コメディ・ライト小説(新)

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恋敵になりまして。
日時: 2020/09/24 17:44
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12710

 どうも、初めまして。
数々の小説に圧し潰されながらも頑張って生きる雪林檎ゆきりんごです。 
 

いやぁ、完結していない小説をお読みになってくれていた読者の皆様にはお詫びします。
すみませんでしたっっ!!!



 今作も、ていうか……読んでくれると嬉しいです。

☆ 注意 ☆
この作品は『君はかわいい女の子』という小説スレを利用したものになっております。
けれども、全く新しい物語なので楽しんで頂けると思います。
 そして今作ではいくつか主人公による軽いいじめや傷害等が出てくると思います。
そういうのが苦手な方はお早めに読むことをおやめになってください。

☆ 概要 ☆
 恋する乙女で副会長を務める雪科ゆきしな 月奈つきなは生徒会長の事が好きなのだが会長の心を狙う女子達の排除で忙しい日々を送っている。
 ある日、同じような女子生徒一人と一緒にいる会長を見てしまう。その顔は見たこともない程、赤くなっていて……!!

恋の為に密かに脅し暴れ回る月奈と結ばれるのは、本命・会長か……それとも?

☆ 目次 ☆

一気>>0-

ぷろろーぐ>>1

登場人物>>2

第一章>>3


最後まで、温かく見守ってやって下さいな。

☆ コメントをしてくれた大切な読者様 ☆

・美奈様 >>5-7

有難うございました!!ヾ(≧▽≦)ノ

☆ お知らせ ☆

第一話投稿 _ 2020/09/14 17:10

ぷろふぃーる追加!登場人物紹介の欄に書き加えましたよ!

Re: 恋敵になりまして。 ( No.10 )
日時: 2020/09/19 15:08
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)

☆ ぷろふぃーる ☆

名前:鳴海朔良
性別:男
年齢:17
身長や体重など外見の特徴:さらさらなショートに切った黒髪に眼鏡を掛けている。細く華奢な体躯。童顔。
口調と人称:一人称「僕」、二人称「○○さんor○○君」、三人称「皆さん」
性格:寛容さと慈悲の心を持ち合わせた優しい好青年。だが、人の好意には超が付くほど鈍感。
好きなもの:うどん
嫌いなもの:牛乳
理系か文系orあるいは体育会系:文系
家族構成:父、母、祖父母
座右の銘:「No pain no gain」痛みなくして何事も得られない

Re: 恋敵になりまして。 ( No.11 )
日時: 2020/09/22 15:08
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)

☆ 第三話 ☆

 「……え、まさか月奈と知り合いだったんですか?」
あの父が、自分より年下の男に敬語を使っているのが不思議で、違和感しかなかった。

 「お父様、この、男を……知っているんですか!!?」
 返された無言で大体の事を察する。
父にとって大切な方なのだと。

 着けていたマスクを外すと男は淑やかに一礼をした。
呆気に取られてしまう。
 「嬉野うれしのしょう君だ、ちなみに彼の御父上は雪科家顧問弁護士・嬉野さんだ」
そして――と言葉を続ける。
まさかあのメガネの弁護士の息子とは、父が厚遇するのも無理はないと思う。
 

 ___________「月奈の将来、夫になる相手だよ」

それまで和んできた空気が瞬間、凍り付く。
 兄達は驚きで固まった当人である私よりも激しく取り乱して二人で抱き合っている始末だ。
 知っていた母は翔を我が息子同然の温かい眼差しで見つめていた。

「は、はぁ?……ど、どう言う事……ッ」
一言も聞いていない。
私に相談もせず、有無言わせず、婚約を取り付けてしまったのか。
酷い。
すると、私の気持ちを察したのか慌てたように両親は撫で声に生温かい言葉をかけてきて擦り寄ってくる。
 
 「今日、説明して顔合わせをしようと思ったんだ、決して今、お前の考えることは母様も私も考えていないんだ」

 誤解しないでくれ、と言う体温の低い、けれど何だか安心さと優しさを持ち合わせた手を思わず握り返しそうになった寸前で振り払った。

 「ふざけないで、こんなの、認めないから……!」

 踵を返し、翔の右側を通り過ぎる。
自室のある二階に行こうとすると、グイッと強い力で腕を掴まれる。
引っ張ってきた相手は勿論、翔に決まってる。

 鋭い眼光を向け「何か用?」と訊いてみると怯えることもなく「うん」と素直に短く返事をしてくる。
その様子に調子が狂いそうになって何だか変な気持ちになる。
 母様はその様子に口を押え「まあ!」と声を上げ、何だかんだ言ってうまくいってるんじゃないかと勝手に満足げになっている父様に苛立ちを覚える。
唯一の味方である兄の二人は妹が取り付けられた婚約者と二人きりになるっていうのにも二人で悲しみを噛み締め合っていた。
 どいつもこいつも変だ。

 「話があるんだ、おれさ……月奈ちゃんがあの路地でしてる事、見ちゃったんだよね」

 微妙に息が掛かるくらい近づいてきて耳打ちしてくる。くすぐったさに思わず目をギュッとつぶってしまうがその内容を聞いてその恥ずかしさと心の高ぶりはすぐに覚めた。
 あんなにも確認したのに、見られていたのだと鳥肌が立つ。

 「……、……私の部屋に上がって下さい」

此処じゃ、話せないことだ。
私は拗ねたような声を出し、渋々受け入れる。
 自分のテリトリーに出来るだけ入れたくはなかったが仕方がないことだろう。 
断れば皆に報せる、彼は優し気に言っているが脅してきた。
せない。この男の望んだ私は何処にもいないのに、どうして?
 考えれば考える程、謎は深まるばかりだった。
顎に手を添え、翔を見つめた。

 


 「……、ごめん、少なくとも君の事をおれは理解しているつもりだったけど君がここまで――――――」

私の部屋を見た瞬間、翔は呆気にとられた表情を浮かべていた。
「何よ、これが私よ」とつっけんどんに返す。
 
 「ここまで、自己管理ができないとは思いもしなかったよ」

部屋は青系のもので統一されているが、ベッドには服屋のように広がったままの色とりどりの服。机にはまだ片付けのされていない参考書ひらっきぱなしで消しカスもある。

 これがあの、テレビに多々映る淑女のような国会議員自慢一人娘の本来の姿だとは思わないだろう。

 「……これでも、た、田村さんに言われて……直した方なんだから……」

小さくポツリ、と呟くとバツの悪そうにそっぽを向く。
田村―――と言うのは長年うちに勤めてくれている家政婦さんだ。いつも私の部屋を掃除するたび、泣き嘆くのだ。
 田村さんは自分に片付けの仕方を今もなお、指導してくれている。

 「片付けとか家事は、苦手なのよ……悪かったわね、自己管理が出来なくて」
もっと失望したでしょっという顔で翔を見ると翔は笑いをこらえていた。

 _________「いや、悪いとは言っていない。こんなだらしない婚約者を管理するのも未来の夫になるおれの役目だろ、少なくとも完璧な婚約者はおれは求めてないからね」

と言い終わると眼差しを甘やかにする。その美しいアーモンド形の煌めく黒真珠に魅せられ、見惚れていた私はハッと気が付いて、慌てて言い返した。

 「夫になるなんて認めてないし、勝手に決めないでよ!!」

何だか無性にむしゃくしゃした。
いつもの自分とは違う、そんな自分をこの男に見せるのが恥ずかしいのだ。
 ――――――弱みをまた一つ握られていたようで腹が立つ。

 「で、話って何よ」

私が話を切り出すと、今まで浮かべていた無邪気な笑顔はスッと消えていく。
真面目で聡明、そして、優秀な全てを兼ね備えた弁護士の息子の顔。
 
 「あの、路地でしていたことをさっきも言ったけどおれは見た。君のお父様にはいつだって報告が出来る状態だ」

 その脅し文句に私は眉を顰める。
絶対に今の私の顔は不細工だ。顔が怒りによって歪む感覚を覚える。
 「何が目的なの、こんなこと、脅すように言って」
組んだ足を入れ替える。
空気がピリピリ痛い。両肘を触れていただけの手が強張る。
 全身の毛が逆立つのも感じる。この男は、危険で関わってはいけないと本能が言っていた。
 「脅してるんだよ。月奈ちゃんはおれとの婚約を認めてないだろう、君もした牽制。下手に君のお父様に行動を促されても困るしね」

これは交換条件だ、と翔は勝ち誇った笑みを浮かべる。
その笑みは私にとって怒りを沸騰させるものだった。

 この条件に私は抗えない。何を言われても仕方がない、あんな路地でするんじゃなかったと今更ながら後悔と反省する自分に羞恥心が覆いかぶさる。
  
 「おれとの婚約を受け入れろ、それが条件。君の一途な恋心、否定する気もさらさらない。ただ、君は婚約者が出来た。それも顧問弁護士の息子、おれ達は世の注目の的になるだろうね」

 よく考えて行動しろ、君の恋心は無駄だと言われてはないのに言われているような気がした。
 ムカつく。ぎゅっと掌の肉に爪が食い込むくらい強く、強く、怒りを抑え込みながら握り締める。
 
 「話はそれだけ、じゃあまた――――――未来のおれの奥様」

その甘ったるい擦り寄ってくるような声に全身が強張るのが解った。
ぱたんっと部屋から翔が出ていくのを見届け、一息つく。
 身を縛っていた緊張感から自由になる。
 ―――――――「………こんな婚約、絶対に認めない」
愛おしい人がいる以上、怖がってちゃ私の名が廃れる。
諦めない。
 障害物役の人間が一人増えたって関係ない。乗り越えればいいんだ。
 きっと、きっと、その先には会長が待っているはずだから。
「打倒、恋敵!!!」
私はベッドに寝転びながら、拳を宙に突き付けた。

Re: 恋敵になりまして。 ( No.12 )
日時: 2020/09/21 14:06
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)

☆ 第四話 ☆

 ――――――「じゃあ、行ってきます」
玄関を出て、門扉を開ける。
 すると、門扉の前に誰かが立っているのが解った。

表情の筋肉が強張るのを感じる。

 スラっとした体形で骨が浮き出た無駄の肉のない身体はまるで白いカラーの花のようで目を奪う。
着けているマスクから見える綺麗なアーモンド形の瞳が瞬いた。 
 「おはよう、月奈ちゃん」
 嬉野翔――――――私と彼は一応、昨日正式な婚約を交わした。

でも。

お互いが笑顔で同意したわけじゃない。強制的だ。

 「………ニュース観た?おれと君の事、大事に取り上げられてる」
君の想い人も知ってると言わんばかりの顔でスマホを見せてくる。
翔のスマホをパシッと手で軽く叩き自分の顔から遠ざける。

 「……知ってる。父様が沢山の記者の前で言ったこと、母様に聞いたから」
通り過ぎようとした時、また腕を掴まれ引き留められる。

 「国会議員の御令嬢が一人で通学何て危ないよ、送ってあげる」
婚約者からの言葉を断れなくて、私は渋面で頷いた。




 「今度の土曜日、何処どこか二人で行かない?」
話を唐突に振られて私は「は?」と声を漏らし、目を丸くして不細工な顔をしてしまう。

 何であんたなんか、と呟くと翔はふっと息を漏らして微笑む。

 「良いじゃん、別に……ていうか良いの?おれに従ってくれないとバラしちゃうかもよ?」

その言葉に私は更に目を見開き、丸くしてしまう。

「話が違うじゃないッ、貴方は私と婚約したら……ッ」
「だからだよ、おれと休日を一日も過ごさなかったら怪しまれちゃうよ?」

 ………それもそうかもしれない。翔の言い分には一理ある。
一日くらい、良いかもしれない。
断る理由も見つからない、なら仕方のないことではないか。

 「……解った」
ギュッと鞄を持つ手に力が入る。
 あーあ、ムカつく。
主導権が握られて、対等な婚約関係じゃなくて、まるで主従関係じゃない。
私は従者でもないのに……。

 「本当に良いの?……やった」

よしっとガッツポーズをとる翔に魅入ってしまう。
出会ったのは昨日。
だけど、彼らしくない子供のような無邪気な笑み。

 とくんっと胸が脈打つ。
「……馬鹿みたい、男子って」
と強がりに呟いてみると翔は横目で微笑を浮かべる。
 「だって、嬉しいんだもん。月奈ちゃんと出掛けられるの」
鼻歌交じりに言う翔を見つめ、私は顔を背ける。
何故か、頬が熱い。

 ――――――「じゃあ、俺、こっちだから。午後も迎えに来るね、学校頑張れ」
とセットしたばかりの髪を撫でると颯爽と踵を返す翔の後ろ姿をわざわざ振り返ってまで見てしまった自分を心の中で殴る。

 ってか、アイツ……遠回りしてまで送ったの……?
変なおせっかい止めてよね、と後で言おうと思う。

 何か、私のせいで学校を遅刻されても困るし……って馬鹿みたい、何で変に心配してんだし。

 私が好きなのは会長でしょーが。

ふんっと声を漏らし、学校に入っていく。


 


 教室を入ると騒めいていた皆が静まる。
 ……何、コレ。
一言も喋らず皆は私を凝視する。

 「……お、おはよう。皆さんっ」
いつもの副会長として微笑みを浮かべ、挨拶する。

 すると、ほっと安心したのか一人の女子生徒が近づいてくる。
 「月奈ちゃん、えっと、婚約したんだって?」
「え?……ええ」
目線を逸らしながら曖昧に頷く。

笑顔で同意したのではなくて強制だし、対等な関係でもない。否定したい気持ちもあるが家の為、と何とか拳を握り締め、我慢する。

 「……相手の人は、どうなの?見た感じ、良さそうだけど」
探るような言葉。

 「副会長は鳴海会長の事が好きだと思ってたのに。憧れのカップルじゃなかったの?」と言われているようで居たたまれなくなる。

……ったく、あの男のせいで何で私が罪悪感を抱かなくちゃいけないのよ。

 相手はどうなの、だって?
 父の顧問弁護士の子供なんだから容姿も知能も運動神経も良いに決まってるでしょ。
それに、今日も送ってくれた人だよ。
 何を言えばいいの、自分の婚約者の。


 言葉に行き詰っていると、大好きな人の声が聞こえた。
 
 ――――「それ以上、聞くのはさ、止めた方が良いと思う。雪科副会長が困っているじゃないか」

目の前に居たのは鳴海君だ。
 私の、会長。
会長が助けに来てくれる。やっぱり、貴方は私の王子様なんだ。

 「か、いちょう……」
 「大丈夫?雪科副会長、顔色が悪いよ」
そう言われてみれば少し、少しだけ足元がふらついて見える。
頭痛もする。

 「保健室に送るよ」
そう言って皆の眼から私を遮るよう、隠しながら教室を二人で出る。

 また、言われるかもしれない。
婚約者がいるのに、二股をかけているとか。
園崎さんに告げ口をされてしまうかもしれない。
 
 今まで感じたことのない不安が襲ってきた。
だけど、もう少し、もうちょっとだけ。
 会長に甘えてもいいだろうか。
会長の肩に身を委ねてみる。
 
 温かくて、優しい体温が私を覆ってくれていた。
たとえ、離れることになっても、会長は________最後は私のことを選んでくれるに違いないから。
 心配を煽ろうとわざと、具合の悪そうに目を伏せてみた。

Re: 恋敵になりまして。 ( No.13 )
日時: 2020/09/21 14:10
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)

☆ ぷろふぃーる ☆

名前:園崎加恋
性別:女
年齢:17
身長や体重など外見の特徴:
口調と人称:一人称「あーし」、二人称「○○(苦手な人は苗字呼び)or○○クン」、三人称「あんたら」
性格:経験豊富そうに見えるが実は彼氏いないイコール年齢の人。純粋無垢で天真爛漫の性格。上に自然と立っているリーダー格。言葉使いが荒い。
好きなもの:タピオカ
嫌いなもの:映えない物、野菜
理系か文系orあるいは体育会系:体育会系
家族構成:母、父
座右の銘:「命短し恋せよ乙女」

Re: 恋敵になりまして。 ( No.14 )
日時: 2020/09/24 09:32
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)

☆ 第五話 ☆

 「でも君が、体調を崩すなんて驚いたよ」
隣に歩く会長が苦笑交じりに話す。
 会長の肩に触れた顔の片頬と会長の左手と向かい合っている右手だけが、何故か、熱い。
ひゃあ……っ会長が、こ、こんなにも近い!!!!!
今日が命日じゃないのか、と私は一人で舞い上がってしまう。

 今まで自分の世界に入り込んで、会長の事をほったらかしにしていたことに気が付いた私は、取りあえず礼を言う。 
 「えと、……あの、ありがとうございます……あの時、助けてくれて」
髪の毛を耳に掛ける。
その言葉に会長はかぶりを優しくゆっくりと振る。
「ううん。僕だって訊かれたら嫌だと思ったから、つい、割り込んじゃったんだ」
逆に迷惑だったでしょ、と俯いている私の顔を覗き込んでくる。

 いや、違うよ。
貴方の事がもっと好きになった。
 なぁんて、面と向かって言う事も出来ず、恥ずかしさとトキメキを噛み締めるよう下唇を噛む。


 ――――――――――「……か、会長は、しゅ、す……すッ好きな人が、いるんです、か……?」


 あぁあああああああぁあッッしッ、しまったッッ!!!!!!
心の中で思っていたことが口に出ちゃったよぉぉお。
 失敗したと赤面した顔を両手で覆う。

 「……えと、……ぅ……あの、誰にも、言わない……で、ね……」
躊躇いがちにそっぽを向く。
 何だか女の子の会話みたいだな。
 “月奈ちゃんだから教えるんだよ?”って言われているみたいで我知らずにやけてしまう。口角が不自然に上がる。
会長に物凄く信頼されているってことじゃん……っ嬉しい……!

 そして、会長は怯みながらも耳に、囁いてくる。
耳が擽ったい。微かに唇が当たる。
 ヒィイイイイ………ッ!!


 ――――――――「……………ぃ、る……よ」

小さくか細い声。
 
 え―――?

 両手を耳に当てて、後退りをしてしまう。
 
 自分で聞いたはずなのに、ショックが大きくて。
だってさ、私に言ったってことは私じゃないから、言えたんじゃないって思っちゃって。
 少女漫画でもこういう場面あるけど大体は好きな子じゃないから言えるんでしょ?
 その仮定が正しかったら会長と親しくしてる女子って園崎さんくらいしかいないし……。

会長の顔を凝視してしまう。
 さらさらの黒髪が彼の手でくしゃと歪められていて、眼鏡の奥の瞳は、恥ずかしそうに左右に何度も揺れている。
 鼻先から耳まで真っ赤に染まっている。
 
 「………え、と………だ、誰を、ですか……?」
まさか、本当に、園崎さんを好きなの?
会長の目が更に見開く。

 身体がよろけてしりもちをつきそうになった。
 慌てて駆け寄ってくれた会長に支えられ、私は涙を流してしまう。
 「え。えっと、何で泣いて……ッ!!」
「眼にゴミが入ったんです。授業も始まりますから、戻って下さい」

 返事を聞かずに、私は保健室へ走っていく。
何が何だか分からなくなってしまった。
 どうして、どうして……園崎さんなんですか。
何が良いんですか。

 会長への気持ちが流れ込んで来る。
 くそぉ………出会った時からずっと好きなのは、私なのに――――――――



 「何々、失恋?雪科ちゃんが泣いて保健室へ来るなんて初めてじゃないか」
興味津々の顔で私に近づいてくる保健教諭を睨み付ける。

 わざとらしい白衣に口に入れた苺味の飴の匂い。
まともにセットもされていない髪に、机には煙草を吸った形跡。
 
 「煙草臭いから近づかないで下さい」
涙をすべて拭いきったはずなのに、どうしてわかるのか疑問だったが私は鏡を見て目を丸くしてしまう。
 目頭が赤く腫れていた。
馬鹿みたい、これで会長にゴミが入っただけという言い訳が通じるわけがない。

 「相変わらず雪科はキツいなぁ」
「話しかけないで、今は一人になりたいんです。ベッド借ります」
これまた返事を聞かず、私はカーテンを広げてふかふかのベッドに横たわる。
硬いけど柔らかいビーズの枕が顔にフィットして気持ちが良い。
 ゆっくりと瞼を伏せていく。
今は本当に、一人になりたい。

 ――――――そんな時、ポケットにしまってあるスマホの着信音が鳴る。
こんな時間に誰だと思えば最悪を引き起こすことになる元凶からだった。
瞼を上げ、ぼんやりとしていた視界がやがてくっきりとした輪郭を取り戻していく。

 「……何……ほんと」
スマホの電源を付けてメッセージの内容を見てみれば、清々しい程の青空とにこにこと笑ってパンを食べる翔が映っていた。
 面白くもないのに、私は微笑を浮かべていた。
 自撮りとかするんだ………意外だし、なんか変な感じ。

そういえば、騒がしくなり始めたかと思ったらもう、昼食か。
皆、購買に行ったりご飯食べるところに移動したりしてるからか……。
 直後、お腹の虫が鳴る。
 「お腹空いた………午後の授業もやる気でないけど……やるしかないよね……」


 寝癖のついた髪の毛を手櫛である程度、かしたら私はベッドから立ち上がって背伸びをする。
ボキボキボキと凄まじい音がして目を丸くしてしまう。一度、ベッドに座り、背中を摩ってみる。

 ______『大丈夫?』

 『朔良クンはあーしといること望んでんだし』______

 不意に、会長と園崎さんの顔が脳裏に過ぎる。
園崎さんが高笑いして私を馬鹿にする図も自然と想像してしまう。
 あーあ、私、馬鹿みたい。
 起こってもないことを想像して会長の好きな人は園崎さんだってまだ、決まった訳じゃないのに。

 好きな相手が出来ても、その二人が結婚する訳じゃないし……付き合ったって言われたってさ、だって、高校生活もあと一年あるじゃん??
 人の気持ちは簡単に変わるって言うくらいだし。
何とかなるでしょ、奪うことはいくらだって出来る。

 ふぅっと深呼吸をし、頬を叩く。
ポジティブな思考に、一度、切り替えよう。

 ――――――――『……午後も迎えに来るね、学校頑張れ』

………別に、期待してるわけじゃないし!!
何だか変な気持ちになって自分自身で頭を撫でてしまっていた自分を心の中で殴り倒す。

 今決めたばっかじゃん、ていうか私が嫌な気持ちになったのもアイツのせいだし。
午後、迎えに来たら愚痴って怒鳴ってやる。

 ふんッと声を漏らした私は異様に話し掛けてくる保健教諭を無視してお昼を食べる為に、午後の授業を受けるために出ていった。


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