コメディ・ライト小説(新)
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- リーダーズ
- 日時: 2020/07/24 00:05
- 名前: 風見 (ID: OtIMiKLW)
「初めまして、魔法使いです」
「海の精霊の後継者です。以後お見知り置きを」
「魔王だよ、よろしくね!」
皆の視線が、一気に俺へと集まる。
俺は溜息をついた。そして、観念した。
「……紡車柚。高校生、やってます……」
ある世界を救う為、それぞれの世界から代表者が召集された。
さしずめ、俺は人間界の代表、といったところだ。
予言しよう。断言しよう。
この世界を救う前に、俺が死ぬ。
「…………帰りてぇぇぇぇ!」
◾️目次◾️
- Re: リーダーズ ( No.1 )
- 日時: 2020/07/24 12:19
- 名前: 風見 (ID: OtIMiKLW)
序章 出会い
第一話 代表
「では、改めて。私の名はマリー・クインテット。魔法使いです」
赤い瞳に、黒い髪。
とんがり帽子に、黒いマント。
いかにもな杖に、いかにもな本。
見た目は完全に、魔法使いだ。
「すごーい!ねえねえ、魔法使ってみてよ!炎どかーん、水ばしゃーんって!」
「申し訳無いのですが、今は使えないんです」
「えー、そうなの?なんでー?」
「過度の興奮状態じゃないと駄目なんです。盛りのついた猫くらいですかね」
その場の誰もが凍りついた。
いかんせん目の前で女の子がとんでもない発言をしでかしたのだ。
それも、恥じらいも無く。
俺と同い年くらいの男はもちろんのこと固まっている。
銀髪の少女は純粋に理解できていないようだった。
「こーふん?さかり?お姉ちゃん、猫なの?人に見えるよ?」
「つまりですね、異性あるいは同性の一糸まとわぬ姿を──」
「つ、次!次、行こうぜ?ほ、ほら、お前!」
「そ、そうですね。そろそろ僕も自己の顕示に飢えていたところです」
我ながら一世一代のナイスフォローで、何とか純真無垢な心は守られた。
少女の興味も移ったようで、何よりだ。
マリー・クインテット。ヤベー女だ……。
「先程告白した通り、海の精霊を継いだ者です。名はシーズです」
蒼に輝く瞳と髪は、まるで海そのもの。
そのくせして、何故か制服を着ている。
よく分からない外見をしているが、考えてもよく分からない。
そもそも海の精霊って何だ。
「ねえねえ、海の精霊ってなにー?神様なの?」
「そうとも言えるし、そうとも言えません」
「どういう事ですか?一見、ただの人間なのですが」
「貴女の目に移る僕が、真実と言えましょう」
「俺からも良いか?どうして制服着てるんだ?」
「海の精霊ですから」
マリーと目を合わす。
銀髪の少女と目を合わす。
そして再び、シーズへと目を向ける。
こいつ、何かおかしいぞ。
「意味が分かりません。このままでは私の性癖外ですよ、シーズさん」
「それは一向に構いませんが、理解して貰えないのは遺憾ですね」
「私が困るんですよ。いざという時、どうやって魔法を使えと言うんですか」
「何とかなるでしょう。僕は海の精霊ですよ?」
「それでどうにかなるほど私の性癖は甘くないんです」
「おっけー、ストップ。一旦やめようぜ。な?」
ここまで来て、俺はようやく理解した。
こいつらは、ヤバい。
前提として、魔法使いと海の精霊だ。
相手は今まで関わってきた人間とは一線を画す何かだ。
同じ縮尺で測ろうとした俺が間違っていた。
俺が間違えていたんだ。そういう事にしよう。
「ねえねえ、そろそろ私も自己紹介したい!」
「いえ、まだ彼への質疑が終わっていないのですが」
「マリーさんはちょっと黙ろうか!さ、さあ、君の番だよ」
「はーい!えへへ、よーく聞いてね!」
変わり者の二人に反して、この子は素直で可愛らしい。
この子がいなかったらと考えると、寒気すら覚える。
本当にいてくれて良かった。心から感謝するよ。
──だが、忘れてはいけない。
確か、この幼気な少女は自分をこう表した。
魔王、と。
「ヤミ・ノストーラ・イビルダーク・デスヘル・シーナ。魔王だよ!」
魔王、だった。
何なら、名前が長い。
いや、関係ないけど。
銀髪ショート、赤と紫のオッドアイ。
角や羽、尻尾は無い。代わりに、浮いている。少しだけ。
ついでにと言わんばかりの、小さな王冠。
魔王、なのか。この少女が、魔王なんだろうか。
「シーナって呼んでね!魔界のみんなはそう呼んでくれなかったけど、おねがい!」
「魔王ですか。良いですね、外見ロリに魔王属性。非常に良いですよ、シーナさん」
「困りますね、名前が非常に似ている。改名を推奨します」
「難しい言葉使わないでよー。分かんないよー」
「十二分に興奮できるという意味です」
「名前を変えて欲しいのです。ややこしいので」
「お前ら小さい子にも容赦ねえな!ちょっとは抑えろよ!」
一瞬でもこの子に疑いの目をかけた俺が馬鹿だった。
この子は、ただの魔王だ。
そして、ただの純粋な少女だ。
おかしいのはこいつら二人だけだ。
良かった。
シーナはこちら側だ。
「小さい子?違いますよ。こういう場合、ロリババアと相場は決まっているんです」
「酷え相場だな!大体、マリーさんはそっちもいけるクチなのかよ?」
「マリーで構いませんよ。それと、ロリババアは最高に性癖です」
「魔法使いの思考は理解不能ですね。ヤミちゃんは幼子に決まっているでしょう」
「良いぞシーズ。ちょっとだけお前に親近感を感じてるよ、俺」
「海の精霊の言う事に、違いなどありません」
「やっぱ遠いわ」
段々と慣れてきている俺に恐怖すら感じている。
今後この世界でどうなるかは一切分からない。
それでも一つだけ確かなのは、今後苦労するだろうという事だ。
「よく分かんないけど、みんなよろしくねー!」
「ええ、色々とよろしくお願いします、シーナさん。さて、貴方の番ですよ」
「あ、ああ。そうだな……」
「どうしました?もっと盛んに行きましょう。興奮するものも興奮しませんよ」
「興奮は別に良いんだけどさ……」
正直、俺は非常に疎外感を感じている。
理由は、驚くほど明白だ。
魔法使いに、海の精霊に、魔王。
錚々たる面子に囲まれた俺は、さしずめ子犬だ。
最初に言った言葉通り、俺はこの場において役に立たない。
何故なら。何故ならば。
「柚って呼んでくれ。まあ、あれだ。ただの高校生だ」
「こーこーせい?なにそれー」
「特に言う事は無いんだ。その、普通の人間なんだ……」
「魔法みたいに、超常現象を起こせますか?」
「いえ、全く……」
「海の生命を従える事は可能ですか?」
「そんな事できんのお前!?いや、俺は出来ないけど……」
「なんか能力とかもってるのー?」
「無能力もいいとこです……」
その時初めて、三人は顔を見合わせた。
三人とも、何か言いたげな顔をしている。
分かっている。俺が一番よく分かっている。
だから、言わないでくれ。
言葉という名の凶器で、俺を殴らないでくれ。
頼む、お願いだ。
そんな俺の想いも虚しく。
三人は口を揃えて、精神的に殴りかかってきた。
「「どうしてここにいるんですか?」」
「そんなんじゃ死ぬよー?」
息を大きく吸って。
大空に向かって大きな声で。
「知るかよぉぉぉぉぉぉ!」
ほんの少し過去のこと。
全ては、アイツが現れてから始まった。
始まってしまったんだ。
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