コメディ・ライト小説(新)
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 位置について、
- 日時: 2019/01/23 23:07
- 名前: 赤いろ (ID: qvpAEkAG)
できるだけ、毎週火曜日に更新しようと思っています。よろしくお願いします。
- 位置について、 ( No.1 )
- 日時: 2019/01/23 23:06
- 名前: 赤いろ (ID: qvpAEkAG)
位置について、よーい─────パンっ!!
地面を蹴る。足を上げ、前へ前へ、少しでも速く。ふと、自分が風になったのに気づく。体が軽くて、目を瞑ったらそのまま本当に翔んでいけるんじゃないか、そう思えるほどに。
走り終え、スピードを落とすと、一気に体が重くなる。薄く汗が浮かんだ鉛のような体を引きずっているような感覚になる。あの爽快感や、自分の細胞の一つ一つが風に触れたみたいな感覚は、走っている瞬間しか味わえない。
「6.35!」
ストップウォッチを首に下げた先生が誇らしげな顔で言う。それと共に先輩たちの針のような視線が身体中に突き刺さる。けどもう慣れた。むしろ自分より速い奴に嫉妬するのは全然いいと思う。だから俺も最初は気にしていたけれど、今では走ることだけ考えることにした。
部活が終わって、下校するとき、俺は必ず家まで走ると決めている。リュックを背負って、もう11月になるけれど半袖半ズボンで3kmの道のりを走る。空の水色と夕日の暁色が混じって紫色になった空には霞んだ月がぽってりと浮き出ていて、広大な田んぼの水面には自分の伸びた影が落ちていた。部活の、グラウンドを何周も走るような練習より、移ろいゆく景色を眺められるこっちの方が好きだった。
しばらくして、小高い丘の上に建ち、綺麗に整えられた庭木に囲まれた自分の住む家が見えてくる。オレンジ色の屋根の童話に出てきそうな家だ。無言で家に入ると、カレーの匂いがした。
「おかえり」
そう言った父さんはキッチンでカレーを煮込んでいる。俺はそれを一瞥して、やっぱり無言で二階の自分の部屋に向かった。晩御飯のカレーは異様に甘ったるかった。具材もひとつひとつが小さくて、まるでお子様ランチを食べてるみたいな気分だ。
「柊耶」
父さんが俺を呼ぶ。何か引っ掛かるモジモジした声だ。それにいつもより食べるスピードがだいぶ遅い。俺は押し込むようにカレーを食べ続ける。
「父さん、と母さん、離婚するんだ」
俺は最後に水を飲んで、空になったグラスをわざとダンッ!と大きな音をたてて机に置いた。父さんは怯えたような心配そうな眼で俺を見る。
「ごちそうさまでした」
俺は皿を片付けて自分の部屋に戻りながら思った。イライラする。
離婚なんて今に始まったことじゃないだろう。書類上は離婚していなかっただけで実情はすでに別居していたんだから。わからないとでも、思ってたのか。そういうところが、俺を子供扱いするところが、イライラする。まるで離婚が一大事みたいに、言いやがって。勝手に離婚してろよ。俺は離婚しようがしまいが生きていける。俺を、可哀想みたいな眼で、見るなよ。
ぼふん、とベッドに倒れ込む。ひんやりとした布団が気持ちいい。このまま寝てしまいたいのに今日はやけに目が醒めている。走りたい。そう想った。
Page:1