コメディ・ライト小説(新)

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.47 )
日時: 2023/07/18 19:11
名前: りゅ (ID: KNtP0BV.)

文章力が素晴らしいと思いました!
更新頑張って下さい(⋈◍>◡<◍)。✧♡
むうさん!

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.48 )
日時: 2024/01/26 23:50
名前: むう (ID: F7nC67Td)

 >>47 りゅさん
 うわ! りゅさん! こちらこそ。いつも作品読ませてもらっています。ありがとうございます(泣)。これからも頑張ります。

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 お久しぶりです。むうです。テスト勉強その他もろもろに追われていて
 更新が止まってしまいました。残り試験科目があと一教科だけになり余裕が出来たので更新します!(相変わらずの不定期更新ですがお許しください! そして内容を作者がほぼ忘れています←おい)

 余談。他サイトの小説コンテストの中間選考を突破しましたっ。
 向こうもこっちもマイペースに頑張りますっ。よろ!(軽い)
 それでは、約一カ月ぶりの本編。どうぞ。
 都合により戦闘はまだはじまりません(始めろよ)
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 〈バンside〉

 やっほー。皆さんこんにちは。霊能力者のバンこと番正鷹つがいまさたかっす。いきなり登場して、読者さんも「え?」ってなっていると思うから、まずは簡単に俺の生い立ちについて説明していこうと思う。

 あ、いちおうこれだけ言っておく。自分、マジ難しい話苦手なんで、言葉の使い方とか間違ってたらごめん。
 
 まずは番正鷹が何者なのかって話。平べったく説明するならば、『ちょっとイカれた中学3年生』だ。こう言うと、一部の読者さんからは厨二病を疑われそうだなあ。
 え、訂正しないのって? ……厨二なところも多少あるから否定は出来ねえな。

 さらに単語を付け加えるのなら、うーん。
『ヤンキーぶっているイカレれた霊能力者兼中学3年生』かな。

 俺の生まれた家—番家は霊能力者の家系の筆頭……。いわゆる御三家と呼ばれる立ち位置だ。
 昔に比べると多少の数は減ったものの、『除霊』という職業はまだこの世に実在している。最近は変わった術式を持つ物も増えており、戦い方の多様化がところどころ見える。

 実際3年前、カースト下位の家系に生まれたチビッ子術者がオリジナルの戦法を編み出し、これまで誰も到達できなかった【一カ月間の駆除数:1万】を達成した、というニュースが界隈の中で一時期話題になっていた。
 
 これには、年々・【歴代最強の術師】を生み出してきた番家も唖然とし、そして。
 
『まあこっちにはマサ様がいるからな』
『霊能力者の中でも希少な〈憑依系〉。しかも、高位の霊—果てには神をも従える強力な霊力を持っておられる』
『ぽっと出がいくら威張ろうが、我々には関係のないことだ』
『ですよねマサ様!』

 なぜか俺の存在を必要以上に称えた。

 褒められることには慣れている。名家の長男であること、数少ない術式の使い手だということ。生まれ・能力・実績・人脈。全てが他の奴より勝っていた。
 通り過ぎるものは皆自分に頭を下げたし、三つ下の妹と弟も、兄に対しては常に敬語を用いた。だから、一度として『おにいちゃん』と呼ばれたことはない。

 
 幼少期は、特に違和感を感じなかった。称賛されるのが素直に嬉しかった。
 ただ、今は違う。期待、羨望、憧れ。あんなに好きだったものが、全部鬱陶しく感じる。その理由は、彼らが自分に向けている感情の根幹に少なからず『番家の人間だから』という不毛な動機があるからだ。

 もっと自由に生きたい。
 誰とも比べられたくない。
 決めつけられたくない。
 ありのままに動きたい。

 でも、言えない。
 与えられたものの価値が大きすぎて、体から剥がせない。

 
 そんな自分を救ってくれたのは、ある一人の神様だった。

 決まりの多い家での生活が嫌で、俺は中学2年生の後半から下校時刻を過ぎても学校に残ることが増えた。
 クラスメートにも先生にも、能力の事は秘密にしていた。とにかく、現実から逃げられる居場所が欲しかったんだ。

 傍から見れば、声だけ無駄に大きいお喋りな奴に思われたかもしれないけど、こっちはその状態をずっと望んでいたわけで。

『バン! 今日帰ったら《スメブラ》しね? 俺今日塾休みなんだわ』
「だから、バンって言うなっつーの。音読みやめろよ」

 アイツに出会う数時間前も、大声で叫びながら友達と帰ってたっけ。

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〈回想 3か月前〉

「えー、いいじゃん。BANGって感じでかっこよくね? いや、音読みじゃなくても普通にかっこよくね? お前の名前」
「だよなあ。ハンネでも使えるし」
 クラスメートは、少し離れた場所を歩く俺に言う。

「お前も珍しいだろ。あいる」

 ハンネの話題を持ち掛けたのは、クラスで隣の席の斎藤だ。斎藤藍琉さいとうあいる。俗に言う、キラキラネームをつけられた、チャラい性格の男子だった。

「オレはやだよ。なんか女子みたいでダッセー」
 藍琉は名前にそぐわない、苛立った口調で返す。

「うちの親は、外国っぽい名前にしたら将来留学した時にいろいろと役に立つって言ってたけどさ。留学とかしたくねえし、普通に迷惑なんですけど」
「まあまあ、まあまあ」

 右手を振り上げて憤慨する藍琉をたしなめたのは、前髪をセンター分けにした、黒縁メガネの少年。彼は榛原はいばら。学級委員長をしている、頼れる真面目くんだ。
 席が近いことから、俺は二人とよくつるむようになった。血液型も性格もバラバラだが、なぜか波長が合う。不思議だ。

「そんなことでケンカすんなよ」
「「そんなことってなんだよ」」
 俺と藍琉の声がハモった。

 藍琉は不満げな表情になって、ムッと下唇を突き出す。
「いーよな榛原は。榛原和樹。ふつーの、ありきたりーな感じで」

 ふつう。ありきたり。
 ………胸が、チクリと痛む。
 
「まあまあ、まあまあ」
「お前ずっと『まあまあ』しか言ってねえじゃんっ」
「はいはーい、いったん落ち着きましょうね斎藤くん」
「名前で呼べよ!」
「……えっ」

 A型の榛原とB型の藍琉のテンポのいい漫才を後ろで聞きながら、俺はゆっくりと足を進めた。
 歩道の白線だけを通る遊び。変だな、いつもはテンションが上がるのに、今日はマジでつまんねえ。
 まあ、中3で『白いとこだけ通る遊びー!』と喜々として喋っていた俺にも問題はある、少しは成長したってこ――。



 《おい》


 ふいに、声がした。声変わり前の子供のような、高くも低くもない絶妙な音域。
 バッと後ろを振り返る。がしかし、そこには何もない。道路の傍らに、木造の二階建てアパートがひっそりと建っているだけだ。

「あっれ……?」

 おかしいな。変な声がした気がするんだけど。
 立ち止まって首を傾げた俺を、榛原が不思議そうに見つめる。

「どしたー?」
「いやなんか、声がした気がするんだけど……」
 戸惑いながら答えると、榛原は途端に「げえ」と顔をしかめた。

「おっまえ、マジでそういうのいいから。いい加減やめろよ廚三病」
「誰がうまいこと言えと。じゃなくて、本当に声がするんだって」

 《おい、そこ》
 また来た。脳に直接響く、謎の音声がまた。

「いや、マジで聞こえるって!」
「いい。いい! マジでこわいからやめて。殴るよ?」
「いやいやいや、ホントだってホントだって俺嘘言ってねえって」
「お前がベラベラ喋る時ってのは嘘ついてる時なんだよぉ!」

 斎藤は俺の肩を両手で強くつかむ。はあはあと息を切らし、必死の形相で、こちらを睨んでくる。

「マジでやめろ」
《おーい。おーい、聞こえてんだろ人間。おーい》

 彼の心からの訴えにかぶせて、甲高い声が再び鼓膜を震わせた。


 (次回に続く!)


Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.49 )
日時: 2023/08/27 21:40
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)

 テスト終わったあああ!
 9月はオール休みなので、たくさん更新できると思います。
 9月中に過去編を終わらせたいなあ。お前ら鈍ってないかあ?
 
 ~コマリチームの今~

 コマリ「課題が終わらないよお! 助けてトキ兄……! 税の作文って何書けばいいのおおおお」
 美祢「コツコツやれってあれほど……」
 こいと「コマリさん、ぐずぐず言ってないで手を動かしてください。明日登校日でしょ!」

 (コマリは夏休みの課題の処理に追われているようです)

 ~宇月の今~
 
 宇月「もー!何べん言ったらわかんのや! 手の動きがちゃう!もっと腰を落とす! そんなんで兄ちゃんなんか越えられんで!」
 ??「ううううう……もう配信始まってるかなあ」
 宇月「見たいならもっと頑張り! 術式が強いのは確かなんやから。そら、 もう一本!」
 
 (宇月は誰かと手合わせをしているようです)

 ちなみに憑きもん!キャラの今のところの組み合わせは
 ●コマリ組(コマリ×美祢×こいと)

 ●秘密共有組(宇月×こいと)

 ●いとこ組(美祢×宇月)

 ●神友組(こいと×由比)
 
 ●霊能力者組(正鷹×宇月)

 ●子供組(コマリ・こいと・由比)

 ●(若干)大人組(美祢・宇月・正鷹)

 です。
 
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 ――俺・バンは、おかっぱ頭の少年をチラリと横目で見ながら、猿田彦との出会いを思い出していた。

 急だったし焦ったよなあ。声がするもんで友人に言ったら、みんな「何も聞こえない、知らない」って首を振るんだもん。
 で、こりゃ一体どういうことだ、と顔を上にあげたら、道路脇のアパートの屋根の上にアイツがいたわけよ。

 職業柄、摩訶不思議な出来事や心霊現象には慣れていたから、神だと名乗られた時もさほど驚きはしなかった。これまでにも付喪神つくもがみや土地の神とは関りがあったし、彼らの力を借りて悪霊を祓っていたからだ。

 藍琉や榛原と一緒だったのがまずかったな。
 あいつらは霊感もねえから、こっちが何を言っても信じないし、嘘つき扱いするし。
(もっと早く、状況を理解していたら、余計な誤解を生まずに済んだのに。危うく俺の秘密がばれてしまうとこだったわ)

 そんな俺でも、彼が「お前の体を乗っ取りたい」と口にした時は内心かなり驚いた。というのも、位の高い妖怪や神様はプライドが高く、滅多に自分から頭を下げないからだ。
 今まで共闘してきた幽霊や妖怪に関しても同じだ。水の神、火の神、座敷童、ぬらりひょん……。彼らは、俺が何度も頭を下げ、必死に頼み込んでようやく契約を得た相手だった。

 いやーあれは笑ったよなあ。古事記にも名を遺す偉大な神が、わざわざ人間の前で腰を折ったんだぜ? イザナギやイザナミと並ぶような神様だぜ?

 でも、彼のその態度を目で見て、俺は思ったんだ。
 こいつが、俺の望んだ人物なのかもしれないって。隣に立ってほしかった人なのかもしれないって。
 自分が神でも、俺が超強い能力者でも。どんな相手に対しても敬意をもって接してくれる、優しいやつなんだって。

 『いいよ。いつでも乗っ取れよ。一蓮托生ってやつだうわー、すっげえテンション上がるなジャ〇プの漫画みたいじゃね? 知ってる?』
 
 家では流石に怒られるなと思って言えなかったけど……。
 自分の体に他の人の魂が入るって、めっちゃワクワクすんな。

『知らないなら教えてやるよ!俺も家が厳しくてあまり堂々とは見れないんだけどこっそりスマホのアカウント作ってウェブ漫画とか読んでてさ、〈魂★神〉っていう漫画の主人公が憑依系の能力者で無意識に自分と重ね」
『あーあーあーあー、落ち着け。とりあえず落ち着いてくれ』

『ンで俺の推しキャラは兵馬ひょうまってんだけど、そいつの相棒が加治木かじきって名前で、羽織着てて、めっちゃお前に似てるなって、マジで盛り上がってきたな俺お前めちゃくちゃ気に入ったわ』
『わかった。わかったから一旦、深呼吸してくれ』

 猿田彦は羽織の裾で顔を覆い、苦笑していたな。懐かしいぜ。

 出会った日、俺たちは約束を二つほど交わした。

 一つ。お互い隠し事はナシ。同じ肉体を共有する者同士交流を深めるため、どんなにつまらないことでも意識的にシェアすること。楽しかったこと、うれしかったこと、悲しかったこと、辛かったこと。全て包み隠さず話すこと。

 二つ。片方が困っていたらたすけあうこと。それぞれがお互いにとっての右腕となるよう日々努力を重ねること。

 体を乗っ取られている間、人間の意識は朦朧とする。それは俺も同様だ。暗い暗い闇の中に放り投げられたような感覚。両目はしっかり開いているのに視界は絶えず暗く、両手は空いているのに何もつかめない。ふわふわとした精神状態でありながらも、ちゃんと脳は働く。

 そんな中聞こえた相棒の言葉。
 ――〈協力してほしい。討伐したい奴がいる。おまえの力を貸してほしい〉
 いつも冷静な彼に似つかわしくない、上ずった声。
 
 何が起こっているのかを一瞬で理解することはできない。
 しかし何を自分に求めているのかはすぐに把握できた。

『あー、なんか知らんけどヤバそうね。……仕方ねえなあ。ホントに全部使っていいのね? 出力100でもいいのね?』
 
 あの日の約束の2番、〈片方が困っていたら援けあうこと〉。
 なぜかは知らんが猿田彦は今ヤバい状況で、かなり追い込まれている。だから俺を頼っている。

 説明はそれだけで十分だぜ、猿。あ、猿って呼ぶと怒るんだっけ?
 あいにく、俺は育ってきた環境の影響で、細かいことが苦手だ。
 俺は俺らしく大雑把に、好きなようにお前の意思をくみ取る。

 オッケー、要約すると「とりま援けて」だな。了解っと。
 さあさ皆様ご覧あれ。ここに君臨するは番家長男・番正鷹。
 別名:鳥神様。神を取り憑かせ、彼らの持つ異能を自由自在にコントロールする、〈狂瀾怒濤〉の戦法がウリであります。
 以後、お見知りおきを。ではここらで舞台暗転といたしましょう。

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「鳥神様だと?」
 禍の神は猫のように鋭い瞳をさらに細めて言った。
「貴様、何者だ。只者ではないな」

「そんな怖い顔すんなって。かわいい顔が台無しだぜ」
 俺は右手を広げ、胸を広げる。
「俺のモットーは大胆に・簡単に。だから説明も手短に済ませるぜ。ようく聞けよ」

 大きく息を吸い、肺に空気を送り込む。血液を循環させ、体の各部位の機能精度を高め、次の動作に入るためのエネルギーをためる。

「お前を倒すやべー奴だ、よ!」

 右足を一歩後ろに引き、左足を前に出す。腰を落とし、右手を銃の形に組む。左手を右手首にそっと添え、狙いを定め。

「番流憑依術第一式:魔矢引まやひき

 瞬間、どこからともなく無数の矢印が発生した。大きさは様々。針のように細いものもあれば、こん棒のように太いものもある。
 矢印は俺を囲む形で空中に浮かび、矢先を禍津日神に向けた。

「………霊能力者か。忌々しい!」
 禍津日神が両手を前に出し、防御態勢をとる。
 がしかし、その口から術名が唱えられることはなかった。

「BANG」
 
 鳥神の声に合わせて、数百本の巨大な矢は弧を描いて飛んでいく。その速度はまちまちで、時に遅くなったり、かと思えば空を切ったり。

 そしてついに。
「………かはッ……ヴッ」

 切っ先が鋭利な一本の矢印が、背後から禍の神の胸を突いたのだった。


 (※次回に続く!)



 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.50 )
日時: 2023/08/30 09:42
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)

 レス数が50になりました!こんなに続くとは思ってなかった。
 たくさんの応援ありがとうございます。
 これからもよろしくお願いします。
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 〈禍津日神side〉

「……かはッ!」
 
 我は腹に手を当てて、その場にうずくまった。
 羽織の下に着ているシャツの胸元が、じんわりと赤く染まる。体内の血液が一気に外へと流れていく。

 なんなんだ、この術式は。長年人間界にいたが、このような戦術は見たことも聞いたこともない。この我ですら、攻撃を防げなかった!

「……おのれ……よくもっ……」

 まずはこの矢をどうにかしなくては。
 我の体から発生する黒い靄はけがれと言い、体を修復する作用がある。一旦まずはこれで……。

 がしかし、与えられたダメージが大きいせいか、四肢に力が入らない。頭がくらくらする。呼吸が浅い。

「はあ……はぁ……人間風情が、………神に向かって………くそっ! くそくそくそくそっっ! 許さない、許さないからな……」

 普通は、こうはならない。
 どんな相手と対峙しようが、相手は自分を越えられない。威勢よく果敢に飛び込んでくるのだが、たいがいはこちらの反撃で重傷を負う。

 それなのに、それなのに! この人間! このわらべ
 勝手に我々の話し合いに首を突っ込み、会話を中断しただけではなく、この我を小物のように扱いおって。

 早く立たなくては。早く贄を取り込んで、以前の力を取り戻すのだ。
 幸い今日は二人の餓鬼が死んだ。我が来るのを待っていたかのように。早く、早く立て。早く立て!


 胸を貫いている、長い矢の根元を右手でつかみ、力を籠める。
 両目をつむり、肩に力を入れ、我はそれを一気に引っこ抜いた。
 瞬間、鋭い痛みが走る。じんじんなんてもんじゃない。例えるなら、全身を鞭で叩かれたような鈍い痛みだった。

「…………っっっ!」
「あっれー、もう降参? 神のくせにケッコー弱いんだね」
 地面に膝をついた我を、橙色の髪をした細身の少年が上から見下ろす。口元には、嘲るような笑みが浮かんでいた。

「雑魚乙でーす」


 これが舐めプというやつなのだな。電子機器ごときで表情を変えるなどつまらぬ、と思っていたがなるほど。
 実際に体験してみてわかったぞ。舐められて腹を立てない者などいないのだな。確かにこれは頭にくる!
 
 我はその質問には答えず、首だけを後ろに回す。猿田彦と大国主が今何をしているのかを探るために。
 番正鷹が戦いに割り込んできた以上、彼だけに注意を向けてはいけない。戦況が一変した、これからはすべてに警戒しなくては。

「よくやったバン! こっちは大丈夫だ! 今んとこは! 気にせずどんどんやってくれ!」

 猿田彦は数メートル離れた中庭の端で、片膝をついている。ずいぶん時間が経っているが体調は良くなっておらず、むしろさらに悪化している。胸ではなく肩で呼吸しているのがその証拠だ。

「大国主ー、そっちはどうだ……! ガキは守れてるかー!」
「結界――。これで暫く――」
 
 視界の隅で何かが白く光った。
 大国主のいる場所はここから遠く、何をしゃべったのかまでは聞き取れなかったが、文脈から察するに、贄を保護するための結界を貼ったのだろう。

「よくやった! そのまま粘ってくれ! バン、無茶だけはすんなよ」
「言われなくてもやるよ~猿……じゃなかった、オッケー猿田彦ー」

 大国主の結界は他の神が作るものより強度が強く、ちょっとやそっとの力じゃ破れない。
 だが、こっちは悪をつかさどる神。我の神通力に比べれば、バリアなど飾りにすぎない。力を使えばあんなもの木っ端微塵……。

 我は胸に右手の掌を押し付ける。傷口を通して、ねっとりとした赤い血が肌に付着した。

「おーい。めっちゃ汚れてるけど大丈夫ー?」
 軽薄な口調でさらに煽る正鷹。我はフッと鼻で笑う。
「禍の神を前に『汚れるな』と?」
 なんとも笑える話だ。

「え、なに? マガっちは心も体も真っ黒クロスケじゃないと落ち着かないタイプなの?」
「貴様、言葉に品がなさすぎやしないか」
 弱いだの雑魚だの乙だの。本当に、どこまでも楽観的な男だな。

「縛られるの大嫌いなんだよね。それに事実じゃん。禍の神なのに攻撃くらってるし。ガードしたならそりゃあ、俺も別の言葉使うよ?」
 ……相変わらず、口だけはよく回るな。

「正鷹と言ったな。先ほどの攻撃、お見事だった。避けるべきタイミングを見失ったぞ」
「まあな。これくらいやんないと御三家で生き残れないし」
「御三家?」
「俺んち霊能力者のやつら全員管轄してる、すげー家なんよ」

 ほお。御三家ね。
 数百年前我を岩の中に封印した陰陽師もかなりの腕前だった。もしかしてこの人間、あの術師の子孫だったりするのだろうか? 

 まあ、それは今考えるべきことではない。

「さあ鳥神よ。今度はこちらの番だ。神を怒らせたらどうなるか、次からちゃんと学べ!」


 禍津日神の術の威力は、負のエネルギーに比例する。恨み、怒り、悲しみ、叫び……あるいは人の死、人の血、人の魂。エネルギーを集めれば集めるほど、我は強い力を編み出すことができる。

禍火かび円玉えんぎょく
 シュルンッッ!

 朱色に染まった右手の指をパチンと鳴らすと、黒々とした半径三十センチもあろう巨大なボールが現れた。
 これを大国主のいる方角へと投げる。球は地面を削り、暴風を巻き起こしながら彼女の前を通過するだろう。竜巻のようなものだ。そのようなものの前で真っすぐ立っていることは難しい。

「なッ。こいつ、自分の血液を代償に詠唱しやがった!」
 猿田彦が目を見開く。

 我はゆっくりと右手を振り下ろす。
 これだこれ。人の笑顔が完全に消え去るこの瞬間が、狂おしいほど好きだ。さあ、反撃の幕開けだ! この空間は再び我のものとなるのだ!

「ふははははははは! ふははははははは! おい見たか童! 我を倒すなど百年早い!」



 ・・・・・・・・・・・・・・・




 「へー。アンタ俺より痛いやつだね。あ、今は物理的に?」



「―――――――は? ………なッ!」

 振り下ろしたつもりだった右腕が、いつの間にか正鷹の右手にがっちり掴まれていることに困惑する。
 なぜだ? 確かに手を振り下ろしたはずななのに。
 正鷹とは数十メートルほど距離を取っていた。こいつ、どうやってここまで距離を詰めた? 足音すらしなかったが。
 
「離……離……ッ」
「はーいロミジュリ、ロミジュリ」
 何故だ、細い腕なのにびくともしない!

 我の背中に左手を回し、正鷹はそのままぐいっと力を籠める。
 必然的に胸に飛び込む流れになってしまった。顔を離そうとするけれど、頭の上から更に手の甲を押し付けられ、抜け出すことができない。

 離れようとしても、体がうまく動かないのだ。
 まるで、磁石のように。

「何故……何故ッ」
「アイツ、変な能力使うんだよね。矢印出したり、未来予知したり、相手を引き寄せたり、離したり。正直俺にはなにがすごいのかわかんない。めっちゃ地味だよ、道開きっつーのはさ」

 道開きだと……? そういえばコイツ、猿田彦の器だったな。
 乗っ取り先が霊能力者。そしてその霊能力者が用いる術は……。
 嫌な予感がする。こいつの能力はもしや。

「あー、説明してなかったな。俺の戦闘スタイルは〈憑依系〉。自分の体を霊に乗っ取らせ、代わりに一定の条件で術を使わせてもらう。ただし、こちとら、他の憑依系とはちょいとわけが違う」

 正鷹はふふんと胸をそらし、高々と宣言した。

「俺は乗っ取った霊が持つ能力を自分好みにカスタマイズできる、超希少な〈憑依特化型〉だ! チートって言われるの嫌だから弱点も話すぜ。一時間しか持たねえ」



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「こっからはチキンレースだ。どっちがいち早く自分の霊力を使い切るか。勝負と行こうぜ」

(※次回に続く!)