コメディ・ライト小説(新)

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お嬢様と悪魔執事
日時: 2020/11/20 15:22
名前: 氷菓子 (ID: fjkP5x2w)

熱い、熱い、熱い。燃え盛る炎の中で、私はただただ床に倒れていた。遠くから火事だ!逃げろ!という声が聞こえるが、私は体を一切動かすことができない。黒煙をたっぷりと吸った肺は重ったるく、私の意識を奪って行く。広い屋敷の最上階にある私の部屋にまで火が回っているのだ。今更動くことができたところでもう逃げ場はないだろう。
貿易商を営んでいる両親が建てた家。私に与えられた広い部屋。豪華な装飾品。それらは炎にとってはただの燃料に過ぎない。津波のように炎の柱がうねり、全てを焼き尽くしてゆく。

家族写真も、お母様に買ってもらったぬいぐるみも、お父様がお土産で持って来たタペストリーも、思い出をあざ笑うかのように炎が燃やしていった。

ああ、私、死ぬんだ。そう思うのに時間はかからなかった。貿易商の娘で、何不自由なく暮らして、優しいお母様と頼もしいお父様に恵まれて、幸せな人生だったのに幕引きなんてこんなものなのか。なんて呆気ないんだろう。

呼吸がしづらいのが気にならなくなって行く。まぶたが重い。このまま目を閉じれば、死んでしまうのかな...。そう考えた、その時だった。

「助けてやろうか?」

声が、頭上から聞こえた。最後の力を振り絞り、重いまぶたを開けて声の方向を見る。

燃え盛る炎の中に、燕尾服を着た男が一人立っていた。

薄ら笑いを浮かべ、ギラギラと光る赤い目でこちらを見下ろしている。漆黒の髪が、炎の赤い光に照らされていた。

熱さで頭がおかしくなったのか、それとも死を間際にして幻覚でも見ているのか...。だって、先ほどまで誰もいなかった空間から男が現れているのだ。誰だってそう思うだろう。
でも、もうどちらでもよかった。死ぬ間際なんだ、幻覚に賭けてもいいだろう。
轟音を立てて部屋の柱が崩れる。どちらにせよ時間はもうない。男はじっとこちらを笑みを浮かべて見ているだけだ。

「...私を、助けて」

薄れ行く意識の中、私は出来るだけはっきりとそう言った。男は口の端より一層釣り上げて笑った。真っ黒な服装と赤い炎の対比が、煉獄に佇む悪魔の姿のようだった。

「契約成立だな、これからよろしく頼むぜ」

男は相変わらず笑みを崩さずに私の前に跪いて手の甲にそっとキスをした。
私の意識は、そこで途絶えた。

Re: お嬢様と悪魔執事 ( No.1 )
日時: 2020/11/20 15:50
名前: 氷菓子 (ID: fjkP5x2w)

「お嬢様ぁ!朝ですよぉ!起きてください!」
メイドのアリーの声がする。ついでに鳥のさえずりと眩しすぎるくらいの朝日。うっすらと目を開けると、いつも着ているリネンのネグリジェと朝日に照らされて眩しいくらいに真っ白なシーツが飛び込んでいた。
「...は?」
一瞬何が起きているのかわからなくなった。呆気にとられて呆然としてしまう。

だって、さっきまで私、火事で死にかけていたのに、どうして...?

「お嬢様?大丈夫ですか...?」

アリーが心配そうな顔でこちらを覗き込む。我に帰った私はアリーの肩を掴み、

「さっきまで屋敷燃えてたわよね!?アリー、あなた大丈夫なの!?」

とまくしたてるように聞いた。アリーは一瞬怪訝そうな顔をしたがすぐにニコっと笑って、

「何言ってるんですかあ!お嬢様!悪い夢でも見たんですかあ?」

なんて私をからかってきた。
周りを見回しても、火事なんてまるで嘘だったんじゃないかというくらい代わりがなかった。ぬいぐるみも、ベッドも、箪笥も、写真も、みんなみんないつも通りの場所に変わらずにある。
...そうか、あれは夢だったんだ。まったく、寝目覚めの悪いったらありゃしない夢だ。
アリーが注いでくれた水を飲み干すと、少し気分が落ち着いた。
やっぱりあの出来事は夢だったんだろう。早く忘れて、お母様達に朝の挨拶をしてこよう。
ベッドから降りて、伸びをする。いつもと変わらない朝だ。大きな窓から入る朝日が心地いい。

「アリー、お母様たちはもう朝食をとっているのかしら?」

何気なくアリーにそう言った瞬間、アリーの顔がいきなり曇った。

「...どうかしたの?」

不思議に思った私はアリーにそう聞いた。なんだか嫌な予感がする。

「お嬢様、あの...冗談、ですか...?」

アリーが聞き辛そうにおずおずとそう私に問いかける。

「冗談?」
「だって、旦那様と奥様は...」

アリーの口から、信じられない言葉が飛んだ。

「10年前に、お亡くなりになっているじゃないですか...」


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