コメディ・ライト小説(新)

day17 半年 ( No.17 )
日時: 2024/08/17 22:36
名前: 今際 夜喪 (ID: Eay7YDdj)

 いちめんのひまわり。
 いちめんのひまわり。
 いちめんのひまわり。
 いちめんのひまわり。
 セーラー服の女の子。
 いちめんのひまわり。
 と言うような。見渡す限り黄金。背の高い向日葵が視界一杯に埋め尽くしていて、青く澄んだ空とのコントラストが眩しかった。
 そんな景色の中を、セーラー服の少女がはしゃぎ回っている。色素の薄いセミロングとスカートを揺らしながら、嬉しそうに走り回る。何が楽しいのか、向日葵の塀でできた通路をバタバタと。何やらキャーキャー喚いている。
 彼女の名前は歌方(うたかた)海月(みつく)。向日葵初めて見たってくらいのレベルで向日葵畑の間を駆け抜けている。

「はち! はち!」

 なんか叫んでる。叫んだまま此方に駆け寄ってきた。

「はちぃ──!」
「何、うるさいねえ」
「スズメバチィィィ!」

 私は咄嗟に海月に背中を向けて走った。

「ヤダヤダ! なんで逃げるの糖子! 助けてよ!」
「スズメバチなんか死ぬじゃんイヤだよ! アナフィラキシーショックで死ぬ!」

 と言うようなこともありつつ。
 木陰に二人で腰を下ろして、ラムネ瓶を煽る。海月は飲むのが下手で、中のビー玉が飲み口に落ちてきては、中身が出てこなくて困っている。

「糖子さん、今年も半分が終わりましたが、どんな塩梅ですか」
「塩梅も何も。終わったねー、くらいの感想しかないよ。てか海月、ラムネは瓶の窪みにビー玉を嵌めて傾けるんだよ」
「やってるよー。なのに落ちてくるんだよ。飲みづらいねえ、瓶ラムネって」
「下手くそ」

 鼻で笑って、瓶を傾ける。見上げる硝子瓶の中、夏空が揺れる。口内を満たす炭酸。ぱちぱちと爆ぜる中に、不思議と酸味がある。口の中で転がして炭酸を殺してから、喉を潤す。
 七月。一年の半分が過ぎて、深まる夏に茹だるような暑さ。八月はもっと暑いかな。残暑の九月もしんどいよな。そうやって先のことを考えて、当たり前に先の人生を過ごす想定をしている自分が不思議だった。
 未来を当たり前に享受することが、不思議だった。

「八月と言えば夏休みだけど、海月はどう過ごすの?」

 ラムネの瓶を煽る。カラン、ビー玉と瓶が触れ合う音が鳴る。
 返事がない。
 あれれ? と思って、隣を見た。海月はいなかった。代わりに飲みかけの瓶ラムネが置いてある。

「私を一人にしてどこ行くねーん」

 ポツリと口にしてみて、空虚に響いた。