コメディ・ライト小説(新)
- Ep.1『一人と一人』 ( No.3 )
- 日時: 2023/03/14 12:54
- 名前: 信者 (ID: NdgXheZW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13658
夏休みに入って、10日ほど経っただろうか。
月も八月に入り、猛暑は、絶頂を迎えつつあった。
夏休みということもあり、街が繫栄しているのに反比例し、学校内はある意味寂しさを感じてしまいそうなほどすっからかんだった。
一部は、夏休みも部活だが、『夏期講習』だとか『実家に帰るだとか』そんな言い訳だけを残して、家で引きこもってゲームをしている輩も大量にいることは知っている。
あえて、顧問には言わないでやっているが、これは俺の利益のためだけである。
そんな俺が入部したここ、陸上部は、夏にも構わず、超熱血指導で、熱中症で倒れてもおかしくない程だった。
また、記録をガンガン伸ばしていく人もいれば、俺みたいに、常に下からトップを独占してる奴らもいる。
その一方で、俺らは、大会には出られず、暑さでばてて、ベンチに居座り続けていた。
ただ、ベンチに居座る輩たちは、一切知りもしない人で、俗にいう陽キャ。
人見知りで、陰キャで、コミュ障で、運動神経皆無で、頭の悪い俺には、到底仲良くなれないような人だった。
そしてまた1つ、ここには、俺のストレスの元凶が存在していた。
そいつの名は、【柊 千里(ひいらぎ ちさと)】。
女だ。
こいつにはおしとやかさは一切なく、というかその逆。俺にとっては邪魔でしかなかったのだ。
だが……100m走の記録は陸部の中でも、トップで、もう数か月ほど、キープしている。
巷では超新星だとか、騒ぎ立てられすぎている。
普通の人にはしっかりと優しいこいつだが、俺らみたいなこっち側の人間に見せる顔は、悪。
その一言で十分だった。
さらには、こいつは、何人か手下を従えており、俺がベンチに座れば、軍を指揮し、こっちにやってきては、数人が『なんで陸部はいったのよ』だなんて捨て台詞を残していった。
おれはそういわれるたびに、センチメンタルな気分に酔い、すぐそこのトイレに籠る。
☆
と、今日もそいつらはやってくる、今日も同じく軍を従え、こちらに。
そして。
「いつも逃げてばっかりね、いっそのことやめちゃえば? 」
と、残していく。
いつも通りうつむきながら、トイレに行こうとすると、そいつは俺の襟あたりを掴んでこういった。
「今日はトイレ空いて無いわよ、工事中。だってさ笑」
その言葉を聞くと、俺は数秒間停止し、体育館の方向へ走り出す。
一応体育館にトイレがあることは知っていた。
別にトイレではなくてもいいが、周りの目を気にしてしまうと、結局トイレに籠る。
もちろん、用は一切満たさず、数分籠って腹痛を演じていたが、あいつにはばれていたらしい。
そう考えていると、体育館のトイレまで籠ろうとする俺がバカらしかった。
侮辱されても、トイレに逃げる俺。
その途端、あるうわさが俺の耳に流れた。
☆
「体育館のトイレさ、出るんだって」
「何が」
「……幽霊が」
「馬鹿らしい」
☆
そう思いだしたころにはもう遅く、すでに、トイレの前に立っていた。
このまま引き返そうと思ったが、そのとき、トイレの方向へ歩く、足音が聞こえてくる。
ここでばったり会ってしまっては、気がまず過ぎる。
そのまま、出る。と噂のトイレにダッシュしていった。
『出る』と噂されていた割には、中々綺麗なトイレで、明るく、桃の花のにおいが漂っていた。
「いや、出ないやんけ」
そのとたん、にゅるっとした感覚に襲われた。
そして、若い女の子の声が流れてくる。
「いらっしゃい……」
どこからか聞こえてくる声に、俺はトイレをぐるりと見まわしたが……。
居た。
幽霊ってこんなはっきり見えるもんだっけ。
口に手を当てつつ、囁いていた。
最初は、その幽霊も、俺が見えてるとは知らなかったような感じだったが、数秒程俺が見つめると、そいつは、気づいたらしい。
「えっと……お邪魔しました? 」
急いでトイレから出て、扉を閉める。
そうしたら、トイレから大声が聞こえてきた。
「ちょいちょいちょーい! 」
「え、は? 」
急にトイレの扉があき始める。
「私のことを知ったからには、逃がさへんで」
バリバリの関西弁をしゃべりつつ、すこし驚いた様子で俺を見つめる女の子がいた。
「えっと、何でしょうか」
「何でしょうかじゃあらへんやろ。どうせお前私のこと周りにばらすんやろ」
「え、あ、いや、僕、友達いないんで」
それを言ったのが悪かったのか、彼女は、素っ頓狂な顔をしてこちらを見つめる。
そして、笑い出す。
「ふふふふ……あんたおもろいな。気に入ったわ。あんた今日から私のパシリな」
「うん。っては!? 」
「あ、自己紹介忘れとったな、ありがとう」
そういうと、彼女は手を胸に当てつつ、こういった。
「私、地縛霊。よろしく」
オレの体から何かが折れる音がした。