コメディ・ライト小説(新)

day27 鉱石 ( No.27 )
日時: 2024/08/30 22:33
名前: 今際 夜喪 (ID: Eay7YDdj)

 朝。いつも通り六時頃に起床。そう、私はいつもならそれくらいの時間に目を覚ます。四時とか二時に起こすようなアホがいなければ、ちゃんと規則正しい生活を送っているのだ。
 自室のベッドで上体を起こすと、セーラー服の少女が窓の外を見ているのが視界に写った。手首には包帯。指先には絆創膏。セミロングの傷だらけの少女は、物憂げな様子で窓の向こうをじっと見ている。
 私も彼女の視線の先を見た。なんてことない、晴れた青い空に、電線の黒が見えるばかり。住宅街にある自宅から見える景色といえばこれだ。
 ならば彼女は。海月(みつく)は、どうしてそんな顔をするのだろう。寂しそうな、思い詰めるような表情は、何を意味するのか。

「どうかしたの、海月」

 呼びかける。私の顔を見るときにはもう、なんでもないように取り繕っていた。

「どうって、何が?」
「…………いや。海月がなにもないってことにしたいならいいよ」

 踏み込んだって仕方がない。他人のことは分からない。どうしたってわからないのだ。
 海月はそう、と返事をして、窓際の机の上に何かを置いた。ハンカチで包まれた星の欠片。キラキラと色とりどりの宝石。違う、琥珀糖だ。

「あんたそれ好きだね」
「好き。糖子と同じくらい好き」

 唐突に好意を伝えられて、しどろもどろする。人に好かれることは嬉しい。胸が弾むような心地よさに、思わず口元が緩んだ。

「海月って変な奴。琥珀糖と同じくらいって何よ。私のこと、お菓子と同じベクトルで好きなわけ?」
「糖子のとうは、砂糖の糖だから」
「なにそれ、安直」
「分かりやすくていいでしょう?」

 海月は私に笑いかけると、琥珀糖を一つ摘み上げて、私の顔の前に差し出してくる。青く透き通ったそれは、ラムネかソーダの味がする。ラムネとソーダって何が違うのだろう。大体同じか。じゃあどっちの味でもいいや。
 差し出されて、しかし口を開くのを躊躇った。

「私、琥珀糖はあまり好きじゃないよ。甘過ぎるんだから」
「そういう甘味が大事になるときが来るよ」
「いつ?」
「いつか。糖分の甘さって、人に抱きしめられるときと同じくらいの優しさだよ。だから人は、人生において甘味を何度も摂取するの。ほら、糖子も食べて」

 促されるままに口を開けた。ころん、と落とされた琥珀糖を噛み潰す。シャリ、と口内に広がるのは、やっぱり甘すぎる甘味。

「そもそも、琥珀糖ってどこで手に入るの?」
「鉱山。ピッケルで岩を削ってると、そのうち色とりどりの琥珀糖が見つかるよ」

 手軽な嘘に、口を尖らせる。私の様子をしばらく楽しんで、海月も一粒、琥珀糖を口に放った。そうして噛み砕く。砕きながら話す。

「あは、冗談。最近じゃ割とどこにでも売ってるよ。スーパーでもお洒落な雑貨屋でも、お菓子屋さんでも」
「へえ。気が向いたら買ってみるよ。気が向いたら」