コメディ・ライト小説(新)
- day13 定規 ( No.13 )
- 日時: 2024/08/13 17:21
- 名前: 今際 夜喪 (ID: ktd2gwmh)
追い縋る斬撃から逃れるべく、私は一つの教室に転がり込んだ。そこなら長い獲物を振り回しづらいだろうし、数ある教室の何処に私が潜んでいるかなんて、相手にはわからないはずだと考えたのだ。
深夜。消灯された学校にて。窓から差し込む月明かりだけが頼りだった。
教卓の影に隠れ、息を潜める。心臓の音が煩い。緊張で指先が冷たい。呼吸一つ、冷や汗の滴る音すら忍ばせていたかった。
遠く、足音が近付いてくる。廊下を上履きが擦れる音。それが私の教室前で止まった。駄目だ、ここでじっとしていても斬られるだけだ! 私は教卓の影から躍り出て、標的の位置を確認するべく、相手を睨みつけた。
「あは。折角隠れてたのに出てきちゃうんだ?」
相手は、海月(みつく)は口元を歪めて嗤う。凶器を翻して。ギラリ、得物は月明かりを受けて反射する。
「立ち止まってたらあんたに殺されるのを待つだけでしょ?」
「うふふ、うん。殺しちゃうよ♡」
海月はセーラー服のスカートを翻し、教室の机の上に飛び乗った。そのままタン、タンッと机の上を跳んで此方へ距離を詰めてくる。
やば。そう思って何かできないかと辺りを見回す。教室の出口はやや距離があり、私は武器を所持していない。駄目だ、逃避も反撃もできない!
「余所見なんかしちゃ嫌だよ糖子! 私だけを見て!」
目を離した刹那、海月はかなり接近していた。
不味い、と思ったときには遅い。
海月は机を蹴って私に飛びかかってきていた。
振り上げた武器がギラリと月明かりを反射させる。
ペチ。
「あイタぁ!」
振り下ろされた武器は、三十cm定規。プラスチックでできた透明のそれは当たると地味に痛い。薄っぺらいので刃物みたいにも見えるため、海月はそれを剣に見立てて私を斬りつけようとしていたのだ。
「ぐはー、やられた!」
言いながら私はその場に崩れ落ちる。たたらを踏んで着地した海月は、満足げに私を見下ろした。
「私の勝ちだね。次は糖子も定規持って、チャンバラしようよ」
「まだやるの? コレ」
「やるよ。本気でチャンバラする機会なんてそうそうないでしょう?」
プラスチック製の定規を指先で撫でながら、海月は不敵に微笑む。確かに負けっぱなしはつまらないから、もう一戦くらいはいいかもしれない。