コメディ・ライト小説(新)

day26 深夜二時 ( No.26 )
日時: 2024/08/30 22:31
名前: 今際 夜喪 (ID: Eay7YDdj)

「糖子ちゃん、夏休みだからっていつまでもゴロゴロゴロゴロ、ゴロゴロと! 朝です! お散歩に行きましょーっ」

 と、夏休みにも関わらずセーラー服の女に叩き起こされたのは午前二時。二時起きはゴロゴロの内に入らないよ。なんなら朝のうちにも入らないからいい加減にしてほしい。

「本当にいい加減にしてほしい! 窓の外真っ暗だよ!」
「お散歩行こうよ糖子!」
「なんなの、犬なん? 犬だってこの時間に散歩しないわ。じゃあなんだろう。妖怪なん? そもそもこんな時間に高校生が外歩いてたら補導されるでしょーが。セーラー服着るのやめて」
「あ、散歩はするんだね。流石糖子」

 眠い目を擦りながら、とりあえず私達は適当なティーシャツに着替える。そうして外へと繰り出した。
 外気が思ったよりも涼しくて驚く。確かにこの時間、夏なら一番気温が低いかも知れない。
 辺りを見回して、人気の無さが不気味ですらあった。家々の明かりが落とされており、あるのは街灯と星明り。人の寝静まった夜更け。この世界に私達以外誰もいないのではないかとすら錯覚してしまう。
 私達は何も言わずに歩き出した。昼間の活気や猛暑を忘れ、生きとし生けるものが息を潜めているような不思議な時間。二人分の足音だけが響いた。
 いや、何やら音はする。ブン、カン、カン。虫の羽音と、ある程度の硬度があるものが何かに何度も当たるような音。見回せば、すぐに正体を知ることになる。近くのアパートの蛍光灯。光に引き寄せられた甲虫が、羽ばたいては蛍光灯に体当りする音だ。虫特有の理解不能な動きに恐怖と嫌悪感を抱く。

「うへぇ、虫キモーイ」
「夏の夜は虫がキモいから、外に出るべきじゃないかもね」

 子供の頃はなんともなかった虫全般、このくらいの歳から気持ち悪くて仕方がない。中学生のときはまだ大丈夫だった気がするのに、どうしてだろう。

「海月(みつく)もそろそろ気が済んだでしょ。帰ろ」
「そうだね。虫がキモいから」

 人々の寝静まった時間。風情の一つでも見つけられればよかったのだが、虫が怖いから断念。それもまた、風情と呼ぶかもしれない。