コメディ・ライト小説(新)

day2 喫茶店 ( No.2 )
日時: 2024/07/04 22:33
名前: 今際 夜喪 (ID: Eay7YDdj)

 セピア色のライトに照らされて、クリームソーダの表面が汗をかく。向かいに腰掛けるセーラー服の少女は、嬉しそうにストローを咥え、緑に透ける液体を吸い上げた。

「あなたは夢を見ているの」

 ひと呼吸おいて、彼女は言った。

「醒めない夢を、見ているの」

 彼女──歌方(うたかた)海月(みつく)は私を真っ直ぐ見つめて言った。
 夢。馬鹿げてるな。嘆息して、私は椅子に深く座り直した。後頭部の結び目がくしゃっと歪んだけどどうでも良かった。

「夢だとして何。海月の飲んでるそのクリームソーダも夢なの? そんなに美味しそうに飲んでるのに」
「美味しいよ。でもクリームソーダって何処の店でもしゅわしゅわして冷たくて甘くて、合成着色料の緑が安っぽい色してる。味は想像つくでしょう? 夢って想像だから、知ってる味なら美味しく感じるんだよ」
「はあ……」

 聞いてる間に、店員さんがお待たせしましたと珈琲を私の前に置いた。黒く揺れる表面から、薫り高い湯気が昇る。

「夢なら、海月の存在も夢だというの?」
「そうだよ」

 海月は頬杖を突いて、上目遣いに私を見た。口元の湿布が嘲笑するように歪んだ。

「夢でも、クリームソーダ代は払ってよね。八百円」
「ええ……」

 私の言葉に不満そうな声を漏らす海月。無視して、珈琲のカップを口に運ぶ。苦味の奥に甘みがある。のは、砂糖を入れたから。