コメディ・ライト小説(新)
- day9 ぱちぱち ( No.9 )
- 日時: 2024/07/09 19:45
- 名前: 今際 夜喪 (ID: Eay7YDdj)
夕刻。ブランコと滑り台と砂場。あとはベンチがあるだけの小さな公園。人気のないそこで、私達は静かに過ごしていた。
ブランコに腰掛けて、ゆらゆら。子供の頃のように思い切り漕いだりはしない。そうやってはしゃぐような気分ではなかったから。
揺れながら、空を仰ぐ。夕陽のオレンジに照らされて、入道雲が色づいている。じっと眺めていると、のろのろと輪郭が形を変えていく。それが別に面白い訳では無かったが、他にすることがないから私はぼんやりと見つめていた。
その視界の端、透ける球体が宙を漂っている。群れを成して、ふよふよ。球体の表面に写りこんだ景色が反転している。しばらく見守っていると、ぱち、ぱちと爆ぜ消えてしまう。シャボン玉。彼らはそういう、儚い存在だった。
シャボン玉の流れてくる方向を見ると、滑り台の上にセーラー服の少女がいる。筒にストローの先を浸けて反対側を咥えると、息を吹き込む。途端、魔法みたいにきらきら、シャボン玉が群れを成して宙に散らばった。
ぱち、ぱち。いくつかは直ぐに爆ぜて消えてしまうが、いくつかは私の近くまで流れてきて、風に煽られては空へ昇っていく。
ふと、少女と目が合った。微笑んだ彼女が楽しげに手を振る。つられて手を振り返した。
「糖子もやる?」
少しだけ距離があるから、彼女は声を張る。
シャボン玉か。小学生以来やっていないことに気付いて、少し悩む。
「一緒にやろうよ。おいで、糖子」
悩んでいたら、有無を言わせない声。
私と一緒にやりたいんでしょ? そう思って、呆れたように肩を下げた。
「今行くから待ってて、海月(みつく)」
ブランコを飛び降りて、靴で砂利を踏みしめる。
「はやくー」
「急かさないでよ」
私が歩いて向かうのを待つ間、海月はもう一吹きして、シャボン玉を飛ばす。夕焼けのオレンジが反射してきらきら。漂ってはぱちぱち爆ぜ消える。きれいだった。