コメディ・ライト小説(新)

チャイナドレス ( No.4 )
日時: 2025/05/06 08:08
名前: 小説好きな医師 (ID: THBfOZma)

「では、こちらへ」
その服を渡された俪杏は、奥にあった部屋に誘導された。

こんなところがあったんだ……。

そこは、俪杏に渡されたのと同じような服がいっぱいあった。

恐らくこれらは失敗してしまった服だろう。


「じゃ、外で待ってるから」

男性は、そう言うと、ゆっくりと扉を閉める。


え、あ、でも……着替え方わからないんですけど……。




何とか着替え終わった俪杏。

机の上に置いてあった漢鏡で、服装を最終確認する。


これで、いいんだよね……?

ドレスは一度だけ西洋の人が着ていたのを見ただけで、これには全く自信もない。

けど……。

俪杏は、ゆっくりと扉を開ける。


「ど、どう……ですか……?」

初めて着るドレスは、まだ着慣れておらず少し不思議な感じがする。

普段着とは違う俪杏を見た瞬間、男性の顔は、ぱあっと明るくなる。


「すごく可愛いよ!!」

可愛い、その一言が相応しいだろう。

まあ、顔はもともと可愛いけど。


「本当ですかっ!?」

俪杏は顔を上げ、必死に男性に聞く。

「あ、ああ」

「杏仁豆腐より可愛いですかっ!?」

「ん……?」

杏仁豆腐……?比較対象がおかしくなってないか……?

「あ、ああ」

いや、杏仁豆腐の可愛さが分からないんだが……。

「やったー!!」

そう言って無邪気に飛んでいる俪杏を見ると、男性も何だか嬉しくなった。


「じゃ、行こうか」

しばらくして男性は合図をかける。

「でも……」

「大丈夫。……さあ!」

男性はそう言って、俪杏の手を掴み外へ連れていく。

外に出た瞬間、一瞬だけ眩しい光が2人を襲う。


そして、いつの間にか…………街の中心部に来ていた。


街の中心部は特に人が賑わっている。

周囲の人々は、突然出てきた2人に困惑している。

初めて見る服装に、怪しげな目で見てくる人々。

だよな……普通そうなるよな……。


「さて、皆さん、こちら中国製のドレスです!!」

いやいやいや、めっちゃ注目されてるっ!!

こんなのお母さんに見られたら絶対おこられちゃうよっ!!

俪杏は涙目で衣服屋の男性に訴えかけるが、男性は全く気付いてくれなかった。


「あのさあ、一つ質問していい?」

一人の若い男性が俪杏の隣に居た男性に聞く。

「はいっ、どうぞっ!」

「ドレスってなに?」

自信満々な衣服屋の男性に、若者は平然として聞く。

「お、お、おいっ! ドレスを知らないんですかっ!?」

「だってあれって、西洋の服だろ?中国人にドレスはイメージわかないよ」


その時、何者かが奥からやってきた。

先ほどまではザワザワとしていた人々も、急に静まり返る。


「奴らだ……」

「ですな……」

奴ら。それはこの町で一番威張っている悪者。

この町では、いつしかそう呼ばれてきた。

奴らは、いつも通り茶色く大きな馬に乗ってやってきた。

一番前に居た大柄なリーダーを先頭に、周囲からも赤色の戦闘服を着た兵士がゾロゾロと集まる。


リーダーは2人の前で馬を止めさせると、上から目線にニヤリと笑った。

「おいおいおい、なんだその服装は? いいか、本国で許されているのは満州服だけだ! 今すぐ着替えろ!」

金も武器も貧しい街の人が、奴らに勝てるはずはない。

そう分かっていた2人は、奴らに従うしかなかった。


2人は衣服屋に戻る。

「あの、これ、ありがとうございました! 短い時間だったけど、ドレスが着れて嬉しかったです!」

「こちらこそ、ありがとう。ドレスは、まだまだ時代についていけなそうだけど、これでもっと自信がついたよ。これからは、更に凄いドレスを作ろう」

「えっ!? ほんとーっ!?」

俪杏は嬉しそうに答える。

「ああ。……あ、そうそう、銀幣60枚だったね」

そう言って、男性はポケットの中から袋を取り出し、そこから銀幣を60枚数え、こちらに渡す。

俪杏は、銀幣60枚を受け取る。

「わー!! これで杏仁豆腐いくつ買えるかなー!」

「ん? なんか言った?」

「いえ、ひ、貧困な袋から、き、貴重なお金を下さり、あ、ありがとうございます!!」

「なんか若干失礼だけど、まあいいか。……徳州扒鶏、頑張って手に入れるんだよ!!」

「はーい!!」

さ、杏仁豆腐、じゃなかった徳州扒鶏を買いに行くぞー!!


男性の大声を胸に、俪杏は再び徳州扒鶏を買いに出かけた。