コメディ・ライト小説(新)
- day7 ラブレター ( No.7 )
- 日時: 2024/07/07 21:28
- 名前: 今際 夜喪 (ID: Eay7YDdj)
拝啓
あなたがこれを読んでいるということは、私はもうこの世にいないでしょう。こういう書き出しからあなたが察する通り、これは遺書です。実によくある素朴な理由で私は死ぬことを選びました。ただそれだけなんです。
家に居場所がない。学校に居場所がない。私の世界は家と学校を往復することなのに、その二つとも駄目になったら、世界が壊れたも同然なんです。未来に希望を持てるはずもないのです。駄目だから、生きていたくなくて、死んじゃえばいいかなという考えに至ったわけです。
私は私のことが嫌いです。自分から行動しないくせに何か、世界が素敵に変わることを夢見てしまうこと。そんな御伽噺のお姫様みたいに物事は上手く行かないから、居心地の悪い教室で何も変わらない日々に絶望する。何となく嫌いなクラスメイトに何かを求めて、何もくれないことを勝手に呪って、最低な人間で、こんな私のこと誰も愛さないのは当たり前で。
一人で飲んでもきっと美味しくないクリームソーダ。手が伸びないから珈琲を飲みました。今の痛みを忘れたくて腕に切り傷をつけました。泣きたいくらい痛かった。だけど、血塗れの腕が愛おしいって感じました。傷だらけで、可哀想。きっと私、世界一可哀想な子。可哀想な私なら、愛してあげられる気がしたんです。
どうでしょうか。私は私を、愛せたかな。
「ラブレターみたいだね」
私の自室で、少女が言う。勝手に私の椅子に腰掛けて、実に静かな感想だった。
ベッドに腰掛けた私は、瞬きをする。少女がこちらを見る。私の遺書を読んだ彼女は、ゆっくりと頬を綻ばせた。色素の薄いセミロングがさらりと揺れる。
「何言ってるの」
遺書を持つ彼女の指先には、相も変わらず絆創膏が巻きついている。指、手首、腕、二の腕とどれだけの傷があるのか、包帯で隠されている肌の様子を私は知らない。
その彼女が、歌方(うたかた)海月(みつく)が私の遺書をラブレターと読んだ。どういう読解力をしていたらそんな答えが導き出されるだろうか。ちょっと苛立ち、口を開いた。
「私は私のことが嫌いだって書いた。海月にはその文が読めなかった?」
「読んだよ。三回くらい読み返したよ。それで、ラブレターみたいって思ったの」
海月の言うことはよくわからなかった。私は私が嫌い。なのに?
「糖子は、自分のことを愛したかったんでしょう? 自分のことが嫌いでも、糖子は糖子を愛したかったんだから、きっとこれは愛する人への手紙だよ。それって、ラブレターと呼ぶでしょう?」
「呼ばないよ。だってそれは遺書なんだから」
「そうかな」
「そうだよ」
「でも私は糖子のこと、愛してるよ」
面と向かって伝えられる好意。感情は動かなかった。