コメディ・ライト小説(新)

Re: ファイティン・ラブ!~彼氏は推しでした~ ( No.57 )
日時: 2025/06/21 18:29
名前: このか ◆XqDKo6W48k (ID: hfVure16)

《第38話》

「うーん……」
私はその日の夜、1枚の画用紙と、早速にらめっこを開始しました。
今まで、しおりの表紙なんて描いたことないし、何を描けば良いのか分からない。
静岡だから富士山と、あと何かシンボルのような建物があると、見栄えがいいんだけど……。

「何描くか決まった?」
後ろから、沙絵がそう、声をかけてきました。
「富士山を描きたいけど、それだけじゃ物足りないような気がして。何かいい建物とか食べ物とかあるかな?」
観光地調べの担当になった沙絵なら、何かいい情報を持っているかもしれない。
「ちょっと待って」
と、沙絵はスマホを操作すると、私に1枚の建物の写真を見せて来た。
レトロでノスタルジック。
川沿いにあって、豪華な和風建築が特徴だ。

「伊東って、温泉街だよね。やっぱ旅館?その建物」
「そうだよ。これ、『東海館』っていうんだって」
東海館……。
どこかで聞いたことあるような気がする。
昭和の初め頃に作られた木造建築の旅館で、今は、宿泊できないものの見学することはできるという。
「上杉君が言ってたけど、夜はライトアップされて、すごく綺麗なんだって」
沙絵が付け加えた。

私は、画像を調べ、画用紙に下書きを施す。
今回は、「点描」という美術の技法で描こうと思っている。
中3の頃に一度だけやった記憶があるものだが、その名の通り「点で描く」技法。
点の密度を各部分によって変えることで、陰影を表現することができるのです。
色は使わない。
黒一色だから、難しいけれど、上手にできるときっと立派な表紙になるはずです。
下書きを終え、陰影を考えながら、ざっと鉛筆で影の具合を記す。
ボールペンで点を打っていく度、中学生の頃の数少ない思い出が蘇ってきて……。
私はいつの間にか、点描の世界へと、のめり込んでしまったのでした。