コメディ・ライト小説(新)

day16 窓越しの ( No.16 )
日時: 2024/08/16 22:37
名前: 今際 夜喪 (ID: Eay7YDdj)

 学校へ行くために電車に乗っている。三つ目の駅に到着したとき、向かいの線路で停車していた車両内が、窓越しに確認できた。
 乗客の後ろ姿。セーラー服の少女がいる。彼女は手首に包帯を巻きつけていて、その下に眠る傷跡が勝手に想像できてしまう。
 リストカット。自らの皮膚を切りつける行為。あれになんの意味があるのか、私には理解できない。しかし、その少女には何かしらの理由があり、腕を切りつけるべくして切りつけたのだろうから、私が勝手に妄想を巡らせることすら傲慢な行為と言えるのだろう。
 考えるのをやめたくて、視線を逸らす。やがて電車は動き出して、窓越しの少女が離れていく。赤の他人。それも電車で偶々視界に入っただけの人。そんな誰かの傷に思いを巡らせるなんて。
 思考しながら、自らの手首に触れる。絆創膏に覆われた皮膚。その下に眠る傷。窓越しの彼女も私と同じなら。

 ──机の硬さが心地悪くて、目を開ける。腕の骨が頬に当たっていて痛い。
 上体を起こす。私は教室の机に突っ伏して眠っていたらしい。セーラー服の少女。海月(みつく)がそんな私を見守っていた。穏やかな表情で私を見つめている。

「おはよう、糖子。よく寝ていたね」
「……夢を、見ていた」
「へえ。また夢の中で夢を見ていたの?」
「うん。そっか、あれは夢。今も夢。もう私、何が現実で何が夢なのか、わからなくなってきたよ」
「ウケる」
「ウケないわ」

 伸びをする。夢。どんな夢を見ていたっけ。窓の向こうに女の子がいて、それで、なんだっけ。
 なんとなく自分の腕を見た。生白い手首の下、血管が見える。それだけのサラッとした皮膚。なんで腕を見たんだっけ。なんだっけ。