コメディ・ライト小説(新)

day3 飛ぶ ( No.3 )
日時: 2024/07/04 22:37
名前: 今際 夜喪 (ID: Eay7YDdj)

 もしもこの世界が現実でないのだとしたら、飛び降りたところで私は死なないのだろうか。

 屋上から見下ろした地上は遠く。しかし、足を踏み出せば瞬きの間に、この体をアスファルトに叩きつけるのだろう。
 フェンスは灼熱の太陽に熱されて熱い。しかし構わず、私はそれを鷲掴みにする。次は爪先をかける。体重を預ける。脚をひょいと上げて、乗り越える。着地。
 フェンスを超えた先の、僅かな空間。そこにサンダルで立って、静かに空を見上げた。太陽は変わらず痛いほどに熱い。しかし、吹き付ける風が心地よい。このまま私の体を攫って、地の底へ叩きつけてしまいそう。
 目を閉じて、息を吸った。吐いた。意識すると心臓が内側から胸を叩いて喧しい。背中に滲む汗の正体は暑さからか、恐怖からか。ちゃんと怖いって感じるのは生きている証だ。別に生きていたいわけでもないのに怯えるのは、本能だ。生きとし生けるもの、死が怖い。

 なのに私は飛び降りる。
 はずだった。

 傾ぐ体。掴まれた手首が痛む。目を開ける。セーラー服の少女が必死になって、私の命を繋ぎ止めていた。触れた指先に、絆創膏の感触がある。傷だらけの手で、彼女は、海月(みつく)は私を離さない。

「どうして?」

 どうして止めるの。

「さて、どうしてでしょうね?」

 海月は意味深な笑顔を浮かべ、私の腕を引っ張った。邪魔なフェンスの内側に引き戻されて、屋上の床に二人して転がる。

「眩しいねえ」

 転がって、空を見上げて、海月がぽつりと零した。
 視界いっぱいに、入道雲の白と空の青が埋め尽くしている。