コメディ・ライト小説(新)

Re: p「art」ner ( No.4 )
日時: 2023/05/28 11:50
名前: 絃葉 (ID: SzPG2ZN6)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

3話【美術部】
「ふぅ」
トイレの水道の前に立って、息をつく。真新しいジャージはひんやりと冷たく、少しかたい。
『美術部がおすすめ!』
頭の中に、日向の言葉が響いた。でも……。
『部活なんて入れさせないからね。あんたのために誰が金使うか』
打ち消すように、「あの人」の声。でも、部活動は必至だから……これは、仕方がないだろう。
「……私だって、部活なんてやりたくないし」
トイレを出て、廊下を歩きながらつぶやく。ぽーん、ぽーん、と制服の入った袋を蹴りながら。
……なーんてね。このねじ曲がった性格も直さないと。せっかく、この学校に転校させてもらったのだから。
「失礼します」

さっきのこともあって、少し慎重に扉を開く。
「おっ、橘」
近くに座っていた日向が立って手を上げた。私も手を上げてこたえる。
「じゃあ、見学を始めよう!」
「うん……あっ」
日向の描いていた、絵が目に入った。

さぁぁっと風が吹き抜けて、私の黒髪をなびかせる。雲に隠れていた太陽が姿をあらわす。眩しさに、思わず画用紙から目を背けた。
「どうしたの、橘」
「えっ!?あ、ごめん、何でもない」
日向について行って、美術部の様子を見学する。特にじろじろ見られることもなく、人数は少ないのににぎやかだ。好印象。
「私達は、七夕に向けてイラストを描いてるの」
回っていると、何人かが声をかけてくれた。
「では、体験をしようか」
部長がほくそ笑む……。

って、え。
「体験……?」
「うむ、そうだ。画材とかはここにあるぞ」
「へぇ!橘の絵、見てみたい!」
日向を始め、部長の声に部屋中の視線が集まる。い、居たたまれない。
「あの、私、絵が下手ですので!」
「上手い下手は関係ないぞ。私たちは、楽しみながら描くのがモットーなんだ」
「そうじゃなくて……」
「ほれ、描いてみ」
強引に、画用紙などを持たされてしまった。そんなこと言われたって。私の絵は……。
ああ、もう!
「私は、こんな絵しか描けませんよ!」
空いていた机に画用紙をバンッ、と置いて、鉛筆を握る。そして、ほとんど書きなぐるように線を繋いでいく。絵を紡いでいく。
あぁ、絵を描くのなんて……久しぶり。絵を描くのを、とめられてたのを思い出す。ふわりと気持ちがやわらいで、私はやっと"描き出した"。
「橘……?」
日向が顔をのぞき込んできて、我にかえった。周りに集まっていたみんなも、ぽかんとしている。あ。

やってしまった。棒人間だけ、描くつもりだったのに。変な絵だと思われたよね。
この場から消えてなくなりたい。時間を巻き戻したい……。
下を向いたところで……。がしっ、と肩をつかまれた。
「素晴らしい!」
えっ、弾かれるように顔をあげる。そこには、驚いている……けど、感激したような顔が、並んでいた。
「色も塗ってみてよ!」
日向に筆を渡される。
「……うん」


美術部に入ろう。そう、心に決めた。