コメディ・ライト小説(新)
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- GANS!
- 日時: 2019/02/04 08:10
- 名前: もすこ (ID: RO./bkAh)
不幸系女子の集まり
粟島彪(awasima aya)…可愛いのに言動が荒い。
伊沢衣織(isawa iori)…真面目なのに融通が効かない。
上家有喜(uwaya uki)…優しいのに沸点低すぎる。
- Re: GANS! ( No.1 )
- 日時: 2019/02/04 09:27
- 名前: もすこ (ID: RO./bkAh)
「今月27日に県内の学校で、在学中の高校3年の女子生徒が屋上から飛び降り自殺をした件について…」
彪はテレビを見ていた。夜中であるが、横には衣織がポテチの袋片手にベッドの下に寄りかかっている。暗い部屋でテレビの明かりのみが2人の顔を正面から照らしている。
「なんて言う先輩だっけ」
「なんだっけ…佐藤先輩でしょ。元家政科部の」
へぇー、と彪から聞いたのに彼女は案外どうでも良さげだった。連日、高校に取材が来るわくるわで彪も衣織も校門の前で報道陣に囲まれた。しかし彪が道を塞がれたことに対し腹を立ててしまい、記者に謝罪をさせるという異例の自体を起こしてしまった。
「受験のストレスって…ストレスをかいくぐってきた学生なんてそこらじゅうにいるわ。そもそも、うちの高校からセンターなんて無理でしょ」
衣織はキャスターの言葉に無慈悲に批評した。自分の通っている高校から自殺者が出るなんて思ってもみなかったが、実際にこういうことが起こるとSNSで実名で自分の高校が叩かれている。これだから地元の底辺校は…って、偏差値48なら下手な私立もおるやんか。2人はスウェット姿で携帯をいじっている。大概、愚痴である。
「あ、帰ってきた」
深夜2時を回って、玄関の鍵が開く音がした。ドアが開きリビングへ向かう足跡がする。
「あなたの父親早いね、今日は」
「今日は会わなかったんじゃないの?知らんけど」
トイレ行ってくるわ、と彪が部屋を出た。よく彪はグレないなぁと衣織はいつも感心している。
- Re: GANS! ( No.2 )
- 日時: 2019/02/04 10:15
- 名前: もすこ (ID: RO./bkAh)
電車が止まった。人身事故らしい。とりあえず学校に電話しようか焦ったけど、同じ制服の人が同じ車両にいるから動くまでじっとしてよう。
「ただいまから人身事故の影響で30分程停車いたします。ご迷惑をお掛けして誠に申し訳ありません」
田舎とも大都会とも言えないこの土地で、こんなことがあるなんて。有喜は窓の外を眺めていた。混んだ車内を見渡すと、携帯を一斉に触り始めている。
「迷惑かけてんの飛びこんだヤツじゃん?」
「遅延届けわっしょーい」
いかにもなDQNがデカい声で話している。隣に座っていたガタイのいい野球部らしき男子が舌打ちをしていたのが聞こえた。重そうなショルダーバッグを抱え、足元で高校名と背番号、名前が刻まれたリュックを挟んでいる。先程からリュックから出たバットが有喜の膝からスネに当たり痛い思いをしている。
「あ、永川です。すいません、電車止まっちゃって…はい、朝練行けそうにないっす」
えいかわと名乗った坊主は、電話越しに頭を下げた。肘が有喜当たりまた痛い思いをしている。騒がしくなる車内で坊主の声など虫の囀りである。今度は有喜の携帯に着信画面が表示された。有喜は出たくなかった。
『あ、姉貴』
「なに?電車なんだけど」
『あ、あのさ、俺ら遠征でいないから』
「どうでもいいことわざわざ言ってくんなよ」
『家空けるからさ、』
「そのまんま帰ってこなくていーよ」
どうして母親が直接家の用事を有喜に伝えないのか。どうして弟のボーイズの遠征にわざわざ一家でついて行くのか。そう、一個下の弟が生まれたときから答えは出ている。
「いたっ」
「あっ、ごめんなさい」
携帯を耳からぶっきらぼうに離す時に、高校球児の頬を掠めてしまったらしい。散々自分が痛い思いをしたのに、そんなこと、すっかり忘れて本気で謝る。
「いえ、大丈夫です」
「ありがとうこざいます」
このまま携帯に向き直るのも、有喜には気が引けた。
「…中々動かないですね」
咄嗟に話しかけてしまった。やばいと思ったが、とっくに高校球児はこちらを向いている。
「30分以上経ちましたよね」
流石、陽キャの鏡野球部は話の返しが上手い。
「あの、U高ですよね?」
「あ、はい」
「自殺した人いるところすか?」
「あぁ、1個上の先輩が…」
初対面の相手と盛り上がる話ではなかった。あぁ失敗した。またあの2人にポンコツ呼ばわりされるけど、あながち間違ってない気がしてきた。有喜が1人で頭を抱えている。高校球児は不思議そうに見ている。
- Re: GANS! ( No.4 )
- 日時: 2019/02/05 09:31
- 名前: もすこ (ID: RO./bkAh)
「ねぇ、伊沢衣織やばいって、」
「まーた?援交?」
トイレの鏡は全て占領されている。コテは持ち込み禁止だが、コンセントから32mmのものが繋がれていた。小田おの香と垣根香耶、2人はバスケ部のマネージャーである。コテに髪の毛を巻き付けながら、おの香は衣織のことを香耶に話している。
「あんなブス、よく男が選ぶよね」
「まぁでもさぁー男子から見たらあれぐらいが可愛いんだって。ほら、銀太とかさ」
トイレの個室のドアが音を立てて開いて、タイルの壁と激しくぶつかった。衣織である。
「援交、してないから」
大人しく手を洗って、ついでにコンセントの部分を足で思い切り踏んづけた。そしてトイレから出ていってしまった。プラグは曲がってしまった。噂の元凶はあいつらかよ。割と冷静な面持ちで教室に戻ると、有喜がいた。マフラーを外しているので、たった今来たのだろう。
「衣織おはよ~」
「おはよう」
- Re: GANS! ( No.5 )
- 日時: 2019/02/05 23:08
- 名前: mono (ID: RO./bkAh)
3人はいつも一緒にいる。とりわけ普通の女子グループで、最初は大人数で固まっていたけど自然とこの形になった。
「ねぇ、イケメンと喋ったの」
昼休み。有喜は乙女の面持ちで衣織と彪を交互に見ながら言った。
「きもちわるっ」
彪は咄嗟に暴言を吐いたが、衣織は顔色ひとつ変えずに有喜の話を聞こうとしている。
「隣にね、イケメンが座ってて、私にバットと肘当てまくってきてて痛かったんだけど…」
「ちょっと、何の話してるの」
「日本語喋ってわ」
衣織が話を制止した。有喜の天然がモロに出ている。
「とにかく!」
「だーかーら!話わかんないのにまとめんなや!」
彪は有喜の話が分からなくてイライラしている。今のところイケメンに暴力を振られて有喜が喜んだ話にしかみえてこない。
「かっこいい人いたんだけど、野球やってたから…嫌になった」
「またキレちゃったの?」
「キレてはないけど、シャットダウン」
有喜にとって、今日から遠征なのを当日に聞くのは珍しいことではない。少なくとも小学4年生からずっとこうである。私の人生を狂わすもの、弟、肉親、野球。有喜にとって悪い意味で絶大な地雷である。
「まぁ、有喜もいい加減キレていいと思うよ家族に」
「そこは話し合いでしょ」
「ううん。言ったって無駄だし」
変なところで折れたり優しい有喜に、衣織は時たまむず痒い思いをする。この間、いつも不真面目な彪に「融通が聞かない奴は頭が良くても精神年齢が低い」といきなり言われて、珍しく言い返せなかった。破天荒すぎる2人を抱え、1番まともなのは自分だと思っていたからだ。
「でもさ、弟くんは有喜のこと好きなんでしょ?」
「兄弟の片割れしか愛せない親も普通にいるんでね?私一人っ子やけど」
「なんでわかるの?」
「いや、わかるっていうか。なんかね、友達といるときの過度な不安とか依存しちゃいそうになるのはね、たぶん家庭に問題がなかったら起こらないと思うの。絶対気持ちが離れないのって、親でしょ。知らんけど。でも生まれたときから、そもそもの安心感とか居心地の良さが分からないと、どうしていいかわからない。即ち人としてスタートが遅いのです」
また変なこと言ってる。衣織はお弁当を食べ始めた。
「彪、わかるかも、それ」
「…超適当なんだけど」
「消えないよね、その気持ち」
わからない、分からなくてごめんなさい。衣織は2人のどこか解けたような雰囲気に危うく飲まれそうになった。
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