コメディ・ライト小説(新)

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おとぎ喫茶-結末のつづきの物語-
日時: 2019/07/22 05:29
名前: 心丸 (ID: iykFqmai)

誰もが知るおとぎ話の「めでたしめでたし」の、誰も知らないその続き。

主人公がその喫茶店に入った瞬間、その続きが綴られる……

これより語られるのは、世にも不思議なとある喫茶店の、誰も知らない物語。

さあ、最初の1ページをどうぞ。

Re: おとぎ喫茶-結末の1ページ- ( No.1 )
日時: 2019/07/24 06:10
名前: 心丸 (ID: iykFqmai)

第1話 桃太郎

『昔々、とある所にお爺さんとお婆さんがいました。二人には子供がいませんでしたが、心の優しい夫婦でした。
ある日、お婆さんが川へ洗濯に行くと、川上から大きな桃が流れてきました。お婆さんは桃を家へ持ち帰りました。そして割ってみると、中から男の子の赤ん坊が。二人はその赤ん坊に桃太郎と名付け、大切に育てました。
その頃、村で金銀財宝を奪って皆を困らせる鬼達がいました。それをきいた桃太郎はお婆さんにきびだんごを貰って、鬼が島へ鬼退治にいきました。途中で出会った猿・きじ・犬をお供につけて見事鬼を退治した桃太郎は、金銀財宝を取り戻してお婆さん達の元へ帰り、村の英雄となっていつまでも幸せに暮らしました』

「誰でも知ってる話ですよね?」
「そうだね。子供が昔話と聞いて一番に思い付くのはこれなんじゃないかな」

確かに、一番最初に思い付くっていったら桃太郎だよね。一番メジャーなやつ。
ていうか、なんで僕もこれを読もうと思ったんだっけ。嗚呼、そうだ。今日、友達に桃太郎の逸話をきいたからだった。

「桃太郎の逸話、知ってる?」
「……今朝、あかねくんから」
「茜からか。じゃあ、きっと聞いたんだね」

あおいさんは、珈琲豆を挽きながらくすくす笑った。


ここ、おとぎ喫茶は、少し変わった喫茶店だ。カウンターと、2人掛けのテーブル席が3つあるだけの小さな喫茶店。この店に入って一番に目をひくのは、壁を覆い尽くす本達だろうな。本棚じゃなくて、壁自体が棚になっていて本で全部埋められている。自由に読んだり、気に入ったら買うこともできるから、喫茶店なのか本屋さんなのか時々わからなくなる。
でも、珈琲やスイーツの味は確かだ。店主の葵さんはさらさらの黒髪に涼しげな表情と青いフレームの眼鏡がよく似合う美青年で、珈琲を淹れるのもスイーツを作るのも全部葵さんがやっている。すごい人なんだよ、葵さんは。

ちなみに僕は楓。高2で、訳あってこのおとぎ喫茶でウェイターとしてバイトしている。茜くんは、葵さんの従兄弟で僕と同級生。茜くんとは直ぐに友達になれたんだよね。


「桃から産まれた桃太郎……っていうけど、実はそうじゃなくて、流れてきたのは只の桃だったんだ」

葵さんは珈琲豆を挽きながら、楽しそうに話す。僕は葵さんと向かい合う形でカウンター席に座った。今日はお客さんもう来なさそうだし。

「当時、桃は栄養価の高い貴重な食材だったからね。お婆さんは喜び勇んで持って帰って、お爺さんと一緒に食べたんだ」

嗚呼、ここからが少し俗っぽくなるんだよなあ……
葵さんは挽いた珈琲豆を取り出しながら、僕を見ていたずらっぽくにこっと笑った。

「それでどうなったでしょう?」
「……二人は若返ったのでしょう?」
「そう。そのくらい桃には栄養があると思われていたんだね。さて、二人には子供がいなかった。年をとって、もう諦めていた。しかし、チャンスが巡ってきたんだ。だから、二人は……」
「もういいですって!!」

恥ずかしくなって叫ぶと、葵さんは楽しそうに肩を揺らした。もう、中学生かよ!
簡潔に云うと、桃太郎は若返った二人の間にできた子供だっていう話。でもそれを幼子に説明するのはいかがなものかって話になるから、今のような形になった……
いや、普通にあり得ないよね? 無茶だよね?

「まあ色んな説があるから、判らないけれどね」
「ぱっかーん、おぎゃーでいいじゃないですか」
「でも、もしお爺さんが桃を真っ二つに切ったのなら中の赤ん坊まで……」
「無理矢理桃太郎を怖くするのやめてくださいよお」

葵さんは本当に楽しそうだ。いつもはやさしい大人なのに、時々こういうところあるからなあ、葵さんは。
ふう、と息をついていると、カラン……とドアについているベルが鳴った。あっ、お客さんだ。
立ち上がって、出迎える。

「いらっしゃいませ。ようこそ、おとぎ喫茶へ」
「あのう……」

ここ、おとぎ喫茶は少し変わった喫茶店だ。たくさんのお話が集まっている。そして、今日も。

「わたし……桃太郎なんです」

物語の主人公が、お客さんだ。

Re: おとぎ喫茶-結末の1ページ- ( No.2 )
日時: 2019/07/21 07:24
名前: 心丸 (ID: iykFqmai)

「ご注文は何に致しますか?」
「えっと……」

葵さんにうながされ、カウンター席に座った桃太郎さんが手に持ったメニューの冊子を眺める。

それにしても、あんな話してた直後に本人が登場するなんてすごいタイミングだなあ。あの話のあとだと、少し申し訳ない気にもなる……
桃太郎さんは、よく絵本の挿し絵で見るような姿をしていた。長い黒髪をポニーテールにして、桃のマークがついた白い鉢巻きをしている。金の着物、黒い甲冑かっちゅう、白い羽織の順番で着ていていて、強そうだけど、少し頼りないような、悩みごとがあるような顔をしている。まあ、ここに来るお客さんで悩みごとのない人はいないんだけどね。

「じゃあ……緑茶と、きびだんごで」
「かしこまりました」

葵さんがその場できびだんごを作り始める。こんなお店だから、こういうメニューも多々ある。
僕は葵さんの手つきをみつめる桃太郎さんの隣に「失礼します」と座った。

「本日は、どうしてこちらに?」
「えっと……どうしても、知りたいことがあって。どの本でも語っていなかったから、自分で探そう、と……おとぎ喫茶の話は、有名ですから」
「有名、ですか?」
「はい」

桃太郎さんが、微笑みながらきびだんごを練る葵さんをちらっと見る。

「なんでも、主人公も知らなかった結末の1ページを書き加えてくれるすごい店主がいるって。……そうですよね……?」
「ええ。光栄です、かの有名な桃太郎さんにお越し頂けるなんて」

葵さんは手際よく緑茶を淹れて、きびだんごと共に「お待たせしました」と桃太郎さんの前に置いた。

「ありがとうございます……」
「とりあえず召し上がって下さい。今日はもう桃太郎様が最後のお客様ですから、召し上がったあとお話をお聞きしますよ」
「ありがとうございます。では……」

桃太郎さんは「いただきます」と手を合わせてから、竹串で黄色のきびだんごを刺して、おずおずと口に運んだ。

途端に、張り詰めていた表情が綻び、綺麗な顔にやさしげな笑みが浮かぶ。

「お婆さんのきびだんごの味だ……」

僕と葵さんは目を合わせて、にこっと笑った。

Re: おとぎ喫茶-結末の1ページ- ( No.3 )
日時: 2019/07/21 11:06
名前: 心丸 (ID: iykFqmai)

お皿と湯呑みが綺麗に空になると、桃太郎さんは礼儀正しく「ご馳走さまでした」と手を合わせた。

「お粗末様です。それで、知りたいこと、というのは?」

葵さんがお皿と湯呑みをカウンターの内側に運びながら、物腰柔らかに尋ねる。
桃太郎さんは、少し考えたあと、ゆっくり口を開いた。

「桃太郎って、川から流れてきた大きな桃から産まれた……というのが有名ですよね。いろんな本で私の人生が綴られているのをみてきましたが、ほんとんどがそうでした」
「そうですね。私達の認識だと、そういうことになっています」

葵さんが応えると、桃太郎さんは憂い顔でふう、と溜め息をついた。

「実は、そうではないのです」

え?
いや待てよ。それじゃ、あの逸話ってまさか?

葵さんは頭がいいのに、ときどき僕と同じ脳になる。
だから僕がふっとそれを考えたその瞬間、葵さんは嬉しそうに笑って言った。

「それでは、お爺さんとお婆さんが桃を食べて若返っむぐっ」
「あーおーいーさーんー?」

ばっと葵さんの口を手で塞ぐ。あっぶな。なんでこう、たまーに信じられないくらいアホなんだろうこの人は。

「若返……?」
「ああ、気にしないでください!! 余りに有名な話なので色んな逸話があるという話です!!」
「そうなのですか」

桃太郎さんは、あほな店主とその店主を睨みつける僕を不思議そうに見ていたけれど、僕の必死の取り繕いに純粋に頷いた。ああ、なんか罪悪感すごい。

葵さんは何かまずいことを言いそうになったのだと気づいたらしく、「気を取り直して……」と呟き、眼鏡をくいっと持ち上げた。そして、黒髪をさらりと流して首をかしげる。

「それでは、違う、というのは?」
「……その逸話で、このような話を聞いたことはありませんか?」
「?」

桃太郎さんは僕と葵さんを交互に見やった。
そして、寂しげににこりと笑って、口を開いた。

「桃太郎は、川に流されて捨てられていたのだと」

葵さんが涼しい顔のまま口を僅かに開いた。僕は思わず目を見張った。
桃太郎さんは、寂しげに笑ったまま、言った。


「私は、自分の親を……自分が何者なのかを知りたいのです」

今回の依頼は、誰もが知る人気者の英雄の親探しだ。


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