コメディ・ライト小説(新)
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- 光葬現淀録
- 日時: 2020/04/27 21:27
- 名前: サラダ (ID: OtIMiKLW)
この世界とは違う、別の世界。
人と人ならざる者が共存する、不思議な世界。
────名を、『裏境』
お初にお目にかかります、サラダです。
野菜だけでなく、肉や果物もたっぷり。そんな第一作となったらな、と淡い想いを馳せる大根書き手です。
好物は鶏肉全般、国語は大の苦手。そんな作者ですが、どうぞ宜しくお願いします。
- 光葬現淀録 ( No.1 )
- 日時: 2020/04/27 23:22
- 名前: サラダ (ID: OtIMiKLW)
生きていたい。
死にたくない。
そんな事、一度も本気で思った事なんてなかったんだ。
──────序章──────
「日孁はさ、何か予定とかあんの?」
蝉に遮蔽されながらも、友人の声は耳に届いた。
痛いくらいの眩しい光のせいか、頭の中は真っ白だ。
「ほらさ、高一の夏休みって特別感あるじゃん」
「あー……。毎日普通に生きる、かな」
「淡白〜。もっと情熱的にさ、こう、ガッと行こうぜもっと」
「抽象的だな。さてはお前も、真っ白真っさらスケジュール?」
「舐めんなよ、脳内は飽和してんだからよ。パンッパンだぜ、パンッパン」
「何じゃそりゃ」
明日、明後日、その先々。
未来なんて、漠然としていてよく分からない。
今この瞬間すら、意識はまるで蝶のように、ふわふわと、ゆらゆらと。
だから、その時は気にもかけていなかったんだ。
通りすがった女の子の、その視線の意味を。
「ま、どうしても暇ってんなら遊んでやるぜ。──日孁?」
「あ……。いや、今の子、俺の事見てたような……」
「おいおい、もう暑さで頭パーか?俺に惚れたんだよ、きっと」
「お前こそ大丈夫?」
──────空蝉録──────
「──見つけた」
或る夏の、若葉が芽吹く頃。
其の瞳に、映るは若き人間。
其の口で、紡がれし言葉は──
「今度は、今度こそは、救ってみせるよ」
斯くて世界は姿を変える。
──────光葬現淀録──────
- 光葬現淀録 ( No.2 )
- 日時: 2020/04/28 01:06
- 名前: サラダ (ID: OtIMiKLW)
────七月二十六日────
「お兄ちゃん!勉強教えて、勉強!暇大臣でしょ!?」
夏休み。
学生の誰もが待ち望み、学生の誰もが苦悩する期間だ。
とは言っても、高校一年生の夏は空白の時間だらけだ。
団扇でも仰ぎながら、初夏の香りを楽しもう。
風鈴の音に耳を傾け、日差しを直に感じよう。
そんな洒落た夏は、どうやらやって来ないらしい。
高校受験を控えた妹を持つ、兄の宿命か。
ニュースを垂れ流すテレビの音。
素麺を冷やす氷が溶ける音。
台所で作業を続ける母さん。
そして、焦る妹。
我が家は今日も、いつも通りだ。
「夜見、とりあえず落ち着いて素麺でも食べよう。美味しいよ」
「素麺は大好きだけどパス!このままじゃお兄ちゃんの高校入れないんだよ!」
「大丈夫。俺が中三の時はもっと杜撰だったよ。うん、生姜最高」
「心配なモノは心配なの!ああもう、私も素麺食べる!」
ズルズル──素麺を吸う音に釣られて。
ずるずる──夜見は椅子を引いた。
机上に用意された、夏の風物詩──素麺。
朝も昼も関係無しに、適当な時間に小腹を満たす。
他愛も無い話、将来の話。会話が絶える事は無い。
それこそが、休日の醍醐味だ。
「大体、無理して志望校合わせなくても良いんだよ?」
「お母さーん、私ネギ欲しいー!良いの、私はもう決めたもん。絶対曲げないもん」
「まあ、俺に協力出来る事はするけどさ。うん、擂り胡麻も美味だ」
「私の友達みーんな頭良いからさ。プレッシャー大臣になっちゃうよ」
────まずは仲良し兄弟ワンちゃんに密着していきます!
ふとテレビに目をやると、動物特集が放送されていた。
仲睦まじい兄弟の姿に、ついつい笑みが溢れてしまう。
────次はコチラ!何とコウモリ兄妹!何とも不思議ですね!
犬、コウモリ、そして人間。
家族の形は、生物を問はず多様だ。
ここ天登家は、恵まれていると言っても過言では無いだろう。
二匹のコウモリが、ふわふわと、ゆらゆらと。
珍奇な映像を前に、何故か、ふと、そう感じた。
「そんな事無いわよ、夜見は頑張ってるもの。はい、ネギよ」
ネギは細かく刻まれ、母さんは穏やかに微笑んでいる。
台所から嬉しそうに、母さんは軽やかに近づいて来た。
「お母さんもそうやって甘やかさないでよー。私そーゆーの弱いからさ」
「まあまあ。頑張ってるご褒美に、好きなもの作ってあげるわよ」
「ホント!?私、お母さんの焼いたクッキーが食べたい!」
「本当に弱いな。あ、母さん生姜追加で」
再び台所へと舞い戻っていく母さん。
その姿はまるで──
『まるで妖精のようだ』
単身赴任の父さんの、口癖だ。
父さんは、暫く帰ってこない。
母さんは、変わらず家事をこなす。
夜見は、おそらく勉強に励むだろう。
「じゃ、素麺食べたら数学教えてね。金平糖の定理がよく分かんないの」
「それは俺も知らないなぁ。もしかして三平方の事?」
「多分それ!お兄ちゃん、お願いね!うん、ネギ最高!」
少しだけいつもと違う。
天登日孁の日常が、始まった。
────七月二十七日────
「暇だ……。暇大臣だ……」
その時は、予想より早くに訪れた。
賑やかな昨日から一変。
母さんと夜見は、リフレッシュと称して都心へ向かった。
『一日くらい息抜きしないとね!目指せ、休憩大臣!』
『おー!』
あれ以来、人の声を聞いていない。
家にはただ一人、ただ時間だけが流れていく。
「……悠人の家でも行くか」
この選択が、後に日常を終わらせる事になるなんて。
分かる筈も、気付く筈も。
────当然、あったんだ。
- 光葬現淀録 ( No.3 )
- 日時: 2020/04/28 17:19
- 名前: サラダ (ID: OtIMiKLW)
────七月二十五日────
少女の瞳は蒼く。
少女の髪は白く。
「お願い。力を貸して」
少女の声は強く。
少女の声は儚く。
「このままじゃ、また同じ事の繰り返しだよ」
少女の瞳は滲み。
少女の髪は揺れ。
「今度こそ、救う時が来たんだよ」
少女の声は震え。
少女の声は掠れ。
「たとえ……世界を犠牲にしたとしても……」
故に少女は、何を想う。
「お願い、紫苑」
────七月二十七日────
『今から家行くね。二時くらい』
『おけ。コーラ先輩用意しとくわ』
軽く画面上で会話を交わし、家を後にする。
夏休み二日目、初めての外出だ。
街の景色は、相変わらずだ。
閑静な住宅街を抜けて。
近道に古い神社を通り。
賑わう商店街を横目に。
悠人の待つ家へ、直進する。
筈だった。
「うう……こんな所で……でも……」
商店街が人々で溢れかえる中、ふと目に入ったのは偶然か。
喧騒の中はっきりと声が聴こえたのは、はたまた必然的か。
その少女は、団子屋の前で何やら困っている様子で。
その少女は、髪は白く瞳は蒼く何かと目立つ容姿で。
そして、見覚えのある少女だった。
七月二十五日。
あの日の彼女の視線が、今も忘れられない。
「ねえ、君。三色団子、食べたいの?」
少女の瞳が、こちらを捉えた。
黒髪を鮮明に反射する程に輝く瞳。
穢れなど知らぬと言わんばかりの澄んだ瞳。
困惑が表情に浮かんではいるが、やはり。
──ああ、あの時の女の子だ。
「食べれるものなら食べたいけど、そんな暇とお金は……。っ、貴方は……!」
「奢るよ。その代わり、ちょっと聞きたい事あるけど、良いかな?」
「奢るだなんて、そんな!全然お腹だって空いてないんだから……」
ぐうぅ────
音の出所は、自明だ。
頰を焼かせたような彼女の顔が、何よりもの証拠。
諦めた様に、内心どこか嬉しそうに、華奢な足はレジへと舵を切った。
「はい。全部食べて良いよ」
「三本なんてそんな贅沢な……。二本で良いから、二本!」
「そっか、じゃあ俺も一つ頂こうかな。うん、美味しい」
「いただきます!──うーん、やっぱりこっちの団子は美味しいなぁ」
朱に染まる和傘の下、商店街の風景を眺める。
悠人と来た時も、家族と来た時も、ただ流れ行く人影と空に風情を感じる事は無かった。
不思議な感覚だ。
初対面の筈の彼女の存在が、やけに心地が良い。
いつもの風景が、少しだけ色が付いた様に思う。
まるで、非日常だ。
「この前、一昨日だけどさ。会ってるって言うか、目合ったよね?」
「うん。それから貴方の事探してたんだけど、こんな形で会えるなんてね」
「日孁で良いよ、天登日孁」
「私は紬。じゃあ日孁、単刀直入に言うね」
刹那、世界が止まった様な。
否、この世界にたった二人だけの様な。
異質な静寂が、一瞬だけ訪れた。
「このままだと、日孁は殺されちゃう」
──────────沈黙──────────
「……新手の詐欺かな?生憎、疑い深い性格なもんで……」
「違うよ、本気。だから、私はあっちからやって来たの」
「あっち?」
至って真剣だ。
それ故に謎だ。
なかなか噛み砕けない上に、紬の瞳はじっとこちらを捉えている。
紡がれる言葉が、ぞくぞくと背筋を震わせる。
繋がれる言葉が、ざわざわと恐怖を匂わせる。
言葉は、止まらない。
「『裏境』。この世界と繋がっている、もう一つの世界だよ」
無意識に、周りを見渡す。
人々は何事も無く歩き続け。
空は雲を纏って流れていく。
太陽の光がやけに眩しくて。
熱気が体全体に纏わりつく。
この世界が、天登日孁が生ける世界。
ならば紬は、この世界の住人では無いという事になる。
不思議な感覚だ。
彼女の言葉は、俄かに信じがたく。
彼女の言葉は、微かに信じられる。
ふと目の前に、もう一本の三色団子が現れた。
「この三色団子で言うと、桜色がここで白が裏境って感じ」
「串で繋がってるように、二つの世界も繋がってる……。そんなとこ?」
「そうそう!いやー、頭良いね、日孁。私はその串を伝って来たんだよ」
「理解は出来るけど、納得するのは難しいよなぁ」
「難しい事は一旦流しちゃおう。うん、満腹満腹。ご馳走様でした!」
串だけが手に残り、それすらも皿に置かれた。
店に勤めるお婆さんが、団子の残骸を回収して行った。
ようやく現実に引き戻された気分だ。
そう感じていたのも、束の間。
話は核心へと迫っていった。
「日孁は裏境に命を狙われてるの。殺されるのは、嫌でしょ?」
「……正直、イマイチ掴めないな。俺はその話を、どうやって信じれば良い?」
「そうだね……。じゃあ──」
理由は──検討もつかない。
納得は──出来る筈も無い。
実感は──もっと湧かない。
故に、耳を澄ます。
「見せてあげるよ。『現淀録』の力を」
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