラスに編入してきた転校生。
コマリに興味があるらしいが……?
〈幽霊&妖怪&神様〉
♪由比若菜
→こいとの元クラスメートの男の子。自ら命を絶ち幽霊となる。猿田彦と行動を共にする。
♪猿田彦命
→由比にとりついている、道開きの神様。身体の乗っ取りが可能。ツンデレ。
? 大国主命
→過去に色々あって、こいとの魂と合体した縁結びの神様。
猿田彦の知り合い。文献的には男だが、この物語では女性。
※ 禍津日神
→禍の神様。封印を自ら解き復活。何やら企んでいるようだが……?
〈クラスメート〉
星原杏里
→コマリのクラスメート。穏やかで優しい性格。
福野大吉
→コマリのクラスメート。サッカー部。愛称は大福。
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.24 )
- 日時: 2023/12/09 09:41
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)
有言実行をしない作者でスミマセン。
書きたい欲がまた抑えきれませんでした。
もうこれからは告知しないようにしよう……。
あ、今日は二話投稿です。よろしくお願いします(これは本当です)
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〈XXside〉
不審者の定義を聞かれたら、『危ない人』と答えるのが一般的だよね。
学校とかで先生に習うような、黒い服に黒いズボン・黒帽子の男性をイメージする人も多いだろう。あるいはストーカーとか、痴漢とか。どっちにしろ「変なことをしているヤバい奴」というのは共通だ。
じゃあいまこうして電柱の上に立っている僕も、変質者扱いされるんだろうか。
「ちょっと待って猿ちゃん。こっから僕どうすればいいわけ」
なんでそんなとこに登ってんだ! とか、いやお前まずお前頭大丈夫か? とか、色々あるだろうけどひとまずは心の中にしまっておいてほしい。
状況を整理する時間を、少しだけちょうだい。
場所は市街地のどっかの柱。
何とも曖昧な表現で申し訳ない。方向オンチすぎて、自分がいる方角が分かんないんだ。
ああいや、実際は方角どころか自分の状況すら把握できていないんだけどね。
電柱の上に立っている、というのは語弊がある。
ごめんなさい訂正します。僕は電線の上に立っています。
いや、人間がやることじゃねえだろと怒鳴りそうになった画面の前のきみ。その通り。
これは人間が出来る行動ではない。電気屋さんでも、電線の上を歩こうとはしないだろうし。
「猿ちゃん! ああもう、こっから降りるのめちゃくちゃ怖いよぉ! 登って満足するのやめてよぉ……。言ったでしょ、僕高いとこ無理なんだよぉっ」
両足がガタガタと震える。
それでもなおバランスを崩さないこの身体は、やっぱり人離れしてると言えるんだろうなあ。
さっきからまだるっこい受け答えでごめんね。
ハキハキ話せたらいいんだけど、どうも僕は他人より動作が遅いみたい。ひとつの出来事を処理するのに、三分は使っちゃうんだ。
ええっと。どこまで進んだっけ。
ああ、そうそう。〈つまるところお前ってなにもんなの問題〉の話だね! コホン。
うーんと、何と説明したらいいんだろう。複雑な事情がたくさんあって、どこから語ればいいか。
と、ボフッッと音がして、僕の胸の辺りから白い煙が噴き出た。
「わっ、ちょ」
もくもくと立ち昇る煙の中に、うっすらと人影が見える。
中から現れたのは、背の低い和装の男の子だった。
白い羽織に黒の袴。浅葱色の長い髪は、後ろでひとつまとめにして白いリボンで縛ってある。
口からのぞかせた八重歯と、いたずらっ子のような目を持っていた。
男の子は、オドオドビクビクしている僕に向かって、犬のように吠えた。
「おい由比! テメエいつまでボーッとしてんだよ! さっさと降りろ! 通報されるぞ!」
「さ、猿ちゃんが僕の身体コントロールするから悪いんでしょ? 景色いいとこ連れてってやるって言うからオッケーしたのに、こんなの聞いてないよっ」
流石にカチンと来て言い返すが、彼―猿ちゃんは「はぁぁ?」と肩眉をひそめる。
あ、この子の名前は猿田彦。
のんびりペースの僕を奮い立たせてくれるパートナーだ。
ちなみに、なんとこの子、道案内の神様……らしい。
口調や立ち振る舞いのせいで、いつもその設定を忘れそうになる。
それを猿ちゃんに言って、
『設定って言うな。あと俺は猿田彦命だ。省略すんなボケ』
と返されるのが日常茶飯事だ。
「ちゃんと許可を求めただろうが俺様は! 大体なあ、テメエ幽霊なんだから高いも何もねえだろ? ヒュンと降りれば済む話をダラダラ引きずるな戯が」
「? たわけってなに? たわしのこと?」
「阿呆!!」
そ、そんなに怒らなくたっていいじゃん。知らない言葉だったんだもん。
至近距離で叫ばれて、心臓がキュッとなる。
「はぁぁぁぁぁ。折角協力してやってんのに、モタモタしやがってよ。ったく。なんで俺様が、こんな人間なんかと。子守なんてしたことねえっつの」
猿ちゃんは荒ぶる気持ちを落ち着けようと、頭をポリポリかく。
折角綺麗に整えた髪が、一瞬でボサボサになった。
こういう、ちょっと乱暴なところがまさに男の子って感じがして、僕は好きだ。
「ふふふ。猿ちゃんが優しい神様で良かったよ、僕」
「ああん? 神に優しいも何もあるかよ」
「あるよ。僕を助けてくれた。チャンスを与えてくれたじゃん」
自分で終わらせたはずの命を、もう一度刻む機会をくれた。
こんなふうに言い合える勇気を持たせてくれた。
大事な人に会いたいという陳腐な願いを笑わず、なんと実現するために力までくれた。
これを優しいと言わずして、何と呼ぼう。
「勘違いするな。俺様の目的は別にある。テメエを助けたのも、その目的を達成するための任務にすぎねぇ。思い上がるなよ弱味曽」
「なんで急にお味噌汁の話? 猿ちゃん和食派なの?」
怒るのにも体力を使うから、それでお腹が減ったのかな。
いいよねえ、お味噌汁。
幽霊になってからご飯は全く食べてないけど、もし食べれるならお豆腐いっぱいのやつが食べたいなあ。
「~~~っっっ! 先ずは常識を知れぇぇぇぇぇ、この白痴!」
「ちょ、ちょっと、入るときは言ってって、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
猿ちゃんの身体が再び気体となり、僕の胸に入り込む。
あ、やばい。意識が………遠のく………。
一度も染めたことのない髪が、猿ちゃんの髪色である青色に変わった。
高所に対しての恐怖心は薄れ、代わりに高揚感が高まっていく。全身に力がみなぎっていく。
僕――いや、俺様は電線から一気に飛び降りると、空中でくるりと一回転。
そのまま地面にスタッと足をついて着陸した。
「――さあて。頼まれてた人探しとやらを始めるとするか。今日中に見つかるといいけどよ」