コメディ・ライト小説(新)
- day11 錬金術 ( No.11 )
- 日時: 2024/07/25 10:44
- 名前: 今際 夜喪 (ID: aVnYacR3)
昔の人は、様々な金属から黄金を作ろうとした。錬金術である。ただの鉄が黄金になったら……なんて、確かに夢のある話だ。昔の人たちは夢を見て、実験を繰り返した。
錬金術の一種に、人造人間を作り出す方法がある。人造人間、ホムンクルス。夢を見た人々は、未知の生命体を生み出してみようと、好奇心に駆られた。
私は学校の理科室にいた。白衣まで羽織っている。机の上にはフラスコ、試験管、ピンセット、アルコールランプ。とにかく目についた器具が並べてある。そして今日の実験の鍵となる物を、そっと机に置く。ハンカチに包まれたそれは、私の手を離れるとぱさり。布がはだけて顕になる。
キラキラした色とりどりの鉱石。星の欠片。いや、口にしても死なない星の欠片、琥珀糖だ。赤、水色、緑、黄色と、透き通った宝石のようなお菓子。砂糖の宝石。今から私はこれらを使って奇跡を起こす。
その前に一つ、水色の欠片を口に放り込む。つまみ食いである。シャリ、と噛み砕くとほんのりソーダかラムネの風味がある。やはり、あまり美味しいとは思わなかった。このゼラチン質が余計な感じがする。
さて。切り替えて、ピンセットで琥珀糖を摘んだ。それをビーカーの中に落とす。ビーカー一杯に琥珀糖で満たすと、硝子越しに色とりどりできれいだった。
次に机の上のフラスコを掴む。中には虹色に輝く変な液体。変とか言っちゃ駄目。魔法の水なのだ。これを琥珀糖にかけると奇跡が起こせる。
「そーれ」
ばちゃばちゃ、琥珀糖が虹色の液体に触れて湿っていく。……本当にこれでやり方合ってるんだろうか? 僅かに疑問が生じたが、もう引き返せない。
玉響に爆発音。ピンクとも緑ともつかない、変な色の煙が発生した。吸い込んでしまって咽る。なんか毒ガスとか発生しただろうか? カビキラーとマジックリンは混ぜるな危険とか書いてあった。あんな感じで駄目な煙が出たのでは。
実験は失敗? 不安になりながら、発生した煙を手で払う。もくもくして、目の前がよく見えない。
煙が晴れてくると、私の目の前、机の上にセーラー服の少女が腰掛けていた。色素の薄いセミロングに白い肌。二重の目元にぱっちり睫毛。ツンと小ぶりの鼻と唇。細い顎。
少女は何が起こったのかわからないといった表情で私を見ていた。
「やった! 実験は成功だ!」
そう、これが錬金術。琥珀糖から理想の美少女を創り出したのだ。私の起こした奇跡。ホムンクルスの完成。
私はニヤニヤしながら少女の手を取った。
「初めまして、海月(みつく)」
「……みつく?」
「そう。あなたの名前だよ」
「私の名前」
「そうだよ。おはよう海月。気分はどう?」
「んー」
考え込む仕草が可愛い。やはり可愛い女の子というのはお砂糖でできているものなのだ。
──ガバッと私は布団から飛び起きた。
「海月がお砂糖でできてる!?」
いつも私が就寝しているベッド。ここは私の部屋だった。
辺りを見回すと机と椅子があって、椅子にはあの理想の美少女、海月が座っている。いや、言うほど美少女じゃない。整った顔かもしれないが奥二重だし。
「私はたんぱく質でできてるけど……?」
海月は怪訝な顔で私を見て言う。何コイツ、頭おかしい、とでも言いたげだった。ムカつく。
「こっち見んな」
「だって急に飛び起きるんだもん。なんか変な夢でも見たの?」
「見た。夢の中でも夢って見るもんなんだね」
「ね。マトリョーシカみたい」
海月と軽口を叩き合って、ホッと胸を撫で下ろす。海月は私が創り出した存在じゃないし、琥珀糖でホムンクルスはできないし、そもそも私は錬金術師じゃない。
夢が醒めてよかった。