コメディ・ライト小説(新)

王朝 ( No.1 )
日時: 2025/05/04 06:52
名前: 小説好きな医師 (ID: THBfOZma)

1636年、中国は清朝と呼ばれていた統一王朝に、国号を改名され「清」と名付けられた。



「徳州扒鶏(とくしゅうはっけい)を作りたいから鶏肉を買ってきて」


赤い満州服を着た9歳くらいの女の子、俪杏(リーシー)は母親にそう言われてしまい、しぶしぶ街を歩いていた。


赤い提灯が並べられた街並みには、中華料理店やカフェのような店がずらりと並んでいる。

また街の中心部には大きな橋があり、その下に流れる水流は、いつも通りゆるやかだ。


ん? クンクンッ……!

その時、俪杏の方に何やら独特な匂いが漂ってきた。

この甘酸っぱいような匂いは……間違いないっ、杏仁豆腐だ!

俪杏は買い物のこと何かそっちのけにして、匂いのある方へ辿っていった。



そして、ようやく着いた……。

ここだ、ここから甘酸っぱい匂いがする……!


そこは「好吃菜館(ハオチーサイカン)」と看板が立てられた1階建ての中華料理店だった。

垂れ下がる赤い提灯に瓦の付いた特徴的な屋根。

もう入るしかないっ!

中に入ろうとしたところで、俪杏は手に持っている荷物を見て思い出した。

そうだ、買い物をしていたんだった。


しかし、杏仁豆腐の甘い誘惑には勝てっこない。

それに……。

俪杏は荷物から銅幣10枚を手に出した。

これだけあれば、余裕でしょ。

悪だくみをするような笑みを浮かべたまま、銅幣を荷物に戻し店内へと入る。


「いらっしゃいませ! こちらのお席へどうぞ!」

20代くらいの若い女性が明るく出迎えてくれた。

俪杏は誘導されるがままに席に座る。

席は丸いテーブルに何人も座れるような椅子の数々。

ここを一人で使うには何だかもったいない気がした。



さて、メニュー表なんて見る必要もない。

既に頼むものは決まっているのだから。


「何に……」

俪杏が席に座ったのを確認し、店員は口を開ける。

「杏仁豆腐くださいっ!!」

俪杏は店員の口を挟むように大声で口に出す。

幸い、まだ開店したばかりらしく周囲に客は居ない。


「わ、わかりました……では、ほかに何か……」

「やっぱ杏仁豆腐、もう一つくださいっ!!」

俪杏は再び店員の口を挟むように大声で口に出す。


「え、あ、はい……」

(杏仁豆腐以外でって意味なんだけどなあ……うう、やりにくいなあ……)


俪杏は下をうつむき、もじもじとしている。

「あの、やっぱ杏仁豆腐もうひと……」

「もうやめてくださいっ!!」

店員の方も必死だ。

「……ごめんなさい、2つでいいです」

「それでは、杏仁豆腐2つでよろしいですね?」

「はい……」

店員に口止めされたかのように、俪杏は返事をするしかなかった。


「しばらくお待ちください」

店員はそう言って、店の奥へと入っていった。


(んー、杏仁豆腐3つはダメなのかなあ……でも、もっと食べたいしなあ……)

俪杏は杏仁豆腐のことが頭から離れなかった。

なんで3つ以上がダメだったのか俪杏には分からない。

けど、店員に口止めをされてしまったからには、気長に待つしかない。