コメディ・ライト小説(新)

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アイに溺れる
日時: 2020/06/22 21:35
名前: なす (ID: OtIMiKLW)

 『好き』を望んで。
 『嫌い』を拒んで。
 そして人は、『アイ』に溺れる。

 そう呟く彼女の横顔は、ただひたすらに────


 唯一の言葉を、無二の君達へ。
 綴ろう。遺そう。僕の、滑稽で愉快な半生を。



《前書き》
 初めまして。なすです。
 幻の恋に翻弄された一人の男の人生を追体験する、そんな物語になる予定です。
 恋の一つも体験した事ない人間の妄想話ですが、宜しくしてやってください。
 ちなみに名前の由来は無いです。ただのなすです。

Re: アイに溺れる ( No.1 )
日時: 2020/06/23 23:44
名前: なす (ID: OtIMiKLW)

 掴みようのないほど、大きくて不気味なもの。
 僕の心に絡み付いたそれは、日に日に肥大化している。
 そいつの大好物は、後悔や未練といった、言わば人の真の姿。
 今日も身体を蝕むだろう。明日も精神を壊すだろう。
 嬉々と生きるそいつは、まるで無邪気な子供の様だ。

 そいつは僕なのか。
 僕は何者なのか。

 胸を張って言えるとしたら、ただ一つ。
 僕はもう、生きることを許されない。


 こうして筆を取ると、あの頃の自分に還ったとさえ錯覚する。
 この感覚に呑まれてしまえば、きっとこの物語は完成しない。
 今の僕にしか遺せないものがある。
 それだけが、心を動かす矮小な原動力だ。

 僕の人生には、いつも雲がかかっていた。
 全てが始まったあの日も、雨が降っていた様な。

 紙が湿っては文字が濁る。
 暗闇に襲われれば筆が止まる。
 戯言はここまでとしよう。
 最後に、一つだけ。

 親愛なる彼女へ。
 どうか、安らかに。
 そして願わくば、安寧なる生を。



   序章   曇天

Re: アイに溺れる ( No.2 )
日時: 2020/06/28 15:52
名前: なす (ID: OtIMiKLW)

 曇天はいつだって、心地が悪い。
 人一人いない静かな教室で、溜息をついた。

 黒く膨れあがった、雲の群れ。
 肌に纏わり付く、嫌味な湿気。
 閉塞感に殺された、音と色彩。
 孤独に苛まれる、僕自身の心。
 誰かに訴えかける訳でも無く、再び溜息を零した。

 ふと思い出した様に、鞄から手帳を取り出した。
 気は晴れない。淀みは消えない。
 ただ、息をするかの様に、何の意味もなく。
 そうして開いた手帳を、独り眺めた。

 ────この世界は、壊れている。

 終わらない雨と怒り狂う海に囲まれた、島。
 かつては人々で賑わっていたであろう、街。
 僕一人残して姿だけを消してしまった、人。

 いつから、コレが日常になったのか。
 覚えていないし、思い出したくもない。
 それでも、縋るものを求めてしまう。

 だから、見つめる。空白の手帳を。
 虚無な時間を、虚無に縋り付いて。
 僕は今日も、無意味に生きていく。

 筈、だった。


「────ねえ、君。この世界は、退屈かな?」


 生きた音が、鼓膜を貫いた。
 視覚が、聴覚が、全身が。
 震え上がった感覚を、きっと一生忘れない。

 彼女は、笑った。
 美しく、儚げに。


「私に付いてきて。きっと、楽しいよ」


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