コメディ・ライト小説(新)

Re: ファイティン・ラブ!~彼氏は推しでした~ ( No.1 )
日時: 2023/07/29 09:29
名前: このか ◆XqDKo6W48k (ID: emG/erS8)

【chapter1 仁にすぐれば弱くなる】

《第1話》

ジリリリリ、と目覚ましアラームの音が響き渡り、目覚めた。
慌てて飛び起き、伊達政宗の五条訓を唱え出す。
「仁にすぐれば弱くなる…」
そのまま流れるように洗面所へたどり着いて顔を洗い、お弁当を作る。
朝ごはん用のおにぎりを鞄に入れ、きっちりと制服を着た。
清潔感って大事。
「行ってきます!」

自己紹介遅れました、私の名前は柴田美織です。
どこにでもいるフツーの高校生で、フツーの学級委員長。
通ってる高校は私立の星川学園高校、偏差値77。
特進クラスに通ってるのが唯一の取り柄と言ったところかなぁ。
あと、裏千家の茶道部で、お点前もできるよ、一応。

電車を待っている間におにぎりを超高速で食べ、たくさんの人と共に、電車に乗りこみます。
いわゆる朝の通勤ラッシュ、というもの。
初めはもみくちゃにされてたけれど、今はちゃんと一人の人間でいられるようになった。
これも成長ですね。

そんないつもと同じような日常の一コマは、学校について一変した。
隣の席が出来てる……!?
私の席は窓側の1番後ろ、つまり隅で、隣の席は居なかった。
なのに、隣の席ができていたのです!
今まで気楽に過ごしてきたのに、残念。
でもこれは、私の人生を後に大きく変えてしまう出来事だったのです。

Re: ファイティン・ラブ!~彼氏は推しでした~ ( No.2 )
日時: 2023/06/25 19:57
名前: このか ◆XqDKo6W48k (ID: 0j2IFgnm)

《第2話》

転入生が来る、という情報はいつの間にかクラス全体に広がっていました。
あの、転入生が来る朝の独特な空気。
恐らく転入生が来るという情報は、陽花ちゃんからかも、と予想しながら私は隣の机をじっと見つめて過ごしました。

「おはよー」
前の席に着いた杏ちゃんに挨拶をする。
「おはよー、今日絶対転入生来るでしょ!?」
「なんで分かるの!!」
「ほら、下駄箱に1つ、番号が増えてたから」
流石にそこまでは気がついていなかった…!
杏ちゃんの観察力に感心しながら、ただそわそわと、朝の時間を過ごしました。

朝のホームルームも終わりかけたところで、ついに転入生登場です。
また教室中が騒ぎ出し、独特な空気に飲まれていく。
「静かにー!」
という先生の声でなんとか抑えられた。
前のドアが開き、みんなが息を飲みます。
転入生は右目に眼帯をしていた。
伊達政宗様と同じだ、と私は思わず驚きました。

転入生は、綺麗な字でホワイトボードに名前を書いた。

[伊達政宗]

は!?
ホワイトボードに書かれたその名前に、私は呆れに近い感情を抱いた。
この人、私の推しをバカにしてる…?

Re: ファイティン・ラブ!~彼氏は推しでした~ ( No.3 )
日時: 2023/07/03 18:11
名前: このか ◆XqDKo6W48k (ID: zKu0533M)

《第3話》

転入生は一通り、お手本のような自己紹介を終えると、私の隣の席に座りました。
まさか…伊達政宗の生まれ変わり!?
しかし、そんな訳はあるまい。
冷静にならなければ。
戦国武将と同じ名前だっていうのに、みんな冷静だなぁ。
見習わなくてはいけません。

「あ、あの…」
私は勇気を振り絞って転入生に声をかけました。
「隣の席の柴田美織と申します。一応学級委員長なので、何かあったら頼って頂けると嬉しいです」
「あ、よろしくね!そうだ、初っ端から失礼な事言っちゃうけど…」
さっと身構えてしまう。
「学級委員長にしてはかなりひっそりしてるね」
「あ、委員長は推薦でなったんで、私はそんなに目立つタイプでは無いです」
「そうなんだ。大変だよね」
フランク(?)な感じで良かった……!
ホッと一息つく。

「柴田さん、ちょっと良い?」
先生に呼び出され、ハッとする。
「伊達さんと隣の席だし、色々教えてあげてね」
「はい、分かりました」
と返事をしながら、私は内心、とても緊張していました。
転入生に話し掛ける、というだけでもハードルの高い私にそんなこと出来るだろうか。
私は頭を抱えそうになっていました。

Re: ファイティン・ラブ!~彼氏は推しでした~ ( No.4 )
日時: 2023/07/12 16:46
名前: このか ◆XqDKo6W48k (ID: 0j2IFgnm)

《第4話》

私は頭を抱えそうになりつつも、1時間目の授業が行われる調理室へ足を進めました。
「柴田さん」
「ひゃいっ!」
いきなり後ろから話しかけられた私は、驚いて変な声を出してしまった。
なんだこの声は…。
自分から出た声に、自分自身も呆れてしまった。
振り返ると、伊達さんが立っていた。
そっか、道案内してあげないといけないんだった、と今更思い出しました。

調理実習の班は席が近い人と同じ班になるので、これは伊達さんのことを知る大チャンス!
「今日は自分でレシピを提出した料理を作ってください」
「はーい」
私が選んだのはフルーツサンド。
このためにいつもより少しだけ朝ごはんを少なめにしていた。
まずは、サンドイッチパンをカット。
生クリームをたっぷりのせる。
生クリーム、大好きなんです!
それからフルーツをのせて、あっという間に出来上がりました!

レッツ試食。
おいしい。
頬が落ちてしまいそうです。
伊達さんの方を見ると、伊達さんは伊達巻を作っていました。
美味しそう。
料理、得意なのでしょうか。
これって、戦国武将となんか似てる……?

4時限目までの授業を「滞りなく」終えた私は、陽花ちゃんや杏ちゃんとお昼ご飯を食べに、中庭へ向かいました。
中庭には大きな、噴水があるので通称「泉の広場」と呼ばれている。
どうやら陽花ちゃんは、昼休みのパン競争を制し、メロンパンを手に入れたみたい。
パンは自販機で売っているのだけれど、昼休みは長蛇の列ができてあっという間に売れてしまうのだ。
3人で、今日もおいしい昼食です。
話は様々なジャンルに飛び、やがて、転入生の伊達さんの話になりました。

Re: ファイティン・ラブ!~彼氏は推しでした~ ( No.5 )
日時: 2023/07/28 10:18
名前: このか ◆XqDKo6W48k (ID: jAa55n87)

《第5話》

話を切り出したのは、杏ちゃんでした。

「そういえば今日、転入生来たじゃん。あの名前気になるよね!」
「伊達政宗という名前は気になるなぁ」
と私は杏ちゃんに賛同しました。

ファンとして気にならないのは逆におかしい気もする…。
しかも隣の席だし、めっちゃ気になる!

「じゃあ、情報提供します!」
と陽花ちゃん。
心強い!
「身長181cm。血液型はA型。好きな食べ物は伊達巻。転入前の学校は仙台稜風せんだいりょうふう高校、ここと同じく偏差値77の特進クラスだったらしいよ」
「頭良いんだね」
私は思わず反応しました。
調理実習で伊達巻を作っていたのも納得した。
「ちなみに中学時代は帰宅部で、高校では転校するまで新聞部だったんだって」
「さすが、情報屋さん!ありがとう」
と杏ちゃん。

私は伊達さんに、興味を持った。
彼は、今までどんな人生を生きてきたのだろう。
これまで人の人生にあまり興味を持ったことがないけれど、興味を引かれている自分に気が付きました。

Re: ファイティン・ラブ!~彼氏は推しでした~ ( No.6 )
日時: 2023/07/29 09:24
名前: このか ◆XqDKo6W48k (ID: emG/erS8)

《第6話》

お昼も食べて、今日の授業も終わりました!
このまま部活もないので帰ろうかと思ったけど、伊達さんに部活動の紹介をしないといけないことを思い出した。
うっかり忘れてた…。
委員長なんだから、ちゃんとしないと。

「まずは運動部ですね。運動部は数が多いです」
野球、バレー、バスケ、剣道、陸上、弓道、卓球、水泳、テニス、バトミントン。
体育館は2つあって、学校の行事とかでは第1体育館を使う。
体育館を使う部活も、外練があって、外のマラソンコースを走ったりとか持久力を高める運動をしてる、というのは同じ学級委員の三浦くんから聞いた話。

「なんか色々あるんだね」
「運動系は練習は厳しいですが、その分大会で多く実績を残しています。文武両道な人が多いです」
私は運動音痴だから運動系はとてもじゃないけど、入れないなぁ……。

「次は文化部です」
吹奏楽、新聞、合唱、手芸、料理、書道、茶道、囲碁、軽音楽。
私が茶道部にしたのは、中学校の時のやってたのと、活動日数が少なかったから!
「囲碁部はまだできてから3年ほどですが大会でかなり実績を残しています」
「柴田さんは何部なんだっけ?」
「私は茶道部です。でも、茶道部は廃部の危機に侵されてるんですよ。今の3年生が卒業してしまうと部員が4人になってしまうのでたぶん同好会になります」
「そうなんだ…。つまり、来年の4月が勝負」
「そうです!」

最後は同好会。
部員が5人以下だと同好会。
鉄道研究とか、英語とか、映画研究とか。
マニアックなものが多い印象がある。

活動しているところは全部見終えて、帰ることにした。

Re: ファイティン・ラブ!~彼氏は推しでした~ ( No.7 )
日時: 2023/08/09 15:49
名前: このか ◆XqDKo6W48k (ID: 0LPJk3K6)

《第7話》

「だいぶ遅くなっちゃったね。家まで送ってくよ」
という伊達さんの提案に、私は慌ててしまいました。
この高身長イケメン男子に家まで送ってもらうなんて、心臓が持たないと思ったからです。
「いえいえ…。そんなの恐縮です。伊達さんは電車通学なんですか?」
「うん。横浜駅から乗ってくよ」
「じゃあ、駅まで一緒に行きましょうか」
というわけで、私と伊達さんは横浜駅まで一緒に歩いて行くことにした。
偶然なことに乗る電車も同じだったので、一緒にホームで待つこととする。

「横浜駅ってホーム多いんだね」
「新幹線は止まらないけど、10番線まであります」
「桜木町も近いのかな」
「ここから京浜東北線などに乗ればすぐ行けます!私もよく行きますよ」
部活がない日は、陽花ちゃんたちとみなとみらいに遊びに行く事もある。
などというたわいもない話をして、私達は自宅へ帰る人達と共に、電車に乗り込んだ。

「次は~」
と自分の自宅の最寄り駅がアナウンスされたところで、やっと息がつけた。
家に帰れる!!
家がもっと横浜駅から先だったらこの高身長、イケメン男子に心臓破壊されてるところだった…!
「私、次の駅で降ります。伊達さんはもっと先の駅ですか?」
「いや…。次の駅だよ」
「すごい偶然ですね!」
まさかまさか。
私、ついに心臓が破壊されるのか…!?
どうしようという焦燥感に包まれながら、私は電車を降りました。
どうやら伊達さんも、同じ方向へ歩くみたいだったので、一緒に歩いていきます。

「まさか家が近いとは思いませんでした」
「確かに俺も思わなかったなぁ」
歩いてるうちに、家のマンションが見えてきたので、お別れ…と思ったら先に伊達さんが私の家のマンションへ入って行ったのでびっくりしてしまいました。
「え…!」
「どうしたの?」
エントランスで立ち尽くしている私に伊達さんが声をかけます。
「いや、私も同じマンションだったので…」
「え…?びっくりしたんだけど!」
私の心臓がとうとう破壊されてしまいそう……。
伊達さんと2人きりで、一緒にエレベーターに乗り込んだ私が自分の住んでいる階である「3」と書かれたボタンを押そうとすると____
そこは既に押されていました。

Re: ファイティン・ラブ!~彼氏は推しでした~ ( No.8 )
日時: 2023/08/21 11:23
名前: このか ◆XqDKo6W48k (ID: I3friE4Z)

《第8話》

2人きりでエレベーターに乗っているのだから、「3」のボタンを押したのは伊達さんであって、つまり、伊達さんは私と同じ階に住んでいる…ということになる。
この高身長イケメンが私と同じ階に住んでるなんて……!

私は伊達さんと同じ3階で降り、エレベーターを出てすぐにある自分の家の鍵を出しました。
伊達さんが同じ階に住んでいるなんて、動揺が止まらない…。
早く家に入って一息つこうと、私は急いで鍵を開ける。
そんな私の隣で、ガチャリと鍵が開ける音がし、私はさらに動揺する。
伊達さんが隣の家の鍵を開けていたのだ。
つまり、隣の家に住んでるってこと……!?
あぁ、もうダメだ。
自分の家が自分の家じゃないように思える。

高校を卒業して大学生になる時に家を出るにしても、あと1年9ヶ月…。
その間、私は毎日こうやって心臓をえぐり取られそうになりながら生活するのか。
いや、でも、伊達さんがあと1年9ヶ月ここに住んでいるとも限らないしなぁ。
まじでどうしよう…!

「あれ、隣に住んでるの?」
「あ、はい。伊達さんは最近引っ越してきたんですね」
「いとこみんなで集まって生活してるよ。でも人数が多いから思ったより狭いんだよね」
「そうなんですか、知らなかったです。そこの部屋の織田さんも教えてくれなかったです」
織田さんは確か大学生。
私がここに引っ越してきた時から、住んでたような気がする。
「そういえば最近、俺のいとこが茶道を極めてるらしくてさ、試しにその人のお抹茶飲んでみない?確か茶道部だったよね」
「はい」
「うん、じゃあ、上がっていいよ」
「え…!?あ、お邪魔します」

そして、居間代わりに使ってるらしい和室に通され、私が見たのは、ジャージ姿でお抹茶を点てている茶髪の高校生らしき少年でした。

Re: ファイティン・ラブ!~彼氏は推しでした~ ( No.9 )
日時: 2023/08/21 16:51
名前: このか ◆XqDKo6W48k (ID: I3friE4Z)

《第9話》

ジャージで!?
お抹茶を…点てるだと!?

茶道のイメージとはあまりにもかけ離れたそれに、私は驚愕してしまいました。
しかし、実を言うと、私の部活ではジャージでお抹茶を点てることはそれほど珍しくはない。
夏の間はジャージ登校が許可されているから、かなりの人がジャージで登校する。
熱いお湯を扱う茶道部でも、かなりの人はジャージで登校している。
でも、部活以外でそれを現実に見てしまうとなんだか異様な感じがして落ち着かない。
理由は分からないが、モヤモヤするのだ。

一旦それは置いて、綺麗に点ててもらったお抹茶をいただくことにする。
かなり泡立っているから、私と同じ裏千家のやり方を習っているのかも。
しかも私の好きな薄茶だったのでラッキーだった。
「お点前頂戴いたします」
と礼をし、お茶碗を回して茶碗の正面を避けてお抹茶を飲む。
疲れた体に、お抹茶の味が染み渡る……!

「お抹茶、美味しかったです。ありがとうございました」
「いやいや…。こんな格好ですみません」
その少年は言った。
「公の場ではないのですから、格好くらい気にすることはありません…!私の学校でも、夏はだいたいみんなジャージでお点前してますよ」
「そうなんですか!?驚きました」
などと、会話を交わし私は部屋を出た。
「ありがとうございました。それでは、失礼します」

家についてしばらくすると、郵便物をチェックするのを忘れてきてしまったことに気づいた。
慌ててエントランスに向かう。
中には、ハガキが一枚だけ入っていた。
差出人を見てまた驚愕する。
「貴史くんだ……!」

Re: ファイティン・ラブ!~彼氏は推しでした~ ( No.10 )
日時: 2023/08/24 13:39
名前: このか ◆XqDKo6W48k (ID: SQ5s5iz7)

《第10話》

貴史くんは、私が仙台に住んでいた時の幼なじみ。
中学生になってから、短歌や俳句を書くようになったらしく、よくこうしてハガキを送ってきてくれる。
なぜ私に送ってくれるのかは知らないけれど…。

今回は綺麗な空の写真が印刷されていた。
入道雲と、まるで全てを包み込むようにくっきりと青い空の写真。
心が落ち着く。

『こんにちは、お元気ですか。
僕は普通に平和な暮らしを送っています。
下校途中に綺麗な青空を見つけたので写真を撮ってみました。
喜んでもらえると嬉しいです。
追伸 今回はいい俳句が思いつかなかったので下手かもしれません…。』
その下には、俳句が綴られていた。
『初夏の空 澄み渡る青は 心の癒し』

確かに綺麗な青は心の癒しだなぁ。
私は納得する。
初めて横浜に来た時、駅の周りのビルの多さに私は戸惑ってしまったけれど、しばらくしてふと空を見た時、綺麗な青が広がっていてなぜか安心したのを覚えている。
全てを包み込むような青。
心を奪われてしまう青。

そんな青と共に、初夏が始まり、いよいよ夏が来ようとしている。