コメディ・ライト小説(新)
- 黒雪姫ものがたり#7 ( No.9 )
- 日時: 2023/03/16 13:55
- 名前: 鏡花 (ID: xJUVU4Zw)
黒雪姫ものがたり#7「呪いはやめて!?」
階段の下から見上げてみると、大きな金色の扉が見えた。≪奥御殿≫というプレートがかかっている。
あれが例の部屋かぁ。
ちょっと緊張してきた。もしも説得に失敗したら、わたしの人生は終わったようなものだ。こんなワケの分からない「しらゆきひめわーるど」?の「くろゆきじょう」?で変人と過ごすとか無理むりムリ。
それはカンベンだからねっ!
「さっさと帰ってやるーっ!」
わたしは一段、一段と階段を上り、スピードを上げていった。
そして、一分前後で登り切れた___はず、だった。
「えっ…ハァ、なんで…⁉」
いくら上っても、部屋に近づけない。
まるで、わたしがずっと同じところを走っているよう…。
どういうこと…!
そう思ったときに、背後に気配を感じた。
おそるおそる振り向くと__黒い猫が顔を出していた。
「叶芽ぇ!」
叶芽、いいところに!助けに来てくれたんだねぇ!
しかし、黒い猫は微動すらせず私をずっと見つめてきた。闇を宿した、黒い瞳で。
「ネコ違いだった~!!!亅
「ちょっと静かにしてくれない?亅
枯れた声がした。
あたりを見渡しても、猫だけが立っているだけ。
ぬうぅぅ?こいつもしゃべる型の猫か。
「そこの猫さん、ちょっ…。」
「未来乃!」
足元がふわりとして、宙に浮いたような心地がした。
「黒雪姫さん!」
黒雪姫さんは鏡のようなものをわたしに向けている。しばらくし、「チッ」と舌打ちをした。
「逃げられたか…。未来乃、感謝しなさい!私がいなければ、あなた今頃…わぁっ!?亅亅
私の顔を見て、思い切りのけぞった。
どうしておどろくのか。
わたしはただ、こんな世界に連れてきた誰かさんを思っているだけなのに。
「未来乃?えぇーっと…顔が怖いわよ?怒ってる??」
「そんなことはございません。」
「いや絶対怒ってるわよね⁉ねえ何かあった?」
黒雪姫さんは、なぜか数歩、後ずさって愛想笑いを浮かべた。
「…あ~…、あっそうだ!未来乃、私に用があるんでしょ?仕事熱心ねぇ、何でも聞いてちょうだい!」
えっ。この人は何を言っているのだろう。
「日本に帰るために来たんですよ?」
黒雪姫さんの動きが止まった。
「えっとなになんて言ったのかな未来乃うーん空耳だよねきっとねそうだよねー。」
ぶつぶつぶつぶつとつぶやいて、…目を白黒させた。
「噓でしょう⁉ねえ未来乃、嘘だと言って!亅
「本当に決まってるじゃないですか。」
「いぃーやぁーあーぁぁぁっ!!絶対に!絶対に帰らせないからぁぁぁーっっ!」
絶対に!絶対に帰るからぁぁぁーっ!
「じゃあ未来乃、座って頂戴。」
「お邪魔します。」
言うまでもなく、奥御殿はゴージャスだった。小学校の教室ほどもある、あり得ない大きさの机が真ん中に置かれていた。ピアノや、カーペットやこの部屋はどんな量のお金でできているんだろう…?
黒雪姫さんはそこに、シルバーのふちの鏡をどーんっ、と雑に置いた。
「『白雪姫』という童話は読んだことがあるかしら?」
「……は?」
いきなり何を言い出すんだろう、黒雪姫さんは。
「あの~その話は今は。」
「いいから、聞いて。絶対に役立つはずよ。」
はぁ。わたしはとりあえず、黒雪姫さんの話を聞くことにした。
白雪姫という童話があるわよね。
ざっくり言うと…
白雪姫の美しい見た目に嫉妬した継母が、白雪姫に毒リンゴを食べさせた。
死にかけたけど、王子のキスによって生き返って、幸せに暮らしましたよーって話。ちなみに、それはあくまでも童話っていうだけで王子様の本命は私よ!
それで、私は童話を守る係であり白雪のライバル。だけど恋のライバルってだけでね、戦うほどではないわ。
でもね。
「大変だぁーっ!継母を撃退したのに、新しいライバルが現れたぞーっ!」
「何ですとぉ⁉私たちで白雪姫様をお守りせねば……。」
なんか、白雪のところの部下、〈七人の小人〉が勘違いしたのよね。私が敵キャラだーって。
白雪は「黒ちゃんはそんなんじゃないですぅ」とかなんとか言ってくれたらしいけど、効果ナシ。
次々と私のところに現れる暗殺者。
だからね、部下を作ったのよ。守ってくれる部下。
一人目がなのは。
「この子はですね、成績は優秀ですよ。成績は。」
ある人に紹介されたのだ。
二人目が梨久。
「ボクは平和主義だからね!この腕を生かす場が欲しかったのだ!」
自分から申し出てきた、もと一般人。
三人目は理人だ。
「あんたを殺しに来た。」
もともと暗殺者だった。あの時は10歳くらいで、驚いたわよ。殺されかけたんだもの。でも、説得に成功し部下となったわ。
そうして私は部下を手に入れた。
でも、それが間違いだったわ。さらに勢力を拡大したぞーとか言われて、童話はめちゃくちゃ。
そのスキに童話を乗っ取るやつらがたくさん現れたの。さっきの猫もそうね。
しかも、部下たちもあんなありさま。
私はもう死んじゃう!と鏡に相談をしたの。
そしたらね……。
「日本という国にいる穂村未来乃がいいと思いますよ~。この子は自分でまともと言っていますし、それでいて能力もある。ダメダメなあなたたちをきっとカバーしてくれます!」
それがあなた。
つまり、あなたは選ばれしものなのよ…。
黒雪姫さんは、語り終わって満足そうに息をついた。
「どうだった?」
「え?」
黒雪姫さんに話しかけられ、ハッと我に返った。
「どうだったって言われましても……途中から聞いてなかったので。」
役に立つからーとか言っていたから途中までは耳をかたむけていたのだ。途中までは。
なんだけど、話が長いしワケわかんないし役立たなそうだったから、やーめた、ってね。
「何ですってぇぇぇ未来乃ぉぉぉっ⁉」
黒雪姫さんが立ち上がって叫ぶ。
何ですってぇぇじゃなくて早く帰らせてほしいのですよ、こちらとしては。
「ねぇ今の話を聞いて何も感じなかったの?かわいそうな黒雪姫さん、わたしが救ってあげたいとかなんとか。」
「ないですね。」
「ないのぉぉぉっ⁉」
あるわけがない。
「あのーいい加減帰っていいですか?宿題がまだ終わってないので」
「待って!ねえ待って頂戴!ここにいれば宿題なんて気にしないでラクラク♪なのよ!いいでしょう?」
「嘘はいけませんよ!」
瀬央くんが言ってたじゃん、宿題がアホみたい多いって。
くぅぅっ…、と黒雪姫さんが悔しそうに歯ぎしりをした。
やっと帰れる…。
そう思った直後だった。
「いやーでもあなた、黒雪姫様に助けていただいたのですよ~?感謝の気持ちを持っていないのですかね。」
余計な、余計な、余計すぎる一言が聞こえてきたのは。
「あらー!たまにはいいこと言うじゃないの、鏡!」
今の余計な一言の発信源は、鏡だった。
さっきの、雑に置かれていた鏡。
………。
うん………。
またまた変なキャラが登場しましたね。
…ツッコんだって無駄だ。どうせわたしはここを出ていくのだから。
「黒雪姫様、穂村未来乃に呪いをかけましょう!いくら帰ろうとしてもここを出られない。いくら離れようとしても黒雪姫様たちと縁が切れない呪いを!」
鏡がシャレにならないことを言ってきた。
冗談じゃないよっ、絶対やめろ!!
「へぇ~まあまあいいじゃないの。はやく未来乃に呪いをかけて頂戴。」
「やめてぇぇ!?」
「行きます!」
わたしと、鏡の声が重なる。
黒い煙が立って、周りが見えなくなった。