コメディ・ライト小説(新)

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アイスキャンデイ・ビタアチョコレエト
日時: 2019/12/15 20:12
名前: 凍鶴 (ID: LTX6Bi5r)

私の姉は、世の有名なフルーティスト兼タレント。
誰もが羨むような才色兼備の持ち主で、ピアノも弾けた。音大を首席で卒業し、逆境にも負けず海外に出ていって……そして帰ってきた。タレントとして。
そんな姉の妹が不人気アイドルって、おかしいですか。

殴り込み+恋愛+現実のほろ苦さ=どんな味?

人の不幸は蜜の味。
人の幸福は罪の味。

Re: アイスキャンデイ・ビタアチョコレエト ( No.1 )
日時: 2019/12/15 20:55
名前: 凍鶴 (ID: LTX6Bi5r)

[第一章 幼花の夢]


ネットの子と一晩中喋り倒したままの体勢の次の朝はいつも、憂鬱だった。
寝落ちした罪悪感だとか、また学校へ行かなければならないという面倒臭さで死にたくなる。
「何してんだろ……バッカみたい」
この言葉ももう毎朝恒例行事であるかの様に発している。そろそろ飽きた具合だ、他に何か良い気分転換でも探さなければ本当に死んでしまいそうに思われる。それに、地下アイドルでもしてなきゃ今頃此処には居なかっただろう。

そんな宮下琉衣花(ミヤシタ ルイカ)の一日のスケジュールは、放課後全般にレッスンが入っている。ダンスに楽曲、さらには言葉遣いや振る舞いのチェックまで。後半になるとまるで己を否定されている様に思えてきて泣きたくなってしまう。そんな彼女にとって学校さえもが最悪だった。

高校二年生、大学はどうするのかと親からの連絡がよく入る。実は未だ決めていない。行けるかも解らない上、不安なのだ。正直、今のバイトのシフトでは給料はあまり良くない。時間も空けられないので増やす事なんて出来そうに無いと思えた。

「……行ってきます。」
アパートの一室に一人暮らし。家賃は一ヶ月に六万二千円。これでも安いのだと己に言い聞かせて此処に住んでいる。周りは何の変鉄も無い住宅街で、このアパートの外装も内装も悪くはないので特に不便に思う事はない。

休み時間、昼休憩、ホームルーム。それらが過ぎる度に眠さが増していく。昨日夜遅くまで寝たせいだ。
「琉衣花ちゃんじゃあね~」
「あ、うん~」
それほど仲が良いでもない田嶋玲に手を振られればそう返しておいて、適当に伸びをすると此方も帰る事にした。言わんでもないが、友達など此処に居ない。

将来の夢。小五の国語の課題で出されたテーマを一応今生きることが出来ている。そう、アイドルとして。今ではもうすっかり不人気に落ちたが、何故こうなったのかさえ解らずに居る。マネージャーさえもが頭を抱えるのだ。
「何ででしょうねぇ……」
と、苦笑ながらに。それが無性に悔しくて仕方がなかった。幼花の夢など何でもなく、唯の下り坂だったのだ。

Re: アイスキャンデイ・ビタアチョコレエト ( No.2 )
日時: 2019/12/16 19:48
名前: 凍鶴 (ID: 1aSbdoxj)

「んじゃもういっかーい、わんっつーさんっし!!!」

たんたん、と軽やかに床を蹴るシューズの音が曲のテンポと合わさってリズムに変わる。歌を口ずさみながらのダンスは中々に難しく、それでも講師からのOKを貰うが為だけに歌い躍り続けた。それを週三で二時間。夜の七時から九時まで休憩無しで続く。当初よりは随分とましになってきた方だが、観客の目はいつも冷たかった。

「はーいお疲れ、形が凄くきれいになってきたよね!!」
今日のレッスンが終わった時、この女性講師__柴田さんにそう言われた。柴田さんはダンスの振り付け師を始めて四年。大人気アイドルユニットの一員だったが卒業し、今はこうして冴えないアイドル達の指導を行っている。そんな彼女を琉衣花は尊敬していたが、人として好く事はあまり無かった。人格の違いからか、少し接するのが苦手なのだ。
「ありがとうございました……さようなら。」
結局、やけに礼儀の良いお辞儀と覇気の無い挨拶をして家路に着く事になった。人通りも少ない夜道でマネージャーからのメールを確認してみれば、相手からは一件メッセージを受け取っていた。
“明日の本番、頑張ろうね!”
登録名をかずぴーにしているせいか、上段にあると直ぐ気付く。本名は笹木和宏だが、マネージャーとしてのあだ名で呼ぶのが主流となっていた。……えらく明るいメッセージを毎回寄越してくる彼だ、事務所では琉衣花に前向きな言葉をかけてかけてかけまくる。そんな面白い人間だから、琉衣花の方も親しみやすかったのだろう。
“了解です!!”
今日柴田さんに褒められたおかげか、自信ある言葉を送信して携帯を鞄に戻した。

Re: アイスキャンデイ・ビタアチョコレエト ( No.3 )
日時: 2019/12/18 01:07
名前: 凍鶴 (ID: 1aSbdoxj)

本番当日。今日は初めての屋外ステージで、近辺ではスタッフが宣伝ポスターを配っている。活動名『るいか』の文字が大きく柔らかめなフォントで書かれ、琉衣花のバストアップ写真で大きく彩られているのが特徴的だ。
「緊張しなくて良いよ、きっと上手くいくからさ。」
そう言って、笹木は爽やかな笑みを琉衣花へ向けた。市民公園の中のステージではあるものの、大きい進歩だろう。不人気地下アイドルから、少しは大空への道が開いたのだから。
「はい。でも…………お客さん、来てくれるかなぁ。」
赤を基調とした可愛らしい衣装、澄んだ瞳、茶色っ気混じりの三編み。スタイリングは充分で、後はライブ開始を待つだけだ。それでも不安が胸を擽るのは止まらず、只目線を彼方此方へ行き来させては舞台裏でずっと落ち着かなさげにしている。
「大丈夫。」
中々人気の出ない初担当アイドルを、当初は『何ででしょうねぇ……』と他のマネージャーに苦笑して話しかけていた相手が、これほどまでに頼もしいと思えた事はこれまでに一度二度と無かった。それ故かいつもより心が軽くなったような気にもなれる。
「……そうですよね、頑張ります。かずぴー、ありがとう!」

それから午後二時丁度、ステージの幕は開いた。眩しい日光の降り注ぐ中、向こうからは薄黒い乱層雲が迫り寄ってきている。その中、第一曲目を歌い始める彼女は意外にも観客が多いという事に驚きと嬉しさを隠せずに居た。


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