コメディ・ライト小説(新)

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藍色のrequiem【完結】
日時: 2021/02/27 17:09
名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)

こんにちは、美奈です。クリックありがとうございます。
これも『俺の恋敵は憎たらしい式神だった』同様、過去に書いていた作品なのですが、何だかんだで中断したままになっていて...しかも2章で詰むっていう。笑 なのでこの作品は心機一転、新たにスレッド作り直しました。
初めにお断りしておくと、コメディ要素は皆無です。ただサクッとは読めます!『俺式』とは正反対と捉えてください~
全体の雰囲気は『cynical』みたいな感じです。もしご興味があれば、完結小説の方をご覧ください。作者名は変わらず美奈です。
それではよろしくお願いします~(^^)

【お知らせ】←なるべくご一読下さい
この話は4年以上前から書いていたのですが、2章の部分に2020年現在の緊急事態を思いっきり予言したような記述がありました。自分でもびっくりしたのですが...(;・ω・)
読んで気分を害することもあるかな...と思って過激な表現は削除しましたが、大筋は進行上残してあります。ご了承ください。

2020年9月より、「小説家になろう」さん・「カクヨム」さんでも同時掲載しました(名義は異なります)。たくさん見てもらえるといいなぁ。

—precious guests—
真朱様・烏様

【目次】

ー虹色のcharactersー >>1

0.空色のprologue >>2

1.白百合色のdawn >>4-7

2.蜜柑色のnarrative >>9-11

3.薄紅色のfavor >>13-17

4.紫紺のpuzzlement >>19-22

5.灰色のtruth >>24-27

6.群青色のproof >>29-34

7.韓紅のtwilight >>36-37 >>40 >>45-47

8.藤鼠色のloneliness >>51-55

9.漆黒のpain >>57-63

10.藍色のrequiem >>65-69

11.象牙色のbelief >>71-73

12.洋蘭色のepilogue >>75

【タイトルの意味】
0.空色のprologue >>3
1.白百合色のdawn >>8
2.蜜柑色のnarrative >>12
3.薄紅色のfavor >>18
4.紫紺のpuzzlement >>23
5.灰色のtruth >>28
6.群青色のproof >>35
7.韓紅のtwilight >>48
8.藤鼠色のloneliness >>56
9.漆黒のpain >>64
10. 藍色のrequiem >>70
11.象牙色のbelief >>74
12.洋蘭色のepilogue >>76

Re: 藍色のrequiem ( No.67 )
日時: 2021/02/11 15:03
名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)

10-3
先生は藍色の液体が床に広がっても、驚いた顔をしなかった。

「…救急車、呼ぼうか。正門じゃなくて北門の方に来てもらおう。平野くん、病院まで付き添ってあげて」

先生が携帯で119番を押して話し始めた。周囲は蘭の血が青いという事実と、真理の悪事が明るみに出て制裁を受けたという事実を前にして、ただオロオロしていた。

「蘭?らーん?」

「ひ、響也っ、ごめん…けほっ」

咳き込む蘭を支え直した。随分と痩せ細っていた。

「私の血って、青かったんだ…これが、や、けほっ、薬品の、色…だかっ、だから、採血、の、時に、目隠し…」

「無理して喋らなくていいよ」

僕が蘭の背中をさすっていると、容体は少し落ち着いたようで、呼吸のリズムが戻ってきていた。
蘭は右手を伸ばして僕の頬に触れた。僕は頬まで藍色に染められた。

「響也」

「ん?」

「ありがとう。私の役目は終わりかな……」

「終わり…?」

「愛してるよ」

蘭は微かに笑顔を見せると、その細さからは考えられない力で僕の顔を引き寄せ、唇を重ねた。その直後、蘭の全身から力が抜けた。

「ら、蘭?...ちょ、おい、蘭?!」

「平野くん、連絡したからもうすぐ着くと思う」

先生を振り返ろうとして、唇まで藍色になっていることに気づき、慌ててセーターの袖口で拭いてから、分かりました、と答えた。
その直後に救急隊が到着した。
救急隊の人達は既に群青色に変わった現場を見て、一瞬目を丸くした。しかし、こうした異様な場面にも耐性はあったのだろう。その後すぐに救助に当たった。
救急隊の人と一緒に北門まで彼女を運んだ。息は微かに聞こえるものの、意識はなくなっていた。

「名前を呼び続けてあげて」

先生と救急隊の人にそう言われ、僕は救急車の中でずっと蘭の手を握って名前を呼び続けた。意識は戻らないまま、例の病院へと搬送された。
ストレッチャーは一般病棟ではなく、僕が雛さんと話した研究棟の中へこっそりと運ばれた。ここまででいいよ、という救急隊の人に全力で逆らって、僕は部屋までついていった。

Re: 藍色のrequiem ( No.68 )
日時: 2021/02/15 20:52
名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)

10-4
雛さんと話した隣の部屋にストレッチャーは入れられた。ドアを開けると、雛さんと同い年くらいの白衣を着た男性が腕組みをして立っていた。彼は僕を見た。

「君、セーターも顔も真っ青だな…吐血したのか。どういう状況だった?」

僕は今日だけでなく、蘭がいじめられてからの日々を手短に話した。彼がここにいる時点で蘭の正体は知っていると思われたので、蘭がいじめに遭った理由も話した。

「うーんそうか」

そう言うと彼は、ちょっと彼女のこと診るから、と僕を一旦部屋の外に出した。15分くらいして、再び僕を招き入れた。

「今色々検査してみた。君、きっとニュースとかで彼女のこと知ってると思うけど…極度のストレスに耐えきれなくなって急激に痩せて、体の免疫機能が異常を起こした。その結果、彼女の中にある薬の成分が彼女の内臓や細胞を攻撃する事態に陥っている。ここからの回復は難しいな…。残念だが、新たな彼女を造るしかない」

息をしているかもよく分からない蘭を見ながら、彼は淡々と告げた。胸元には、”上島拓也”と書かれた名札がついていた。

「…は?造る?」

「ああ…残念だけど、彼女の役目は終わりだ。もうすぐ心臓も止まる。蘇生しても元通りの機能は発揮しないだろう。でも、よく頑張ってくれたと思うよ。十分合格だ」

「合格って…自分で倫理を度外視して造っといて、最後には使い捨てかよ」

僕の言葉は、いつの間にか少々乱暴なものになっていた。

「あんた…あんた、それでも父親かっ?!何で同じ本を読んでるのに、こんなにも考え方が変わるんだよ?!」

「父親…?」

僕は彼の目を見て告げた。

「僕は、平野雛とあなたの息子です」

彼は目を丸くして、でもすぐ嬉しそうな顔になった。

「え?ええ?!本当に?!君が響也くんか!俺の息子…初めて見たよ!確かに、よくよく見ると俺に似てるなぁ!」

「そういうこと言ってんじゃないんだよ」

「な、何だよ、親子の対面だってのに」

なぜここで笑顔を見せられるのか。蘭の顔はだんだん青白くなっていた。

「読んだんだろ?NBJの話。どこで道を間違えた」

「間違えてはいないよ。みんなが俺についてこれないだけだ。俺達の息子なら、俺の考えは1番理解できるはずだろう?」

「いや理解できない。なぜ彼女に愛着の1つも湧かない?わざわざ上島って名字つけて、オルキデアの日本語を名前に当てたんだろ?なのに何で今も、見殺しにしてくんだよ」

一瞬怪訝そうな顔をしたけれど、ああ、雛から全て聞いたのか、と彼は納得して、そんな人聞きの悪い言葉を使わないでくれ、と言った。

「愛着はあるよ、いっぱい。大切に育てたし、綺麗な藍色の血をしてるだろう…最初は藍って名前でも良かったんだけれど、これって音読みするとランって言うんだ。そしたらNBJのサイボーグの名前を思い出してさ。色々な思いを込めて、蘭にしたんだ。でもやっぱり元々は試作品というか、研究材料だから…殺すわけじゃないんだけどさ。彼女の死は決して無駄にはしないよ。今後、もっと長く生きられるような工夫をする。もしどうしても目の前の彼女を救いたいなら響也、自分でやってくれ」

ああ、と僕は悟った。
多分彼にも、大事に想う気持ちはある。雛さんを愛したように。
でも違ったんだ。価値観が。
彼は蘭の死を反省し、活かすことで遠い未来の苦しみを救いたい。僕は、今生きている目の前の彼女を救いたい。
同じ本を読んでも、僕達は異なる視点を持ったんだ。僕はオルキデアが消えた時の文章を読んで、泣いた。恐らく彼は泣かなかったのだろう。

「時間がない。救いたいならすぐに他のスタッフを呼ぶんだ」

僕は考えた。
蘭は生きたいのか?救われて、僕に愛されるだけで本当に幸せか?今までに負った傷は癒えるのか?

「…やっぱり、できません」

「…いいんだな?」

正しいかどうかなんて、分からなかった。
けれど、終わらせるべきなんだ。全てを。

「蘭が自分の宿命に苦しむのを、ずっと近くで見てきたから」

Re: 藍色のrequiem ( No.69 )
日時: 2021/02/17 20:14
名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)

10-5
僕はNBJの話をまた思い出していた。
オルキデアは消える寸前、確かこう言ったんだ。”私の使命は終わったのです”と。
そして蘭は言った。「私の役目は終わりかな」と。
務めなくても良い”研究材料”の役目を、十分すぎるくらいに果たしたんだ。もう解放してあげたかった。

「近くで、見てきた?」

「…蘭と付き合ってた。あなたは試作品だなんて言うけれど、彼女は僕を想う気持ちを持っていた。両親はさすがだな、と今なら思うよ。研究材料に心を与えるんだから…残酷だよな」

精一杯の皮肉を込めたつもりだったのに、目の前の彼は嫌がるどころか微笑を浮かべた。

「そうか…やっぱり俺の考えは間違ってないんだ」

「…は?倫理度外視してんだぞ、自分のやったこと分かってんのか?!」

雛と同じこと言うね、さすが親子だ、と彼は笑った。

「人間と共生できるんだよ、心を持った、歩く特効薬は。しかも多くの人々を救える素晴らしい存在だ」

彼は何かに取り憑かれているようだった。ボロボロの姿になって自分の元に帰ってきた蘭の現実を、受け止めようとしなかった。

「共生…確かに出来るよ、最初はね。でもバレれば終わり。現に蘭は壮絶な苦しみを味わう羽目になった。この姿を見ろよ。現に差別が起こってるんだよ。人間じゃないって分かった瞬間、途端に憎むんだよ、意味も根拠もないのに。もっと根本的なことを見直さないと、きっと変わらない。蘭みたいなのを何人造ろうと変わらない。蘭みたいに密かに生まれて、堂々とできない存在として育てられて、バレれば後ろ指指されて生け贄になるんだ。NBJみたいに簡単にはいかないんだよ、目を覚ましてくれ。雛さんを無理に巻き込むのもやめてくれ。わざわざサイボーグを造る必要なんかないんだ、あんたは英雄じゃないんだよ。蘭の人生を狂わせて、せっかく画期的な薬なのに、極秘の研究で進めてたから認可も降りてなくて。全てがバレた今、経過が良くなってる患者さんの治療もストップしてる。どれだけ多くの人をがっかりさせて、迷惑をかけたのか…蘭を造れるほどの科学者なら、分かるだろう?何が正しいのかくらい!」

僕の声は彼に果たして届いているのか、自信はなかった。なぜこのタイミングで父と会ってしまったのだろう。僕はこれから、父という存在を軽蔑して生きていかなければならない。

「なぁ響也」

彼は蘭の顔に触れた。

「触んなっ」

んだよ俺が造ったのに、と舌打ちをしたが、すぐに手をどけた。僕が代わりに触れると、もう冷たくなり始めていた。

「誰も、俺の思想を一発では分かってくれない。雛は今だって乗り気じゃないんだぞ?やっと会えた息子にも批判されて。挙げ句の果てに多分俺は、社会からも追放される」

父は虚ろな目で僕を見て、蘭を見て、ドアの方へと歩いて行った。

「……正義って、倫理って、正解って、救うって、一体何なんだろうな」

僕は1人残された。部屋にあったティッシュを水で濡らして、冷たくなった蘭の顔を優しく拭った。ティッシュは瞬く間に藍色に染まった。
愛してるよって、伝えたかったのに。結局最期まで、蘭が先だった。
蘭の胸元に顔を埋め、僕は嗚咽を抑えていた。どこからこんなに出てくるんだろうっていうくらい、際限なく出てくる涙が僕の顔と蘭の体を濡らし続けた。僕の頬についた群青色と涙が合わさって、また藍色の液体になって、蘭のセーターに染み込んだ。どんなに手を強く握っても、もう握り返されることはなかった。

心は通い合っていた。本気で想い合えていた。
今さっきだって、救おうと思えば救えていたのかもしれない。また、響也って呼ぶ声を聞けたのかもしれない。
でもこのまま生き続けても、蘭はきっと苦しいだけだから。



それなら僕は、生よりも、愛と安息を彼女に与えたい。そう思ったんだ。

Re: 藍色のrequiem ( No.70 )
日時: 2021/02/18 23:18
名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)

【タイトルの意味ー藍色のrequiem】
藍色はそのまま藍色、requiemは安息という意味です。よく、カタカナでそのままレクイエム、と使われることもありますよね。
このお話を考える時に、1番最初に浮かんだタイトルがこれでした。小説そのもののタイトルにしてしまうくらいには、自分で気に入っています。笑

Re: 藍色のrequiem ( No.71 )
日時: 2021/02/19 15:56
名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)

11.象牙色のbelief
11-1
僕は太陽が完全に姿を消し、闇が少し深くなってから研究棟を出た。唯一青く染まっていないコートを着てボタンを全て止め、鞄を抱きかかえて帰宅した。
蘭は僕が荼毘に付すとスタッフに伝え、1日置いといてもらうことになった。医師やスタッフは最初反対したけれど、父が最後の願いとして、僕に任せることを懇願したらしかった。

帰宅して、僕はすぐ伯母に謝った。

「ごめんなさい…」

「ど、どうしたの響也くん」

「えっと、まず、セーターを汚してしまいました。それから、伯母さんに大切なことを黙っていました……」

コートを脱いで現れたセーターを見て、伯母は「まあ」と声をあげた。

「…とにかく上がって、まずは着替えて温まろう」

言われた通りに着替えて温かな紅茶を飲んだ後、伯母は続きを促した。

「本当は、例の少女を知っていました。そしてその研究に携わったのは…僕の、両親でした」

蘭と付き合っていたこと、雛さんから全て聞いたこと、蘭が大変な目に遭っていたこと、さっき搬送されたこと、父と初めて会ったこと、蘭が亡くなったこと、全てを洗いざらい話した。
蘭との出会いから話すととても長くて、しかも途中でたくさん泣きながら、嗚咽交じりの声でゆっくりと話したので、話し終えた頃には3時間くらい経っていた。伯母は質問を一切せず、料理の手も止めて、ずっと隣で耳を傾けてくれた。最初の方で伯父も帰宅して、2人で聞いてくれたのだった。

「響也くん」

伯母の声は微かに震えていた。さすがにここまで重大なことを隠していたのだから、こっぴどく怒られるだろうと思っていた。僕は俯いて目を瞑った。

「…苦しかったね」

「え…?」

「蘭ちゃんも苦しかっただろうけど、響也くんもすごく、苦しかったよね」

「伯母さん…」

伯母は泣いていた。その背中を、伯父が優しくさすっていた。

「だって、研究熱心で真面目な妹が、そんな危険なことしてたんだよ?乗り気じゃなかったかもしれないけど、元旦那と一緒に。私でさえ、どう捉えたら良いのか分からなくて、頭がこんがらがりそうだよ。…だけど、響也くんにとっては肉親だもんね…しかも蘭ちゃんと好き合っていたんだから…響也くんの気持ち考えると、胸がはちきれそうだよ。そんなに苦しい思いしてたのに、ごめんね、私、ちゃんとは気づいてあげられなかった…っ」

「いや、あのっ、伯母さんが謝ることじゃ…」

「気が済むまで泣いていい。響也くんが失ったものは大きすぎる…私達が支えられるように頑張るけれど、力不足だったらごめん…!」

「僕は、美味しい料理で励ましてくれる伯母さんと、楽しく話してくれる優しい伯父さんが大好きです。救われてます。だから、僕は壊れずに生きてこられた」

泣いて喋れない伯母を優しく抱きしめながら、伯父が僕を見た。

「響也くん…ありがとうな。蘭ちゃんのことは、みんなできちんと見送ろう」


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