コメディ・ライト小説(新)

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アイとエールの狂想曲
日時: 2019/04/03 12:57
名前: 羅知 (ID: nAGkhkN.)



 七月。初夏の頃、人生で何度目かの転校の挨拶をした。

 
 いつも通りの反応。
 いつも通りの質問。
 それに応対するいつも通りの自分。

 
 窓越しに日差しがさんさんと降り注ぎ、汗がたらりと肌を伝う。虚勢。打算。利己。欺瞞。色んな思考に絡みとられて、縛られて。
 
 すごく、すごく気持ち悪い。


 
 それらを劈いて。


 
 
「フレーーーーー!!!」

「フレーーーーー!!!」



 
 暑さの中でも一際暑苦しいエールが窓を突き破って、俺の体を通り抜けていった。

 
 窓を開ければ、青空の下、見ているだけで暑苦しい学ランの二人組がいて。


 その姿はどこからどう見たって────おかしかった。

 
 狂ってた。



 


 
 滑稽だった。






 なのに、どうして、こんなにも目が離せないんだ?







羅知と言う者です。普段は複雑ファジー板で書くことが多いです。
今回はコメディライトな学園モノを書いていきたいと思っています。短編です。
応援宜しくお願いします。
2019,4,3



目次

キャラ紹介
第一話【鳴湫瑞穂はアイされたい】
第二話【御剣千種はいつかアイたい】
第三話【百々鍛埜はアイいれたい】
エピローグ

Re: アイとエールの狂想曲 ( No.1 )
日時: 2019/04/03 13:41
名前: 羅知 (ID: N5yVg.Pp)

*キャラ紹介*




 
御剣千種みつるぎちぐさ
 転校生。十七才。
 親が転勤族であり、幼い頃から転校を繰り返してきた。
 事なかれ主義で人との深い関わりを避けている。






鳴湫瑞穂なるくてみずほ
 十六才。御剣の後輩にあたる。
 鍛埜と仲が良く、二人で応援団として活動している。
 明るくハキハキとした性格。礼儀正しい。






百々鍛埜とうどうかじの
 十六才。御剣の後輩にあたる。
 瑞穂と仲が良く、二人で応援団として活動している。
 素直ではないが優しい性格。敬語は苦手らしい。
 

Re: アイとエールの狂想曲 ( No.2 )
日時: 2019/04/04 12:30
名前: 羅知 (ID: hoxlJQ3C)

「今日からこのクラスの仲間になる、御剣千種みつるぎちぐさ君だ。……さ、御剣君。挨拶を」
「皆さん初めまして。御剣千種と言います。これから宜しくお願いします」


 
 十七年の人生で何回この言葉を言っただろうか。


 そんなことを考えながら、俺─御剣千種は作り慣れた笑顔で転校先のクラスメイト達に挨拶をする。挨拶に対する反応も"今まで"といたって同じ。あまり興味なさそうに適当に拍手をしてたり、好奇心でこちらをじろじろと見てきたり。

 
(やっぱり、どこに行っても似たようなもんだな……)

 
 転校初日のドキドキとかワクワクとかそういうのは、もうとっくの昔に卒業した。今、俺の頭にあるのは、"この学校生活で、いかに波風を立てずに無難に生きていくか"、ただそれだけだ。

 幼い頃から今まで数えきれない程、親の都合で転校を繰り返した。
 仲よくなったと思ったら、すぐに転校。その後元いた学校の友達からは音沙汰ほぼナシ……何度も何度もそんなことがあった。初めの頃こそ泣き喚いた。親に文句を言ったこともあった。けれどもそのうちそれは全て無駄だと気付いた。子どもは親の決めたことに逆らえない。繰り返す転校は免れることの出来ないことだと。

 そのような状況下で出来る最善策とは?────そう考えたとき、俺がとった行動。それがとにかく"無難に生きること"だった。
 波風を立てるようなことは避ける。目立つようなことはしない。クラスの中心人物にもはぐれ者にもならないように。可も不可もなく、いてもいなくてもいいような存在であること。常に相手と自分には一枚の壁があるくらいのつもりで話すこと。
 これらのことを守るだけで、俺は随分と楽に生きられるようになった。
 寂しい生き方だ、冷たい人間だ。俺の生きざまは他人にはそう思われるかもしれない。だがそれがどうした。他人は所詮他人でしかないし、俺の人生は俺のものだ。誰かが俺の人生を代わってくれるワケがない。だったら他人に俺の人生をどうこう言われる筋合いなんてない。俺は俺が幸せになれる一番の道を選ぼう。


 
 期待するだけ無駄なんだ。
 相手を無闇に嫌いたくないし、自分だって嫌われたくない。
 お互いにウィンウィンな関係で生きてくには、こうするのが一番なのだ。

 
 これが、十七年間で俺が導きだしたベストな結論だった。

 

 *
  

 
 転校初日と言えども、蝉がじぃじぃとさんざめく中、授業は普通に進んでいく。幸い今日受けた授業は以前いた学校で習ったものが多かったので、周りに遅れをとることはなかった。
 四時間の授業が終わり、昼休みが始まると、我先に我先にとクラスメイトの面面が俺の机の周りに集まってくる。その中でも一番最初に質問をしてきたのは、クラスのカースト上位らしいポニーテールの女子だった。何となく質問が予測出来て、俺はごくりと唾を飲み込む。

 
「御剣クンって都会の学校から転校してきたんだよね?どんな感じだったの?」

 
 ほら来た。
 都会の方から地方の学校に転校した時には必ずと言っていいほど、この質問をされる。しかも決まって質問するのは、華やかな雰囲気のいかにもモテそうな級長やってますっていう風な女子だ。都会ブランドがそんなに良く見えるんだろうか。

 
「こことあまり変わらないよ。普通の学校。色んな場所から電車で通ってきてるから、皆が皆都会に住んでるワケじゃないしね。強いて言うなら、制服がブレザーだったってことくらいかな」
「そうなんだ……」

 ここで下手な対応をすると、これからの無難な学校生活が危うくなる。俺は内心かなり緊張しながら表面上は自然を心がけた。相手の好奇心を下手に刺激して、これ以上質問をされることを防ぎながらも、ちゃんと相手の質問には答えた、なかなかに無難で真摯な対応だったのではないだろうか。
 
「うん、あまり面白い話じゃなくてゴメンね」
「あ、ううん!いいんだよ!お話聞かせてくれてありがとね!」

 途端につまらなさそうな表情になった女子にフォローを入れておく。謝るときに、あまり真面目になりすぎずに薄ら笑いを浮かべておくのがコツだ。別に俺に面白い話をする義務があるワケじゃないし、謝る必要なんて全然ないワケだが、ここで大事なのは"私は貴女のことを慮ってるんですよ"というアピールだ。カースト上位にある程度媚を売っておくのは大事だ。今まで通り無難に生きていくのなら。


「なぁ、前の学校では何の部活に入ってたんだ?」

 カースト上位女子と俺の会話が終わると、待ってましたとばかりに次々と質問が飛び交う。質問の中には、彼女はいるのか?とか兄弟はいるのか?とか、それ本当にお前聞きたいのか?と聞き返したくなるようなものさえもあった。大体が今までいた学校でもよく聞かれていた質問だ。正直答えるのが面倒になってくる。だけどここでぞんざいに答えて、後から何か色々言われたり思われたりするのは余計面倒だった。毎度のことながら、この時間はとても疲れる。やり慣れた愛想笑いが崩れてしまいそうだった。

 教室はエアコンがよく効いており涼しいはずなのに、俺の額には汗がぽつぽつと浮かんでいた。

 
 *

 
「……ちょっとトイレ行くね」

 
 結局、俺がそう言って教室から出ることが出来たのは昼休みが終わる五分前のことだった。
 教室の外は熱気が凄く、教室との温度差で掛けていた眼鏡が曇ってしまうほどだったが、人に囲まれていない分、教室より遥かに快適に感じた。

「…………はあ」

 そうやって溜め息を吐きながら、壁に凭れかかると、どっと疲れを感じる。この質問責め地獄だけは何度味わっても慣れることはない。
 そもそも経験値だけで人とコミュニケーションをとっているため、本当は人との付き合いはあまり得意じゃないのだ。空気を読むのは得意だ。雰囲気に合った発言をするのも。だけど人の顔色ばっかり窺って疲れないワケがない。生きていく上でこうするのが一番だったから、こんなことしてるだけで、本当は、本当の本当は、もっと堂々と生きていたい、ってそう思ってる。
 でも、それは出来ないことだった。今更そんな生き方出来るはずがなかった。俺はずっとこうやって生きてきたのだ。これがベストだと思って、こうするのが自分が一番幸せになれると思って、そうやって生きてきたのだ。こんな自分になったことを後悔してないと言ったら、嘘になる。けれども、一度決めてしまった生き方から方向転換するのは、なかなかに難しいことだった。

「…………………………はあ」

 もうすぐ昼休みの終わりのチャイムが鳴る。またあの教室に戻らないといけないかと思うと頭が痛くなった。
 でも、戻らないといけない。あまり遅いと変に思われてしまう。どこまでも"無難に生きている"ことに囚われている自分が嫌になって、余計に頭が痛くなる。








 
 いや、っていうか、本当に。







 
 本当に、めちゃくちゃ、痛く、痛すぎじゃ、ないか?







 
 い、たい。いたい。




「……大丈夫っすか?」



 
 動、けない。痛い。
  きもちわる、い。



 
 
 「……あの、顔が真っ青なんだが」




 
  だ、れ、だ?
 ぐるぐる、する。わからない。
  だ、れ? だれだ。








 
「とりあえず、この人、保健室連れてくよ。瑞穂みずほ、運ぶの手伝って」
「分かった。……って、うわ。この人軽すぎじゃないか!?」
「この人も瑞穂に言われたくはないと思うよ……」





 
  だれでも、いいから
  たす、けて





  いたい、あつい、きもちわるい。

 



 







 
「熱中症だろうな。恐らく」
「……そうだろうね。今日はすごく暑かったし」
「というか、鍛埜かじの?さっきからオレ達タメ口きいてるが、この人先輩じゃないか?」
「………先輩?ヤッベ、タメ口きいちゃったよ。そういうことは早く言って」
「オレだって今気付いたんだよ!!」


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