コメディ・ライト小説(新)
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章準備中】 ( No.35 )
- 日時: 2023/11/30 23:48
- 名前: むう (ID: F7nC67Td)
お久しぶりです。失踪しかけました、むうです。
相変わらず多忙ですがこっちも頑張ります。
第3章開始! 更新は遅いですがよろしくお願いします。
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〈XXside〉
雨が降っていた。
梅雨前線と台風が重なってしまったと、今朝ニュースでアナウンサーさんが言ってたっけ。
僕の住んでいる関東地方は特に影響はないけど、東北の県では次々に停電が起きているらしい。
お母さんから渡されている連絡用の携帯を開く。飼い猫のアイコンから一通の連絡が来ていた。
僕はメッセージアプリの個別チャットボタンに手を伸ばし……、文面を確認する。
じっくり読んだりはしない。めんどくさいから。
『早く帰って来なさい。塾に遅れるわよ。
今日は数学の集中講座があるって、遠藤先生から聞いたわ。
あなた、ちゃんと勉強はやってるんでしょうね?
せっかく中学受験をさせたのに不合格。なんでいつもそうなの?
とにかく、来週は中学最初の中間テストだから、しっかり勉強してね。頼むわよ』
……うざい。
……うるさい。
……黙れ。
汚い言葉が脳裏に浮かんできて、僕はあわてて首を振った。
乱暴なセリフを口に出してはいけない。人を傷つけてはいけない。
だって、相手はお母さんで、僕は子どもだ。口答えしていい年齢は五歳までだ。
僕はスマホのフリック入力で、返信欄に文字を書き込んでいく。
『わかった。すぐ帰るね(グッジョブの絵文字)』
そして、送信。
お母さんの会話はこれで終わりだ。
これ以上もこれ以下もない。
反論するとキレられるんだ。「私の何が悪いの?」って、一時間ぶっ通しで質問される。
そんなことを息子の僕に聞かれても困る。もちろん親に対しての不満はゼロではない。ただ、素
直に告げるとまた泣かれる。
だから僕はニッコリ笑って答えるんだ。
『何も悪くないよ。全部僕が悪いんだ』ってね。
事実だし。
五行にもわたって打たれた長ったらしい文字。
長文メッセージを受け取ったのは、今日が初めてじゃない。昨日もそうだった。一昨日も送られ
てきた。その前も、その前も、ずっとこんな調子だった。
僕のお母さんは、とても身勝手な人でね。
勉強だけではなく、挨拶の仕方とか、箸の持ち方とか、友達との接し方とか。好きなマンガも好
きなアニメも、自分が納得できるものでないと許さない。
『その漫画、つまんないわよ。お母さんが買ってきた奴を読みなさい。この作者の人、とってもいい人なのよ。○○大学の○○学部出身でね、だから若菜も……』
……………僕の好きだった漫画は段ボール箱の中に入れられて、燃やされたんだ。
誰も自分を助けようとはしてくれない。兄妹もいないし親戚もいない。
おばあちゃんは先月空に昇っていった。
お父さんはトラックの運転手で、ほとんど家にいない。連絡先は知っているけど、相談したら絶対心配される。なので、打ち明けられない。
学校に行きたくないんです、という子がチラホラいる。家が落ち着くんです、ってね。
………いいなあって思ったんだ。家が落ち着く。僕も言ってみたいよ、その言葉。
まあ、お母さんから逃げるために学校に行っている自分には、どうせ似合わないだろうけど。
■□■
遠くの方から、一人の女の子がかけてくる。
淡い桃色の傘をさして、リュックについたアクリルキーホルダーをカシャカシャいわせて。
水たまりの水を蹴飛ばしながら、全速力でこっちに向かってダッシュ。
「由比ー! 一緒に帰ろ~! 今日、部活雨でなくなっちゃって。体力づくりできなくてさ!」
ふふ、相変わらずでっかい声。
走らなくても、僕はちゃんと待ってるのに。
せっかちで真っすぐなところ、出会った時から変わってないね。
気を取り直して、僕は彼女に手を振る。
できるだけ大きく。できるだけ大げさに。自然に見えるように。
笑え、笑え笑え笑え笑え。嫌なことは考えるな。今のこの時間が、自分にとっての天国だ。
だから笑え。どんなに苦しくても。どんなに寂しくても、笑えるならまだ大丈夫だ。
たとえそれが作り笑いだとしても。表情を作れる時間があるのは、きっと良いことだと思う。
…………助けてほしいと打ち明けるには、まだ早いよね。
「いとちゃ――――ん! 部活お疲れ様――――――――――っ!」
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.36 )
- 日時: 2024/11/07 11:24
- 名前: むう (ID: X4YiGJ8J)
〈由比side 12ヵ月前 5月〉
キーンコーンカーンコーン。
授業終了を知らせるチャイムが教室のスピーカーから鳴り響く。
このチャイムは二回繰り返して放送されるのだけど、皆授業が嫌いなので、チャイムが鳴る五分前には、クラスメートのほとんどが教科書を片付けていた。
教卓に立つ英語の鷲見先生が、ノートパソコンをパタンと閉じる。
そして、よくとおる野太い声で言った。
「はーい。今日はこれで授業終わり。来週単語の小テストあるから、ちゃんと勉強してくること。範囲はさっき教えた、21ページから24ページ」
彼は、大学を出たばっかり・教師一年目の若い男の先生だ。
朗らかで優しく、授業もわかりやすい。歳が近いのもあって、何人かのクラスメートは親しみを込めて、「鷲見先生」ではなく「亮ちゃん」と呼んでいる。鷲見亮介先生だから、亮ちゃん。
「亮ちゃーん、鬼ー」
「いっつも範囲広いじゃん亮ちゃん」
「サッカー部の試合あるんだけどー」
生徒に反論されても、先生は全く怒らない。
それどころか、英語が苦手な子のために、わざわざ救済措置まで取ってくれる。
「じゃー、次の授業で。ヒントは出すから、欲しいって人は職員室に来てね」
先生は教卓の上に置いた教材を手早く籠の中に入れると、そそくさと教室の扉の奥に消えてしまった。
………というのを僕は、後ろの席の女の子に教えてもらった。
今話したことは僕が見た内容じゃない。というか、三時間目が英語だったことも今知った。
理由は簡単。寝落ちしたのだ。
教科書とノートと筆箱を引き出しから出したところまでは良かったものの、その後やってきた睡魔にあらがえず、瞼はどんどん下がって行って……。当然、ノートを取ることもできなくて……。
「ええええっっ、小テスト!?」
「そうだよ。21ページから24ページの進出単語」
後ろの席に座っている女の子は、「あんた今まで何してたの?」と机に頬杖をつく。
この子の名前は桃根こいと。低い位置で結んだお下げがチャームポイントの、演劇部員だ。
「由比くん、なんでいつも寝てんの? ノートちゃんと取らなきゃダメじゃん」
「……えええぇ。も、桃根さん、ノート見せて」
「もー、授業中に寝るとかありえないんですけど! もうやだこの席」
この学校の出席番号は、あいうえ順。
僕の苗字である「由比」は〈ヤ行〉。彼女の苗字である「桃根」は〈マ行〉。クラスにはマ行が桃根さんしかいない。よって、彼女の席はいつも僕の後ろ。
え、前じゃないのって? あはは,僕目が悪くてさ、前後逆にしてもらったんだ。
入学式から一カ月間は出席番号順に座らなければいけない決まりになっている。
今日は五月一日。
入学式があった日は十日なので、ゴールデンウイークを過ぎれば僕らの席は離れることになる。その後は席替え。しかもクジ引きだ。隣同士・前後同士になる確率は極めて低い。
「僕はこの席、結構気に入ってるよ。窓側だし」
桃根さんから渡されたノートのページをめくりながら、僕は答える。
天気がいい日は窓からグラウンドを走る他学年生の姿が見えるし、雨の日は花壇の花びらに落ちた雨の露を確認できる。日当たりもいいから寝るのにも困らない。
「それに、桃根さんしか話せる友だちいないからさぁ。おわっ、何このノート」
「え? なに、字が汚いって言いたいの?」
桃根さんが席から立ちあがり、僕の隣に並んだ。
いや、字について言ってるわけじゃないよ。筆跡はすごくきれいで読みやすい。
ただ、なんというかあの、僕が知っている英語のノートとは、少し違うような……。
「『村人A:おお、神よ。我に力を与えたまえ』『I went to school by bus.』会話の脈絡がないっていうか、その」
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村人A:おお、神よ。我に力を与えたまえ。(天に向かって大きく手を広げる)
〈過去形〉
I went to school by bus.
(私はバスで学校に行きました)
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な、なんで英語のノートにセリフが出てくるんだろう。
そういう内容の話だったのかな?
「………あああああああ! これ、〈ひばり座〉の稽古ノートだあああ」
自分のノートに目を通した桃根さんが、頭を抱えた。
そして、僕の手からノートをひったくると、席に戻って筆箱から消しゴムを取り出す。
必死にゴシゴシと文字を消そうとするが、英語の文法事項はボールペンで書かれていたので、なかなか消えない。
「ひばり座って、桃根さんが所属している演劇部?」
「そう! 部員には稽古ノートっていって、台本を読んで感じたことを記すノートが配られてるの」
雲雀中学校の演劇部・ひばり座。部員数は50人。
文化部で一番の人気を誇る、超キビシイ練習で有名の部活。秋の文化祭では、毎年演劇をステージで披露している。
部員数が多いので、よほど演技がうまい人でないと役はもらえない。
『3年間、裏方仕事しかさせてもらえなかった』という話もよく聞く。上下関係が厳しいのだ。
「へええ、すごいねっ。女優になりたいとか?」
「ううん、そんなんじゃないんだけど……って、あー! 無理だ、もう無理! 手つかれた! 無理無理無理無理! あ~、顧問の寺内先生に新しいノートもらわなきゃ」
数分間のゴシゴシ作業は、流石にきつかったようだ。
桃根さんは真面目だけど、冷めやすい性格の持ち主。自分ができないことはあっさり諦める。
彼女は机の上に出したままだった筆記用具を、手早く引き出しにしまいながら答えた。
「あたし、歌い手が好きなんだ。歌い手って知ってる? 人が歌った曲を、カバーする人たちのことなんだけど。そういう人たちがずっと憧れで、なれたらいいなーって思ってて。バカな話だよね」
歌い手かあ。女の子たちが、よく話題にしてるよね。
僕も興味があったんだけど、お母さんの目に留まると怒られるから検索できなくてさ。
バカな話じゃないよ。なんでそう決めつけるの?
僕からすれば羨ましいよ。とっても眩しいよ。
好きなものを自分で探すことが出来て。
好きなことを自分でやれて。
夢に向かって努力出来て。
「……なれるわけない、って思ったら、多分一生なれないんじゃないかなぁ」
僕は、桃根さんの右手に手を伸ばした。そのまま、その細い指を強く握る。
「応援っ、してるから! ずっと応援するから! だからっ、自分で可能性を捨てないでよ」
なれるわけないって思えるのはさ、きみにまだ選択肢があるからだよ。桃根さん。
家族と友達が、自分の夢を認めてくれるから。認めた上で批判してくれるから。
だから、「バカな話」だって、結論付けてしまったんでしょ。
多分僕は、無意識に自分と桃根さんを重ねている。
彼女が自分と正反対の立場にいるから。好きなものもやりたいことも、何でも否定されるような人生とは別のところにいるから。
この子はもう一人の自分なんだって、勝手に思ってしまっている。
だから彼女が夢を叶えてくれたら、僕はとっても嬉しい。
僕の代わりに夢を追いかけてくれたら嬉しい。
ねえ、お母さん。何でお母さんは息子の可能性を無くしたがるの?
僕さ、中学受験やりたくなかったよ。塾にも通いたくなかったよ。勉強だって嫌いだ。
でもさ、意見があるなら伝えなさいって言ったのお母さんだよね。
それで自分の気持ちを口にしたら「あなたのためを思って」って言うんだもんね。
いつから僕は、この鬼畜ゲームをプレイすることに慣れちゃったんだろう。
……助けてすら言えないのに、僕は毎日祈っている。
―――――ー『神よ、我に力を与えたまえ』―――――――――
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.37 )
- 日時: 2023/06/16 15:47
- 名前: むう (ID: viErlMEE)
暫くシリアスな展開が続きますがよろしくお願いします。
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季節は変わり十一月中旬。
時刻は夜八時三十分。職員室の真ん中で。
「由比。この前のテストの結果は何だ」
三十代くらいの男の先生は、眼鏡のつるを右手でくいっと持ち上げながら言った。
自宅から歩いて十五分。
駅の近くにある三階建てビルの二階が、僕の通っている進学塾〈きららゼミナール〉だ。
実際は、きらきらの「き」の字もない場所だけど。
塾で行われるテストや学校の成績でクラスが分かれる階級制。
頭のいい子は先生から可愛がられ贔屓され、夏に行われるバーベキューなどのイベントにも参加
できるが、それ以外の子は申込書すらもらえない。
参加したかったら、ただひたすら勉強するしかない。成績は塾のすべてだ。
……僕・由比若菜が所属するクラスは、通称〈Fクラス〉。
きららゼミナール内では最下層だ。
「……」
黙っている僕に、先生―確か苗字は田中だ―が「はあ」と肩を降ろす。
その表情はひどくくたびれていた。
「正直に言おう。おまえの成績はFクラスの中で最低だ」
渡された数学の小テストの点数は、十点だった。
五十点満点ではない。百点満点のテストだ。
回答欄を全て埋めているのにも関わらず、ほとんどの答えが赤ペンで訂正されている。
「勉強しなかったのか」
「……しました」
勉強を全くしていなかったわけじゃない。学校の授業は寝ているけれど、家ではしっかりテキス
トを開いている。なんなら予習も復習もしている。毎日、毎日コツコツ問題を解いている。
「勉強しただぁ? 何時間? どれくらい? この点数を見て、それでも勉強したって言える
か?」
田中先生の声の大きさにびっくりして、僕は目をつぶる。怖い。すごく怖い。
先生は机のふちを指でトントンと叩きながら、やりきれないと言うように首を軽く振った。
「勉強って言うのはな。生きていくうえでとっても重要な物なんだぞ。将来、受験にも役立つし、
知らなかったことを知れる。なあなあにやるから、こうなるんだ」
「………」
「成績は全部お前に返ってくるぞ」
…………なんだよ、その言い方。
それじゃあまるで、僕が不真面目みたいじゃないか。
ああそうだよ、みんなそうだ。大人はみんな、いい子ちゃんが好きだ。
与えられた問題に丁寧に取り組み、点数を稼ぎ、結果を出せるような子が好きだ。
相手の気持ちを理解できる、物分かりのいい子が好きだ。
ああ、ほんっとうに嫌になる。
頑張ってきたことが報われないのなら、努力って何のためにあるの。
自分のやりたいことが出来ないのなら、進路って何のためにあるの。
いい子って何? そんなに勉強が大事なの?
何でぼくはこんなに惨めな気持ちになってるの? なんでこんな気持ちにさせるの?
「――に何がわかるんだよ」
無意識に、唇の端から言葉が漏れた。
両手がわなわなと震える。拳を強く握りすぎたせいで、持っていたテストの答案用紙はしわくちゃになってしまった。
先生が息をのみ、目を見開く。怯えたような表情。
「教師に向かって、なんてことを言うんだ」
「テメエの気持ちなんか知るかよっ」
怒鳴ってから、僕は自分の発した言葉の重みにようやく気付く。
どうしよう、どうしようどうしよう、どうしようどうしよう、どうしよう。
相手は先生で、僕は生徒で、僕は怒られていて、僕はひどい点数を取って……。
違う、違う。やばい、判断を間違えた。どうしよう、どうしようどうしようどうしよう。
謝らなきゃ。ごめんなさいって頭を下げなきゃ。まだ間に合う、まだ大丈夫、まだ……。
そう思うのに、なぜか言葉は止まらない。刃物のような単語が、自分の声と絡まって相手の胸を
打ち抜く。
「誰も僕のこと、見てくれないじゃんかっ。頭の良さだけで決めるじゃんかっ。勝手に期待して! 勝手に子供の夢を捨てて! 勝手に道をふさぐじゃんかっ。いい大人になりなさいって教えるくせに、選択肢全部つぶすじゃなんかっ! もういい、もう嫌いだ! みんなみんな大っ嫌いだ!」
僕はくるりと回れ右をし、教室の扉へと一目散に走る。
後ろから先生の叫び声が聞こえてきたが、構うものか。
建付けの悪い戸を開けて部屋から出て、リノリウムの廊下を駆け、全速力で階段を降りる。
途中、すれ違った生徒や事務の先生が何事かとこちらを見た気がするがどうでもいい。
走って、走って走って走って走って、走りまくって、塾の入り口を出たところでやっと足が止まる。首筋から汗がしたたる。心臓がドクンと脈を打つ。
「あ、あははは………終わった」
ついにやってしまった。いい子を終わらせてしまった。
ひどいことを言って先生を困らせてしまった。怒られているのに逆ギレしてしまった。
もう、塾には通えない。先生からもお母さんからも、多分見放される。
いけない事をしたのに、心は晴れやかだ。胸の奥で渦巻いていた塊が、すうっと消えていく。
「あー、あー………疲れたなあ。もう、全部疲れた」
僕は終わっている。散々ひどい目にあわされたのに、まだ自分に非があるんじゃないかと思って
いる。ホント、いつまでいい子で居る気だよ。
「…………あ、そういやもうすぐか」
僕は、肩からぶら下げているスクールバッグのポケットから一枚の紙きれを取り出す。
白い紙に赤い字で、〈ひばり座 前売り券〉と書かれたそれは、演劇部の舞台のチケットだ。
来週開催される文化祭で、いとちゃんは主役をやると言っていた。数カ月から練習を頑張って、ついに大きな役を任せてもらえる事になったのだ。
『練習したから、絶対見に来てね。絶対だよ! 遅刻したら許さないからっ』
『行くよ、絶対行く。一番前の席で見る。絶対絶対、寝たりしないから』
『もー、信ぴょう性ないー』
………ごめんね、いとちゃん。
近くにいてくれたのに、自分を愛してくれたのに、僕は最後の最後まで君を頼れなかった。
助けてって言えなかった。応援するって言ったのに、応援してほしいって言えなかった。
可能性を捨てるなって叫んだのに、自分で可能性をつぶしちゃった。実力行使しちゃった。
自分が本当に好きなもの、自分が本当にやりたいこと、心の中にしまったまま実行しちゃった。
今更遅いって怒られてもいい。嫌われてもいい。
………これだけ、最期に言わせてくれ。
僕はいとちゃんが大好きです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
由比若菜の人生はもうすぐ終わります。
・・・・・・・・・
助けないでください。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
うそつきの僕を、どうか許してください。
・・・・・・・・
じゃあ、また明日。
さよなら。
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.38 )
- 日時: 2023/06/18 15:50
- 名前: むう (ID: viErlMEE)
「契り」より〈こいとside〉
学校の屋上のドアに、鍵はかかっていなかった。いや、正しくは違う。鍵穴に、銀色の鍵がささったままになっていたのだ。
鍵は当直の先生が職員室で管理している。しかし先生によっては、時々、鍵を忘れて帰る人もいる。
学校の先生は忙しい。ふだんの授業に加えて部活の顧問も担当している。人間誰しも完ぺきではないし、間違えることだって生きていれば多々ある。
だけど、何も今日じゃなくても良かったのに!
「見晴らしのいいところでご飯食べたい」って由比が言うから。
「屋上の階段で座って食べようよ」って言うからわたし、お弁当の包みを持って教室を出たのに。
扉のスペースに座って食べるって約束だったでしょ?
スマホの電波が悪くてYouTube開けないって話だったから、うち、今日こっそりスマホ持ってきたよ。フォルダにおすすめの動画、たくさん保存したよ。
なのになんで、一緒に観ようとしてくれないの?
なんでランチセット持ってきてないの? ご飯、食べるんじゃないの?
「いとちゃん、僕、外の空気吸いに行きたい。ちょっと行ってくる」
箸でつかんでいたタコさんウインナーが、ポトリとお弁当箱の中に落ちた。
わたしは慌てて立ちあがり、扉のノブに手をかけようとする由比の右腕を掴む。
彼の筋力のない細い指の先が、ビクッと動いた。
「待って。どこ行くの」
「……外」
「外に行って何するつもりなの」
「なにって、空気吸いにいくだけだよ」
由比は、痛いところを突かれたような顔になった。
「ねえ、もういいでしょ。外に行かせてよ」
ドンッと突き飛ばされて、わたしはその場に尻もちをついた。
掴んでいた手が離れる。
ギィィィィと蝶番の音をきしませて、重い銀色のドアが外側から開いた。わたしがかける言葉を必死に探している間に、クラスメートの小さな身体は入口の向こうへ隠れてしまう。
……おかしい。
由比は滅多に嘘をつかない。表情が顔に出やすいことを自覚しているから。
くわえて、彼は大人しい。人より動作が遅くて、のんびり屋で、マイペース。
お喋りするときも、わたしが話終わるまできちんと待ってくれる。聞き役に徹しすぎるせいで、自分から話題を持ち掛けることは苦手。だから、わたしがだいたい『今日は何があったの?』って、先導してあげるんだ。
おかしい、絶対おかしい。
今日に限って、会話を自ら中断しようとして。乱暴してきて。
しかも、……笑わないなんて、絶対絶対おかしい。
「ねえ、待ってよ由比! どうしたの!? ご飯、食べ………」
わたしは、開けっ放しにされたドアをくぐって、そして。
言葉を失った。
人は心の底から驚いたとき、声が出なくなるものなのだと、悲鳴すら喉の奥に引っ込むものなのだと、その日初めて理解した。
――友人の表の顔だけを見て来たわたしの眼は、彼が屋上の柵に手をかける寸前まで、その事実を受け止めきれなかった。
「バカあああああ!」
わたしは、叫んだ。
人生初の怒号だった。人生初の悲鳴だった。
これが悲鳴なんだ、と思った。
後ろから抱き着かれたときに出た「キャッ」や「ひゃああッ」。
あれは悲鳴ではなかったんだ。
なんで、なんでなんでなんでなんで。
嘘でしょ、嘘、絶対嘘。嘘だ、こんなの、嘘に決まってる。
「いとちゃん、風がすごく気持ちいいよ! 僕ね、ずっと空を飛んでみたかったんだ!」
屋上の周りをぐるっと囲んでいる柵に、由比は足をかける。身体が徐々に上へ上へと持ち上がっていく。空と、身体の距離がどんどん近くなる。
……ついに、彼の足が手すりに乗った。その幅はわずか十センチ。制服のシャツが風でパタパタ揺れて、姿勢が少しグラグラしていて。
「ねえ、やだっ、やだよ由比! やだ、大きらいっ」
違う、違う。うちは、あんたを怒りたいわけじゃないの。
なにがあったのか聞きたいだけなの。一緒にお昼ご飯を食べたいだけなの!
あんたのことが大好きだから、だから、自分の好きなものが無くなるのが嫌なの。
あんたに見せたかったものが、あんたの行い一つで無駄になるかもしれない。
それが嫌なの。
「由比! 早くこっちに来て! ……ねえ、帰ろう! 5時間目始まっちゃうよ! ねえ!」
「いとちゃん。僕はもう大丈夫だから、戻ってくれないかな」
うそつき。大嘘つき。バカ野郎。
大丈夫じゃないから、今現にこうなっているんでしょう!?
大丈夫じゃないから、あんたはこんなに追い詰められているんでしょう?
桃根こいとは信じない。演劇部員の名に懸けて、こんなエンドロールは絶対に信じない。
ここであんたの物語を、暗転させたくない!
………ねえ、由比。あんたっていっつもそう。
肝心なこと、何にも話してくれないよね。
自分のこと、家族のこと、習いこと、夢のこと。
わたしはたくさん話したけれど、あんたのことは何も知れてない。
フェアじゃないと思わない?
「わたしがなんかしたの? わたし、無意識にあんたを苦しめちゃった?」
「……違うよいとちゃん。 いとちゃんは悪くない。全部、全部僕のせいなんだ。だから僕が全部やらなきゃダメなんだ」
暖かい風が吹く秋空に零れた、彼の涙。
わたしは慌てて駆け寄り、自分の小さな右手を友人へと差し出した。
なにかが変わるわけではない。なにかを変えるわけでもない。少女の細い腕では、多分相手の苦しみは抱えきれない。
でも、それでも。
それでもわたしは。
「そんなことないよ! 言ってくれたらわたしも一緒にやるよ! 今までずっとそうしてきたよ! だからこれからもそうする! ずっとずっと側にいるから! ずっとずっと応援するから!」
わたしに迷惑が掛かると思ったの? わたしが自分の側を離れると思ったの?
そんなわけないじゃん。
桃根こいとは、由比若菜という物語において最重要人物でしょ?
いい? 物語っていうのはね、キャラとキャラが心を通わせることで進むものなの。
全部一人で抱え込まないでよ。友だちでしょ?
「………いとちゃん。ありがとう。 でもごめん、もう疲れたんだ」
由比が右足を一歩前に踏み出す。足が空を滑る。
小さな身体は重力にあらがえず、コンクリートの地面へと真っすぐに落ちていった。
風すら掴まずにどんどん落ちて行った。
………ドンッ。
………ドンッ。
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〈ゆ※&■〉
――ねえ、いとちゃ、………なんで。
――なんで、……なんで飛ぶんだよ。
――僕、言ってない。助けて……な、んて………。ひ、とこと………も………。
『―――大好きだよ』
――僕の手、血だら、け。
『ううん、離さないよ』
――いとちゃん、もういいよ。……もう、どっか、行ってよ……。
『じゃあ、一緒に連れてって』
――地獄だろ。
『天国に決まってるじゃん』
――何しに行くの。
『神様に頼みに行く。ハッピーエンドにしてくれって怒りに行く。桃根こいとと由比若菜を叱ってもらう。そして、最期にはくっつけてもらう』
――くっつけるって、なにそれ。僕たち結ばれるの?
『そうだよ。だってうちら、【こいと】と【ゆい】だよ。
ほどけても、また絶対結びなおせるよ』
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.39 )
- 日時: 2023/12/17 12:29
- 名前: むう (ID: F7nC67Td)
展開の都合上とはいえ自分のキャラを死なせるのは胸が痛いよお(泣)
みんな、由比みたいに抱え込んじゃだめだからね!
ちゃんと相談するんだよ……。
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〈XXside〉
「おい、いい加減にしろよテメエ。どこへ行く気だ」
一人の少年が、歩道の真ん中で声を荒げている。
白いカッターシャツの上に紺色のパーカーを着ている。
背丈は160センチ前後。
彼は手を広げて、相手がこれ以上先を歩くのを阻止していた。
「どこへって、贄の様子を見に行くだけですが」
答えたのは、サスペンダー付きの黒い短パンを履いている、十歳くらいの男の子だ。
髪型はおかっぱ。猫のような大きな瞳の奥は、怪し気にゆらゆら揺れている。
「あなたこそその恰好は何なんですか、猿田彦命」
「……俺の宿主だ。新しい身体だよ。てめえこそなんだその姿は」
「あなたと同じですよ。我も見つかったのです、新しい器が」
「なんだと? ――貴様、禍の神の分際で、何を」
おかっぱの少年は、禍津日神と呼ばれる、悪神と呼ばれる存在だった。
火事・洪水・公害・疫病。
彼がいる場所では様々な被害が発生する。人々は神の力に抗えず、次々と死に絶える。
神という名がついているが、実際のところは妖に近い。神になろうとしたが、人を殺し過ぎたせいでその資格を得られなかった……という説もある(この町一帯に伝わる話だ)。
この町は霊的エネルギーが非常に強く、霊や妖怪にとって非常に過ごしやすい土地らしい。
禍津日神は恐ろしいことに、日本全国を支配できる大量の霊力を持っていた。しかし、彼はその力を敢えてこの東京―D町のみで用いたのだ。
平安時代、この町一帯を治めていた陰陽師が禍津日神を祠に封印するまで。
昔の人は日照りや干ばつが続くと、『禍神様が怒っておられる』と顔を青ざめさせたとのこと。
畑でとれた農作物を祠の前に置いたり、酷い話だが生け贄を捧げたりすることもあったという。
猿田彦は同じ神として、禍津日神の事をよく知っていた。
何十年、何千年と悪行を続けた神。この神界隈でも嫌われており、(神様たちに界隈と言うのもアレだけど)封印されるのも仕方ない、むしろずっと眠ってくれと思っている神々がほとんどだった。猿田彦も、その一人だった。
「というかお前、いつ封印を解いたんだッ」
「当時は難しい術だったかもしれませんが、今は違います。どんなに高度な技術も、時間がたてば廃れるもの。幸い時間はたっぷりありましたので、ゆっくり解除方法を図っておりました。意外と脆かったですよ」
少年―禍津日神は、くつくつと喉を鳴らし哂った。
「あなたこそ、いつ自由に動けるようになったのですか?」
「力が戻ってきたんだよ。神の力は人間の気によって常に変化するからな。おまえと違って俺は、いい神・優しい神。無駄に岩の中に閉じ込められたり、クソ面倒な拘束をされることもない」
「ふふふふふふ、相変わらず口が悪いようで」
お前も大概だろ、と猿田彦は思ったが、声には出さない。
片や道開きの神様、片や禍の神様。
ここで歯向かったら最後、彼の右手が自分のお腹に貫通する。
オーバーすぎる? いや、事実だ。
この男は平気で人を殺す。自分が祀られている場所で人が死んでも、『自分のための贄だ』と喜ぶ有様だ。
「最近の人間はどうも勘違いしている。我々神々が住む場所は天界ではない。俗世だ。人間と同じ目線、同じ立ち位置で世界を視ている。天界から降りてこない奴も中には居るけれど」
「テメエには俺らを愚弄する権利はない! 散々人間を痛めつけておいて偉そうにすんな!」
猿田彦は眉をしかめ、さっきよりも強い口調で詰め寄る。
「胸糞悪い再会だが、会えてよかったぜ。道開きの神として、ここから先は絶対に行かせねえ! てめえが贄だと呼んだ人間も、必死に生きてんだよ馬鹿野郎ッ」
猿田彦は両目をつぶる。瞬間、彼の身体を青白い光が覆った。
それは、どんどん強さを増していく。
「ふ、馬鹿め。貴様では我を倒せまい!」と禍津日神は胸をそらす。
それでも、いい神代表・猿田彦は手を止めなかった。
「――本当はずっと言いたかった。ずっとずっと俺様は言いたかったんだ! いいか、この場所はな!本当は俺の縄張りなんだよ! 自分が守るべき人が、勝手に入ってきた野良猫に殺される無念、貴様には到底わからねえだろうがな!」
猿田彦はそのまま禍津日神の懐に飛び込むと、その胸倉をガシッとつかんだ。
「貴様のせいで進む道が消えるやつらの事、考えたことあるのか! 生きてきた道が、貴様の言葉一つで無意味になる。必死で命を散らした奴の事、考えたことあんのか!」
……時代が移り替わり、神々の力は以前よりもずっと弱くなってしまった。
身体の自由が利かなくなり、出来ることが限られていく中で、神々は状況を打破できる名案を思い付いた。
人間の身体に乗りうつることで人の世を生きようとしたのだ。
あるものは、命を救えなかった少女の身体に。
あるものは、想いを伝えられなかった少年の身体に。
そして、禍の神の力は『逆憑き』へと変わり、ひとりの平凡な少女へと降りかかるのだった。
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.40 )
- 日時: 2023/06/21 19:04
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
〈作者の補足〉
★神による、取り憑き方説明★
①良さそうな人間を探します!
猿田彦「子どもが一番取り憑きやすいぞ。説得しやすいからな」
由比「助けてくれてありがとう猿ちゃん」
猿田彦「回想シーンではまだ助けてねえからネタバレすんな!!
こっから助けに行くから待っとけ!」
由比「い、いい神…………………猿ちゃん大好き………!!」
猿田彦「あっそ(顔を逸らして)」
②取り憑いてもいいか確認します。
禍津日神「説得など要りません。取り憑かれた人間は自我を失います。時間の無駄ですよ」
猿田彦「おい、テメエの身体…それ、まだちっこいガキじゃねえか!」
禍津日神「ええ。なのでとても動きやすい」
大国主命「……此奴は確かに放っておくわけにはいかむな。てかこの作品コメディだったはずじゃが。どうなっておる」
むう「メインはラブコメです。シリアスの後はライトに戻るのでもうちょい待っててー!」
(禍津日神はこういう性格です。今まで書いてきたキャラの中で一番のクソ野郎です。
「マガっちヤバすぎるだろ」と思いながら書いております)
③人間さんの体にお邪魔して、生活をエンジョイします
④飽きたら違う子に乗り移ります。終わりです。
禍津日神「おい作者。先程から説明がやけにキャッチーなのだが。我々を舐めているのか」
むう「ひいっ!禍の神こっわ! チ、チガイマス! チガイマスヨ!舐めてません!」
禍津日神「本当か?」
むう「もうちょいキャピキャピしてくれたら愛着湧くんだけどな、とは思ってますが!」
禍津日神「……はあ?(ギロリ) やっぱり舐めているな。先程我のことを『マガっち』と呼んでいたし」
むう「名前長いんだもん!! 漢字打つの疲れるもん! こんな日常疲れます〜〜〜!!」
【次回予告】
美祢「次回は猿田彦と由比の出会い、そして俺と宇月の過去編だ」
宇月「めっちゃむうちゃん深掘りするやん。ボクらそんな積もる話ないで!」
むう「いや、この2人はめっちゃくちゃ過去が………」
宇月「ああああネタバレはあかんて!」
コマリ「わ、私はしばらく出番ないよー!トキ兄ばっかりずるい!」
美祢「おまえずっと語り手だっただろ!」
一同「それでは次回もお楽しみに〜!!バイバイ!」
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.42 )
- 日時: 2023/08/28 07:56
- 名前: むう (ID: viErlMEE)
禍「どうもーっ! 暗黒の禍神、もとい禍津日神ことマガっちでーす!
今日はついについに、猿田彦が人間の由比くんとこいとちゃんを助けに行くよっ。あ、時間軸は
メインストーリーの一年前だから、よろしくねーっ。ということで本編……ってなんだこの台本はああ!」
むう「すごいマガっち。ちゃんとキャピキャピできてる」
禍「やめろっ! 『この時期テストでみんな疲れてると思うから、悪役ボケで読者の疲れを癒そう』など、おかしなことを言いおって貴様! 作者だからって何でも許されると思うな。いいか、今度舐めた真似をしたらお前の魂をあの世に送るからな(胸倉をつかんで)」
むう「トゥンク」
禍「なぜときめく」
むう「最近の子って、ギャップに萌えるのよ。一見ツンツンしてる子が時折見せるデレに、キュンってするもんなのよ」
禍「ほう。そうか。つまりこの小説の読者は我を前に恋に落ちると……。ふ、貴様は馬鹿か? 神が両手ピースで目をキュルキュルさせる世界線がどこにある」
むう「HERE(ここ)」
禍「………………よし、今すぐあの世に送ってやる」
------------------------
〈由比side〉
僕は屋上のフェンスから身を投げて、空を飛んだ。
やっとこれで解放される。やっとこれで楽になれる。
痛いこともつらいことも苦しいことも、もう終わりだ。
やり残したこともない。僕は充分頑張ったよ。
お母さんの前ではいい子を演じて。友だちの前ではのんびり屋さんを演じて。
塾では、流石に嘘はつけなかったけど、それでも毎日足を引きずりながら生きたよ。
そうだ、生き切ったんだ。だから何も悲しくなんてないんだよ。
つらくない、苦しくもない、痛くもかゆくもない。
この命がこぼれたとしても、それは自然の摂理で。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、いとちゃん、いとちゃんいとちゃんいとちゃんっ………」
…………どうしようもないくらい、最期まで僕は馬鹿だった。
僕は、震える足を必死に動かしながら、ほふく前進で彼女の元へ行く。
自分の横、中庭の地面に仰向けで倒れているひとりの女の子の元へ。
砂利を濡らしているのは、自分のあごから滴る汗と、額から流れる大量の血と、そして友だちの生きた証である、赤い、赤い何か。
全身が鉛のように重い。体温が徐々に下がって行く。それでも僕は視界を使って、なんとか、なんとか前へ進む。
よし、もうちょっと。あと少し。……ついた。
僕は涙でぐしょぐしょに濡れた顔を、堂々と相手に見せつけてしまった。
「………ゆ、い…………あはは、だい、じょう、ぶ?」
いとちゃんは掠れる声でそう呟き、右手をそっと上げる。日々の運動で、ほどよく日焼けしていた肌は、枯葉のような真っ青な色へ変わっていた。
爪の中に血の塊が入っていて、ううん、セーラー服の襟元もスカートも、赤一色で。
きみの身体は、比喩でも何でもなく、黒々とした赤に染まっていて。
「い、いと、いとちゃ………っ」
僕はそのあと、何も言えなくなってしまった。
何を叫んでも、すべて言い訳になりそうで。何を伝えても、すべて無意味になりそうで。
だから、だから僕は、最期の力を振り絞って、いとちゃんの指に自分の指を重ねた。
目と目を合わせて、体と体をぴったり寄せ合って、お互い弱くなる心拍数を、合わせた。
「…………ゆいの、せいだ。ゆいが、……『死にたい』なんて思わなければ、うちも、飛ばなかった」
「…………っ」
いとちゃんの言葉をかみしめる。
そうだ、その通りだ。今の現状に終止符を打とうしたから、いとちゃんは僕を止めようとしてくれたのだ。僕が何も言わなかったから、僕が何も話さなかったから、彼女は『一緒に飛ぶ』ことを選んでしまったのだ。
飛んで何が変わったか。
明るい未来が待っていたか? 痛い思いをしなくて済むようになったか? 解放されたか? 楽になれたか? 苦しくなくなったか?
…………何も変わらなかった。だって、飛んだのは自分ひとりじゃなかったから、
横にきみがいたから。きみが横にいてくれたから、僕は飛ぶことを躊躇してしまったんだ。
そして今、きみの命がこぼれていくのを理解して、苦しくてたまらない。
「でもね、ゆい……。自分を責めないで……。ゆいは、何も、なにも、悪くないんだから……」
「ちが……。ちが――っ。ゴホッ。ゴホッゴホ」
喉の奥からせりあがった血で窒息しそうになる。
僕らに遺された時間は、あとどれくらいだろうか。
「わかってるよ、ホントは、ホントは、とっても生きたかったんだよね……」
いとちゃんは、薄く笑う。そして、横に倒れている僕の髪を、空いている左手でそっと撫でた。教室で同じように髪をいじられたことがあったが、今回は状況が違う。いとちゃんの右手は、ぶらんぶらんしていて、ちょっと力を抜いたらすぐに崩れそうなくらい、動作が危なかっかしくて。
「いき、たかった……?」
「そうだよ。いきたかった、でしょ? ほんと、は。いきたい、から、しのうと……したんでしょ」
お母さんに干渉されることなく、日々を過ごしたい。そう思っていた。
お母さんなんか大きらいだ。お母さんのせいで僕の世界はこうなった。
ずっとそう感じていた。
でも、心の中では……いや、昔から僕は、お母さんのことが好きで。
感謝の気持ちは本物で。母親と息子の愛は本物だと思っていて。
そうだ、僕が求めていたのは、「死」ではない。
僕は、生きたかった。この世界を、もっともっと楽しみたかった。
成績とか頭のよさとかキャリアとか、そんなものではなく、もっと、もっと単純に、自分を認めてほしかった。それさえクリアできれば、後は自力で乗り越えられる気がしていた。
それだけでよかった。シンプルで複雑な、愛情ってもんが、ただただ欲しかった。
無理だった、けど。
「いき、たかった……」
「うん、わかってる」
視界が暗くなる。
「あいされたかった。……あい、したかった」
「うん、そうだ、よね。わかってる。だから、……最期まで、うちはゆいの……そばに……る」
全身の力が抜ける。
「ぶんかさい、いちばんまえ……で……みたかった」
「うちも、みて……もらいたかった」
確か演目は『バラとイバラ』。
どんな内容なのかわからないけど、いとちゃんがやるなら、絶対神作品。
「ら――せは、いっしょに、……みに……いこう」
「うん、ぜ、ったいね」
痛みが、消えていく。
あ、ダメだ。右耳が聞こえなくなってきた。
「ねえ、さいご……言いた………ことがあったんだ」
「………き……よ」
自分の声もなかなか聞こえない。
いとちゃんの声も、あんまり聞こえない。
唇の動きで、なんとか推測できる。
さっき言ったのは多分、「遅いよ」とかかな。
「………ぼ……は」
ああ、無理だ。左耳も機能しなくなるなんて。
血がどんどん外に流れていく。
言わなきゃ、さいごに……さい、ごに、これ………け…………は。
「……………だい、すき」
――――――――あ。死んだ。
------------------------------------------------
「うわ、血生臭ッ。こいつらまさかあの高さから飛んだのか? 嘘だろ。……魂と体の分離が始まってんな。さて、どうしたものか。自ら死を望んだものに介入するのはご法度だ。……どうする、偶然の再会その2」
猿田彦は、由比とこいとが通う中学校の上空に浮いていた。
目線を前に向けたまま、後ろにいる相手に呼びかける。
「――なんじゃその変な呼び名は」と、相手は渋い顔。
「おい、睨むんじゃねえ。わかった、言い換える、言い換えるから!大国主、な」
「ふん。それで良い」
答えたのは、長い黒髪の女性だった。若葉色の着物を着て、白い帯を締めている。
縁結びで知られる、日本の有名な神様であり、猿田彦の古い知り合いである。
…………さきほど偶然出会った。
「なにやら慌てておるが、どうしたんじゃ」
「おう。つまりだな。『道開きの神、ラスボス退けて人間救助! ~旧友と再会したんで協力たのんでなんとかします!~』って流れだ」
「なぜ、ライトノベルのタイトル的にまとめるんじゃ。緊迫感に欠ける」
「なにって、ライトノベルにおいて神の存在は不可欠だろ」
長年人の世にいたせいで、猿田彦も大国主命も、人間に関する知識がかなり豊富だ。
その気になればパソコンだって使いこなせる。ネ○フリだってみようと覚えば見れる。
取り憑く相手が子供なので、彼らに影響されたのだろう。
「はあ。まあいい。状況は自力で理解する」
「かなり複雑だが大丈夫か」
「………大丈夫じゃ、なんとかなる。さて、なるべく早急に済ませるぞ。奴が来る前に」
※次回に続く!
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.43 )
- 日時: 2023/12/05 08:29
- 名前: むう (ID: F7nC67Td)
〈拡長編:本編前のキャラトーク!〉
※本編に組み込んだら長くなりそうだったので、拡長編にしました。
今度のストーリーを分かりやすくするための用語などを、キャラがお話します。
それでは、どうぞ。
宇月「ご無沙汰してますメインストーリーの方の夜芽宇月と!」
美祢「同じくメインの世界線の時常美祢だ……って、なんでコイツと一緒なんだ(舌打ち)」
宇月「それはこっちのセリフ。なんでこんな奴と一緒やねん。マジで意味わからへん。って違う違う違う違う、あああああ、まーたボクはいらんことを……」
美祢「え、お前俺と一緒がいいの?」
宇月「ま、まあ、別に? 隣に居ってやってもええかな、とは、その、まあ、はい」
美祢「…………………え、なんか変な虫でも食った?」
宇月「なあ、むうちゃん。美祢が懐いてくれへんのやけど」
(日頃の行いがなあ)
むう「おい美祢、『協力しよう』って言ってたでしょ」
美祢「まだ過去編だろ」
むう「まーたおまえはそうやってメタ発言をする……。そんな子に産んだ思えはないぞ」
美祢「知らねえよ」
むう「本当は好きなくせにぃ」
美祢「好きじゃないし」
むう「尊敬してるくせにぃ」
美祢「してねえって」
むう「はい、ここに取り出しますは時常美祢の日記帳」
美祢「……はっ!? お、おいどこから持って―」
むう「『5月6日 また宇月とうまく話せなかった。本当は一緒にゲームしたいのに』」
美祢「うわああああああああああっ! 返せ、早く返せっ(真っ赤になりながら)」
宇月「………………(同じく真っ赤になって黙り込む)」
美祢「何か喋れよ!」
宇月「は、はいはーい(手を叩いて)。それでは本編前のキャラからの挨拶やってくでぇ」
美祢「はぁ、はぁ。おい、お前今すぐテーブルの角に頭ぶつけて忘れろ」
むう「無理。もう録音しましたので」
美祢「………………………死にたい…………」
(禍「なら我が冥府へ送ってさしあ……、お、おい貴様なにをする、我の手を気安く触るなっ」)
(猿「ここは俺が食い止めるから早く進行しろっ!」)
宇月「えーっと(台本を開く)。『霊能力者について説明せよ』? え、ボクに言うてる?」
むう「(口下手なもので上手く説明できません。お願いします、の視線)」
宇月「……はあ。しゃあない。OK。んじゃ、説明していくで。今回は今後のストーリーにもかかわってくるから、みんなついてきてな」
★宇月さんによる霊能力者講習会★
宇月「霊能力者は主に三つのパターンに分けられる。憑依系・使役系・操術系や」
美祢「なんだそれ」
宇月「詳しく見ていくで~」
【使役系】
・妖怪、幽霊と契約し共に戦う
宇月「まず初めに使役系や。このスタイルが一番多いで。代々続く家柄だと、共闘する怪異も決まっとったりする。最近は自由に選べるようになっとるかな」
美祢「具体的に何人くらいいるんだ?」
宇月「せやなあ。霊能力者が全国に3000人ほどおるから、うーん。6割はこれやな」
むう「へえ。けっこう多いんだね」
宇月「最近知り合った子ぉの一人が使役系やな。あの子、変な性格やけど腕前は確かなんよな……。なにか収穫が得られるかもしれんし、今度コマリちゃんらに会わせてみよかな(小声)」
宇月「みんなに分かるように言い換えるならば、吸血鬼との契約とか、悪魔との契約とかみたいなもん。使役系の霊能力者は、共闘する怪異に対価を支払うで。血液とか、お供え物とか」
美祢「妖怪はどんな奴らなの?」
宇月「一番多いんは、動物の霊。猫、犬、狐、狸なんかは有名やな。こっくりさんってあるやろ? あれで狐の霊がよく出んのは、それだけ扱いやすいって事や」
【操術系】
・自分の特殊能力を使って霊を祓う戦闘スタイル
宇月「お次は操術系。これは全体の3割。ボクのマインドコントロールもこれに当たるな」
むう「特殊能力って、霊能力のこと? 霊能力者は全員能力もってるんじゃないの?」
宇月「それが違うねん。霊能力は、操術系の人しか持ってへん。つまり、霊能力をもって生まれたら、絶対そのチカラを使って戦わんとあかんってことや。使役系や憑依系は、能力とは言わん。『体質』って言い換えられるな」
美祢「だからお前、本編で『こんなチカラいらん』とか言ってたのか」
宇月「あ。一応、霊視とか、乗っ取りの耐性とかはみんな持っとるで~」
むう「こちらは何が有名なんですか、宇月先生」
宇月「人の数だけ術があるから、あんまり把握しとらんけど……。【光の使者】は強いな」
美祢「光の使者?」
宇月「古来より、光には闇を祓う力があるとされとる。よって、光系統の霊能力を持つ霊能力者は、最強と謳われがちや」
【憑依系】
・自分の身体に霊を憑依させ、自分の代わりに戦わせる戦闘スタイル
宇月「最後は憑依系や。霊能力者の中ではめちゃくちゃ希少。割合はわずか1割や。やから、憑依体質がわかったら、こちらも強制的に討伐に参加させる決まりや」
むう「霊能力者界隈、めっちゃシビア……」
宇月「あまりに珍しいから、『~様』とか、『~姫』とか呼ばれとる。ボクはそういうのはあんまり好きやないけどな」
美祢「ちなみにお前、憑依系の人に会ったことあるの?」
宇月「京都ではない。こっちに移ってきてからは、二人。一人は上司の篠木さん。でもあの人、いい人過ぎて逆にこっちに様付けするんよ」
むう「篠木さん……今度登場させようか迷ってるけど、宇月さん的にはどう?」
宇月「え、ここで聞くん? あーそうやな、ピンチの時は頼るかもしれんな」
-------------------------
宇月「ということで、霊能力者のタイプ、わかってもらえたかな?」
美祢「わざわざこんなコーナー作ったってことは、出るんだな? この先、新しい霊能力者が」
むう「さあ、どうでしょう」
美祢「まあ、とりあえず今は禍津日神VS猿太彦・大国主命がバチバチだから、そこをなんとかしねえとな」
宇月「せやな。そこがないと、ボクらのおる未来に繋がらんし。むうちゃん、頼んだで」
むう「まっかせなさい!」
(猿・大「頼む相手こっちだろうが!」)
むう「それでは次回もお楽しみに! 講習会のお相手は作者のむうと、」
美祢「ボディーガード役の時常美祢と、」
宇月「霊能力者の夜芽宇月でした!」
一同「ばいばーい!」
-------------------------
??「あ~。なっかなか登場出来ねえな。早くカッコいいとこみせてえのに! 推しの配信も我慢して、ずっと待機してんだけどな。あ~~、早く観てえ!」
??「……ねえ、………僕も観たいから、………先、観ないでね……」
??「はいはい。わぁーったよ」
※次回に続く!
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.44 )
- 日時: 2023/08/25 23:15
- 名前: むう (ID: viErlMEE)
〈猿田彦side〉
俺—猿田彦は、13~14歳くらいのガキんちょの身体を乗っ取っている。
名前は確か……「バン」とか言ったか。苗字なのか名前なのか、どんな字を書くのか分からないが、彼の友達がそう呼んでいたので、自分も同じように呼んでいた。
バンを一言で表すなら、「変な奴」だな。
コイツはとにかくお喋りで、こちらが口を挟まない限り、会話をやめない。いったいいくつネタを持っているんだと引くくらい、めちゃくちゃ喋る。こっちは、息をつく暇もない。
『へ? 乗っ取り? ああいいよいいよ、なんか少年漫画みたいでおもろいし俺一応霊能力持ってるし、憑依系だしこれくらい余裕余裕』
な? 句点どこ行った? って思うだろ。
だが正直な話、説明する手間が省けて実に助かった。彼の家が霊能力者の御三家であること、彼が妖怪幽霊を取り憑かせて戦う「憑依系」であることが、道開きの神を安堵させた。
俺たちは、互いに助け合うことを第一条件とし、同じ身体を共有する仲間として仲良くなった。
こうしてみると、ガキの癖に妙に達観しているなと思う。良家のお坊ちゃんという生い立ちが、子供をそうさせているのかもしれない。
……さて、話を戻そう。
現在俺は、ある中学校の上空を飛んでいる。人間を助けるために。
神である俺らは、人間の生死のタイミングが分かる。
一つの個体がいつ、どうやって生まれるか、どのような人生を生きるか。そして、どう死ぬかを予見できる能力を持つ。
ただし、視えるだけ。運命を変えようとする者はまずいない。よほどのことがない限り、俺らは力を使わない。これは神々における暗黙のルールだった。
今どきの若者言葉で、分かりやすくまとめるならば。
「万物を生み出したせいで体力切れたわ、ぴえん」
「生かすも殺すも結局そいつ次第じゃね? 生きようと思えば人は生き、死のうと思えば人は死ぬ。そういうもんっしょマジで」
「あ、じゃあ俺ら、しばらく傍観者になっていいってこと? マ?」
「えー、神やん」
って感じだ。だいぶギャルくなってしまったが、かなり伝わった気がする。たぶん。
【神頼み】という言葉があるが、俺からすれば「自分で何とかしろよ」って話。
あれ、神様ってこんなゆるい生き物だったっけ……。まあいい。
そんなこんなで人々の生活を陰から応援していた俺様だったが、ある日ふと違和感に気づいた。
――人が死に過ぎている。
例えば、20代の女性とすれ違ったとする。
俺の目には、その女性が今後どのような人生を送るかが映る。日々平穏に過ごしていたが、七月の○○日にトラックに撥ねられて死亡、とかな。
そして自分の予見は、一度も外れたことがなかった。
しかしここ数日、急に運命が変わる人間の数が増えてきていた。なんなんだ、この不快感。全身にまとわりつく、ねっとりとした憎悪の念……。間違いなく近日中に何かが起こる!
「そして出会ったのが、あの禍野郎ってわけだ。これで疑いが晴れた。アイツは絶対何か企んでるぞ」
俺は空中でバランスを取りながら地上へ降りる。
風の流れを利用して体勢を整え、両足に全意識を集中。着地の衝撃を最小限に抑え、学校の中庭の地面に右足をつける。
ストッ。
「あの鬼神か。昔からコソコソコソコソ、鼠のように闇に隠れておったが……」
続いて着陸した大国主が、形のいい鼻を鳴らす。
着物の裾をたくしあげ、血だまりで濡れないように注意しながら足を進める。
「敵に回すと厄介じゃな」
「ああ、まったくだ」
俺は肯(うなず)く。
「こいつらの未来を視た。ガキ二人とも、禍の神の贄として吸収される。復活後の最初の餌として」
地面に倒れているのは、二人の子供だ。
白いシャツを着た少年と、セーラー服の少女。
両方とも、服と顔を、血と泥で汚していた。
なるほど、少年は家庭環境と勉強の不安に板挟みされ、逃げたくても逃げられず自殺。
友人の少女は彼を助けようと、後追いで命を絶った……か。
なんとも哀しい最期。彼らが救われる未来は、なかったのだろうか。
………いや、あった。俺様がみて見ぬふりをしなければ。
「俺のせいだ」
「おぬしのせいではない」
肩を降ろした俺に、大国主が言う。
その端正な顔を、悲哀の色で染めながら。
「お主は定められた規則をしっかりと守っただけじゃ。道はこれから切り拓けばよい。最悪はこれから訪れる。わしらはそれを止めるのじゃ」
――自らの選んだ死を、他人に利用されてはならぬ。
――闇の中に取り残すわけにはいかぬ。
と、彼女は言葉を続ける。
「……なぜ奴は、こんな若造を狙うのじゃ? なにか解るか、猿田彦」
「負のオーラが強いんだろうな。死は、奴の好物だ。子供は経験が浅いがゆえに、物事を大きくとらえがちだ。綺麗なものを綺麗と言える純粋さを持ち合わせているのと同時に、一度醜いと決めつけた物はどこまでも醜く映る」
禍津日神は、穢(けが)れから生まれた存在。その本質はどこまでも悪だ。
どこを切り取っても、あの神には肯定できる箇所が無い。存在そのものが、我々にとっては悪でしかない。禍をつかさどる者として、当然のことかもしれない。与えられた使命を全うしているだけかもしれない。
でも、他人の正義が必ず善とは言い切れない。
「それで、どうする。何か策はあるのか」
大国主は俺を見上げる。
「――こいつらの身体に乗りうつるのはどうだろう。いや、こいつらの身体から発生した霊魂と合体する,と言った方が正しいのか?」
「は!?」
大国主は、ぽかんと口を開けた。
そりゃ、そうなるわな。横で友人が真面目な顔でおかしなことを言ったのだから。逆にこれで「わかった! うむ!」とOKされたら困る。
「正気か貴様? 通常、霊魂というのは現世に留まるものではない。乗りうつろうとする前に、体から離れた魂は冥府へと送還される。だいたい、我々も霊体みたいなものじゃろう。霊と霊が合わさって、いったい何になるというんじゃ」
俺の提案は100パーセント無理ゲーだ。
前例も成功の実績もない。バカな神が思いついたヘンテコなアイディアだ。もしかしたら、そもそも論理から間違っているかもしれない。
でも、それでも。何事もやってみないと分からないだろ。
俺だってどうやればいいかわかんねえ。言ってみただけだ。
けれど、俺らは神だ。万物を生成し、国を作り、命の概念を作り出した神だ!
だから、ひょっとして……となんの根拠もないのに希望を持ってしまう。これもいけるんじゃないか?って。
それに。お前さっき言ってたじゃん。
「道はこれから切り拓いていくんだよ! いいか、時に大胆に、だ。渡ればとにかく道になるんだ。たとえそれが獣道だったとしてもな。俺はやるぞ。おまえが何を言おうとやるぞ!」
やり方はこれから神スピードで考える。とにかくやるんだ。
やれるって思うんだ。神が自信を失ったら、いったい誰が二人の人生を肯定するんだ?
と。ふと、ビュウウンと強い風が吹いた。
はっとして後ろを見る。
「おやおや。ずいぶんと楽しそうではないですか。我も入れてくださいよ」
おかっぱの小柄な少年は、あごに手を当てながら静かに云ったのだった。
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.45 )
- 日時: 2023/08/25 23:20
- 名前: むう (ID: viErlMEE)
閲覧数1000突破ありがとうございます!
今後ともよろしくお願いします!
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「おやおや。ずいぶん楽しそうじゃないですか。我も入れてくださいよ」
禍津日神はぞっとするような低い声で言い、両手を広げた。
彼の身体からは黒い靄が発生しており、空気の流れに合わせてゆらゆらと揺れている。おそらくこれが、穢れというものなのだろう。
「旅は道連れというでしょう。ねえ、猿田彦? 同行してくれる仲間がいると、旅がより一層楽しくなる。貴方の仲間に混ぜてください」
と、奴は右手をこちらに差し出す。
「我とて独りぼっちは嫌なのですよ」
「……入れるわけねぇだろ! このクソ野郎!」
「おや、悪い子ですね」
「このっ。ああ云えばこう云いやがって!」
俺—猿田彦は彼をキッと睨みつけ、怒鳴った。腹の底から、沸騰した湯のように、ふつふつと怒りが湧いてくる。
俺たちは今、敵対関係にある。人間を守る側と、人間を殺す側。その手を握る訳にはいかない。
敵意を向けられた禍の神は、めんどくさそうに首の後ろに手を回そうとし……俺の横にもう一人、神がいることに気づき、僅かに唇を開いた。
「まさかまさか、貴方ともう一度会うことになるとは。大国主」
これは面白い展開ですね、と少年の姿をした人殺しは嗤う。
彼は屈んで、グラウンドの土についていた血を左手の人差し指ですくう。そして指を口元まで持っていき、真っ赤な舌でペロリと舐めた。
………汚ねェな。
と思ったが、お約束。声には出さない。
っていうか、なんで呑気に脳内実況なんてしてるんだ俺様は。
これから戦いの火ぶたが切って落とされるのだから、集中しろ!
「貴方ような美しいお方の顔を血で染めたくはありません。どうでしょう、お戻りになられては」
と、大国主の艶やかな黒髪にそっと指を絡める。
こいつ、俺に対しては冷たいくせに、大国主相手になると機嫌を取ろうとするな。
ああいや、昔からそうだった。彼は、能力の有無で人をはかる部分があるのだ。強い者は敬うべき存在なので、親密な関係を築き、「こいつは自分の事を見てくれている」と安心させてから始末。弱い者は即始末。人間を殺すときも、最初に狙うのは女子供。力の強い敵が、女たちを守ろうと背を向けたところに一撃。そういう神だ。
まあ、大国主に比べれば道開きの神の能力は劣るのは事実だが。
「貴様は自分が見えてないようじゃな」
しかし大国主は、その手を自分の右手のひらでバシッとさばいた。そして、汚いものでも見るような表情になり、ずいっと禍津日神と距離を詰める。
そして、「え」と驚いた彼の額に、人差し指を突き付けた。
「綺麗な言葉を吐いたところでお主の性質は変わらぬ。つくならもっとマシな嘘をつけ。穢れを身にまといながら、血をなめながら云うなら、尚更のことじゃ」
禍津日神は、数分間固まっていた。何を言われたのか分からず、理解が追い付いていないようだ。もしくは、事実を指摘されて悔しかったのだろうか。
しばらく、場は静寂に包まれた。
夕焼け空を渡っていくカラスの鳴き声と、五時間目の終了を告げる校内チャイムが虚しく響く。風が中庭の砂と血の匂いを運んでゆく。
「ふはははははははははははははは!!」
静寂を作ったのが彼なら、静寂をやぶるのもまた彼だった。
突然、両手で顔を覆い、ケタケタと笑い出した神に俺と大国主は顔を引きつらせる。右足を一歩前に出し、臨戦態勢を取った。
「あはははははははははははは………言ってくれるじゃないですか……。先刻、彼から受けた傷よりも此方の方が何倍もきつい」
禍津日神は片腕を抱えながら、よたよたとこちらに歩み寄ってくる。
背中を丸めて、ゆっくり、ゆっくりと。それはもう、じりじりと。
「あははははははははは、そうそうそうそうそう! その通りです! 我は全ての悪を管轄し、全ての闇を総べる者! 血と死が我の栄養。我の糧。闇から生まれし存在、それが我だ……」
そこで彼は言葉を切り、口元を歪ませる。また笑う。嘲る。
「この空腹! この乾き! すべてを奪うことで満たすのみ! あはははははははははははははははは! さあ愚かな神ども、我の前にひれ伏せ!」
と同時に、彼の身体をまとっていた黒い靄が、彼が伸ばした右腕に集中した。血の毛がない真っ白な肌が、握りしめた拳が、一瞬で黒に覆われる。
「大国主、後ろに下がってガキを守れ。遺体は絶対奴に渡すな。必ず死守しろ。頼むぞ」
俺は敵を見据えたまま、小声で後ろにいる大国主に指示する。
「了解した。猿田彦はどうするっ。奴を止めるか? 奴は貴様ひとりで敵うような相手ではないぞ!」
ガキの元へと走りながら、大国主が叫ぶ。
「………そんなこと、とうにわかってる!」
中学校へ向かう前、俺は禍津日神を退けることに成功した。身体の中に溜まっている、ありったけの霊力を使って、なんとか彼の体力を一時的に消耗させた。
だが……。
片眼でチラリと相手の様子を窺い見る。シャツやズボンに土汚れがついているものの、特に目立った外傷はない。あの数分間でもう身体を修復しやがったのか。
身体……。神様(俺たち)にとっての、器。
こいつが乗っ取っているガキは、見たところまだ10歳くらい。服装から察するに、裕福な家で過ごしているボンボンだ。
いきなり乗っ取られて。自我を失って。
今、どんな気持ちなのだろうか。
〈―――バン、聞こえるか〉
俺は意識を脳に集中させる。同じ身体を共有している俺とバンは、念話で意志の伝達が可能だ。
心の中で問いかけると、聞きなれた甲高い声が頭の奥で鳴った。
『おっひさ猿! どしたどした? てかもう夕方? というからお前いつから乗っ取ってる? は? 二時間? 下校の時から? うっわだる。 俺この後塾なんだけど。乗っ取りは一時間までって約束じゃん』
はーいめちゃくちゃうるさい。
というかお前、その呼び方いい加減やめろよ。
「おい猿!」って普通に悪口だからな。せめて『猿田彦』だろ。流石に中学生で「おい猿」呼びはないだろ。泣くぞ。
『猿も俺のこと「バン」って呼んでんじゃん。あのな、それ友達が言ってるだけだから。「つがい」って呼べよ猿』
だーかーらー、猿って言うなっつってんだろ!
〈協力してほしい。討伐したい奴がいる。おまえの力を貸してほしい〉
『え? なにその急展開。え、どんくらい? 幽霊なの妖怪なの? 雑魚だったらまあ倒せるけどていうか急すぎないどした』
おい、聞こえない。早口すぎて何言ってるか全然わからん。
いいかバン。道開きの神は千年以上生きているんだ。
じいちゃんなんだ。耳が悪いんです、ゆっくり喋ってください。
〈…………いや、神なんだけど〉
『はあ、神? 神を倒せと? おまえ毎回毎回厄介案件思ってきすぎ! この前倒した八尺様もかなりやばかったんだからね分かってる?』
〈いいかバン。今から乗っ取り解除する。前に敵がいる。俺の力はすべて使っていい。とにかく助けてくれ〉
お前しかいないんだ。おまえだけが頼りなんだ。
霊能力の家系の筆頭。世にも珍しい『憑依型』の霊能力者。
神を取り憑かせることができる、特異な体質の持ち主。
『あー、なんか知らんけどヤバそうね。……仕方ねえなあ。ホントに全部使っていいのね? 出力100でもいいのね?』
〈いい。全部使って構わない。その代わり絶対に死ぬな。相手は強敵だ。………ごめん、バンにしか頼めないんだ。いいか、解除するぞ〉
『りょ。ま、お互い大切なもんがあるってことっしょ』
〈解!!!!〉
俺は乗っ取りを解除する。頭からつま先にかけて、ぞわぞわとした変な感触が走り、意識が遠のく。フッと全身の力が抜けていく。俺は―いいや、学ラン姿の少年は、その場にしゃがみこむ。
――――後は頼むぞ、バン。
「りょー」
少年が、ふらりと起き上がる。
身長は160センチ前後。オレンジ色の天然パーマの髪。半分閉じかかった瞼の奥の瞳で、襲い掛かってくる禍の神の姿をとらえる。
「初めまして敵サン、猿田彦に代わっておしおきよ~。なんつって。あー自己紹介先にした方が良い感じ? おっけおっけ」
少年はスッと腰を落とし、すうーはぁーと深呼吸をして気持ちを静めると、さっきとは打って変わった静かな調子で名を名乗る。
「俺の名前は番正鷹。またの名を『鳥神様』。人間だけど仲良くしよーね。禍神サマ?」
※次回に続く!
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.46 )
- 日時: 2023/07/18 15:20
- 名前: むう (ID: viErlMEE)
【お知らせ】
これから戦闘開始! となる予定だったのですがスミマセン。
テスト勉強で、8月末まで更新できません。
お詫びとして、閲覧1000突破記念にキャラトークを書き下ろしました!
それではさっそくいってみましょう!
〈閲覧1000感謝★キャラトーク第2弾!〉
今回のテーマ:性格新聞
むう「おーいみんなー。ちょっとこれ見て(スマホを差し出す)」
美祢「は? なんだよむう」
むう「【性格新聞】ってサイトが今流行っててさ。自分の性格を新聞にしてくれるんだー」
コマリ「あ、それ知ってる! 学校でも話題になってたよ」
宇月「結構当たるって話やんな」
むう「そうですそうです。というわけで今日の企画! 『憑きもんキャラで性格新聞やってみたら果たして一致するのか』!ドンドンパフパフ」
キャラ一同「………」
むう「およ? なんでみんなどんよりした顔してんの?」
コマリ「いや、なんか悪いこと書かれてたらヤダなあとか……」
美祢「元厨二病の古傷が開いたら嫌だなぁとか……」
宇月「これ以上印象悪なったら立ち直れへんのちゃうかなとか……」
こいと「完璧作者の趣向入ってるよなあとか」
由比「みんながつまんなそうだから僕もやめとこうかなとか」
禍津日神「そもそも神に性格新聞ってどうなんだよとか……」
むう「はい、やっていこー!(ガン無視)」
〈① 月森コマリ〉
【謙虚で明るい人柄の裏に「ギラつきを秘めている」との指摘も】
記者「似ている生物はミズクラゲ。自然に景色になじみ、エネルギッシュではないが柔らかな性格」
・友達としては最も付き合いやすい人間
・彼女の部屋は掃除ロボットではどうにもならない
・遅刻しても笑顔で登場する人です
・中身はないが話す量は少なくない
美祢「確かにコイツの部屋はルンバでも片付かん。ていうか俺と相部屋だけど。……おいコマリいい加減掃除してくれ頼む」
こいと「堂々と授業をさぼれるバイタリティーの持ち主だよね」
宇月「あたってるやん。コマリちゃん人当たりいし喋りやすいし」
由比「いいなあ。僕もコマリさんみたいな性格になりたいなあ!」
〈② 時常美祢〉
【ぶ厚い理論武装と気持ちを隠す性格に「心が要塞化してる」】
記者「たとえるならリクガメ。パワフルさは全然ないです。心に甲羅はありますけど」
・ニュアンスやテイストを肌で感じ取れる人
・全然目を見て話してくれないね
・無表情やと怒ってるみたい
・カラオケ連れて行ったけどずっとスマホ見てたね
宇月「うっは! 美祢おまえめちゃくちゃおもろいねんけどwww なんやねん心の要塞化てww あーお腹痛いwww」
美祢「おまえがほぼほぼ俺の心のドアを閉ざしてるぞ分かってるか」
コマリ「確かにトキ兄、エスパーかな? って思っちゃうくらい人の気持ちに敏感だよね。言ってもないのに私が思ってること伝わるし」
こいと「カラオケでスマホ見てるは分かりみが深い。歌うイメージが全然ないですよね」
〈③ 桃根こいと〉
【謙虚で明るい人柄の裏に「ギラつきを秘めている」との指摘も】
記者「イメージは動物のふれあいコーナーにいるヤギ。恐ろし気な感じではないけれど、かなり欲に溢れている」
・カラオケ出て30分は最後の曲歌っているようです
・皮肉に気づかず笑顔でいる無敵な人
・落ち込んでからの回復は早い方だと思う
・優しいけど何かを背負ってまで優しくする方ではないね
由比「……最後だけ訂正したいなあ」
宇月「それなあ。っていうかそっか、桃根ちゃんの過去知っとるのはボクとユイくんだけやっけ」
由比「あーでも、『生きろ!』って鼓舞するんじゃなくて一緒に飛ぼうとしてくれるとこは、優しくないかもなあ。あ、優しいよ? 優しいんだけどね!」
コマリ「なるほど。こいとちゃんと私はギラギラしてるのか……」
〈④ 夜芽宇月〉
【必要ならば失礼なことも平気で言い放つ姿勢に賛否両論】
記者「シュモクザメみたいですね。自分の領域を犯す相手には獰猛でパラフルな攻撃性があります」
・実はだらしないし日向が似合わない人
・彼が寝てないとか風邪ひいたとか言っても大したことない
・カワイイ子の顔しか覚えていない
・会うたびに「顔変わった?」「太った?」って言ってきます
こいと「そうかきみはそんな奴だったんだな」
宇月「エーミールやめてぇ! 少年の日の思い出ちゃうねん」
むう「もうあんたフラグ回収王でいいよ」
コマリ「逆に当たりすぎてちょっと怖いよ! でも、宇月さん第一印象怖いけど喋るとけっこう会話は弾むよね」
美祢「人は選ぶけどな。俺らがOKなだけで、何も知らない奴からすれば嫌な人だと思うぜ」
宇月「よしわかった! これから気を付けますごめんなさい!」
〈⑤ 由比若菜〉
【人への警戒センサーが利きすぎて「鳩を超えた」と話題に】
記者「たとえるならコアラ。エネルギーもなく動きも鈍い」
・苦労しているけど、それだけ自分と戦っている
・盗聴器を仕掛けたけど、裏の顔もなく誠実な人だった
・年齢の割に世間知らずな感じがするんやけど…
・お金があったら贅沢じゃなくて平穏を買うタイプ
こいと「コアラ! なんてぴったりなたとえ!」
猿田彦「あー。わかる。こいつ、『気軽~に話してくださいね』オーラを無理して出そうとして、自分に圧かけてんだよ」
むう「憑きもんキャラの中で一番の苦労人で繊細さんだよなあ」
美祢「優しいけどその分闇もあるんだよな。でもマジで優しい。ただ何を言っても『そうですよね』しか言わないからちょっと心配になる」
由比「あははは……うん、世間知らずだな……」
〈⑥ 禍津日神〉
【高い雑談スキルを持つも人に壁を作る珍種を発見】
記者「この人もシュモクザメですね。夜芽さんよりさらに攻撃力が高いのが特徴です」
・ヤなやつヤなやつヤなやつ
・動物ふれあいコーナーで食えるかどうかの話するのやめて
・性格が丸くなるのに40年かかる
・彼が語る理屈には人の血が通っていない感じがする
・Gを素手でパンチ!
他キャラ一同「いやこの人、人間じゃないんです(震え)」
コマリ「血も涙もない性格がそのまんま診断されたんだね」
美祢「ヒールを全力でやってるようなキャラだからな」
宇月「おー、禍さん、あんたボク以上に嫌われとるやん。見て? 新聞に直接『ヤなやつ』って書かれとるよ」
禍津日神「ふん。人間の診断などどうでもいい。嘘を書いていないところは褒めましょう」
むう「いやー笑ったわぁ。『Gを素手でパンチ!』『アウトプット至上主義』『適職一位・資産家』て」
猿田彦「資産家はマジでやめろ?」
こいと「この人に資産家をやらせると悲惨なことになるよ……」
------------------------
むう「という訳でいかがだったでしょうか性格新聞。サイトで気軽にできるので、自分や創作のキャラの名前を入れて試してみるのもいいかもしれませんね! ちなみにむうは」
【他人を大事にして自分を大事にしない本末転倒ぶりに驚嘆】
むう「でした! 繊細の由比とは一番話が合うそうです!それでは、テスト勉強頑張ります。次回の更新日は、8月31日! まるまる一カ月(以上)かかりますが、把握お願いします。ではでは!」
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.47 )
- 日時: 2023/07/18 19:11
- 名前: りゅ (ID: KNtP0BV.)
文章力が素晴らしいと思いました!
更新頑張って下さい(⋈◍>◡<◍)。✧♡
むうさん!
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.48 )
- 日時: 2024/01/26 23:50
- 名前: むう (ID: F7nC67Td)
>>47 りゅさん
うわ! りゅさん! こちらこそ。いつも作品読ませてもらっています。ありがとうございます(泣)。これからも頑張ります。
-------------------------
お久しぶりです。むうです。テスト勉強その他もろもろに追われていて
更新が止まってしまいました。残り試験科目があと一教科だけになり余裕が出来たので更新します!(相変わらずの不定期更新ですがお許しください! そして内容を作者がほぼ忘れています←おい)
余談。他サイトの小説コンテストの中間選考を突破しましたっ。
向こうもこっちもマイペースに頑張りますっ。よろ!(軽い)
それでは、約一カ月ぶりの本編。どうぞ。
都合により戦闘はまだはじまりません(始めろよ)
-------------------------
〈バンside〉
やっほー。皆さんこんにちは。霊能力者のバンこと番正鷹っす。いきなり登場して、読者さんも「え?」ってなっていると思うから、まずは簡単に俺の生い立ちについて説明していこうと思う。
あ、いちおうこれだけ言っておく。自分、マジ難しい話苦手なんで、言葉の使い方とか間違ってたらごめん。
まずは番正鷹が何者なのかって話。平べったく説明するならば、『ちょっとイカれた中学3年生』だ。こう言うと、一部の読者さんからは厨二病を疑われそうだなあ。
え、訂正しないのって? ……厨二なところも多少あるから否定は出来ねえな。
さらに単語を付け加えるのなら、うーん。
『ヤンキーぶっているイカレれた霊能力者兼中学3年生』かな。
俺の生まれた家—番家は霊能力者の家系の筆頭……。いわゆる御三家と呼ばれる立ち位置だ。
昔に比べると多少の数は減ったものの、『除霊』という職業はまだこの世に実在している。最近は変わった術式を持つ物も増えており、戦い方の多様化がところどころ見える。
実際3年前、カースト下位の家系に生まれたチビッ子術者がオリジナルの戦法を編み出し、これまで誰も到達できなかった【一カ月間の駆除数:1万】を達成した、というニュースが界隈の中で一時期話題になっていた。
これには、年々・【歴代最強の術師】を生み出してきた番家も唖然とし、そして。
『まあこっちにはマサ様がいるからな』
『霊能力者の中でも希少な〈憑依系〉。しかも、高位の霊—果てには神をも従える強力な霊力を持っておられる』
『ぽっと出がいくら威張ろうが、我々には関係のないことだ』
『ですよねマサ様!』
なぜか俺の存在を必要以上に称えた。
褒められることには慣れている。名家の長男であること、数少ない術式の使い手だということ。生まれ・能力・実績・人脈。全てが他の奴より勝っていた。
通り過ぎるものは皆自分に頭を下げたし、三つ下の妹と弟も、兄に対しては常に敬語を用いた。だから、一度として『おにいちゃん』と呼ばれたことはない。
幼少期は、特に違和感を感じなかった。称賛されるのが素直に嬉しかった。
ただ、今は違う。期待、羨望、憧れ。あんなに好きだったものが、全部鬱陶しく感じる。その理由は、彼らが自分に向けている感情の根幹に少なからず『番家の人間だから』という不毛な動機があるからだ。
もっと自由に生きたい。
誰とも比べられたくない。
決めつけられたくない。
ありのままに動きたい。
でも、言えない。
与えられたものの価値が大きすぎて、体から剥がせない。
そんな自分を救ってくれたのは、ある一人の神様だった。
決まりの多い家での生活が嫌で、俺は中学2年生の後半から下校時刻を過ぎても学校に残ることが増えた。
クラスメートにも先生にも、能力の事は秘密にしていた。とにかく、現実から逃げられる居場所が欲しかったんだ。
傍から見れば、声だけ無駄に大きいお喋りな奴に思われたかもしれないけど、こっちはその状態をずっと望んでいたわけで。
『バン! 今日帰ったら《スメブラ》しね? 俺今日塾休みなんだわ』
「だから、バンって言うなっつーの。音読みやめろよ」
アイツに出会う数時間前も、大声で叫びながら友達と帰ってたっけ。
-------------------------
〈回想 3か月前〉
「えー、いいじゃん。BANGって感じでかっこよくね? いや、音読みじゃなくても普通にかっこよくね? お前の名前」
「だよなあ。ハンネでも使えるし」
クラスメートは、少し離れた場所を歩く俺に言う。
「お前も珍しいだろ。あいる」
ハンネの話題を持ち掛けたのは、クラスで隣の席の斎藤だ。斎藤藍琉。俗に言う、キラキラネームをつけられた、チャラい性格の男子だった。
「オレはやだよ。なんか女子みたいでダッセー」
藍琉は名前にそぐわない、苛立った口調で返す。
「うちの親は、外国っぽい名前にしたら将来留学した時にいろいろと役に立つって言ってたけどさ。留学とかしたくねえし、普通に迷惑なんですけど」
「まあまあ、まあまあ」
右手を振り上げて憤慨する藍琉をたしなめたのは、前髪をセンター分けにした、黒縁メガネの少年。彼は榛原。学級委員長をしている、頼れる真面目くんだ。
席が近いことから、俺は二人とよくつるむようになった。血液型も性格もバラバラだが、なぜか波長が合う。不思議だ。
「そんなことでケンカすんなよ」
「「そんなことってなんだよ」」
俺と藍琉の声がハモった。
藍琉は不満げな表情になって、ムッと下唇を突き出す。
「いーよな榛原は。榛原和樹。ふつーの、ありきたりーな感じで」
ふつう。ありきたり。
………胸が、チクリと痛む。
「まあまあ、まあまあ」
「お前ずっと『まあまあ』しか言ってねえじゃんっ」
「はいはーい、いったん落ち着きましょうね斎藤くん」
「名前で呼べよ!」
「……えっ」
A型の榛原とB型の藍琉のテンポのいい漫才を後ろで聞きながら、俺はゆっくりと足を進めた。
歩道の白線だけを通る遊び。変だな、いつもはテンションが上がるのに、今日はマジでつまんねえ。
まあ、中3で『白いとこだけ通る遊びー!』と喜々として喋っていた俺にも問題はある、少しは成長したってこ――。
《おい》
ふいに、声がした。声変わり前の子供のような、高くも低くもない絶妙な音域。
バッと後ろを振り返る。がしかし、そこには何もない。道路の傍らに、木造の二階建てアパートがひっそりと建っているだけだ。
「あっれ……?」
おかしいな。変な声がした気がするんだけど。
立ち止まって首を傾げた俺を、榛原が不思議そうに見つめる。
「どしたー?」
「いやなんか、声がした気がするんだけど……」
戸惑いながら答えると、榛原は途端に「げえ」と顔をしかめた。
「おっまえ、マジでそういうのいいから。いい加減やめろよ廚三病」
「誰がうまいこと言えと。じゃなくて、本当に声がするんだって」
《おい、そこ》
また来た。脳に直接響く、謎の音声がまた。
「いや、マジで聞こえるって!」
「いい。いい! マジでこわいからやめて。殴るよ?」
「いやいやいや、ホントだってホントだって俺嘘言ってねえって」
「お前がベラベラ喋る時ってのは嘘ついてる時なんだよぉ!」
斎藤は俺の肩を両手で強くつかむ。はあはあと息を切らし、必死の形相で、こちらを睨んでくる。
「マジでやめろ」
《おーい。おーい、聞こえてんだろ人間。おーい》
彼の心からの訴えにかぶせて、甲高い声が再び鼓膜を震わせた。
(次回に続く!)
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.49 )
- 日時: 2023/08/27 21:40
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
テスト終わったあああ!
9月はオール休みなので、たくさん更新できると思います。
9月中に過去編を終わらせたいなあ。お前ら鈍ってないかあ?
~コマリチームの今~
コマリ「課題が終わらないよお! 助けてトキ兄……! 税の作文って何書けばいいのおおおお」
美祢「コツコツやれってあれほど……」
こいと「コマリさん、ぐずぐず言ってないで手を動かしてください。明日登校日でしょ!」
(コマリは夏休みの課題の処理に追われているようです)
~宇月の今~
宇月「もー!何べん言ったらわかんのや! 手の動きがちゃう!もっと腰を落とす! そんなんで兄ちゃんなんか越えられんで!」
??「ううううう……もう配信始まってるかなあ」
宇月「見たいならもっと頑張り! 術式が強いのは確かなんやから。そら、 もう一本!」
(宇月は誰かと手合わせをしているようです)
ちなみに憑きもん!キャラの今のところの組み合わせは
●コマリ組(コマリ×美祢×こいと)
●秘密共有組(宇月×こいと)
●いとこ組(美祢×宇月)
●神友組(こいと×由比)
●霊能力者組(正鷹×宇月)
●子供組(コマリ・こいと・由比)
●(若干)大人組(美祢・宇月・正鷹)
です。
--------------------------
――俺・バンは、おかっぱ頭の少年をチラリと横目で見ながら、猿田彦との出会いを思い出していた。
急だったし焦ったよなあ。声がするもんで友人に言ったら、みんな「何も聞こえない、知らない」って首を振るんだもん。
で、こりゃ一体どういうことだ、と顔を上にあげたら、道路脇のアパートの屋根の上にアイツがいたわけよ。
職業柄、摩訶不思議な出来事や心霊現象には慣れていたから、神だと名乗られた時もさほど驚きはしなかった。これまでにも付喪神や土地の神とは関りがあったし、彼らの力を借りて悪霊を祓っていたからだ。
藍琉や榛原と一緒だったのがまずかったな。
あいつらは霊感もねえから、こっちが何を言っても信じないし、嘘つき扱いするし。
(もっと早く、状況を理解していたら、余計な誤解を生まずに済んだのに。危うく俺の秘密がばれてしまうとこだったわ)
そんな俺でも、彼が「お前の体を乗っ取りたい」と口にした時は内心かなり驚いた。というのも、位の高い妖怪や神様はプライドが高く、滅多に自分から頭を下げないからだ。
今まで共闘してきた幽霊や妖怪に関しても同じだ。水の神、火の神、座敷童、ぬらりひょん……。彼らは、俺が何度も頭を下げ、必死に頼み込んでようやく契約を得た相手だった。
いやーあれは笑ったよなあ。古事記にも名を遺す偉大な神が、わざわざ人間の前で腰を折ったんだぜ? イザナギやイザナミと並ぶような神様だぜ?
でも、彼のその態度を目で見て、俺は思ったんだ。
こいつが、俺の望んだ人物なのかもしれないって。隣に立ってほしかった人なのかもしれないって。
自分が神でも、俺が超強い能力者でも。どんな相手に対しても敬意をもって接してくれる、優しいやつなんだって。
『いいよ。いつでも乗っ取れよ。一蓮托生ってやつだうわー、すっげえテンション上がるなジャ〇プの漫画みたいじゃね? 知ってる?』
家では流石に怒られるなと思って言えなかったけど……。
自分の体に他の人の魂が入るって、めっちゃワクワクすんな。
『知らないなら教えてやるよ!俺も家が厳しくてあまり堂々とは見れないんだけどこっそりスマホのアカウント作ってウェブ漫画とか読んでてさ、〈魂★神〉っていう漫画の主人公が憑依系の能力者で無意識に自分と重ね」
『あーあーあーあー、落ち着け。とりあえず落ち着いてくれ』
『ンで俺の推しキャラは兵馬ってんだけど、そいつの相棒が加治木って名前で、羽織着てて、めっちゃお前に似てるなって、マジで盛り上がってきたな俺お前めちゃくちゃ気に入ったわ』
『わかった。わかったから一旦、深呼吸してくれ』
猿田彦は羽織の裾で顔を覆い、苦笑していたな。懐かしいぜ。
出会った日、俺たちは約束を二つほど交わした。
一つ。お互い隠し事はナシ。同じ肉体を共有する者同士交流を深めるため、どんなにつまらないことでも意識的にシェアすること。楽しかったこと、うれしかったこと、悲しかったこと、辛かったこと。全て包み隠さず話すこと。
二つ。片方が困っていたら援けあうこと。それぞれがお互いにとっての右腕となるよう日々努力を重ねること。
体を乗っ取られている間、人間の意識は朦朧とする。それは俺も同様だ。暗い暗い闇の中に放り投げられたような感覚。両目はしっかり開いているのに視界は絶えず暗く、両手は空いているのに何もつかめない。ふわふわとした精神状態でありながらも、ちゃんと脳は働く。
そんな中聞こえた相棒の言葉。
――〈協力してほしい。討伐したい奴がいる。おまえの力を貸してほしい〉
いつも冷静な彼に似つかわしくない、上ずった声。
何が起こっているのかを一瞬で理解することはできない。
しかし何を自分に求めているのかはすぐに把握できた。
『あー、なんか知らんけどヤバそうね。……仕方ねえなあ。ホントに全部使っていいのね? 出力100でもいいのね?』
あの日の約束の2番、〈片方が困っていたら援けあうこと〉。
なぜかは知らんが猿田彦は今ヤバい状況で、かなり追い込まれている。だから俺を頼っている。
説明はそれだけで十分だぜ、猿。あ、猿って呼ぶと怒るんだっけ?
あいにく、俺は育ってきた環境の影響で、細かいことが苦手だ。
俺は俺らしく大雑把に、好きなようにお前の意思をくみ取る。
オッケー、要約すると「とりま援けて」だな。了解っと。
さあさ皆様ご覧あれ。ここに君臨するは番家長男・番正鷹。
別名:鳥神様。神を取り憑かせ、彼らの持つ異能を自由自在にコントロールする、〈狂瀾怒濤〉の戦法がウリであります。
以後、お見知りおきを。ではここらで舞台暗転といたしましょう。
--------------------------
「鳥神様だと?」
禍の神は猫のように鋭い瞳をさらに細めて言った。
「貴様、何者だ。只者ではないな」
「そんな怖い顔すんなって。かわいい顔が台無しだぜ」
俺は右手を広げ、胸を広げる。
「俺のモットーは大胆に・簡単に。だから説明も手短に済ませるぜ。ようく聞けよ」
大きく息を吸い、肺に空気を送り込む。血液を循環させ、体の各部位の機能精度を高め、次の動作に入るためのエネルギーをためる。
「お前を倒すやべー奴だ、よ!」
右足を一歩後ろに引き、左足を前に出す。腰を落とし、右手を銃の形に組む。左手を右手首にそっと添え、狙いを定め。
「番流憑依術第一式:魔矢引」
瞬間、どこからともなく無数の矢印が発生した。大きさは様々。針のように細いものもあれば、こん棒のように太いものもある。
矢印は俺を囲む形で空中に浮かび、矢先を禍津日神に向けた。
「………霊能力者か。忌々しい!」
禍津日神が両手を前に出し、防御態勢をとる。
がしかし、その口から術名が唱えられることはなかった。
「BANG」
鳥神の声に合わせて、数百本の巨大な矢は弧を描いて飛んでいく。その速度はまちまちで、時に遅くなったり、かと思えば空を切ったり。
そしてついに。
「………かはッ……ヴッ」
切っ先が鋭利な一本の矢印が、背後から禍の神の胸を突いたのだった。
(※次回に続く!)
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.50 )
- 日時: 2023/08/30 09:42
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
レス数が50になりました!こんなに続くとは思ってなかった。
たくさんの応援ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
--------------------------
〈禍津日神side〉
「……かはッ!」
我は腹に手を当てて、その場にうずくまった。
羽織の下に着ているシャツの胸元が、じんわりと赤く染まる。体内の血液が一気に外へと流れていく。
なんなんだ、この術式は。長年人間界にいたが、このような戦術は見たことも聞いたこともない。この我ですら、攻撃を防げなかった!
「……おのれ……よくもっ……」
まずはこの矢をどうにかしなくては。
我の体から発生する黒い靄は穢れと言い、体を修復する作用がある。一旦まずはこれで……。
がしかし、与えられたダメージが大きいせいか、四肢に力が入らない。頭がくらくらする。呼吸が浅い。
「はあ……はぁ……人間風情が、………神に向かって………くそっ! くそくそくそくそっっ! 許さない、許さないからな……」
普通は、こうはならない。
どんな相手と対峙しようが、相手は自分を越えられない。威勢よく果敢に飛び込んでくるのだが、たいがいはこちらの反撃で重傷を負う。
それなのに、それなのに! この人間! この童!
勝手に我々の話し合いに首を突っ込み、会話を中断しただけではなく、この我を小物のように扱いおって。
早く立たなくては。早く贄を取り込んで、以前の力を取り戻すのだ。
幸い今日は二人の餓鬼が死んだ。我が来るのを待っていたかのように。早く、早く立て。早く立て!
胸を貫いている、長い矢の根元を右手でつかみ、力を籠める。
両目をつむり、肩に力を入れ、我はそれを一気に引っこ抜いた。
瞬間、鋭い痛みが走る。じんじんなんてもんじゃない。例えるなら、全身を鞭で叩かれたような鈍い痛みだった。
「…………っっっ!」
「あっれー、もう降参? 神のくせにケッコー弱いんだね」
地面に膝をついた我を、橙色の髪をした細身の少年が上から見下ろす。口元には、嘲るような笑みが浮かんでいた。
「雑魚乙でーす」
これが舐めプというやつなのだな。電子機器ごときで表情を変えるなどつまらぬ、と思っていたがなるほど。
実際に体験してみてわかったぞ。舐められて腹を立てない者などいないのだな。確かにこれは頭にくる!
我はその質問には答えず、首だけを後ろに回す。猿田彦と大国主が今何をしているのかを探るために。
番正鷹が戦いに割り込んできた以上、彼だけに注意を向けてはいけない。戦況が一変した、これからはすべてに警戒しなくては。
「よくやったバン! こっちは大丈夫だ! 今んとこは! 気にせずどんどんやってくれ!」
猿田彦は数メートル離れた中庭の端で、片膝をついている。ずいぶん時間が経っているが体調は良くなっておらず、むしろさらに悪化している。胸ではなく肩で呼吸しているのがその証拠だ。
「大国主ー、そっちはどうだ……! ガキは守れてるかー!」
「結界――。これで暫く――」
視界の隅で何かが白く光った。
大国主のいる場所はここから遠く、何をしゃべったのかまでは聞き取れなかったが、文脈から察するに、贄を保護するための結界を貼ったのだろう。
「よくやった! そのまま粘ってくれ! バン、無茶だけはすんなよ」
「言われなくてもやるよ~猿……じゃなかった、オッケー猿田彦ー」
大国主の結界は他の神が作るものより強度が強く、ちょっとやそっとの力じゃ破れない。
だが、こっちは悪をつかさどる神。我の神通力に比べれば、バリアなど飾りにすぎない。力を使えばあんなもの木っ端微塵……。
我は胸に右手の掌を押し付ける。傷口を通して、ねっとりとした赤い血が肌に付着した。
「おーい。めっちゃ汚れてるけど大丈夫ー?」
軽薄な口調でさらに煽る正鷹。我はフッと鼻で笑う。
「禍の神を前に『汚れるな』と?」
なんとも笑える話だ。
「え、なに? マガっちは心も体も真っ黒クロスケじゃないと落ち着かないタイプなの?」
「貴様、言葉に品がなさすぎやしないか」
弱いだの雑魚だの乙だの。本当に、どこまでも楽観的な男だな。
「縛られるの大嫌いなんだよね。それに事実じゃん。禍の神なのに攻撃くらってるし。ガードしたならそりゃあ、俺も別の言葉使うよ?」
……相変わらず、口だけはよく回るな。
「正鷹と言ったな。先ほどの攻撃、お見事だった。避けるべきタイミングを見失ったぞ」
「まあな。これくらいやんないと御三家で生き残れないし」
「御三家?」
「俺んち霊能力者のやつら全員管轄してる、すげー家なんよ」
ほお。御三家ね。
数百年前我を岩の中に封印した陰陽師もかなりの腕前だった。もしかしてこの人間、あの術師の子孫だったりするのだろうか?
まあ、それは今考えるべきことではない。
「さあ鳥神よ。今度はこちらの番だ。神を怒らせたらどうなるか、次からちゃんと学べ!」
禍津日神の術の威力は、負のエネルギーに比例する。恨み、怒り、悲しみ、叫び……あるいは人の死、人の血、人の魂。エネルギーを集めれば集めるほど、我は強い力を編み出すことができる。
「禍火・円玉」
シュルンッッ!
朱色に染まった右手の指をパチンと鳴らすと、黒々とした半径三十センチもあろう巨大なボールが現れた。
これを大国主のいる方角へと投げる。球は地面を削り、暴風を巻き起こしながら彼女の前を通過するだろう。竜巻のようなものだ。そのようなものの前で真っすぐ立っていることは難しい。
「なッ。こいつ、自分の血液を代償に詠唱しやがった!」
猿田彦が目を見開く。
我はゆっくりと右手を振り下ろす。
これだこれ。人の笑顔が完全に消え去るこの瞬間が、狂おしいほど好きだ。さあ、反撃の幕開けだ! この空間は再び我のものとなるのだ!
「ふははははははは! ふははははははは! おい見たか童! 我を倒すなど百年早い!」
・・・・・・・・・・・・・・・
「へー。アンタ俺より痛いやつだね。あ、今は物理的に?」
「―――――――は? ………なッ!」
振り下ろしたつもりだった右腕が、いつの間にか正鷹の右手にがっちり掴まれていることに困惑する。
なぜだ? 確かに手を振り下ろしたはずななのに。
正鷹とは数十メートルほど距離を取っていた。こいつ、どうやってここまで距離を詰めた? 足音すらしなかったが。
「離……離……ッ」
「はーいロミジュリ、ロミジュリ」
何故だ、細い腕なのにびくともしない!
我の背中に左手を回し、正鷹はそのままぐいっと力を籠める。
必然的に胸に飛び込む流れになってしまった。顔を離そうとするけれど、頭の上から更に手の甲を押し付けられ、抜け出すことができない。
離れようとしても、体がうまく動かないのだ。
まるで、磁石のように。
「何故……何故ッ」
「アイツ、変な能力使うんだよね。矢印出したり、未来予知したり、相手を引き寄せたり、離したり。正直俺にはなにがすごいのかわかんない。めっちゃ地味だよ、道開きっつーのはさ」
道開きだと……? そういえばコイツ、猿田彦の器だったな。
乗っ取り先が霊能力者。そしてその霊能力者が用いる術は……。
嫌な予感がする。こいつの能力はもしや。
「あー、説明してなかったな。俺の戦闘スタイルは〈憑依系〉。自分の体を霊に乗っ取らせ、代わりに一定の条件で術を使わせてもらう。ただし、こちとら、他の憑依系とはちょいとわけが違う」
正鷹はふふんと胸をそらし、高々と宣言した。
「俺は乗っ取った霊が持つ能力を自分好みにカスタマイズできる、超希少な〈憑依特化型〉だ! チートって言われるの嫌だから弱点も話すぜ。一時間しか持たねえ」
--------------------------
「こっからはチキンレースだ。どっちがいち早く自分の霊力を使い切るか。勝負と行こうぜ」
(※次回に続く!)
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.51 )
- 日時: 2023/12/05 19:38
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)
閲覧数1400突破ありがとうございます!
今回はその記念に、キャラクターの誕生日や血液型などをギュッとまとめたものを掲載します。
キャラクターLogよりも詳しいものになっています。あなたと近い誕生日のキャラはいるかな?
イメソンも書いたので、よかったら聞いてみてくださいね。
--------------------------
〈月森コマリ〉
性別:女 年齢:14 身長:155㎝ 血液型:O型
誕生日:5月8日
好きな食べ物:卵料理 苦手な食べ物:からいもの
好きな科目:なし 苦手な科目:全部
座右の銘:明るく楽しく元気よく
趣味:少年漫画誌を読むこと
特技:授業中に紙飛行機をつくれます!
自分を五文字以内で紹介してください!:悪運体質
最近あったトラブル:トキ兄の伊達メガネを割ってしまいました。(美祢『コマリいいい!』)
♪イメージソング:【人生は最高の暇つぶし/ハニーワークス】
〈時常美祢〉
性別:男 年齢:16 身長:164㎝ 血液型:B型(本人曰くA型よりのB型らしい)
誕生日:7月14日
好きな食べ物:グラタン 苦手な食べ物:スウィーツ(特に生クリーム)
好きな科目:理系全般 苦手な科目:音楽
座右の銘:冷静沈着
趣味:ゲーム(特にフォー〇ナイト)
特技:ファッションコーディネート(最近はコマリをモデルに研究中)
自分を五文字以内で紹介してください!:元厨二病
最近あったトラブル:コマリの漫画を読んだらは想像以上にはまってしまい、自分でもびっくり
♪イメージソング:【エリート/Chinozo】
〈桃根こいと〉
性別:女 年齢:13(享年)身長:148㎝ 血液型:A型
誕生日:5月10日(こいとの日で覚えてね!)
好きな食べ物:チーズ!パフェ!ババロア!ケーキ! 苦手な食べ物:ピーマン
好きな科目:音楽と体育 苦手な科目:数学
座右の銘:振り向くな、後ろには夢がない(byシェイクスピア)
趣味:Youtubeでボカロを聞くこと
特技:演技、声真似、カラオケ
自分を五文字以内で紹介してください!:ミーハー
最近あったトラブル:特にはないかなっ
♪イメージソング:【好きだから。/ユイカ】
〈由比若菜〉
性別:男 年齢:13(享年) 身長:150㎝ 血液型:O型
誕生日:10月22日
好きな食べ物:卵サンド 苦手な食べ物:トマト
好きな科目:なし 苦手な科目:全部
座右の銘:平穏無事
趣味:これといったものは何も。しいて言うなら空を眺めること
特技:うーん、なんだろう。考え中。
自分を五文字以内で紹介してください!:えーっと、えーっと、え、もうタイム切れ?
最近あったトラブル:猿ちゃんが僕の体を乗っ取りすぎて体力が落ちてきた
イメージソング:【死にたいわけじゃなくて/MIMI】【孤独な夜をあといくつ/傘村トータ】
〈夜芽宇月〉
性別:男 年齢:18 身長:175㎝ 血液型:AB型
誕生日:2月29日
好きな食べ物:ジャンクフード 苦手な食べ物:抹茶
好きな科目:英語 苦手な科目:国語
座右の銘:なんとかなるんちゃう?知らんけど。
趣味:人間観察(あんまり人に気い許してへんからなあ。でも最近はだいぶ改善されてきたで)
特技:バク転できるで(この前思いっきり頭うったから、もう二度とせんけどな)
自分を五文字以内で紹介してください!:京都弁
最近あったトラブル:美祢に「アンタほんまはボクのこと好きなんちゃう?』と言ったらlineをブロックされた
♪イメージソング:【素直じゃなくてごめんなさい/青谷】
〈禍津日神〉
性別:男 年齢:??? 身長:今の体は140㎝くらい 血液型:なし(AB型っぽい)
誕生日:???
趣味:人間観察
特技:バトル(物理)
自分を五文字以内で紹介してください!:拒否する。
最近あったトラブル:………過去編はいつ終わるのだろうか(シャラップ)
♪イメージソング:【フィクサー/ぬゆり】
【デーモンロード/Kanaria】【アウターサイエンス/じん】
〈番正鷹〉
性別:男 年齢:14 身長:162㎝ 血液型:AB型
誕生日:3月31日
好きな食べ物:寿司! 苦手な食べ物:家で定期的に出されるお高い定食料理。
好きな科目:体育(評定5) 苦手な科目:英語(評定1)
座右の銘:簡単に、かつ大胆に! BANG!
趣味:料理。親父と母さんが忙しいからな。キッチンは俺のテリトリーだ!
特技:悪霊退治(これ特技っていっていいのかな? ま、いっか)
自分を五文字以内で紹介してください!:多分最強
最近あったトラブル:いつになったら俺、『つがいくん』って呼ばれんだろ
♪イメージソング:【Blooming the Tank-top/ヤバイTシャツ屋さん】
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.52 )
- 日時: 2023/09/05 18:58
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
創作キャラクターは全員友達みたいなものです。
私の大切な友達。全員大好き。
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三歳下の弟と妹は、いつも俺のことを「お兄ちゃん」と呼ばなかった。
幼児期の初めに覚えた言葉が「おかあさま」と「おとうさま」。周りの人間が常時、両親を様づけで呼んでいたので、無意識に頭に入ったのだろう。小さいときに植え付けられた世界観というものは、時が経ち体と心が大きくなっても中々変わってはくれない。
ある朝のことだった。俺が朝食を作ろうと台所へ向かうと、もうテーブルの上には食事が置かれていた。
高級な陶磁器の皿に盛られた、卵の黄色が鮮やかな目玉焼きと焼き鮭。その隣には茶碗と汁椀。
ただし、出来栄えは散々だ。メインディッシュは二つとも焦げて黒い塊になっているし、お豆腐の味噌汁はなぜか紫色をしている。
「なんだこれ」
何事だと目を見張る俺の声を聴き、流し台で食器を洗っていた弟が振り向いた。喜色満面の笑み。
「兄様! おはようございます!」
と、近くに駆け寄ってくる。
「おう、おはよう飛燕。これはいったいどういうことなんだ」
「? 食事のことですか? 今日は仕事がたくさん入っていると父上に聞いたので、兄様の代わりにオレが朝食を作ろうかと」
弟はえっへんと胸を張った。彼の背丈は去年から一気に伸びて、現在小学6年生にして既に兄と同じ目線だ。
「お前が?」
「はい。小学六年生でも、目玉焼きくらいひっくり返せますよ」
いやいや、結果が伴ってないから。目玉焼きが炭焼きみたいになってるから。
「誰か手伝ったか?」
「飛鳥がちょこっとだけやってくれましたよ」
「ああ、飛鳥が一緒だったのか。にしては完成が偉い雑だな。あいつキッチリしてるのに」
「宿題を片付けたいとか言って、ボウルだけ用意してくれました」
妹の役割それだけかよ!
すごいな、よくやったな、と褒めてほしいのだろうか。弟は目をキラキラ輝かせ、俺の返事を待っている。気遣いは嬉しいんだけど、アレを食べるのはちょっと勇気がいるぞ。
ため息をついた俺に、弟はキョトンと首を傾げた。
「どうされました? 体調がすぐれないのでしたら薬を持ってきます」
「……違う。違うんだよ、そういうことじゃなくて」
「なんですか?」
俺はもう一度深く息を吐くと、両手を広げ、彼の小さい体をそっと抱きしめた。
背丈はあんまり変わんないけど、まだ筋力はないな。手も足も細くて、輪郭も丸い。外見だけなら、ごくごく普通の小学生の男の子だ。明るくて活発で、人当たりがよさそうな。
「………ごめん」
お前は、何も知らなくていいのに。周りの真似なんか必要ないのに。敬語の使い方とか、正しいお辞儀の仕方とか、目上の人に対する所作とか。見ない振りしとけよ、そういうのは俺が全部やるから。
「なんで謝るんですか? 兄様、顔を上げてください。貴方は頭を下げなくていいんですよ。下げるのはオレらの役目なんで」
「……そっんなこ……」
唇を閉ざす。
「どうしました?」
そんなに他人行儀に振舞わなくてもいいんだぞ。
お前はお前らしく喋れよ。「やべー」とか「すげー」とか、年相応の荒い言葉使えよ。
なんか、兄弟なのに距離が遠くて嫌だよ。
なんて、答えられるわけがない。
俺が疑問に感じていることは、こいつにとっては当たり前のことで、彼は何の不満も抱いていない。そうするように教えられてきたから。そうすることが優しさだと信じているから。
これは違う、これはおかしい。口にしてしまえばそれは、弟の価値観を壊すことになるのだ。
「お前はこの家のこと好きか?」
「? え、ええはい。大好きです!」
「そっか」
……お前、この家が好きなのか。すげえな。
なんで俺は好きになれないのかなあ。なんで現状に満足できないんだろう。
仕方ない。この気持ちは胸の中にしまっておこう。
どうあがいても俺は『兄様』で『最強』なんだから。普通の生活なんて、できないのだ。
これは過去の自分への戒めだ。勇気が出ず、弟と妹に「お兄ちゃんと呼んでもいいんだよ」と言えなかった自分への戒めだ。
「ううん。何でもない。ありがとな」
俺は無理やり笑顔を貼りつけて、弟の髪をわしゃわしゃ撫でた。
そのあと、「けど、おまえは相変わらず不器用だな。この番正鷹を食中毒にでもするつもりか。仕事に支障が出たらどうすんだよ」とわざと毒を吐いてみる。
「すすす、すみません。い、要らないですよねこんなもの。焦げたものを兄様に出すなんて、常識がなさすぎますよね。す、すぐに片しますね。も、申し訳ないです」
弟はペコペコ頭を下げ、食器を手に取った。
と、俺は彼の指に巻かれている絆創膏の存在に気づく。
右手の親指と人差し指、左手の中指。両手の甲にも貼られている。
そのまま視線をずらす。着ているエプロンの胸元は零した調味料や液体でドロドロになっていた。
(料理とか一回もしたことないのに、わざわざ俺のために――)
「おい飛燕、それこっちに持ってこい」
俺は弟の背中に向かって言った。
「食べないなんて一言も言ってないだろ。作ってくれてサンキュな。お兄ちゃん嬉しいぞ」
--------------------------
なんで昔のこと、思い出してんだ。
最初から分かりきっていたことだろう。何をいまさら。
震える身体を必死に動かす。
あっれ、俺の視界ってこんなに暗かったっけ。俺の手ってこんなに汚かったっけ。
なんで頭が痛いんだ? なんで意識がぼやけるんだ? なんで息が続かないんだ?
――ああそうか。これ、もしかして走馬灯か。
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.53 )
- 日時: 2023/09/07 23:24
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
飛鳥は弟の飛燕の双子の妹だった。
友達を連れて外へ遊びに行くのが好きな飛燕に対し、内気で消極的で口数少なく、よく家にいた。クラスでうまくやれているのか、友達はいるのかと聞いても何も話してはくれず、ただただ俺の隣にいることを望んだ。
飛燕と違っていたところは、彼女が俺と同じように、現状に満足していないことだった。
だから飛鳥は親父と母さん、そして召使の人たちがいない時間を見計らい、俺の部屋へよく来た。その時間だけ、彼女は自分の本音を兄に言える。兄に甘えられる。敬語を取り、自然の女の子でいられる。
でも、兄の呼び方はずっと『兄様』だったけどな。
「お兄様! 見て!」
飛鳥はその日も兄のもとを訪れた。
先週母親に貰った桃色のノースリーブのワンピースの裾を両手で持って、照れくさそうに笑う。
「おお、似合ってる似合ってる。誕生日プレゼントのワンピース。すげえな、お姫様みたいだ」
「へへへ、へへへ。ねえ、今からクルッて回ってもいい? 写真撮ってほしいの!」
「あー、ちょっと待ってな。よいっしょ」
机に向かって宿題をしていた俺は、教科書をぱたんと閉じ、椅子から腰を浮かした。戸口の前に立っている妹のほうへと、足を動かす。
「にーさまー、早くうー」
「今行くから焦んなよ」
飛鳥は可愛いものが大好きだった。淡い色のリボンやシュシュ、スカート、フリルを多用したドレスなどを好んで身に着けた。学校で体育がある日も、遠足の日も、山登りの日だって平気でスカートを履いていた。どうやらズボンが嫌いらしい。
仕事に出る前、俺はコイツに何度も「髪を結って!」とせがまれたし、妹も兄に髪をいじってもらえる朝を楽しみにしていた。
時々、『ねえ、三つ編みがロープみたい。下手』と文句を言われたが。
ただ、早朝は俺も登校準備だったり、武器の手入れをしたりで忙しい。たまにめんどくさくなって『飛燕にやってもらえよ』と言うこともある。そういう時、飛鳥はとてもいやそうに口を曲げる。 『あいつ、お兄様より不器用だからムリ』らしい。
俺は飛鳥のそばへ行くと、スマホのカメラアプリを開き、動画のボタンを押す。
写真でもいいんだけど、こいつはカメラ向けるとすぐ動き回るからな。そういうとこは、飛燕とそっくりだ。
「ねえ、可愛い? 可愛い? 撮ってる?」
と飛鳥はカーペットの上でくるくる回る。
「撮ってる撮ってる。はは、やべえ。お前回りすぎ、全然顔認証されねえんだけどw」
画面内の黄色の枠が現れたかと思ったら、すぐ消える。その間、2秒。こらえきれなくなって吹き出すと、飛鳥は踊るのをやめてプウッと頬を膨らませた。
「兄様の馬鹿。ちゃんと撮ってよお。私、卒アルの白いとこにその写真貼る予定なの!」
「猶更ヤバいだろうが」
アルバムの白いとこ……寄せ書きページだろうか。
書いてくれる友達はいないのだろうかと思ったけれど、言葉には出さない。それはたぶん、こいつが一番気にしていることだから。
「アルバムに貼るならもっとマシなポーズとれよ。お前、残像化してんだよ。今流行りの小顔ポーズとか、ピースとかでいいじゃん」
お前は上下に引き伸ばされた自分の顔を印刷するつもりか?
せっかく綺麗な顔してるんだから、もうちょっと考えろよ。小学校の卒業式だぞ? プリントアウトした後、みじめな気持ちになってもお兄ちゃん何も言わねえからな!?
「だって、だって、さっきピースの練習してたら、飛燕のやつが『かわいこぶってて気色悪ぃ…』って言ったんだもん! あいつが揶揄うんだもん!」
飛鳥はビャーッと喚く。
両足で地団駄を踏んだが、幸い下はカーペットだったので、他の部屋に音は響かなかった。あぶねえ。
「あいつ、兄様の前では優等生ぶるくせに、私を前にすると途端に悪ガキみたいになるの。兄様は知らないだろうけど、学校でもすっっっごく悪名高いんだから! この前なんか、学年一頭いい鈴木さんの髪を引っ張って……」
彼女のおかげで、飛燕が兄に隠そうとしていることは、いずれ全て暴かれるようになっている。何も知らない彼には申し訳ないが、これは今夜しっかり叱らねば。
まあ、だけど。
「飛鳥は本当の飛燕のこと、ちゃんと見てるんだな」
「むかつくけど、双子だから。それに、むかつくけど、あいつがあいつのままで居られないのは、妹として辛いから」
飛鳥はフンと鼻を鳴らし、横目でチラリとこちらを流し見る。
「ねえ。このこと、あいつには言わないでよね。あの馬鹿兄、絶対からかうもん」と腕を組んで見せる。
「ふっは。あははははは、あははははははは」
「笑わないでよ」
「いや、あっはっは。わかった、わかった。秘密はちゃんと守るってば」
お前が飛燕と違っていて良かった。飛鳥が素を見せてくれなかったら、多分俺は今よりもっと自分の境遇を憎んでいたからさ。それか、自分に己惚れて、大事なものを見落としていたかも。
飛鳥、お前が「私、この家のこと好きじゃないんだよね」と打ち明けてくれて、俺がどんなに助かったか。お前が飛燕のことを誰よりも心配してくれていて、どんなに嬉しかったか。
「ということで今日の秘密会議は解散だ。もうすぐ親父が帰ってくる。さあ、行った行った」
「はぁーい。明日はちゃんと動画撮ってよ! 今度は回らないから」
飛鳥は部屋のドアノブに手をかけ、拗ねたように言う。
「はいはい、見つかると怒られるぞ。俺もそろそろ巡回行く。夜は怪異が出やすいからな」
「わかった。……ねえ、じゃあ最後に、一つだけ質問してもいいかな」
「? まあ、いいけど」
なんだ、急に改まって。
俺は目を丸くする。
飛鳥は左手を扉の縁に添えたまま、先ほどとは違う冷淡な口調で尋ねた。
「いやだいやだって思ってるのに、どうして兄様は仕事をやめないの?」
それはシンプルで、かつ深い質問だった。彼女は俺にこう告げているのだ。そんなに嫌ならやめればいいじゃないか、って。
至極もっともな答えだ。心が悲鳴を上げているなら、無理して頑張る必要はない。
「愛想笑いをずっと続けるの、つらいんでしょ。お父さんとお母さんから過度に期待されるのも、本当はすっごく怖いんでしょ。飛燕の優しさだって痛みになるって、昨日私に言ったじゃん。私、兄様がなんでそこまで頑張るのか、全然わかんないの」
なんでそこまで頑張るのか、か。
そういやそんなこと、今まで考えたこともなかったな――――。
「うーん。難しいな……。俺もそこんとこ、よくわかってないんだ。なんで逃げねえんのかって、よく自分で思う。……ただ」
だけど、質問に対しての明確な答えは持っていないけど、一つだけ確かなことがあるんだ。
だからそれをお前の問いの答えに変えても、いいかな。
「―――この家のことは嫌いだけど、この世界のことは割と好きなんだよ、俺」
-------------------------
俺は、名前も年齢も知らない奴のために拳を振れるほど強くない。
最強なんて驕ってはいるが、実際は内心ビクビクしている。失敗が許されない世界で、弱さを見つけてもらえない世界で、持って生まれた才能だけが自分の救いであり足枷だった。
それでも自分が武器をとれたのは、その世界の中にわずかな光があったからだ。完全な真っ暗闇ではなかった。双子の弟と妹、学校の友人、そして身体を共有してくれた優しい神様がいたから、俺は俺らしく人生を歩むことができた。
って、なーにシケたこと、考えてんだよ……。
まだ、「ありがとう」を言うタイミングじゃ、ねえだろうが。
「………は、ははは。ごめん、さっき言ったこと取り消すわ。お前、強すぎんだろ」
右腕に受けた傷を左手で庇いながら、よろよろと起き上がる。腕が痛い。足が痛い。割れた頭から流れる血が、制服のシャツを濡らしていく。
敵の顔もまともに見られない状態の中、俺はなんとか唇から空気を吸う。
「おーい猿……あと、どんくらい持ちそう? もうほとんどの術も霊力も、使っちゃったけど……」
あーあ。番家最強の術式、行ったと思ったんだけどなあ。調子に乗ってバンバン使って、余裕ぶるんじゃなかったわ。
奴の姿が消えたと思ったら、直後真上からでっけえ黒い球が降って来たもんな。そのまま数メートルぶっ飛ばされて……あのあと消えたはずの神サマが現れて、俺の胸を一突き……。
どーんな戦い方だよ、クッソ。うっぜーな。
「バン――――――――――ッ! もういい、もういいんだ、! あとはオレがやるから、お前の代わりにオレがやるからっ……」
後方で、砂利の地面に座り込んでいた猿田彦が叫ぶ。その声は怒鳴りというより、悲鳴に近い。
宿主に力を吸わせすぎて、すっかり身体が透明化している。あの状態で戦っても、更に傷を負うだけだ。
「いや、いいよ。……勝手に、終わったって決めつけないで、もらえますかね……?」
「はあ!? だってお前、そんなっ、死ぬぞ!」
猿田彦のセリフにかぶせて、アイツの声が響く。
おかっぱの髪。血の気がない、青い白い肌。ワイシャツを身にまといサスペンダーつきの黒いズボンを履き、今は朱色になっている黒い羽織を重ね着した、小さな少年の声が。
「ふはははははは! そんなボロボロの状態で、我にとどめを刺せるわけがないだろう!」
「………っ」
「学習が足りないようだな番正鷹。我は確かに貴様に情報を提示したぞ。『禍津日神の術の威力は、負のエネルギーに比例する。恨み、怒り、悲しみ、叫び……あるいは人の死、人の血、人の魂。エネルギーを集めれば集めるほど、我は強い力を編み出すことができる』と」
―――勝利の天秤は、初めから我のほうに向いていたのだ。
(次回に続く!)
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.54 )
- 日時: 2023/09/11 17:13
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
★祝・憑きもん! 小説大会(コメディ・ライト版):銀賞受賞!★
拙作に投票してくださった皆さま、本当にありがとうございます。
本作品は、他作品(公募用)執筆の息抜きに書き始めたものです。
自分が書いて楽しいと思えるような作品、それでいて読者に楽しんでもらえるような作品を作りたい!という想いから、のんびりプロットを書き始めました。
前まで書いていた小説が『夢の世界』を舞台にしたゴリッゴリのファンタジーものだったので、
今度は『現実の中の夢(=現代ファンタジー)』を書いてみよう、と筆を取りました。
現代は「疲れやすい世界」。勉強・部活・恋愛・人間関係。一筋縄ではいきません。
だからこそ人生は面白い。年齢も性別も、悩みも人それぞれ違う。だからこそ目線が重なった時、人生が動くのかもしれません。
憑きもん!の登場キャラもまた、色んな意味で憑かれています。私もたまに落ち込みます。
それでも、この作品を通して皆様の疲れを癒せるよう、これからも精進して参ります。
ということでっ。キャラたちにマイクを渡していきましょうっ。
---------------------
コマリ「みんな、久しぶりー! 過去編に入ってから、出番激減。月森コマリだよ! たくさんの投票、本当にありがとう! 主役として、とっても嬉しいです」
美祢「俺とコマリとこいとの初期メンで暫く回してたけど、新キャラが加入して更に賑やかになったよな。彼らの活躍に感謝してる」
こいと「ふっふん! この恋愛マスターこいとちゃんにかかれば、どんな奴もメロメロですよ」
美祢「なんで俺の周りはこうも自信たっぷりなんだ」
宇月「おいコラ美祢。その鋭い視線をこっちに向けんなや。ボクが何したっていうねん」
美祢「今日は何もしてないな」
宇月「はあ? その減らず口ふさいだろか? そもそもお前は年上にもっと敬意を払うべきや」
美祢「そのセリフそっくりそのまま返してやる。先にそっちが敬意を払うべきだ!」
こいと「まーた始まっちゃいましたねえ、いとこケンカ」
コマリ「あの二人いつ仲良くするのかなあ」
由比「僕ら過去編組も、今大会の結果をとっても喜んでるんだ。ありがとうね皆」
猿田彦「急にシリアスになったが、ちゃんと続きを見てくれて嬉しかったよな。なあ大国主」
大国主「うむ。貴様も何か言ったらどうだ霊媒師!」
正鷹「え、言っていいの? 俺喋ったら止まらなくなるけど大丈夫?」
猿田彦「あー、大国主。バンをあまり刺激するな。こいつの話の長さはテンションに比例する」
禍津日神「ならばこの人間の代わりに我が感想を述べましょう」
正鷹「できんのマガッち」
禍津日神「どいつもこいつも、マガッちマガッち言いおって……(怒)」
むう「ということで締めの言葉、マガっちどうぞ!」
禍津日神「敵というポジションをこれほど憎んだのは初めてだ。嬉しい反面とてつもなく苛立っている。今すぐにでもこの鬱憤を晴らしたい」
コマリ「ということで、私たちの感想は以上になります! これからもよろしくお願いしますっ」
むう「あ、今日は本編も更新予定ですのでお楽しみにっ。なお、過去編は10月までに終わらせたいと思っています。把握お願いしますっ」
全員「それでは、また次回の更新でお会いしましょう。またねー」
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.55 )
- 日時: 2023/09/20 23:58
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
Q:激しい戦いをしているのに、なぜ学校の先生たちに見つからないのですか?
A:大国主が結界を貼っているからです
---------------------」
〈再び正鷹side〉
「――勝利の天秤?」
俺は頬についた汚れを手の甲で拭いながら、掠れる声で言った。
「そんなの知らねえ。皿がどっちに傾こうが、俺は諦めない」
こちらが劣勢だということは、もちろん理解している。自分の身体がボロボロなことも、とても自分が適うような相手ではないってことも、ちゃんと把握している。
最強だと言われた自分の能力が、実は全然大したことなかったってことも。自分が勝手に己惚れていただけだということも。
「諦めない、ねえ。昔、同じことを云ったやつがいた」
禍の神は淡々と告げた。
「守りたいものがあるとか、やらなきゃいけないことがあるとか――。彼らは我を前にしてペラペラと希望を語った。そして、脆く儚い夢と一緒に散っていった」
あるものは、愛する人と再び会いたいと願い、あるものは、自分の力で世界を作り変えたいと願った。武器を持たず、装備もないまま立ち向かったものもいたし、その者たちを庇い自らを犠牲にして戦線に出た人間もいた、と彼は続ける。
「つくづく思った。人間は何も学んじゃいないと。力の差は分かりきっているだろう。未来を予知することはできずとも、予測することはできる。なのになぜ挑もうとするのだ。なのになぜ立ち向かおうとするのだ。なにが貴様らを奮い立たせる?」
ポツン。何かが鼻の先に当たった。生ぬるい感触。雨だ。
上を見上げる。分厚い雨雲が空を覆っていた。確か夕方にかけて冷え込むって、昨日ニュースでやってたっけ。降水確率は70%だったっけな。
「――お前、雨は嫌いか?」
突然違う話をし始めた俺に、禍津日神は呆気にとられた顔になった。からかおうと、右手の人差し指を俺の鼻先に突きつけようとしたが、その手はブランと垂れ下がる。長時間の戦闘は、精神疲労につながる。傷口は塞げても、心の疲れは癒せない。
「チッ」と小さく舌打ちをし、彼は苛立ちを隠すかのように声を荒げた。
「嫌いだ! 雨は血が流れるからな! それがどうした!」
「そうか、俺と一緒だな。俺も昔は雨が嫌いだった!」
つられて俺の声も大きくなる。
どんなに天気が悪かろうが、家業は休めない。曇天時、悪霊退治に出かける前、いつも俺は召使いに、雨合羽を着せられた。風邪をひかれては困るという理由で。
プラスチックの独特のにおいが嫌で、俺は毎回彼らの手をはねのけた。だけど召使の人は、「これが仕事ですから」と、一向に手を止めようとはしなかったんだ。
でも飛燕と飛鳥が、俺の誕生日に紺色の傘を買ってくれてさ。
合羽は嫌だったけど、傘をさすのは全然苦じゃなくて。むしろ楽しくて、嬉しくて。それ以降は、水たまりを蹴飛ばして任務地へ赴けたのだ。
「今は割と好きだ! むしろ降ってくれって思うよ。雨の良さに気づけたのは、それを教えてくれた人がいたからだ!」
「――貴様は何が言いたいんだ」と禍津日神。
「何が自分を奮い立たせるかわかんねえなら教えてやるよ! 人の愛と優しさと強さだ! テメーが脆く儚いものだと決めつけたものすべてだ!」
――兄様、これ、飛鳥と小遣い貯めて買ったんだ。良かったら貰って。
――これで、ウキウキルンルンでお外歩けるね!
長方形の白い箱に、綺麗にしまわれたプレゼント。
生地に縫い付けられた【HAPPY Birthday】の刺繍糸の色は、俺が好きな赤色だった。
正義のヒーローの色。悪いやつをやっつけ、弱い人を助ける、カッコいいヒーローの色。
――わあ、すっげえ。すげえすげえすげえ! わあああ! ありがとう、飛燕、飛鳥! 俺、すっげえヒーローになって、すっげえやつになるっ。
……ああそうだよ。俺はずっと、赤いマントに憧れていたっけ。
随分回り道をした。随分と沼に足を取られた。
やっとだ。こういう形で実現するとは思わなかったが、それも人生っつーわけで。
「結局人生っていうのは、自分が生きる道なんだ。何を好きと感じるか、何を嫌いと感じるかは、その人次第だ。だから」
俺は、すぅーはぁーと息を吸う。肋骨が折れているせいだろうか。あまり多くは吸えないが、精神を落ち着かせるのは基本中の基本。
……多分この術を使えば、俺はもう……。
ううん、迷うな。信じろ。お前は最強の霊能力者、番正鷹だろ。
お前のモットーは何だ。お前が本当にやりたかったことはなんだ。
自分に嘘はつかない。俺は俺が守りたいものを、俺が信じたいものを愛する。
「だから道は、自分で切り開く! 後ろを歩く奴らが迷わないように、俺が先に拓いてやる!」
「ふん、バカバカしい! 禍火・竜玉!」
禍津日神の両手から、二つの黒い球が発生する。数分前に防いだ球に比べて、直径が長い。
ざっと1メートル以上ある。防げるか?
…………いや、できる。俺ならやれる!
この一撃にすべてをかける。何を失ってでも、あの二人の未来は絶対に渡さない。
「番家流憑依術:奥義!!」
両手を再び銃の形に組む。集中しろ、集中しろ、集中しろ。
万が一の為にと取っておいた最後の霊力を一点に集める。指先が徐々に熱くなっていく。凄まじい威力のエネルギーが、全身を駆け巡る。
この奥義は、術者の死期が早まった時にしか発動できない。奥義と名がつくものは大体そうだ。
そうだろ猿田彦。口に出さずとも伝わるぜ。
お前が乗っ取りを解除した本当の意味は、俺にすべてを預けた訳は。
ああそうだよ、道開きの神様の最大の能力は、未来予知だった。
神様が人の死に介入することはご法度だった。
つまり、そういうことだろ。
お前は本当に優しいな。俺が悲しむと思って、黙ってたんだから。
(気づいてほしくなかった)
頭の中に響く友人の声。彼は俺の背後にいる。
その表情を直接見ることはできないが、声色でなんとなく伝わるよ。さては泣いてるな。
〈よく言うぜ。猿は俺が気づくとこまで読んでるのに〉
(お前に教えてもらったんだぜ。ネ〇フリもジャ〇プもYoutubeも)
俺は両手を組みながら、フフッと笑った。
〈お前、何でもハマったよな!〉
(バンのトークが上手いのが悪い。あんなの好きになるしかないだろ)
〈うっわ逆ギレ? 言っとくけど俺は全部見させてもらえなかったからな。猿は贅沢もんだぜ〉
(お前はほんと変わんねえな。普通、こういうシチュエーションは、綺麗な言葉を交わすもんだろ)
〈俺は、つまらない言葉が一番きれいだと思ってるから。あ、やべえ。そろそろ術が発動するわ。最後に言いたいことなんかあったっけ。ちょい待って〉
(もっと緊張感出せよ、ったく……なんで……お前はいっつも)
〈おっけおっけ。まとめる。簡潔にまとめる。よし、決めた。めっちゃ簡単に言う。お前はその意図をくみ取ってくれると信じてる〉
(は?)
〈空で待ってる〉
「番家流憑依術・奥義! 滅式! BANG!!」
「吹き飛ばせ、禍火!」
―――小さな霊能力者の右手から放たれた霊力の塊と、禍の神の両手から放たれた負のエネルギーは、この日一つに混ざり合い、大きな音を立てて爆発した。
(次回へ続く!)
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.56 )
- 日時: 2023/09/18 22:54
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
長かった過去編はこれにて終了になります。
10月は、小説の更新を休載します
(学業がとっっっても忙しい時期なのです。また失踪するかもしれません。ごめんなさい!)
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〈由比side〉
「――というわけで、俺はお前を助けたんだ。バンを犠牲にして」
空中に浮きながら、袴姿の男の子は言った。
幽霊の僕・由比若菜は歩道を歩きつつ、「ふうん」と相槌を打つ。
幽霊の身体は疲れない。この体質をいかして、僕は町を散策しながら日々を過ごしている。
会いたい友達がいるんだ。
笑顔が可愛くて、明るくて、おしゃれな女の子。自分を最期まで信じ、愛してくれた大事な人。飽きっぽいくせに真面目で、正義感が強くて。寝癖をつけたまま登校してしまう、ちょっと抜けたところも魅力的で。
今だから言えるけど、彼女のことが好きだった。友達としてもだけど、恋愛的な意味でも大好きだった。勇気がなくて、アプローチできなかったけど。
だけど僕はその子に、たくさん迷惑をかけてしまった。だから謝りたい。謝ることで解決する問題ではないけれど、それでもちゃんと想いを伝えたい。
しかし僕は方向音痴で、土地勘がない。なので頼れる助っ人である道開きの神様・猿ちゃんにナビをしてもらい、人探しを進めている。
人が多いから、もしかしたら居るのではとデパートへ向かう道中、彼がふいに過去の話をし始め、今に至る。
「その、正鷹さんはどうなったの? 犠牲って……」
「アイツはあの後、爆発でまたぶっ飛ばされて……禍津日神の身体に吸収された。最初の贄として」
禍津日神の放った負のエネルギーの球と、正鷹の放ったエネルギー砲がぶつかり、大きな爆発が起こった。俺様と大国主命は発生した爆風に吹っ飛ばされる過程で、一縷の望みをかけてお前らの魂と融合したんだ。魂が実体化してくれることを願ってな。
正鷹は俺らが逃げられるよう、必死に時間を稼いでくれたけど――。
猿ちゃんはやり切れないというように、首を振る。
「………そのあとは分からねえ。少なくとも、この世にいないのは確かだ。正鷹は自分の命と引き換えに、お前たちを守ってくれたんだよ。そして、託してくれた」
「託す?」
「お前を守ることをな」
僕は去年の秋に、学校の屋上から身を投げ命を絶った。
成績至上主義のお母さんとの二人暮らしが嫌で。世界に適合しない自分が嫌で。何をやっても怒られて、否定されて、頼んでもないのに価値観を押し付けられた。おまけに習い事に行ったら、「勉強しろ」「ちゃんと学べ」「なんでお前はこうなんだ」と言われる始末。
自分に何の価値もないと思っていた。自分を助けてくれる人は、いないんだと思ってた。
でも、そんなことはなかったんだ。
みんな、僕の為に命を張ってくれた……。僕の幸せのために、自分の未来を預けてくれたんだ。
「――僕は人殺しだ。僕のせいで、いとちゃんも、正鷹さんも……全員……っ」
足を止め、僕はうつむく。両目から、生暖かい水滴が零れ落ちた。
ダメだ、もう後悔しないって決めたのに。後悔してばっかりだ。
パーカーの裾で、乱暴に顔をぬぐう。
「全員、僕が殺したようなものじゃんか……。僕が、もっと、もっと強かったら二人はっ」
「由比、おい由比」
猿ちゃんは、僕の両肩に手を置いた。
背丈はこっちのほうが高いので、背伸びする形になっちゃった。
「お前は悪くない。お前はあの時辛かったし、苦しかったんだろ。けど、一生懸命耐えてた。誰でもできることじゃない」
言葉ってすごい。彼のセリフは、冷え切っていた心をじんわりとほぐしていく。おかげで、せっかくぬぐった涙が再び目からあふれる。押し殺そうとしていたものが、嗚咽とともに外に流れていく。
ああ、体が透明で良かった。路上でわんわん泣いたら、絶対目立っちゃうもん。
「俺は由比が好きだ。優しいお前のことが大好きだ。お前と出会えてよかったって、心から思ってる!」
彼は僕の身体を、強く強く抱きしめる。体温のない半透明の、この身体を。
「猿ちゃん……」
「生きている時に助けられなくてごめん。沢山我慢させてごめん。こうなるってわかってたのに、何もできなくて、ごめん。俺だって、沢山後悔してる。だけどバンが言ったんだ。空で待ってるって。人々の強さを信じているって」
空で待ってる。
自分の命が尽きることを、正鷹さんはそう訳したのか。
人々の強さを信じている、か。
僕は視線を空に向ける。群青色の空に悠々と浮かぶ白い雲。
あの向こうに、正鷹さんはいる。今を生きる僕らのことを、遠い位置で見守ってくれている。
「お前が友達を探しているように、俺も友達を探している。もともと俺様はそいつに会うために旅をしてたんだ」、と猿ちゃんは言葉を続ける。「あの胸糞悪い出会いさえなければ」
「そいつと合流して、力をつけて、絶対にあの禍野郎を倒す。そんで大声で叫んでやる。『お前が思ってるよりずっと、人間は強いんだぜ』って。『まだ死んでねえ!』ってな!」
「……死んでるよ。幽霊だもん」と僕は言う。
「死んでるのに生きてるって、不思議だね」
――お前が思っているより、人間は強いんだぜ。
僕はいとちゃんと会うまでに、さらに強くならなくてはいけない。ちょっとしたことで泣くようでは、再会した時100%からかわれるからね。
それに、猿ちゃんと話して気づいた。いとちゃんは、まだこの世界に存在しているんだ。大国主さんの魂と融合したのなら、彼女も自分と同じ状態ってことだ。
いとちゃんはもう、この世にいないんじゃないか。僕が特殊なだけで、全員が幽霊になるわけじゃない。 ひょっとしたら、彼女とはもう二度と会えないんじゃないか。
何度そう思ったことか。なんどその思いを否定したことか。
僕は会えるんだ。まだ、可能性があるんだ。
「――ありがとう猿ちゃん。僕、頑張る。正鷹さんの代わりに、猿ちゃんを守れるようになってみせる」
「おう、期待してるぜ。んじゃ、行くか」
前を歩く友達の背中を、僕は必死に追う。右足を恐る恐る前に出して、拙い足取りで。
それでも確実に、一歩一歩進んでいく。
これは疲れた僕ときみの話。
何もかも失った。だから今度は、すべてを手に入れて見せるよ。
□◆□
「ヒエ~、そっちの水筒取ってくれん?」
八畳ほどの広い部屋の隅に設置された木製のベンチに、ボク・夜芽宇月は座っている。
ここは町のはずれにある、閉店したスポーツセンターの体育館だ。本来は館内立ち入り禁止だが、霊能力者には特別に使用許可が出されていた。
ジャージの裾で汗をぬぐう少年の横に座っているのは、水色の髪をした少年。左耳にはピアス、膝小僧には絆創膏。程よく日焼けした肌も相まって、THE・運動系男子といった出で立ちである。
コイツはボクの後輩。霊能力者が所属できる『ACE』という討伐チームに、最近加入した新任・ヒヨッコの霊能力者だ。
「自分で取ってよ、宇月センパイ」
後輩は分かりやすく片眉を下げ、貧乏ゆすりをする。苛立った時に彼が見せる癖だ。
「無理。筋肉痛がきつくて歩けへん。模擬戦100本は頭いかれてる。なんでお前平気なん。こんなんやってたら精神がやられてまう」
「すんません。今テスト期間でストレスたまってんの」
「なんや、本当に運動馬鹿か」
「センパイ、ほんと口悪いよね」
強くなりたいから、練習に付き合ってほしい。
そう頼まれ、ボクは仕事終わりに後輩とこの体育館で練習をしている。がしかし、コイツの謎の熱量に対応しきれず、教える側なのに毎回へとへとだ。
「………そいえばセンパイ。オレ、センパイに聞きたいことあるんすよ」
「は? なに? なぜ5歳差の年下に18歳がやられんのかって? 単純にお前が狂ってるからや」
「あー違いますね」
「センパイ、禍の神についてなにか心当たりありませんか?」
※過去編完結。→第4章へ続く。
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第4章準備中】 ( No.57 )
- 日時: 2023/09/20 17:52
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
【第2回★憑きもん!アフタートーク】
むう「お久しぶりです。絶賛スランプ中・テンションdown気味のむうです。休載期間中ですが、第3章完結を記念して、今日だけ浮上しておりますお願いします! 私が登場したということはそうっ」
キャラ一同「本編前の小話でーす」
むう「違いますアフタートークです。本編前の小話もあるけれども!」
こいと「むうさんって本編前いきなり語り出しますよね。癖なんですか?」
むう「やめてー。痛いとこをつかないでぇ」
美祢「わかった。小話で文字数稼いでんだろ。お前1話の平均文字数3000字だもんな」
むう「やめてえ執筆の裏事情を暴露しないでえ。うわーんコマリちゃん、二人がいじめるよお」
コマリ「ちょっとトキ兄! 意地悪言わないで」
美祢「オレは事実を伝えてるだけだ。悪く言われる筋合いはない」
むう「(コマリに耳打ち)」
コマリ「トキ兄。もしかして宇月さんの真似してる? いや、いいんだよ。私はいとこ組の仲を応援してるからさ」
美祢「おいむうっ。テメエふざけんな、だるいからかい方すんなっ」
むう「美祢も初期に比べてだいぶやんちゃになったよねえ。あ、もとから厨二だったか」
美祢「ブンッッ(キッククリーンヒット★)」
むう「ゴフウ!!」
---------------------
由比「て、てことでここからは、数メートルぶっ飛ばされたむうちゃんに代わって、僕こと由比若菜が司会進行をしていきまーす……。む、むうちゃん大丈夫かな」
宇月「大丈夫なんちゃう? 知らんけど。念のためすぐ起き上がれるように術かけとこか?」
由比「お、お願いします。で、では皆さん、第3章お疲れさまでした!」
猿田彦「めーっちゃ大変だったな。収録スケジュール長かったぜ。なあ大国主」
むう「……収録って……言うな猿……(地面に倒れこみながら)」
猿田彦「おいお前今猿っつったか!? おいっ」
大国主「わらわはあまり活躍シーンはなかったんだがな。結界を貼って攻撃受けて乗り移っただけだ。猿田彦に比べれば大したことはしていない」
こいと「クニたそがいなかったらとっくに私吸収されてたよ。そんな風に言わないで」
大国主「お、おう。ありがとうな、こいと」
美祢「俺と宇月の過去シーンもあったが、あれ必要だったか?」
宇月「美祢がボクと仲よくなりたいっちゅうことを書きたかったんやろ。もー、お前ほんま素直じゃないな。もっと自分の気持ち曝け出さんと」
美祢「お前にだけは言われたくないんだが」
由比「むうちゃんのメモによると、たまたまその時はいとこ組を書きたかったんだそうです」
宇月「気分かーい! ボクがめっちゃ嫌な奴になっとるんやけど―――。ほんま作者ボクのこといじりすぎやで! あとで覚えとけよ!」
由比「やばいやばいやばいやばい。宇月さん落ち着いてっ」
正鷹「おーいおいおい。過去編と言えば鳥神様だろ。俺にもマイクを渡してくれよ」
コマリ「バンさんっ! わああ、本物だああっ」
正鷹「え。なに。俺実在しないと思われてんの?」
むう「バンは文字通り、悪に立ち向かったヒーローだからね。現代組のあこがれなんだって」
正鷹「マジで? え、めっちゃ嬉しいんだけど! あとでサイン書くわ。多分このあと出番ないだろうし、やれることはやっとかなきゃな」
キャラ一同「やったあああああああ」
宇月「正鷹さんは霊能力者の間でも有名だからなあ。第4章以降はボクに任せてください! キャラをしっかり護衛しますんで」
正鷹「つっきー、頼む!」
由比「(つっきーって呼んでるんだ……。キャチーだなあ)」
宇月「あ、美祢は次章こそしっかりコマリちゃんのボディーガードしろよ。パソコン越しに観察って、ストーカーやからな。基本的なことは教えたるから、ちゃんと好きな子守り」
美祢「お、おう……って、好きな子ってなんだよ。お、俺は別にコマリなんか好きじゃないしっ」
宇月「ほーお?」
コマリ「こいとちゃんは好きな子いるんだよね」
こいと「? そんな話しましたっけ」
コマリ「第1章で言ってたじゃん。『経験ある私でもドキドキした』って。そういえば私、こいとちゃんの過去とか全然知らないなあ」
こいと「ま、まあ、そうですね。話してないですね」
コマリ「いつか教えてくれたらいいなって思ってる。けど、ゆっくりで大丈夫だからね」
こいと「あ、ありがとうございます」
猿田彦「バン、お前はいたのか? 好きな女性とか」
正鷹「家が恋愛禁止だったからなあ。ソシャゲで好きなキャラとかはいたけど、現実で浮いた話はなかったよ。ああ、欲を言うならモテたかった」
むう「十分モテてるから自身もちなよ」
こいと「そうそう。バンさんの恋愛運、めっちゃ高いんですよ! 自信持ってください」
正鷹「ありがと。って俺もうバンで固定なんだ……。ま、いいけどさ」
美祢「かくいうお前はいないの? 好きな子」
宇月「ボク? え、えぇーっと、うーん……(こいとのほうをチラリと見る)」
こいと「?」
宇月「(ものすごい勢いで目をそらす)お、おらんと思うけど……」
美祢「………???」
★現在の恋愛事情はこんな感じです★
・コマリ←?→美祢
・こいと←〈両想い〉→由比
・宇月→こいと→由比
第4章からはラブコメ要素も増やしていくのでよろしくお願いします!
由比「ということで第3章のアフタートークはここまでです。マガっちは現在どこにいるのかわからない状況のため、お話を聞けませんでした。今後お話にどうかかわってくるのか、楽しみですね」
コマリ「第4章には、バンさんの双子の兄妹である飛燕くんや飛鳥ちゃんも登場します! 大きくなった二人とどんな感じで会えるのか、ワクワクするね!」
美祢「お待ちかね。次回からは俺がようやくボディーガードに回るぞ。実は現在、宇月から秘密の特訓を受けてて。それが結構きついんだよな……」
宇月「怪異・妖怪まわりはボクが引き続きサポートしていくで。たまーにグサッとえぐるかもしれんけど、そこはご容赦くださいな」
由比「僕と猿ちゃんも、少し離れたところで行動するから、良かったら由比ルートも追ってほしいな。正鷹さんと大国主さんはここで退場ってことで」
大国主「そうだな。わらわは正鷹と一緒に、物語を応援する立場に回ろう」
正鷹「お前ら、飛鳥と飛燕をよろしくな」
むう「ではでは、今回もお読み頂きありがとうございました。次回の更新は10月。最新話でまたお会いしましょう。せーのっ」
キャラ一同「お憑かれ様でした――――ーっ!」