コメディ・ライト小説(新)

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狂騒剣戯
日時: 2021/01/12 23:22
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)

※9/7 複ファ→コメライへ移動

「いくぞ───村正ァ!!」


登場人物一覧(略式、随時更新)

主人公:村山 正紀
妖刀村正に選ばれた者。

ヒロイン:村川 雨音。
主人公の幼馴染。


ある日突然、妖魂に食われた主人公、村山正紀。そこで謎の声に導かれ、妖刀村正を手にして脱出できたはいいものの、今度は幼馴染が食われてさらわれてしまって───
妖刀、聖剣、魔剣たちに選ばれた神子(みこ)たちが、妖魂と元凶のアシヤドウマンを滅ぼしに京都へと集結する。ソードアクションストーリー。


目次
第壱ノ噺
『ヨウトウムラマサ・メザメ』
>>1
第弐ノ噺
『ツルギノミコ・エラバレシモノ』(用語説明回)
>>2
第参ノ噺
『デュランダル・シュウゲキ』
>>3
第肆ノ噺
『イチジキュウセン・イチジキョウトウ』
>>4
第伍ノ噺
『カゾクリョコウ・タビハミチヅレ』
>>6
第陸ノ噺
『フタリデナカヨク・ケンカシロ』
>>8
第漆ノ噺
『ヨウトウアザマル・キョウト』
>>9

Re: 狂騒剣戯 ( No.1 )
日時: 2018/06/19 20:15
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)

 妖魂(ようこん)。突如現れた謎の怪物体。ぎょろりとした目がいくつもあり、手も足も数多、まるで節足昆虫のように湧き出るそれ。そいつは普段ならば、人々に気づかれずに踏まれて消えるのだが、人々の『邪気』───憎悪や怨念、恨み妬みなどと言った悪い感情を、もろに当てられて食うと、みるみるうちに巨大化していく。やがてそれが限界になったとき、そいつは人々を襲い始め、『食い散らかす』。攻撃は通らず、出逢えば食われるのを待つのみ。
 その妖魂に対し、立ち向かうは妖刀や聖剣、魔剣などに選ばれし神子(みこ)たち。彼らは謎の『声』によって、妖魂を、元凶を討ち滅ぼさんとその刀剣を振るう。
 これは、ある日突然、『妖刀村正』に選ばれた少年、村山正紀(むらやままさき)の、一時(ひととき)の戦いを綴った物語に過ぎない。


第壱ノ噺
『ヨウトウムラマサ・メザメ』


 事の始まりは、夏休みのよく晴れた日のことである。至って普通の家庭に生まれ、至って普通に育ち、至って普通の成績を収めている、至って普通の男子高校生、村山正紀。彼は特に特出した特技があるわけでもなく、またこれと言ってのめり込んでる趣味もなく、ただ流れていく日々を、ただ平々凡々と過ごすだけの少年。強いて言うなら、隣に住んでいる幼馴染に、長年恋心を抱きすぎて、距離感がもはや夫婦のそれにしか見えない、というのが他とは違うところか。それ以外はこれといって特別なものなどない。

「くぁ、ねっみぃ…」

 早朝より庭の草取りを手伝わされていた彼は、大きなあくびをしながら、昼食の買い出しの道を辿っていた。草取りがだいたい終わった頃に、手伝わせていた兄よりお札を何枚か渡され、これでお前の分の昼飯買ってこい、と言われたためだ。ちなみに当の兄は家でハーゲンダッツを貪っている。手伝わせといて礼もねえのか、と言いたかったが、昼食代には十分すぎるほど、むしろいくら買っても大量のお釣りが出るレベルの金額をもらったので、何も文句は言えなかったが。またあくびをしながら、がしがしと頭をかく。
 こんな時に限って一緒に出かけようと声をかけたかった幼馴染は、叔父のやっている道場で稽古をつけてもらっているらしいし、かと言って金をもらったのに家に引きこもるわけに行かない。仕方なくひとりでコンビニへ昼食を買いに行くことになった。しかも外へ出る服が思いつかなかったからという理由で、少しいじった学校の制服を着て。

「しっかし、良い天気だよな」

 今年の夏はひんやりとした夏になりそうだ───と、天気予報士がテレビで言っていたのを思い出す。確かに梅雨が開けて夏が来たと感じるには、いささか違和感がある。そろりと吹く風は、本来の夏のジメッとした気持ち悪いものではなく、涼しげで、いくらか心地の良いものだと感じる。気温もそれほど上がらず、とても過ごしやすくなるだろう。それがなんだと言われたら、何も言い返せないが。

「ほんっと、平和だな…」

 ぼそりと彼はつぶやく。それが嫌味なのか、本心から出た言葉なのか。そんなものはどうでもいい。とにかく何もない、そして平和だ。世間的にはそれが良いことなのだろう。だが彼は、その平和に少しくらい、何か変わったことでもあればいいんじゃないか、と思っている。例えばそう───コミックのように、不思議な力に突然目覚めるとか!

「んなもんある訳ねーよ……」

 彼は深くため息をついた。おとなしく昼飯買って帰ろう。そんでもって今日はもう何もしたくないから、家でゴロゴロしよう。彼はそう固く決意してコンビニへと向かっていった。
 その背後で、邪気を食って膨れ上がった『妖魂』が、今か今かと正紀を見ていることを知らずに。そしてひとつのぼんやりとした光が、正紀の方向に向かって、チカチカと強い光を放っていることも知らずに。





「これだけ買えば充分だろ」

 袋いっぱいに詰められたアイスやインスタントラーメンを持ち、正紀はコンビニから出てくる。多少買いすぎたかな、とは思うが、せっかくかなりの額をもらったのだ、普段は食べないような高いものでも買ってしまったらいいし、大量に買い込んでもいい。しかもお釣りが来た。こっそり懐に入れてしまおう。

「いやー良い天気だなー…」

 正紀は両手のレジ袋を揺らしながら、きた道を戻っていく。帰ったらとりあえず兄貴の腹に一発入れてハーゲンダッツ吐かせて、その後は昼飯食って部屋でゴロゴロして……うん、それくらいか。それしかねえわ。正紀はうん、と頷く。それくらいしか一日の予定が思いつかない。もっとも、旅行などが入っていれば話は別だったのだが。そんなものは都合よく来ない。証拠として両親は現在、どちらも単身赴任中なのである。ひょっこり帰ってくるとは思えない。あの異様な忙しさを鑑みるに。
 だからこそなのかもしれない。ただゴロゴロと過ごす怠惰な夏休みか流れるくらいなら、いっそ超常現象でも起こればいいのに。そうなれば退屈しないで済むのに。否、それが自分と関係あるのかは別の話なのだが。妄想の範囲で終わらせておけばいいだろう。妄想の中なら、迷惑はかからないから。そう思っていた矢先だった。
 突如正紀の目の前に、ドスン、と大きな音がなる。上から降ってきたのだろう。ものが落ちる音にしては随分と大きい音だったが、一体何が落ちてきたんだ?彼は衝撃から防ぐため閉じていた目を、恐る恐る開ける。その瞬間、彼は目を見張った。

『黒くてでかい、足が何本も生えている目を何個もつけた物体が、ぎょろぎょろと』こっちを確実に見ているのだ。

 なんだこいつは、気味が悪い。というかでかい。こっちみんな。様々な感想が、彼の中で渦巻き、混ざる。よくよく見ると口があるようで、ガパァ、とゆっくり割れる。こいつ口あるのかよ。つかもしかしなくても俺を食うつもりかよ。気持ちワリィ。正紀は心の中で悪態づくも、体は思うように動かせなかった。その異様な有様の『いきもの』を目の前にして。何も動かない。

「(くっそ、どうすりゃあいいんだ)」

 生憎彼は、それに対して有効なものなど持っていなかった。殴る蹴るなどすればいいのだろうが、ガッチリと固まって動かない。なら大声は?やっても意味はないだろう。なにせ彼は今、声を出そうにも、『首を絞められたかのように苦しい』状態にあった。そんな状態でまともに声が出るわけがない。ギチ、ギチ。嫌な音が首から鳴る。

「(なんだっこれっ…!)」

 殺さんばかりの力が、正紀の首周りに加わる。だがその力は形として現れておらず、証拠に正紀の首周りは力が加わっているにかかわらず、見ただけでは『何もない』。振りほどこうにも動かない、否、動けない。なすすべもなく、どんどん呼吸が苦しくなっていく、頭痛が激しくなっていく。

「(も、無理……)」

 次の瞬間には、正紀の視界は真っ暗になっていた。



「という夢を見たのだっ!……ってあれ?」

 目が覚めてそう叫び、ふと気がついてあたりをキョロキョロしてみれば、そこはひたすら暗闇。どこを見回しても、ひたすらに暗闇しかない。手を伸ばしてみても、足をワタワタと動かしてみても、空を切るのみ。ただ自分は今、何かによって閉じ込められている、ということだけは、かろうじて察せた。ならばここをどうやって出ようか。せっかく買ってきたハーゲンダッツも、このままいれば溶けてしまうかもしれない。いくら涼しい夏だからとはいえ、直射日光の下に置きっぱなしにしてしまえば、溶けるものは溶ける。それだけは嫌だ。

「っつってもどうするんだよ…」

 立ち上がるにも立ち上がれない。形からしてこれは繭?それならば立ち上がれないのもうなずける。つかあの化物に俺食われたんか。ならなんで今消化されてねえんだ。

『───妖魂とはこの世ならざる者』
「っなんだぁ!?」

 その時。突如正紀の脳内に、聞き覚えのない声が響く。厳かで、幾らか古めかしい声。正紀は脳内に語りかける声に問うた。

「ようこん…ってなんだ?あと今俺はそのようこんとか言う奴に食われたのか?」
『───左様。妖魂とは、アシヤドウマンが作り出した、邪なる存在。人々の邪なる感情を食らい、成長し、そして人を食らう。少年、そなたはその妖魂によって食われたのだ』
「あしや…どうまんって、確か陰陽師の安倍晴明に対になる…」
『───その認識でいい』

 道摩法師、アシヤドウマン。平安時代の呪術師であり、陰陽師である。文献ではよく安倍晴明のライバル的存在として、その名を馳せてはいるが、実は彼自体は架空の存在ではないかとされている面もある。正義の安倍晴明に対し、悪のアシヤドウマンとしてよく描かれていることが多い。そのアシヤドウマンが、先程正紀を食らった『妖魂』を作り出したのだと、声は語る。ややこしい話だなと正紀は思う。

「で?そのアシヤドウマンがなんで妖魂なんつー、変なもんを作ったんだって?」
『───大方、私に対しての怨念が消えてないのだろうが。長くなる、省かせてもらおう。今最も重要なのは、そなたがここから出る術だ』
「あっ、そうだ。あんた、なんか知ってるのか?」

 正紀は形なき声にまた問うた。声は「ああ」と答え、言葉を紡ぐ。

『───覚悟せよ。そなたは選ばれた』
「は?いきなり何を……ってぁっづぅ!!デコがあっづい!あと腹がなんか変な感じする!!なんっだこれ!!」

 瞬間、正紀の額が異常に熱くなる。まるでそこだけ、何かに焼かれたかのように。正紀はあまりの熱さに、額を手で覆い隠す。だがそんなことは意味もなく、ジュウジュウと焦げるような音がしてきた。

「なんっだこれ!何した!」
『───妖刀に選ばれし、剣の神子よ。顕現せし妖刀を手にし、暗闇を引き裂き、安寧をその手に入れよ』
「だぁかぁら!わかるように言えよ!って、お、俺の腹が光ってる!?」

 声はそれだけいうともう答えなかった。消えてしまったのだろう。名前も、目的も言わずに。だが当の正紀はそれどころではなかった。突如として自らの腹が光りだしたのだ。

 そしてその光の中心部から、『一本の刀』が現れた。

 その刀は鞘に収められてはいるものの、与えられた力が溢れているのか、紫色の霧のようなものが刀を包んでいる。その刀は腹からすべて出ると、まるで正紀に「手に取れ、そして引き抜け」と言わんばかりだ。

「……お前、名前なんていうんだ」

 正紀は震えた声で刀に言う。返事なんて期待しなかったけれど、それでも問うた。刀の答えはこうだった。


『知りたければ、手に取れ』


 その言葉が頭に入ってきたときにはもう、彼の手は刀を手にし、鞘から引き抜いて暗闇を引き裂いていた。



「っらぁ!!」

 ズバン、と音がなる。その直後に言葉では表現できないような、声らしき声があたり一面に響く。割かれたそこから正紀は出てきた。戻ってこれたらしい。その手に『妖刀』を手にして。

「うお、見た目グロッ」
『───刀がそなたを認めたか』
「うわ出てきたっ。つか大丈夫なのか?あのグロいやつを斬るにしても、民家とかに被害行かねーのかよ。それよりどーやって戦うんだよ、通行人とか、怪我したらあぶねえだろ」
『───結界を張った。もし人がこの場を通ったとしても、なんの被害はない。何せ切り離されているも同然だからな』
「おお、ケアもバッチリ。んじゃ、好き放題暴れてもいいっつーことだな?」
『───ひとつ斬れば腹を割き、ひとつ斬れば塵となる。良いな、剣の神子』
「その剣の神子っつーのやめてくれよ、俺は神になったつもりはねえっ」

 正紀はそう言いつつ、刀を、『妖刀村正』を構える。腹を割かれた妖魂は、自らの割かれた腹に夢中で、こちらが構えているのにもかかわらず、しきりに暴れている。相当痛かったと見える。正紀は舌で唇を舐めて、ニヤリと笑った。

「俺はお前の昼飯じゃねえっ!いくぞ───村正ァ!!」

 シュキン、と空気とともに何かを斬る音。大きく正紀が村正で目の前を薙ぎ払えば、それまで暴れていた妖魂はぴたりと動きを止め、聞くに耐えない金切り声を上げて消えていった。あたりにはもう気味の悪いものなどなかった。

「……消えた、のか」
『───やはり。本物だったか』
「いい加減アンタ名前言えよ。誰なんだよ。つーか───」
「あれ?正紀?」

 その時正紀の耳に、聞きなれた声が入ってくる。後ろを振り向けばそこには、長年一緒に連れ添ってきた幼馴染、村川 雨音(むらかわあめね)がいた。雨音は稽古の道具である竹刀が入ったそれを背負い直しながら、正紀に近づいてくる。どうやら結界も、妖魂消滅とともに消えたようだ。よくよく見れば村正もない。消えていた。

「雨音?稽古終わったのか」
「うん。正紀はどうしたの?」
「え?ああいや、昼飯買ってた帰りでさあ」
「…アイス溶けてる」
「あ、あぁっ!!俺のハーゲンダッツ〜!!」

 雨音が袋の中を漁ってアイスを取り出し、正紀に見せてやれば彼はタプタプになったカップを手にしてひどく落ち込んだ。

「ハーゲンダッツがぁ〜…」
「また買えばいいじゃん」
「買いに行くのめんどい」
「正紀ったら〜」

 私も一緒に行くよ。そう言われてしまえば断る言葉なんてなくて。正紀は雨音を見てしばらくした後に、立ち上がる。

「雨音がそう言うなら…行く」
「あははっ!そんじゃ行こ」

 雨音は正紀に手を差し出し、正紀もそれをなんのためらいもなく取ろうとしたその矢先。
 ドスン、と大きな音がしたと思えば、雨音は一瞬にして正紀の視界から消えた。

「え、あ、雨音っ!」

 かろうじて見えた手の行き先を辿ってそちらを見れば、そこには先程とは比べ物にならないくらい大きな妖魂が、雨音を食らい、飲み込んでいた。
 飲み込んだあと、残った正紀を妖魂は見るが、特に興味は示さずにどこかへと去ろうとする。それを正紀は逃しはしない。

「まてこの野郎!」

 いつの間にか握られていた村正を引き抜き、妖魂をまっぷたつに引き裂こうとする。
 が、一歩届かなかった。

「クソッ!」

 妖魂は正紀の攻撃をものともせず、どこかへと消え去っていった。雨音を食って。
 そしてまた、正紀の脳内に声が響く。

『───少年、あの少女を食らった妖魂は、京都に向かった。アシヤドウマンの元だろう』
「……アンタ、誰なんだ。なんでそんなに分かってるんだ」
『───安倍晴明。アシヤドウマンに体は封印されたが、意識体だけは自由に動ける。それよりも早く向かわねばなるまい。あのままではアシヤドウマンの器とされるぞ。少女は』
「……チィッ」


苛立たしげに舌打ちをした正紀は、無意識のうちに、京都へと走り出していた。
雨音を食ったクソ野郎を、ぶった斬るために。


第壱ノ噺 終

Re: 狂騒剣戯 ( No.2 )
日時: 2018/07/12 21:47
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)

『まずは家へ戻れ。体勢を立て直せ。お主のことも知らねばならぬ』
「……」

 降りかかる冷静な声が、正紀の頭を文字通り冷やす。ただただ走るだけでは意味がない。状況や詳しい話を知らねば、身を滅ぼすのみ。声は言外にそう含ませていた。正紀はぐっと拳を握る。爪が食い込み、血が出るのではないかとばかりに。
 下唇を噛む。だが血を流すには不十分であった。それを見かねたのかどうなのか、声───安倍晴明(あべのせいめい)と名乗るそれは、彼にまた話しかける。

『ひとまず。お主、名は。詳しく聞かせよ』
「……村山 正紀。16歳、高校2年。さっき妖魂に食われた村川 雨音の幼馴染。これでいいか」
『───村正がお主を選んだ理由、徒然解せた。して、急ぐといい。時間がない』
「わかってるよ……っくそ、最初に話し吹っ掛けてきたのはそっちだろうが、つか追いかけろとか言っといて家にもどれとか、まじで方向性統一しろよっ」

 正紀は苛立たしげに、アスファルトを蹴った。



第弐ノ噺
『ツルギノミコ・エラバレシモノ』



「おけーり。遅かったな」
「……」
「んお、無視かよコノヤロー」

 家に変えれば、年の離れた兄が正紀を出迎える。Tシャツにジャージというラフな格好で、正紀の前に現れる。彼が昼食を買いにコンビニへ出かける前の格好とほほ同じ。まだ着替えてなかったのかよ、と思いつつ、兄の出迎えをほとんど無視する形で自らの部屋に足をすすめる。そんな弟を不思議に思いつつも、まいっか、とあくびをしながら見送る。さて、ハーゲンダッツ食おう。
 自室に戻った彼は、手を真っ直ぐに目の前に出す。そして手の平を上に向け、意識を集中させると、その手に妖刀村正が現れる。それをしっかりと握ると、どこへでもなく話を始める。

「なァ、あんたは───どこまで知ってる」
『───始まりと、点々は。あの者……アシヤドウマンが目覚め、何を思ったか私を封じ、人々の邪気を吸って妖魂を作り上げ、世にはなった。幸いにも封じられたのは体のみだったせいか、こうして精神(たましい)だけは、動き回ることができたのだがな』

 ふわふよと、光の玉のようなものが彼の周りをくるくるとまわる。その光の玉を目でも追うことなく、正紀は言葉を続ける。

「そのアシヤドウマンの目的は?」
『即ち、次の現世の掌握。実体化し、あまねくすべてを無に返し、そしてそこから彼奴の描く全てを現し、その別の現世に始まりの者として降り立つつもりであろう───妖魂はこの世を無に返すための、生贄にすぎないであろうが』
「成長した妖魂を使って、この世をぜんぶなかったことにするのか…」
『如何にも』

 正紀は舌打ちをして、胡座をかいている足に肘をつき、頬杖をする。いきなりわけのわからない生物───妖魂に食われ、突然『剣の神子』なんて言うものに覚醒しただけでは終わらず、幼馴染は目の前で妖魂に食われ連れ去られて、おまけに全ての元凶であるアシヤドウマンの野望とそれを達成するまでの手段を聞かされる。嗚呼本当に今日は厄日だ。なんでこんなことに巻き込まれなきゃならないのか。正紀は苛立たしげに床においた村正を見やる。
 そもそも剣の神子ってなんだ。な剣限定なのか。というか刀なら、名前を変えて刀の神子とかにするべきだろう。正紀はふわふわと動く光の玉に、なぁ、といくらか声のトーンを落として問うた。

「剣の神子ってなんなんだ」
『その名が示すまま、剣(つるぎ)に選ばれた者たちだ。そなたもその1人』
「たち……ってことは、俺以外にもいるのか」
『左様。私が把握している数は、そなたを含め四(よ)つ───そのうちの一つは……』
「その前に、剣って言ってもたくさんあんだろ。制限とか種類とか、そういうのねえのか?」

 晴明の言葉を遮り、正紀は口を開く。
 今までの話でそれとなく理解はしているつもり、あくまで理解しているつもりなのだが、腑に落ちない、というか訳がわからなすぎて、何でもかんでも口に出してしまう。先程出てきた新しい単語も、まずそれを覚えるので精一杯で、意味など頭に入らない。本当に何がなんだかわからない。俺はただの一般人。ちょっとだけ身体能力がいいかもしれないだけの一般人だぞ、一気にそんなこと詰め込まれても、言われても、わかるわけないし覚えられるわけ無いだろ。こっちは物覚えそんなに良くないんだぞ知ってんのかコノヤロー。
 そんな怒りと複雑な何かを抑えに抑えて、正紀は問うた。あれ?なんでこんなこと聞いてんだ、口と心が一致してねえ。わけわかんねえもう知らねえ。

『───俗に、聖剣、魔剣、妖刀、神剣などと謳われている剣のみ。それだけだ』
「……今ん所表に出てんのは?」
『欧州の聖剣、この国の神剣、そして妖刀村正……か』
「アンタ、欧州の聖剣とかって知ってんだな…もうわけわかんねえのが余計わかんなくなるから聞かねえけどよ、具体的には?」
『───そなたの村正、えくすかりばあ、十束剣、天叢雲剣か』
「えくすかりばあ……『エクスカリバー』か。メジャー所だな。そんで十束剣(とつかのつるぎ)は確か武甕槌(タケミカヅチ)の刀で、天叢雲剣は草薙剣……天羽々斬(あめのはばきり)とかっても言ったっけ。あとカタカナ苦手なのかアンタ」

 告げられた情報に正紀は眉をさらにしかめる。だが晴明はそれを無視して続けた。

『妖魂を斃せる者は、剣の神子しか存在しない。私はこの有様だ。わかるな』
「……よーするにだ。その剣の神子っつぅ、まあ俺みたいな奴らが、その妖魂とかいうバケモンを斃してって、最終的にはアシヤドウマンをぶった斬ればおしまいってか」
『左様』
「───で、肝心のお前の目的は?剣の神子はお前が選んでるのか?そもそも剣の神子のセンコーキジュンは?」
『…剣の神子は剣自身が選ぶ。私に選択の余裕はない。あくまで私は、剣に選ぶ意識を与え、剣に宿る妖魂を斃す力を、その者に引き出させるのみ。意識を与えた剣は私が力を感じたものだけだ。あくまで剣に選ばれた者。たったそれにしか過ぎない』
「剣の神子っつぅ証は?」
『そなたの額に刻まれた五芒星と同じもの───それは剣の神子によってそれぞれ違う部位に在る。ある者は胸、ある者は瞳、ある者は項……と言うようにな」
「へえ。そんで安倍晴明、アンタの目的は?」
『───無論、実体の奪還。及びアシヤドウマンの野望の阻止、完全なる消滅。それにしか過ぎぬ』

 その言葉は、今まで聞いてきた声よりも、1番強く重たいものであった。心なしか光の玉も、煌めきが強くなったようだ。正紀は村正を手に取り、しばらくの沈黙のあと、握る手の強さを強め、なあ、と口を開く。

「雨音を喰った妖魂。京都にいるっつったよな」
『如何にも』
「───俺は雨音を助けるために京都に行く。アンタの目的は二の次だ。ただ雨音を助けるためだけに、京都に行く。今の説明じゃあ、壮大すぎてあんまり乗り気になれねえんでな。それでいいか」
『……構わない。現状を見れば考えは変わるだろうが』
「それはそんときにならねえとな!」
『それと移動時はそなたの首飾りに入らせてもらうぞ。怪しまれるのでな』
「へーへー、あとネックレスとかって言えよなあ。あーでもこの場合首飾りでいいのか……?」

 光の玉は正紀のネックレスの飾りである勾玉にすぅっと入っていった。それを見届けると、っしゃいくぞ!と意気込んで、自室の部屋を飛び出した。
 というところで、正紀は勢い良く何かにぶつかる。ぶつかった部位を両手でおさえれば、ぶつかった何かは彼に対し声をかける。だがその声は、心配してると言うようなものではなかった。

「オーウ何やってんだオメー」
「……兄貴ッ何しに来たんだよッ。イテテ」
「兄ちゃんと呼べ。オメーに話があんだよよー聞け」

 兄貴と呼ばれたその人───村山 壱聖(むらやま いっせい)は、正紀が起き上がるのも待たずに座り込み、心底どうでもいいように要件を告げる。


「俺『も』京都行くわ」


 その一言は、痛みにどうにかして耐えようとする正紀を、がばっと飛び起こさせるには十分なものであり、

「………はぁ?」

 間抜けな声が出てしまうのであった。


弐ノ噺 終

Re: 狂騒剣戯 ( No.3 )
日時: 2019/04/07 16:27
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)

「な、何言ってんだよ兄貴?」
「だーかーらー、俺も京都行くっつってんの」

 正紀の質問に、壱聖は呆れたように返した。さっきも言ってただろ、と。だが正紀は何一つ理解できず、未だに訝しげな顔をして兄を見る。そんな弟からの嫌な視線に気づいたのか、壱聖は頭をボリボリかきながら答えた。

「観光だ、観光」
「はぁ?」
「よーやっとまとまった休みが取れたんでな。ユズと娘たち2人と俺で、京都に観光いくの!」

 お前も来るんだろ、連れてってやるよ。その一言を発した兄は、さも「お前のことなど全部把握済みだ」と言わんばかりで。

「……どっから聞いてたんだ」

 ため息をついて、問い詰めることにしたのだった。



第参ノ噺
『デュランダル・シュウゲキ』



 正紀はとりあえず壱聖を部屋に入れ、まずどこから話を知っていたのか、聞くことにした。当の壱聖は腕を組み、どこから話すかな〜とのんきなものであった。まるで最初からまるっと知っているような素振りだ。いやおそらくそうなのだろうが、晴明との話を聞かれていたとなると、まずいのでは。さっと顔を青ざめるが、そんなことを知らずに壱聖は話し始めた。

「まず雨音ちゃんがとんでもねえことに巻き込まれたってのはわかった」
「……具体的に?」
「食われたとか言ってただろ」
「(やっぱ聞かれてたか…)」

 正紀はがっくり肩を落とす。というかこの兄はその場所からずっと、部屋の前で耳を澄ませて聞いていたということか?そんな考えに至ればますます顔を青くした。もし晴明の声が自分以外に聞こえていなかったら?その可能性がないとは言えない。おそらく兄の脳には、そうであれば『ひとりでよくわからんことをブツブツいう変なやつ』としか認識されていないんだろう。そう上書きされているはずだ。もしそうなのであれば。
 であれば今この場で兄を斬ってしまおうか。こいつも妖魂みたいなものだし、斬っても別に悪影響とかはないだろう。とか思っていたが、そもそもこの刀は人を斬れるのだろうか。晴明に心の中で聞いてみても、答えは帰ってこない。無視したのか、答えられないのか、そもそも直接話さなければ意味をなさないのか。
 壱聖はそんなことを思いすぎて百面相をくり広げている正紀を見て、笑いだしてしまいそうになるもそれをすんでのところでこらえ、また話し始める。

「で、えーと。『剣(つるぎ)の神子(みこ)』だっけ?」
「(やっぱそこも聞かれてたーッ!)」
「お前顔色悪いぞ」
「うるせえ兄貴」
「兄ちゃんって呼べ」

 頑なにそう言うと壱聖は息を一つはいて、正紀を見据える。

「まあ、とりあえずだ。お前が何かと事情を抱えて京都に行かなきゃならんっつーのはわかった」
「そう簡単に飲み込むんかよ…」
「うるせえめんどくせえんだよ考えんの。んでお前今度の旅行に連れてくから。どうせ金ねえだろ」
「はあ?いいのか、せっかくの家族旅行だろ」
「いいんだよ細けえことは。それに俺だって無関係じゃねえし」
「へ?」
「うんにゃこっちの話」

 妙な言葉を言ったと思ったら、それを忘れろと言わんばかりに首を振る。その兄を訝しげに見つめるも、求めるような答えはかえってこないと判断したのか、正紀はひとつため息をついて目を瞑る。そして、声を出すことなく、『かの者』に問いかけた。

「(聞こえてんなら返事しろ、晴明)」
『───何事か、剣の神子』
「(いや何事かじゃねえよ、ずっと聞いてんだろ。お前なら知ってるだろ?兄貴も剣の神子ってやつか?)」

 一種の『賭け』だった。もし兄がそうだとしたら、雨音を救出する手助けをしてくれるかもしれない。だがもしそうでなかったとしたら、自分1人でなんとかしなければならない。
 というより知っていても、このよくわからない話し方をする陰陽師が、素直にそのことを教えてくれるかどうかなのだが。教えてくれたら万々歳。教えてくれなかったら、無理矢理にでも聞き出そう。そういえばそもそもこいつは力をやどした『剣の神子』を覚えているのか?あれ、なんだか不安しかない?
 その瞬間、一気に冷や汗がドバっと出る。頼むから覚えておいてくれ、知っていてくれ、教えてくれ。握りこぶしをさらに強め、体にもさらに力が入る。
 ややあって晴明は、正紀の脳内に語りかける。

『────何れ解る』

 その答えに、正紀はそのとおりにずっこけた。

「……おいほんとどうしたお前?」
「なんでもない、うん。複雑な事情ってのがあんだよ」
「何でもなくねえじゃねえか」
「うるせえ兄貴」
「兄ちゃんって呼べ」

 挙動不審、そしてここに来てわけのわからないずっこけ方をした自分の弟に、壱聖は訝しげな目をして口を開くが、その当の本人は今それどころではなかった。なんとかごまかして姿勢を正すが、内心腸が煮えくりかえりそうなのだ。

「(何れ解る……じゃねえーよ!無駄にキリッとしやがって!)」

 求めていたもの、予想していたものと全く異なる答えが帰ってきたことに、正紀はピキリと青筋を立てる。その後どれだけ問いかけても、晴明はだんまりを決め込んだようで、答えてくれることはなかった。

「(ええいこうなったら──ままよ!)」

 ばっと顔を上げて正紀は壱聖を見据える。意を決して、声を出す。

「兄貴!」
「お、おう?ってか兄ちゃんって呼べ」
「無関係じゃねえしってどういうことだ?」
「あ?……あー、複雑な事情ってやつだよ気にすんな」

 そしてまた正紀は盛大にずっこけた。

「なんっでだよ!人生ままならないなほんと!!」
「その年にして悟り開くとかお前大丈夫か?」
「だぁってろ兄貴ぃ!」
「兄ちゃんって呼べ」

 おもいっきり床を叩く正紀。その様子に流石に心配したのか、壱聖は正紀を気遣うような態度をする。だが正紀にはそれすら拒否されてしまう。なんだか複雑に絡み合ってるなあー、なんてことを他人事のように壱聖は思った。自分も原因なのだが。
 とりあえず落ち着け。そう言って壱聖は正紀を押しとどめる。この状態ではまともに話をすることは不可能だと踏んだのだろう。正紀も大きなため息をついて、いくらか落ち着きを取り戻す。

「で、京都観光旅行はいついくんだよ」
「今日」

 あっけらかんと答えた兄に対し、思わず頭の割れ目にむけて、本気のチョップをしたのは許されることだと正紀は思った。





 準備しとけよ。チョップをされた部位をさすりながら、壱聖は正紀にそう言って部屋をあとにした。若干本気で痛がってたように見えたが、気にしないことにする。気にするなって言われたことだし。
 とりあえず手頃なバッグをクローゼットの中から引っ張りだし、必要となるであろうものをその中に詰めていく。衣類、携帯の充電器、筆記用具、下着類、暇つぶしのための本……と、どんどん入れていく。

「京都、京都ねえ」

 京都なんて中学校の修学旅行以来だ。あのときはまともに町中を回れなかったが、今回くらいは多少なりとも散策しても、構わないだろうか。そうなればあのとき行けなかった店に行ってみたい気がする。そう思うと、段々とワクワクしてくる。目的はそう楽しいものではないのだが。

『浮かれているな、剣の神子』
「うるせえあくまで目的は雨音救出だ」
『好いているのか』
「んー……まあ、一緒にいるのが当たり前だったし……って、お前何言ってんだ?好きなのは普通だろ?」

 あの兄にしてこの弟あり、と言うところか。晴明はそう思ったが、あえて言わないことにした。心からの言葉のようだし、それをネタに揶揄うのはよろしくない。それだけ雨音という少女を、この少年がとても大事に想っているのだろう。
 一方の正紀は内心ばっくばくであった。確かに彼は幼馴染の雨音が好きだ。というよりもう好きとかではなく、『共にいる、隣にいるのが普通』というレベルにまで達している。だからこそ、晴明の言葉には少しカチンと来たのだ。好きとかそういうので、ひとくくりにしてくれるな、と。
 だからこそぽろりとあの言葉が口から出てきたのだろう。しかし、今になってみれば、『俺今とんでもなく恥ずかしいこと言った?』と気づいてしまう。なんとかして表に出さないようにしなければ、と必死に取り繕うが、悲しいかな、すでに体の行動として出てしまっている。

『剣の神子よ、それを何故その中に入れる?』
「え、あっ、なんで俺卒業証書の筒なんか」

 慌ててもとに戻す。無意識なのかそれともまた別の理由なのか、関係のないものを手に掴んで入れてしまおうとした。ゆっくりと深呼吸をして、姿勢を正す。

「あ」

 そんなときだ。持っていくものの不足に気づいたのは。

「……携帯のポータブル充電器、ねえ」

 がっくりと肩を落とした。かなりの長旅になる、そんな時に必須と言ってもいい程の携帯のポータブル充電器がないとすれば、向こう側で充電が切れたときに最悪の状況になるのは目に見えている。
 ため息をついて、時計を見やる。幸いにもまだ時間はあるようだ。近所のコンビニで充電器を買うことにしよう。

「兄貴ー、充電器買ってくるわ」
「兄ちゃんって呼べ。あとついでにウェットティッシュ買ってきてくれ、金は後で払うから」
「サイズは?」
「カバンに入りゃなんでもいい」

 つまりは何でもいいから買ってこいということか。靴を履いて外に出て、軽く伸びをして空を仰ぎ見る。

「はあ……良い天気なのになぁ」

 隣にいるはずの存在が、今このときはいない。それは正紀にとって、かなり凹ませる現実だった。食われてなければ、自分が届いていれば。無茶苦茶な願いも突っぱねられたろうに。
 とぼとぼとコンビニへ行く道を進んでいると、不意に声をかけられる。

「村山さん」

 その声に正紀は背筋を凍らせる。なんだかとても、とてつもなく、『嫌な予感』しかない。意を決して後ろを振り向く。

「こんなところで会えるなんて、ラッキーですねぇ。オレ的には…っすけど?」
「───は、花嵐(はなあらし)…」

 正紀が震える声で、彼───花嵐 朧(はなあらし おぼろ)の名を呼ぶと、その人物はにやりと口角をあげる。心底楽しそうでたまらないような笑みだ。

「何震えてんですか〜、オレ流石に傷つきますよ?」
「……できれば俺は、会いたくなかったな」
「まぁたまた。『ご近所さん』なんですよ、会う会わない以前の問題じゃないですか。まあ、でも」

 そこまで言うと、朧は明確に笑みを深めた。そして

「───『コイツ』を頼りにして、探してた甲斐がありましたよ!」

 突然飛び跳ねたかと思ったら、『剣の形をした武器』を、正紀に目掛けて振りかざした。

「ッやべ!」
『───結界陣!』

 急すぎるその展開についていけず、正紀はただ己の腕を盾代わりに身をかばう。そこを晴明が触れる間もなく、正紀の周りに防御壁を作った。弾かれる音を鳴り響かせながら、剣は正紀から遠ざかる。

「あ、あれ……?」
「おやぁ?まさかアンタも───ですか」
「何言って───ッ!」
「ん、これが『わかる』っつうことは確定か」

 ひらひらと朧は正紀の前で、その武器を見せびらかす。その武器はまるで、『御伽噺』から『そのまま出てきたような西洋剣』だった。

『───間違いない。あれなる者はそなたと同じ剣の神子』
「お、おいおいマジか…?」
『そしてあの西洋剣……私が力を与えたもののうちのひとつ。名を───』
「『デュランダル』。聞いたことあるでしょ?」
「嘘だろ……!」

 正紀が驚きと困惑に目を見開かせていると、朧はその反応をしてくれたのが嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべる。そしてそのデュランダルの切っ先を、正紀に向けた。

「───村山さん、戦いましょうよ。本当はアンタがオレと戦いたくて堪んねえって思ってんの、知ってんすよ?」

 挑発的な笑みを浮かべる朧。対し、正紀は身を固めるのみ。少しの間の後、正紀は決心する。

「(晴明、結界を張れ)」
『───手短にな。こんなことは本来はあってはならないのだから』

 正紀に言われたとおり、晴明は2人の周りに結界を張る。そしてそれ以上は口を開くまいと、だんまりを決め込んたようだ。


「────顕現せよ、妖刀『村正』!」


 剣の神子同士の予期せぬ戦いが、今開かれる。


第参ノ噺 終
 

Re: 狂騒剣戯 ( No.4 )
日時: 2019/06/18 23:18
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)

「やる気になってくれたっすか」
「半ば無理やりだけどな…!」

 真っ先に飛びかかってくるデュランダルの刃を、村正でかろうじて受け止める。だが勢いは止まらず、確実に正紀の首を狙ってその切っ先は振るわれる。その意図に気づいた正紀は、すぐさま朧から距離を取り村正を構え直す。

「(こいつ確実に俺のこと…殺しに来てる!)」

 剣の神子が同じ剣の神子を殺す───信じたくはないが、今この場で起こそうとしている人物の目をみれば、嫌でも現実で、しかも対象は自分だと認めざるを得なくなる。だがなんのために?

「村山さん早々にバテないでくださいっすよ〜、楽しくないじゃないですか〜」
「ふざけろ、元より楽しくも何もねえっつの」

 刀と剣が鍔迫り合い、火花は散る。デュランダルがしきりに切りかかり、村正はそれを受け止め、流す。その攻防は逆転することなく、ただただ繰り返されていた。

「ははっ───村山さんと遊んでるとほんと飽きねえや」

 朧はたしかにそう言って、嘲笑った。



第肆ノ噺
『イチジキュウセン・イチジキョウトウ』



 結界内で響く激しい音。火花を散らし、2人の少年は互いににらみあう。朧の口元はゆるくあげられ、まるでこの状況を楽しんているようだ。否、事実楽しんでいるのだが。力任せに剣を振るう朧に対し、このままでは流石に無理だと本能で悟ったのか、正紀は遠く飛び退く。だが、それを許してくれるはずはない。別の意味だと捉えたのだろう朧は、更に笑みを深めて、正紀の懐へと潜り込もうとする。

「っち!」

 そうはさせるかと咄嗟に横にかわす。見事に空振りで終わるデュランダル。その隙に正紀は背後に周り、村正で薙ぎ払う。しかしそれはすぐに気づいた朧によってかわされた。空を切る音が正紀の耳に入る。
 2人は一旦距離を取り、お互いを睨めつける。

「村山さぁん、なんで本気で来ないんすかぁ?」
「……」
「黙ってちゃ分かんねっすよ?」
「(……今の)」

 朧はニヤニヤと厭味ったらしく言ってくるが、正紀は別のことを考えていた。彼の言葉など左から右へ流すように。

「(さっき……花嵐に切りかかったとき、確実に刃は引っかかってた)」

 つい先程の、花嵐への攻撃。確かに引っかかった感触はあった。だが。

「(でもなんで───なんで傷一つついてねえんだ?)」

 朧をちらりと見やる。斬ったはずの場所は、服でさえも全くその痕跡は残っちゃいなかった。まるで最初から『そんなことはなかった』と、主張するかのようだ。
 正紀は改めて朧に向き直る。そして睨めつけた。その態度に朧はますます楽しそうに、自らの獲物であるデュランダルを弄ぶ。そして口を開いた。とてもとても、厭味ったらしく。

「あっれぇ?それだけで終わりっすかぁ?なぁに睨んでンすか傷ついちゃうんですけどー」
「勝手に傷ついてろ、俺は知らねえ」

 そして正紀は相手が言い終わる寸前で、また村正で確かに体を斬った。今度はちゃんと、斬った場所をしっかりと見る。
 しかし、やはりキズは全くついておらず、正紀は眉をひそめる。

「ちょっと人が話し終わる前に斬らないでくださいよ!『避けられなかった』じゃないすか!」
「……!」

 朧のその言葉を聞いて、正紀は確信する。村正は今、確かに朧を『斬った』。だがどうだろうか、目の前のその本人は何事もないようにピンピンしている。かすり傷一つすらついていない。
 まさかと思い、正紀は晴明へと話しかけた。

「(おい晴明、俺の考えが正しけりゃ)」
『(その前に来るぞ、村正)』
「(は?)」
「ちょっと村山さぁん何黙りこくってんすか、まだ終わっちゃ───」

 その時だ。正紀と朧のちょうど間に入り込むように、『空間を破って』どす黒い塊が出てきたのだ。
 その塊は完全に姿を表すと、至るところに『目』らしきものをかっぴろげさせ、がぱりと大きく『口』を開けた。塊からは一本一本『ねっとり』と手足のようなものが生えてくる。ああ、なんと、『気持ち悪い』───。
 正紀は咄嗟に身構える。こいつが確か、晴明が言っていた『妖魂(ようこん)』か。雨音を食ったものと同一だろうか。それならば今ここで腹を割いて、その中から引きずり出してでも助け出す。握る手に力を込めた。
 一方の朧はというと、突如として現れた、『見たこともない気持ち悪い物体』に、目を白黒させていた。こいつは一体なんだ、というよりこれは夢なのか?敵か?あれこれと考えているうちに、黒い物体は朧へとターゲットを決めたらしい。『目』を一斉に朧へ向けた。
 そして一気に大口を開けて、食おうとした。肝心の朧はあまりに突然の出来事に、脳と体が追いついていないようで、そこから全く動くことができないようだった。

「花嵐!そこどけ!」

 間一髪、正紀が朧をタックルして吹き飛ばしたおかげで、黒い物体───妖魂に食われる危険は去った。だが妖魂はまだ朧を見続けている。

「っち、2連戦かよ……おい花嵐、デュランダル構えろ!食われたくなきゃ、あいつをぶった斬れ!!」
「何なんすか一体……!全然ついてけねえんすけど?あれなんすか?黒ごまかなんか?」
「今んなこと言ってる状況じゃねえんだよ!死にたくなきゃやれ!!」
「……わかりましたよ、んな怒鳴らんでも。一時休戦、一時共闘ってやつすか」

 正紀、朧はそれぞれ村正とデュランダルを構える。切っ先は妖魂へと向けて。

「───行くぞ、村正ァ!」
「───せいぜい足掻け、デュランダル!」

 妖刀と魔剣、奇妙な共闘が幕を開けた。





「……この反応」

 ところかわり、村山家。弟である正紀に突然の京都旅行を伝えた壱聖は、ひとり荷造りに勤しんでいた。その途中で、『並々ならぬ気配』を感じ取り、ぴくりと荷物から意識をそらす。

「近所、か?この気配は」

 すっくと立ち上がり、身構える。ピリピリと空気が張り詰め、息をするだけでも苦しく感じられるほどだ。

「……アイツ、巻き込まれてたりして、るよな。しゃーねえ、いくか」

 壱聖はため息をつくと、次の瞬間にはすでにその場から消えていた。





 斬る、斬る、斬る。斬って、斬って、斬って。弾いて、弾かれて、弾いて。息度となくそれを繰り返しては、また同じことを始める。今回のはなかなかしぶといのか、回復機能付きのものであった。正紀も朧もそろそろうんざりしてきた頃だった。

「村山さん、なんすかあいつは」
「妖魂。道摩法師アシヤドウマンが生み出した、人の邪気を食らって成長する化物……だとよ」
「…さっきっからデュランダルでズバズバ斬れてんすけど、村山さんには効かなかったっすよね」
「多分───俺達のこの武器は、『妖魂(あいつら)』と『アシヤドウマン(大元)』しか効かねえんだろ。さっきお前斬ったとき、なんもなかったからな」
「……実験のために話の途中で斬りかかったんすか?」
「正解」
「なんで俺で試すんすかねえ?」

 そんな会話の中でも、しっかりと妖魂への攻撃は忘れない。だが斬ったとしてもそこはまたすぐに再生される。これには正紀も苛立ちが込み上がってくる。

「しぶてえな…」
「八つ裂きにしてやりましょうや」
「いや、すぐに再生されると思うぞ」
「チッ」

 苛立っていたのは朧も同じようで、デュランダルを握る力が強くなった。

「(このままじゃ埒が明かねえぞ、晴明)」

 正紀はその隣で晴明に助けを求めた。きっとろくな答えは帰ってこないだろう、という諦めもあったが。

『(再生できなくなるほどの強き力ならば、或いは)』
「(んなもんどっからくんだよ)」
『(それは己が見つけるものだ)』
「(つっかえねー……)」

 ただヒントは得られた。再生できなくなるほどの、強い力で奴を攻撃すれば、おそらくは斃せる。しかしそんなものはどこにある、と言われれば心当たりなどないわけで。

「(再生できなくなるレベルにまで弱めるしかねえのか)」

 正紀はそう結論づけた。朧に目配せをして、やるぞという意味で妖魂を指差した。それに気づいた朧は、苦い顔はしたものの、こくりと首を縦に振り、正紀に続く。
 村正が一閃し、デュランダルでその傷に深く差し込む。そしてそのまま叩き下ろす。すぐに一閃された場所から再生が始まるが、そうはさせるかと2人は村正とデュランダルを同時に振り下ろす。たちまち妖魂は金切り声を上げて、バランスを崩した。

「今だ!」

 好機とばかりに2人は妖魂へ斬りかかる。村正が薙ぎ払い、デュランダルが傷をえぐる。妖魂はまた金切り声を上げて、もう片方のバランスも崩す。
 残るはもうトドメのみ。中心部を狙って村山を構える。その後に続くように、デュランダルもまた切っ先を妖魂へ向ける。

「終わりだッ!」

 と、その時だった。


「俺が王だ!俺の前に姿を現せ!『聖剣エクスカリバー』!」


 突然、妙に聞き慣れた声が、はっきりと『王』であることを示すように乱入した。幾重に重なる七色の虹は、その人物を称えるかのように咲いている。そしてその中心で目をつぶるほどのまばゆい光に包まれた、『聖剣』。それを引き抜くと、その人物は高く掲げて───


「消え果てろ!チリの一つも残さずな!!」


 一閃。瞬間、妖魂は聞くに耐えない悲鳴を上げて文字通り消え果てた。
 光はすうっと薄くなり、聖剣を掲げていた人物がだんだんと如実になっていく。そうして出てきた人物に、正紀と朧の2人は、目をこれでもかと言わんばかりに見開いた。


「兄貴ぃ!?」
「壱聖サン!?」


 『聖王』はニヤリと笑った。


第肆ノ噺 終


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