コメディ・ライト小説(新)

お願い ( No.3 )
日時: 2025/05/04 07:36
名前: 小説好きな医師 (ID: THBfOZma)

ついに俪杏は「徳州扒鶏の店」という所に辿り着く。

「いらっしゃい!」

30代くらいで腕の太い男性が話しかけてきた。

大きい……!!

俪杏が半ばびっくりしていると、その男性は俪杏の心を探るように「徳州扒鶏なら銀幣4枚になるよ」と答えた。


銀幣4枚って、つまり銅幣40枚ってことだよね!?

もしや杏仁豆腐を買ってしまったから!?

いや、ってか元から銅幣そんなに持ってないし!!


「あの……」

「ちょっと待ってくださいねっ!!」


1、2、3、4、5、6……やっぱ6枚しかないっ!?

これは一回、家に戻るべきか……いや、でも二往復はしたくないしなあ……。


「んーーーー!!」


「あの、お嬢さん、何かお困りですかね?」

俪杏は突然声を掛けられ、俯いた顔を上げる。


そこには、少し太った優しそうな男性が居た。


全然気がつかなかった。


……とりあえず、今までのことを話しておこう。

何かしてくれるかもしれない。


「……って訳なんです」

「ほう、つまりお金が欲しいと?」

「です」

男性は「はっはっは」と高笑いしながら手を引っ張る。

「こっちへおいで」

ま、まさかっ!! 誘拐っ!?


「わ、私を連れてどうするつもりですかっ!!確かに私は杏仁豆腐を食べました!!それも2つ食べました!!」

「いや聞いてないから。それより、やってもらいたいことがあるんだ」


「やってもらいたいこと……?」

一体、何だろう。


いつの間にか、2人は暗い裏道に入っていた。


「ここ。さ、入って」

男性はそう言い扉を開ける。


そこは、古びた看板で「衣服屋 芳(イフクヤ ファン)」と書かれた店だった。

芳とは、この人の名前だろうか。


とりあえず中に入ってみよう。

中は広いとは言えないが、造りはしっかりとしていて、様々な種類の満州服が置かれていた。


すごい……。


「ちょっと待っててね」

そう言って、男性は奥の方へと入っていった。


しばらくすると、何かの衣装を持って戻ってきた。


「じゃーん!」

男性は、そう言って自信満々に、その衣装をこちらに見せる。

その衣装は、詰襟で横に深いスリットが入った赤い衣装だった。


「それ、何ですか……?」

初めて見る衣装に、俪杏は不安を覚える。


「初めて見るもんね。……これはねー、中国初の衣装、中華風ドレスだよ!!」


「ドレ……ス……? って、西洋の衣装じゃ……」


「そうだね。まあ、詳しく言えば、西洋のドレスを真似て作ったって感じかな。……それで、お願いがあるんです!! この衣装を着て、宣伝をしていただけませんかっ!!」

男性は、とても必死だった。

「でも……」

ドレス?を着る勇気なんてないし、一人だけ、その服装っていうのも恥ずかしい。


「やっていただけたら、銀幣60枚を差し上げます!!」

「銀幣60枚っ!?」


やってもいいかも。

すぐ終わることだろうし、これをやれば、さっき買えなかった徳州扒鶏も買えるってことだよねっ!

それに、ちょっと着てみたい気持ちもあるから……。

「やりますっ!! いえ、やらせてくださいっ!!」

「本当にっ!? いやー、よかった、君みたいな可愛い子供を探してたんだよ。きっと中国製のドレスは人気が出ること間違いなしだな!!」


少し大げさな気もするが、本当にそうなるのかもしれない。

この清潔感のある服装は、今までの衣装とは違ってきっと人気の出ることだろう。

不安混じりに楽しみでもある俪杏なのだった。