コメディ・ライト小説(新)
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- Ghost helpers!
- 日時: 2016/11/14 20:37
- 名前: 北風 (ID: baOn2Ld/)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=11169
初めまして北風と申します。
ここに小説をあげるのは初めてです。
この小説はもともと別のチャットサイトにあげていたものです。
それを少し修正し書き直したものがこの作品です。
初心者だし、初めて書いた小説なのでグダグダな所もありますが、どうか見限らずに読み続けてくれるとありがたいです^^
あと、コメントやアドバイスは これでもかー!ってくらい欲しいです!誰かに褒められていないとやる気がすぐに無くなる面倒な人間なので(笑)
少し辛口なアドバイスでも喜んで受け取らせて頂きます。
気が向いたら何か書いて下さると有り難いです。
まだまだ未熟ですが、私の小説で少しでも多くの方に楽しんでいただければ幸いです^^
この小説は基本真面目に見せかけたコメディーです!
どうぞ軽い気持ちで読んで下さい!
- Re: Ghost helpers! ( No.9 )
- 日時: 2016/12/06 14:55
- 名前: 北風 (ID: cr2RWSVy)
≪8話≫
「ふた……ご?」
俺が聞き返すと沖花は「はい」と頷き、
「杏菜、こっちおいで」
と手招きをした。
杏菜は虚ろな表情でふらふらと沖花の元へ歩み寄った。
「杏菜、ダメでしょ?勝手に家から出たら」
沖花はしゃがんで杏菜の手を自分の両手で包み込んで窘める。
「………………………」
だが杏菜は何も言わずに沖花の顔をじっと見つめていた。
明らかに普通の子供とは違う。
俺は桃菜の無邪気な笑みを思い出していた。
同じ顔をしてはいるが………本当に杏菜は桃菜の妹なのだろうか?
沖花はしばらく沈黙した後、ゆっくりと立ち上がると俺達に頭を下げた。
「杏菜がご迷惑をお掛けしたようで」
「ああいや……別に俺達は何もしてねぇから………えと…それより…その子……一体………」
俺が口籠ると、沖花は察しがついたようで少し悲しそうな表情を浮かべた。
「ああ…杏菜は、声が出せないんです」
「声が?」
「ええ。桃菜が居なくなってから喋れなくなったんです。失声症っていうんですかね」
「…………………………」
桃菜が居なくなってから………。
俺が黙っていると沖花はぱっと笑顔に戻った。
「まあ、いつかは治るものですからね。今は治療中なんです。それなのに杏菜はよく家から抜け出しちゃって。見つけて頂きありがとうございます」
そう言うと、沖花と杏菜は去って行った。
※
「双子……か……あいつ、そういうの何も言って無かったのに…」
俺は自宅でカップ麺にお湯を注ぎながら呟いた。
桃菜の話の中で杏菜の話題は一度も出なかった。
単に言い忘れたのか伝える必要が無いと感じたのか……もしくは…………。
「………うしっ」
もう一度、桃菜に会いに行こう。
俺はカップ麺を急いでかきこむと、再び傘を手に玄関のドアノブを掴んだ。
「…………どこ行くんだ?」
「どぉぅあああ!!?」
突如背後からかけられた声に俺は死ぬほど驚き、反射的に傘を投げつけた。
「…わぁっ?…とと…」
そいつは飛んできた傘に一瞬怯んだが、易々と受け止める。
「な、何する……んだ…」
「そ、雪………?」
いつの間にか俺の家には雪が居た。
「何でお前がここに……?」
俺はまだばくばくいっている心臓を押さえながら、率直な疑問を投げかけた。
すると雪はきょとんと首を傾げた。
「……なんで、って……普通に宗哉の後を、付いてきた……んだが……」
「えぇ!?マジで!?……全然気づかなかった……」
「……うん……来る途中も、何きいても……生返事ばっかだったから………」
「せめて部屋に入る前に教えろよ!寿命が15年くらい縮んだわ!これで俺が早死にしたらどう責任取るんだよお前!!」
「……ぼ……僕の死をもって………償う…………」
「重いわ!!」
※
「え……と、お……落ち着いたか……?」
ゼーゼーと肩で息をする俺を心配そうに眺めながら、雪は尋ねた。
「あ、ああ……」
まだ心臓の鼓動は速いままだが、強がってそう答えてみせる。
東京で暮らしていく上で、俺はまず胆力を鍛えた方が良いな……。
このままでは本当に早死にしてしまう。
「で、えと……どこ行こうと……してたんだ?」
「ああ、いや……」
俺は思わず言葉に詰まった。
俺が桃菜の所に行こうとしていると知ったら、十中八九雪は付いてくるだろう。
コイツにどれ程の霊感があるかは分からないが、まあそんなに強いとも思えない。
恐らく桃菜の姿を視認する事は出来ないと思われる。
となると俺が桃菜と話していても、雪には俺が一人で喋っているようにしか見えないと言うことで…………。
それは、なんか、アレだ。
恥ずかしい。
「べ、別に……何でもねぇよ」
「?そう……か……」
雪は釈然としない様子だったが、あまり深く追及するつもりは無いらしく、それ以上何か聞いてくる素振りは見せなかった。
「……てかお前もう帰れよ!言っとくけどお前の立ち入り許可してねぇからな俺!?」
そうだ。
そもそも問題はそこだろう。
流石に雪と言えど、知らぬ間に自宅に入られては困る。
「う……ダメだったか……?」
俺の言葉に、雪はしゅんと落ち込んだ。
多少良心が痛むが、妥協はしない。
「そうだ!ほら、さっさと出てけ!お前だって誰かに勝手に家に入られるのは嫌だろ?」
俺は雪の背中を押して玄関に誘導しつつそう言い聞かせる。
俺、コイツの保護者か何かか?
「?…………別に……」
「別に!?」
「……宗哉も……毎朝……僕の家、入って……きてる……し……」
「あ」
そうだったな。
毎日起こしに行ってるわ、俺。
て言うか雪、夜自宅に鍵かけてないんだよな。
防犯意識ゼロだ。
まあ、雪は自身がS●COMみたいなモンだからな……。
「……分かった。今日だけ許可してやる」
「!ほんと……?」
俺がそう言うと、雪はぱっと顔を輝かせた。
「でもあくまで今日だけだからな。俺あんま人を家に上げたくないタイプなんだよ」
「そうなのか……?ば、僕…誰かが家に来たこと無いし……誰かの、家に……行ったことも無かったから……よく分からない…………」
「出てけとか言って悪かった。いつでも来てくれ」
幸の薄さに負けた。
なんだかんだ言って俺はコイツに甘いのか……?
お陰で今日の予定が台無しだよ……。
※
「畜生……俺のカップ麺ストックが……」
先ほどコンビニで買ってきたカップ麺。
今日食べる用とは別に5.6個購入してきたのだが、今はもう皆亡き者となってしまった。
「雪……本当アイツどんだけ食うんだよ……」
まあ「朝飯食って無いんならラーメン要るか?」とか言い出したのは俺なんだがな。
最近世話焼きスキルがどんどん向上していっているのを感じる。
洗い物を済ませて雪の方に目をやると、彼はソファーの上ですやすやと寝息を立てていた。
本能のままに生きているな。
「おい!そーそーぎ!起ーきーろ!」
「うぅ……?そーや…………?」
このままだとナチュラルに住まれかねないので、俺は雪を叩き起こす。
だが雪はひとつ欠伸をすると、また目を閉じてしまった。
「だあぁー、もう!!」
怒鳴り声をあげて手近にあったクッションを投げつける。
雪は眠ったまま片腕だけを素早く動かし、クッションを弾き返した。
お前は歴戦のアサシンか。
……にしても朝っぱらからよくここまで熟睡できるな…………まだ9時だぞ。
「……ん、そうだ」
床に落ちたクッションを拾い上げた所で、俺の脳裏にある考えが浮かんだ。
「雪!一回起きろ!」
「んん…………なに……」
雪はトロンと眠そうな目をこっちに向ける。
「俺ちょっと出かけてくるから。眠いんだったら寝てて良いから、帰るまで留守番しててくんねぇか?」
そう。
雪をここに閉じ込めておけば良いのだ。
そうすれば俺は安心して桃菜とのお喋りに興ずる事が出来る。
「……ん…………わかった…………いってらっひゃぃ……」
「ああ」
コイツに留守を任せる事に一抹の不安を感じなくもないが、まあすぐ帰ってくれば大丈夫だろう。
俺はさっき投げた時のまま放置されていた傘を手に取り、玄関の扉を開けた。
≪8話・完≫
- Re: Ghost helpers! ( No.10 )
- 日時: 2016/12/08 15:12
- 名前: 北風 (ID: cr2RWSVy)
《9話》
「お、居た居た」
以前桃菜に会った場所に行くと、彼女は退屈そうに道路で三角座りをしていた。
俺は周囲に人が居ないことを確かめると、桃菜に向かって手を降る。
「よっ!桃菜!」
「あ!この前の……」
桃菜は俺に気付くと笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。
「また来てくれたんだね!私なるべくここにいるようにして待ってたんだよ」
そう言ってこちらを見上げる桃菜。
一瞬、悪くないと思ってしまった。
違うぞ?
俺はロリコンではない。
「お兄ちゃんとはもう会えた?」
「ああ、お陰様でな。……何か、めっちゃ良いヤツだった」
「でしょでしょ!?お兄ちゃんは私と違って凄い性格良いの!」
自分の性格が所々悪いことについての自覚はあったのか。
「ん、ところで今日は何しに来たの?」
あ、そうだ。
目的を忘れかけていた。
なるべく早く終わらせて帰らなきゃな……。
あまり長く雪を留守番させておくのは心配だ。
雪が、ではなく雪によってもたらされる可能性のある我が家の被害が、だ。
もう食料は調味料しか無いと思うが……アイツは何をしでかすか分からない。
「もしかして私に会うためだけに……!?」
「いや違ぇよ……ちょっと聞きたいことがあってな」
「聞きたいこと?」
「ああ。桃菜って妹居るんだよな?」
「え?」
そう尋ねた途端、桃菜は先ほどまでの笑顔を消し固まってしまった。
驚いたように目を見開き、無言で俺を見ている。
「あ……と……桃菜?」
「!ご、ごめん……えっと何だっけ?妹?」
だが俺が話しかけると桃菜は慌てたように笑顔に戻った。
「も、しかして、あ……杏菜の事かな?」
「ああ……そうだが……どうかしたのか?」
「えっ!?あ、いや、その……私杏菜の事教えてないのに、どこで知ったのかなーって」
目を泳がせながら桃菜はそう言う。
何でこんな反応を?
…………聞いちゃマズかったか?
「沖花から……あ、沖花……春から、聞いたんだ」
「ふ、ふーん、そっか」
何とか平静を装っているようだが、桃菜の顔には僅かな焦りの色が滲み始めたように見えた。
やっぱりこの前は故意に杏菜の事は口にしなかったのか……。
だとしたら何故だ?
「──私は、杏菜の事が嫌いなんだ」
俺の心を見透かしたかのように、桃菜はぽつりと言葉を溢した。
「え……嫌い……?」
「そ、嫌い」
「ふ……双子なのにか」
「……うん、それはあんま関係無いね」
ふは、と桃菜は何故か寂しそうに笑った。
それは桃菜のような少女には似合わない、色んな感情が混ざり合ったような複雑な笑顔だった。
《9話・完》
- Re: Ghost helpers! ( No.11 )
- 日時: 2016/12/31 22:00
- 名前: 北風 (ID: 82QqnAtN)
《10話》
「え?桃菜がそんな事を?」
次の日の屋上。
俺は沖花と雪と一緒に昼食を食べていた。
今日の戦争には辛くも勝利出来たらしく、沖花は大事そうに戦利品1つ握り締めている。
「……変ですね。あの二人は自他共に認める仲良し姉妹だったと思うんですが……」
「そうなのか?」
「ええ、毎日一緒に遊んでましたし」
「どういう事だ?……敢えて嘘を言ったのか?」
「だとしたら何故でしょうか?」
「う~ん……」
俺は弁当を頬張りながら考え込む。
自分で言っておいて何だが、桃菜が嘘を吐いているという可能性はゼロに近いと思う。
桃菜はどうやら嘘を吐くのが下手な性格らしいし、それに──
あの顔は、嘘を吐いている顔では無い。
「うぅ…………分っかんねぇ……俺こんなに女子小学生に翻弄されたの初めてだ……」
「……桃菜は運動も勉強もできませんでしたが、人を騙したり操ったりするのは巧かったですよ……」
沖花が苦笑いを浮かべて呟く。
何だその女子小学生。
怖すぎるだろ。
って言うか……
「おい雪!そろそろ何か言え!黙々と食い続けてんじゃねぇよ!」
雪は俺と沖花から2m程距離を置いて、ひたすらパンを貪っていた。
彼は俺が叫びかけても無感情な瞳で宙を眺めているだけで、反応すらしてくれない。
完全に心を閉ざされてるな。
「なぁ、機嫌直してくれよ。仕方無ぇじゃん、お前寝てたし」
雪は焼きそばパンを口にくわえながらじとっとこちらを見た。
「…………嘘。僕が邪魔だったんだ……」
まあそうだけど。
「ち、違えよ。ああぁもう…………俺が悪かったよ。だから許してく」
と、俺の言葉はそこで遮られた。
何者かが屋上の入り口の扉を、ガシャン!と乱暴に開け放ったからだ。
「「「!?」」」
俺達の視線が一気に入り口に集中する。
扉から出て来たのは不機嫌そうな一人の男子生徒だった。
もがっしりとした体つきで髪を染めており、不良である事が一目で判る。
まあこの学校の生徒なんて半分以上がそんな感じだが。
俺達が唖然として男を見ていると、彼もこちらに気付いたようだった。
「ん、人が居たか……あれ? アイツもしかして……」
そう呟きながらそいつは近づいてきた。
そして沖花に目を止め、わざとらしい笑顔を浮かべた。
「あ、やっぱ春ちゃんじゃーん! 昼飯ん時教室いねぇと思ってたらここで食ってたのか!」
そして沖花に馴れ馴れしく話しかける。
「っ! み、満束さん…………どう、も……」
だがどうやら親しい間柄では無いらしい。
沖花は怯えたように俺の背後に隠れて、びくびくとしながら返事を返している。
「あっは! 怖がっちゃって、かっわいー! ね、なんでそいつに隠れんの? 遊ぼうよー、友達じゃーん」
彼はそう言いながら沖花を引っ張り出した。
「ひ、や! ぉあ、やめて下さっ……」
沖花はフェンスにしがみつき必死で抵抗するものの、あえなく引き剥がされてしまった。
「はーい、残念でしたー。無駄な抵抗ぉー!」
男は沖花を押さえ込むと、沖花の手からパンを奪い取った。
「あ、もしかしてコレくれんのー? ありがとねぇ春ちゃん。オレ今日金無くてさー! 恩に着るわー」
「な! か、返してくださ……」
沖花は取り返そうともがいていたが、じきに諦めたように黙って俯いてしまった。
──コイツが、そうなのか。
俺は胸の内から沸々と怒りが湧いてくるのを感じていた。
──コイツが、強さと卑劣さを履き違えて沖花を苛めているのか。
過去の記憶が脳裏に蘇ってくる。
俺は勢い良く立ち上がり、彼を正面から睨み付けた。
「あ? 何お前?」
男は苛立った様な視線を投げ掛けてきた。
折角楽しくしていたのに、といった不満が込められている。
「……沖花を離せよ」
俺はそいつを真っ直ぐ見据えて言葉を発した。
「楽しいか? 道を誤ったお前が一般人を苛めて。満たされるか?」
感情的にならないように意識していたが、挑発する様な言い方になってしまった。
男はそれが癪に障ったらしい。
俺を睨む目に込めた怒りが、濃くなったのが分かる。
「あ? 何だお前? てかお前オレの事言えなくね? その髪の色、お前も一般人じゃないんだろ?」
そうだ。
俺は一般人じゃない。
進むべき道を踏み外し、今まで何度も人を傷付けてきた。
だが、痛みも知っている。
謂れの無い理由で虐げられる者の痛みを。
だから俺は、この手の輩が大嫌いなんだ。
同じ不良だからこそ、許せない。
「なあ沖花、お前から御守りを奪った奴ってコイツか?」
俺は男を見据えたまま、沖花にそう問い掛けた。
「え、あっ……は、はい……満束さんが……」
彼はやや言いにくそうにそう言って、男の顔をちらりと窺った。
「え、何の話?」
そいつは──満束はそう言ってとぼけてみせる。
だが俺が沖花に質問をした時、満束の表情に変化があったのを俺は見逃さなかった。
「そうか、お前か……」
「あ? だから何の事──」
満束の言葉はそこで途切れた。
俺が満束の顔に向けて拳を突き出していたからだ。
「!」
沖花が息を飲むのが分かる。
だが、俺の拳が満束の顔面に触れることは無かった。
満束は憮然とした態度で立っている。
寸止めした拳の風圧で、彼の脱色された前髪が揺れた。
「…………」
「…………」
暫しの沈黙の後、俺は満束の胸元辺りまで腕を下ろした。
そして手を開き、掌を上に向ける。
「返せ」
俺がそう短く告げると、満束は薄く笑みを浮かべた。
「やだね。何でお前みてぇな礼儀も知らねえヤツに返さなきゃなんねぇんだ」
「礼儀?」
何ともこの男には似つかわしくない単語に、俺は眉をひそめる。
「そ、礼儀。今の一年の中でのトップが誰だか知ってんのか、お前?」
「いや、知ら……ッ!?」
途端、全身が揺さぶられるような衝撃を感じた。
一瞬遅れて鳩尾に痛みが伝わる。
「くあっ……」
俺は蹲るようにしてその場に片膝を付いた。
「小森さん!」
沖花の叫ぶ声が遠くから聞こえる。
潰れた肺に空気を満たそうとするが、上手く息が吸えない。
苦しさに顔を歪めながら満束を睨み付けると、彼は右膝を蹴りあげた状態のままで止め、嗜虐的な笑顔で見下ろしてきた。
「オレなんだよ。トップに失礼な事しちゃマズイっとのは分かるよなぁ?」
そう言って、足を俺の背中に向けて踏み下ろす。
畜生。
東京の不良校なだけあって、ヒエラルキーが形成されるのが早い。
そんな事は分かっていたのに……!
トップに立った奴を把握しておくべきだった。
そうすれば少なくとも不意打ちを食らう事は無かった筈だ。
「な~んだその顔? 文句あんならオレらに勝ってからにし」
言葉の途中で、視界から満束が消えた。
と同時に、背中に感じていた重さも消える。
直後、背後のフェンスから何かが叩き付けられる様な轟音が耳を突いた。
「!?」
振り向くと、満束が仰向けに倒れている。
「…………これで、僕がトップ……?」
静まり返った屋上に、聞き慣れた抑揚の無い声が響く。
「雪!」
先程まで満束が居た位置には、いつの間にか雪が立っていた。
「……そいつ、倒した……から、僕がトップって事で……良い、のか?」
「え? あ、ああ……」
そういう事なのだろうが、学年のトップを決める勝負がこうも呆気なく決まってしまって良いのだろうか……。
何か釈然としない。
雪は倒れた満束の元まで行くと、彼の襟首を掴んで引き起こした。
「……おい……」
「ひっ!? ……ん、だよ……お前……」
満束の顔には畏怖の色が刻み込まれている。
1ヶ月で東京の不良校のトップに登り詰めただけあって、雪との力の差は理解できたようだ。
ざまあみろ。
俺何もしてないけど。
「……返せ……御守り……」
「あ、いやちょっと待っ……あれは今となっちゃオレの物だし……」
「……れーぎ……」
「ッ…………だーもう! 分かったよ!」
満束は雪の手を振り払うと、その場に腰を下ろし、胡座をかいた。
「お、返す気になったか? それが一番だ。お前はちょっとした悪戯のつもりだったかも知れねえが、沖花にとっちゃ、あれは大切な──」
「そこの白いのは黙ってろ。弱いくせに説教垂れんじゃねえ」
「な゛っ……」
今俺良い事言おうとしてたのに。
でも俺が満束より弱いのは事実だがら何も言い返せない。
「つか、返さねえよ」
「おま……! この期に及んでまだそんな意地を」
「だからお前は黙ってろって」
「…………」
黙っている事にした。
「いや、返さねえ……って言うか……」
満束は少し困ったような顔で頬杖を突き、目を伏せた。
「返せねえんだよ。無くなっちまったんだ。隠しといた筈なのに、忽然とな」
《10話・完》
- Re: Ghost helpers! ( No.12 )
- 日時: 2017/02/11 09:25
- 名前: 北風 (ID: rk41/cF2)
《11話》
満束の話によると、沖花の御守りが無くなったのは4日前の事らしい。
「そんな長え間隠しとく筈じゃ無かったんだよ。そいつイジりやすいから、苛めるっつーかちょっと遊ぶだけのつもりでさ。御守り盗って適当な所に隠して……探すトコ見て楽しむ予定だった。使われてない体育倉庫見つけたからそこを隠し場所に選んだんだ。でもこの前見に行ったら──」
無くなってたんだよ、と彼は話を終えた。
一応申し訳なく思っているらしく、バツが悪そうに目線を地面に落としている。
「でもオレがどっかに移動した訳じゃねえ。間違いない、誰かが持って行ったんだ」
※
「面倒な事になってきたな~」
「ですね……」
「…………」
満束を屋上から追放し、俺達は食事を再開した。
御守りが盗まれたとなると、持っていった人物を特定する事は容易ではない。
ひいては奪還も難しくなる。
てか無理だろコレ。
振り出しに戻った──と言うより双六本体が燃え落ちてしまった感じだ。
「だが諦める訳にも行かないしな……取り敢えずその体育倉庫にでも行ってみるか」
今はそれしか出来る事は無い。
そこで何か手掛かりでも見付かる事を祈ろう。
※
その日の放課後。
「えっと……」
俺達三人は体育館裏で途方に暮れていた。
白前は一貫校では無いが付属の中学もあるため、無駄に学校の敷地が広い。
入学してまだ日の浅い俺は、この学園内の施設の配置をまだよく理解しきっていなかった。
故に、満束に『体育倉庫』と言われても今一ピンと来なかったのだ。
まあそれは良い。
学園内を歩き回った所、体育館裏にあるのを発見出来たから。
だが……。
「…………多くね?」
目の前に広がるのは、軽く10棟を超えるであろうプレハブ小屋。
しかも一つ一つがやけにでかい。
「えぇえええぇっ!? 多くね!? コレ全部体育倉庫!?」
「……みたい、だな……」
「これは……多いですね」
二人も流石に引いている。
いや意味が分かんねえよ……これら全てにそれぞれ存在意義はあるのか?
疑問に思って体育倉庫群に近付いてみる。
やたら綺麗に羅列しているそれらからは、謎の威圧感すら感じる。
「……ん?」
よく見ると、体育倉庫の扉一つ一つに、15㎝くらいに切り取られたガムテープが貼りつけられていた。
一番端の倉庫に貼られたガムテープには、『授業用1』と書かれている。
「こっちのは『サッカー部&野球部』です」
「『授業用2』……」
「ああ……何だ、ちゃんと用途が分かれてんのか。部活は兼用なのか……まあこんだけでかければそうか」
良かった。
それなら話は早い。
使われていない倉庫──つまりテープが貼られていない倉庫を探せば良いのだ。
これだけあれば一棟では無いと思うが、大分絞られるだろう。
「よっし! 二人とも、全部見て廻ってくれ。テープ貼ってないの有ったら教えてくれよ」
俺がそう呼び掛けると、二人は頷いて倉庫の扉を見にかかる。
最初は嫌がらせかと思ったんだが、まあ何とかなりそうだな……。
「えーと、『テニス部&バスケ部』」
「『バレー部&バド部』ですね」
「『陸上部&ゴルフ部』……」
「『ソフテニ部&クリケット部』……クリケット部!?」
「ぽ……『ポートボール部&卓球部』です」
「……『ホッケー部&ラグビー部』」
「『スキー部&スケート部』!? ウチの学校にこんなの出来る施設あったか!?」
「『スカッシュ部&射撃部』、です……?」
……以下略。
「……まさか全部使われているとはな……」
「でも何か……自由な校風が生み出した悲劇の温床でしたね……」
「…………」
そうだ。
白前は校風が非常に緩い。
つまり、部活を作るのも容易いのだ。
確か部員三名以上、顧問一名以上居ればほぼ無条件で承諾されるんだったか。
今時無いぞ?そんな学校。
更に部の掛け持ち数に限度は無く、我が校には一時のテンションや受け狙いで創られた部活も数知れず存在する。
それで、この倉庫の量か……。
やっと理解した。
恐らくノリで創ったけど飽きたから放置してる、半ば廃部状態の部活があるんだろう。
きっとその部が使っていた倉庫を満束は見付けたのだ。
「あ~っ畜生めんどくせぇ!! もう満束に直接訊こうぜ?」
てか最初からそうしていれば良かった。
そうすれば入る気もない運動部の知りたくもない事情に首を突っ込む必要も無かっただろうに。
「あ、満束さんなら早退しました」
「えぇ!?」
沖花がさらりと発した一言に、俺は少なからず衝撃を受ける。
サボりとかじゃなくて、早退?
何故?
「なんか白樺さんにあっさり倒されたのが悔しかったらしくて……」
「ああ……」
「もうしばらくは学校来ないそうです」
「メンタル弱っ!」
ウチの学年の(元)番長打たれ弱っ!
……確かにあそこまで瞬殺されたらショックだろうがな……。
メンタル面では俺の方が遥かに上だな。
……いやいやいや。
何ちょっと嬉しくなってんだ俺。
些細な事過ぎるし、事態はむしろ悪い方向に進んでいるというのに。
「待て待て……えっと? じゃあ俺達、こんだけある倉庫をしらみ潰しに調べて、あるとも限らない御守りの手掛かりを捜すのか?」
「……」
「…………」
無言で項垂れる二人。
場の雰囲気から「無理だろ」といった空気を感じ取れる。
いや……俺も無理だとは思うが。
今の所、手掛かりは体育倉庫しか無ぇし……。
「よ、よっし! 取り敢えず動こう! 動かない事には始まらねぇ!」
折れそうな心を誤魔化すように、俺は無理矢理ポジティブに呼び掛けた。
「まず使われてなさそうな倉庫から行くぞ! 沖花は『スパタクロー部&リリアン部』、雪は『円盤投げ部&懸垂部』を調べてくれ! 俺はこっちを調べる!」
強引にテンションを上げ、早速『カバディ部&握力測定部』の倉庫を開け放った。
やはり久しく使われていなかったらしく、引き戸を引いた途端に埃がもうもうと舞い上がる。
咳き込みながら顔を反らすと、倉庫の扉を開ける雪が目に入った。
向こうも向こうで暫く使われていないらしく、扉が錆び付いているようだった。
上手く開かないらしく雪は悪戦苦闘していたが、最終的には蹴破るという力業で解決していた。
器物破損。
- Re: Ghost helpers! ( No.13 )
- 日時: 2017/02/04 00:35
- 名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
- 参照: http://From iPad@
こんばんは! 夜分に失礼しますm(*_ _)m
題名に惹かれてやってきました!
プロローグを読んだ時は、切なくて繊細な物語かなと思ったらまさかの急展開に( ゚д゚)ハッ!ってなりました笑
実はまだ途中までしか読めていないのですが、宗哉くんと雪くんの最初のファミレスとかのやり取りとか面白くて(主に宗哉くんの心情描写)、笑ってしまいました←
こういうコメディ、というかギャグというか……そういう作品は本当に読むのが楽しくて夢中になってしまいます笑
また続きも読みに来ます!
更新頑張ってくださいd('∀'*)
それでは♪
byてるてる522