コメディ・ライト小説(新)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

紅い黒猫と白爪草の思い
日時: 2020/11/26 19:17
名前: blue gain (ID: rirfL/pS)

プロローグ 屍と灯火

私の人生は、もう終わってしまっているのだと、思います。
あ、すみません、暗い始まり方をしてしまって。
私の名前は、ティナと言います。只今ただいま、フードを被って路地に座り込んでいます。どうしてかって?行く当てが無いんです。
これでも私はまだ13歳。しかし、私の家族は流行り病で死んでしまったのです。……哀しい?いえ……むしろ、少しほっとしています。その理由を話していると、長くなるのですが………。
ん、足音がします。
座り込んでいる私の視界に、きれいな靴が見えました。靴だけでわかります。この人は、貴族の方です。
「こんなところで何をしているの?」
優しそうな、男の人の声でした。
私は顔をあげます。
「………?」
その人は仮面をしていました。
仮面越しでもわかる、彼は琥珀色こはくいろの目を丸くさせました。当然の反応でしょう。世界中どこを探しても、私以外黒髪の人なんて、あかい瞳を持っている人なんて居ないでしょうから。
「君、お母さんや、お父さんは?」
私は黙って首を振ります。
「………………もうじき嵐が来る。急いで家に帰った方がいいよ。それとも、」
仮面をつけたその人は、私をまっすぐなひとみで見つめた。
「帰る家が、無いの?」
「………………………。」
沈黙は肯定こうてい。彼は何も言わない私の反応を肯定だと受け取ったらしいです。
「僕の家に来る、」
「駄目です」
私は喰い気味で否定します。
「私なんて、邪魔なだけだから」
私はそう言ってうつむきます。
「自分の事をそんな風に言っちゃ駄目だ」
その人はなんだかちょっと怒ってるみたいでした。
「僕の名前はルイ。君は?」
「……………ティナ」
「そっか。じゃあティナ、僕の家はちょっと遠いんだけど、こっから西の方角にあるんだ。」
「……………………。」
「森の中にあるからね、来たらびっくりするよ」
「……………………。」
「ティナ?」

第一章 後悔、そして自身の否定

「ん…………。」
目を覚ますと、うちの古ぼけた天井ではない、綺麗きれいな天井が見えました。
「ティナ、おはよう」
上半身を起こした私に声をかけたのは、ルイさん。だんだん意識が覚醒かくせいしてきました。
「急に眠ってしまって、ビックリしたよ。疲れがたまってたんじゃない?大丈夫?」
私、眠ってしまったんですね。
………あの短時間で?
そこで、私は着ている服が変わっている事に気付きました。
「ルイさん、この服………。」
「あ、ぁあ僕が着せた訳じゃないから!安心して」
あわてるルイさんに私は思わずクスッと笑いました。
「そうじゃなくて。……………ありがとうございます」
ルイさんは微笑ほほえんだ、気がします。仮面をしているから分からないけれど。
「ところで、ティナ。……君は、家族が居ないんだよね?こんなこと、聞くのもあれだけど。」
ルイさんの言葉に私はうなずいた。
「そっか。…………あのさ、僕の妹にならないかな?」
「…………は?」
私は思わず素っ頓狂すっとんきょうな声をあげました。
「昔から妹が欲しかったんだよね!ほら、僕、面倒見良い方じゃん?」
いや、知りませんけど。
「だ、駄目かな?ティナを初めて見た時ビックリしたんだ!こんな妹が欲しいっていう僕の理想と一緒だったから」
あれ、あの時目を丸くさせてたのって、“黒髪と紅い目”にビックリしたんじゃなくて自分の思い描いていた妹像(?)と私がぴったり合っていたから……?
ルイさんは私の手を両手でぎゅっと握った。
「お願い致します!僕の妹になったら住む場所にも困らないしティナにもメリットはあるでしょう!?」
え、えぇぇ………。
「お願い!」
ベチン!
「あうっ!?」
ルイさんの頭にチョップが落ちました。
「ルイ様っ!何やってんですか!子供を困らせてどうすんですか!」
「ごめんよ……」
ルイさんは頭をさすりながら茶髪で三つ編みの女性に謝りました。
「ティナちゃん、ルイ様がごめんね?あ、私はアンナよ。此処ここで働いている侍女じじょ!」
「侍女は普通使えている人の頭をチョップしたりしないよ……。」
「ルイ様が悪いんですよ」
なんだか、とても仲が良いですね…。
「それで、ティナちゃん?」
「え」
ルイさんは身を乗り出しました。
「さっきの、返事は?」
今、ルイさんは仮面の下でどんな表情かおをしているんでしょうか………。
「ぇっと……………。」
言葉に詰まる私。
期待の目で私を見つめるルイさん。
「…………いい、ですけど」
「ええええぇぇぇぇぇぇ!!??」
叫んだのは侍女のアンナさんです。
「え、いいの!?ティナちゃん!後で後悔することになるよ!?」
「………私はすでにこうやってお世話になっているわけですし。その人の頼みですから、」
ゴロゴロゴロ………
突然聞こえたかみなりの音に私は肩をビクッと震わせてしまいました。
「嵐が来たみたいだね」
ルイさんが小さくそうつぶやいた。
「ティナ」
「? あ、何でしょう」
「さっきの言葉、忘れないでね?今更いまさら取り消しとか、受け付けないから。」
ちょっと待って。私、もう後悔し始めてます。
一生離はなさないぞっ 僕の妹!」
あぁ………。

あの人たちといると、色んな事を忘れそうになります。
念願の妹をゲット(?)したルイさんはうきうきしながら私の部屋を紹介。
「こんなに大きい部屋!私なんかに勿体もったいないです!」
「別に大きくないと思うけど?」
「大きいです」
「だとしても可愛い妹の部屋なんだから、いい加減なところを使わせる訳にはいかない。………あ、それとも、僕と一緒に寝るから部屋は必要ないって言うことかなっ?」
「それは違いますね」
仮面の下で満面の笑みを浮かべているであろうルイさんには悪いけれど、私はバッサリ切り捨てました。
っていうか、なんかルイさんキャラ変わってませんか?
「此処がお風呂よ」
「広い………!?」
「此処がキッチン」
「綺麗!」
「此処がゲストルーム」
「ゲストルーム!?」
案内してくれるアンナさんの後ろで私は小学生並みの感想を言っていました(最後に至っては感想ですらありません)。
そして豪華ごうかすぎる夕食に卒倒そっとうしそうになり、「私なんかにっ」「いい加減なものを食べさせるにはっ」の言い合いをルイさんと5分くらいして、結局頂くことになりました。その味はまさにほっぺが落ちてしまいそうなほどでした。

そんなわけで今は夜の八時、入浴中です。
こんなに広い浴槽よくそうでお風呂に入ったことがないので少し落ち着きませんが、とても気持ちいいです。
……………アンナさんやルイさんはとてもいい人です。“黒髪に紅い目”。異常な存在の私をどう言うでもなく、普通にあつかってくれます。
でも、それが“普通”じゃないんです。
「気持ち悪い」とか、「近寄んなよ」とか、そういう言葉を吐く人が“普通”なんです。
街で歩いているだけでにらまれたり、つばを吐かれたり、“人と少し違う”からって親にまで気味悪がられ、愛されない。
いや、私は“人と決定的に違う”。人はいつも見映えを気にし、皆と違うものは異常者と見なす。それは、変えられない事。
私の人生は、親に「お前は異常だ」と言われた、あの時に終わったのだと、思っています。いや、思っていました。でも違う。本当は、私が産まれたときから、この姿に産まれることが定められたときから、とっくに私の人生は終わっていたんです。
それなのに、
「楽しい」と思ってしまったんです。

第二章 灯された明かりと痛み

何処どこかで雷の落ちる音が聞こえて、私はまくらをぎゅっと抱き締めました。
頭が痛い、吐き気がする。嵐の日は、いつもこうなってしまいます。
……………あの日から。
コンコン
「ティナ、入っていい?」
ルイさんの声に私は顔を上げ、抱き締めていた枕を元の位置に戻しました。
「どうぞ」
部屋に入ってきたルイさんはニコッと笑った(多分)。
「部屋は気に入った?」
「はい、こんなに綺麗な部屋、本当にありがとうございます」
私がそう言うと、「そこまで言うことじゃないよ」と笑った。
ルイさんはベッドに近づいてきて私の隣に腰掛こしかけた。
「ティナ」
「なんですか?」
「………顔色悪いけど、大丈夫?」
え、
「………顔色、悪いですか?」
私が聞き返すとルイさんは言葉をにごしました。
「いや、ちょっと元気がないように見えて」
「………………大丈夫ですよ」
私がそう答えると、ルイさんは少し心配そうに私を見ました。
「本当に?」
「はい」
「それじゃ、お休み」
「お休みなさい」
ガチャン、とドアが閉まると、私はベッドに倒れました。
「“大丈夫?”って言われて、“大丈夫”と以外、どう返せばいいんでしょう…。」
ズキズキと心臓が痛い。
痛い?
ずっと真っ暗な道を歩いてきて、痛みも、辛さも、悲しさも、苦しさも、何も感じなくなっていたのに?これ以上苦しい思いをしなくていいんだって、ようやく痛みから解放されたんだってほっとしていたのに?
わかっている、何も感じないんじゃなくて、何も感じないふりをしているだけだって。
でも、辛いくらいならその方が楽なのに。

「ティナは、可愛そうな子だと、思ったよ。そんな事、何も分かっていない僕が軽々しく言って良い事じゃないのは分かっているけど」
「………そうですね」
月明かりに照らされる部屋の中、ルイの言葉にアンナは目を伏せてうなずいた。
「それにしてもルイ様、どうして妹になってくれなんて言ったんですか?」
「…………重ねてしまったんだ、ティナと彼女を。駄目だよね、いつまでもいじけてしまっていて。」
「………いえ。」
月は雲に隠れ、やがて二人は夜のやみに包まれた。

「ティナの好きなものは?」
「え、っと、本、ですかね」
「どうして?」
「本を読むのが好きなので。本が周りに在るだけで落ち着くし………。」
「じゃあ、犬か猫かで言ったらどっち派?」
「…………急にどうしたんですか」
例のごとく美味しすぎる朝食を堪能たんのうしていると、急にルイさんから質問攻めされました。
「妹の事は知っておきたいじゃない」
そう言うルイさんの目は笑っていました。
「っていうか、さっきから気になってたけど寝癖ねぐせ付いてるよ」
「え、」
私が頭を押さえると、ルイさんはクスッと笑いました。
「可愛いなぁ」
その言葉に私は少し顔を赤くしました。
「子供扱いしないでください」

「ここに住まわせてもらっている限り、何もしない訳にはいきません!」
そう言って聞かない私にルイさんがくれた仕事は庭の落ち葉の掃除です。
もうすっかり秋だなぁなんてどうでもいいことを考えながら黙々と掃除します。庭には花壇かだんがあり、きっと春頃には色とりどりの花が咲いていたのでしょう。
その花壇の中に、[彼岸花ひがんばな]というプレートを見つけました。
あ、もしかしてこれが彼岸花………?
今は時期じゃないので花は咲いてませんが。
そういえば、彼岸花って、花が散ってから葉が生えてくるって聞いたことがあります。あと、球根に毒があるって。この彼岸花は何色なんでしょうか?やっぱり赤色?それとも白色?黄色かもしれませんね。あ、ピンクっていう線もありますね。
「あら、ティナちゃん、彼岸花が気になるの?」
顔を上げると、アンナさんがすぐ近くまで来ていた。
「はい。この彼岸花って何色ですか?」
「んと、確か黄色だったと思うけど」
黄色かぁ。
「私、花が好きなの!ティナちゃんも?」
「はい、妹が」
「あ、そうなんだ。妹ちゃんいくつ?」
「生きてたら十歳ですね」
何でも無い事のように、さらりと言ったつもりでしたが、アンナさんは息をみ、小さく「ごめんね」と言いました。
……………黄色の彼岸花の花言葉。
『追想』、『悲しい思い出』、
『深い思いやりの心』。
今の私にぴったりです。

「仕事!」「分かった分かった」
このやり取りをまたしまして、続いてはルイさんの書斎しょさいの本の整理。
しかし思ったより量が多く、昼ご飯をはさんで、終わったときには夕方になっていました。
一日が一瞬です。
お風呂に入った後の少し湿しめった髪をで、枕を抱えながら私はそんなことを思いました。
コンコン
「どうぞ」
「ティナちゃん、今日もお休みを言いに来たよっ」
みょうなテンションで入ってきたのは、勿論もちろんルイさんです。
ルイさんは昨日と同じように私の隣に腰掛けました。
「……………ゃ………て………………し……な」
「? 何ですか?」
ルイさんは私をじっと見ながらこう言いました。
「お兄ちゃんって言って欲しい」
………………………ぇ。
「な、何でですか………?」
「夢だったんだよ……」
ルイさんはバチンと両手を合わせました。
「お願い!」
「………いいですけど………。」
「ホントに!?ティナってもしかして押しに弱いタイプ?」
「あ、やっぱり辞めますね」
「ごめんなさい!すみません!」
「もう遅いですよ」
「そんなぁ」
ルイさんは本気で残念そうな声を出しました。………何か、ちょっと可哀想になってきました。
「お兄ちゃん、そんなに落ち込まないでくださいよ」
すると、ルイさんはバッと顔を上げました。
「ん!?今、…………………もう一回!ワンモア!」
「駄目です。」
「そんなぁ(二回目)」

第三章 優しさは痛み、貴方への思い

ルイさんの家に来てから二週間が経ちました。
平日はルイさんが帰ってくるのが遅いですが、毎日寝る前に二人で他愛たあいのない話をするのが日課になりました。
アンナさんとは花の話をよくします。
たがいに知ってる花言葉を教えあったり………とにかく、平和な毎日なんです、これまでには無かった。
今日もルイさんとお休み前のトークタイム(?)です。
「ティナ、ちょっと髪がれてるよ」
そう言いながらルイさんは私の髪を一束つまみました。トクン、と心臓がなります。最近、ルイさんと話していると心臓が反応します。何故でしょうか?
「これくらい、大丈夫ですよ」
「いやいや、風邪かぜ引いたらよくないからさ。」
そう言いながらルイさんは立ち上がって部屋を出ました。なんだろう?と思っていると、ドライヤーを片手に戻ってきました。
そして私の髪をかわかし始めます。
「そこまでしなくても、」
「いいからいいから。」
ルイさんって言い出したら聞かない所ありますよね………。
「ところで、ずっと気になっていたんですが」

その言葉に僕はドキッとした。
つ、ついに聞かれるのか、この事を…!
「ルイさんって、」
ドキ ドキ
「何歳なんですか?」
部屋にはドライヤーの音だけがひびいていた。
僕は肩の力を抜いた。
なんだ………そんな事か。
てっきり「なんでいつも仮面をしているんですか」と聞かれるのかと思ったじゃないか………。

「何歳だと思う?」
私の質問にルイさんは質問で返してきました。
「三十歳」
「え、嘘でしょ!?」
冗談じょうだんです。」
私がそう言うと、ルイさんがめ息をつくのが聞こえた。そしてドライヤーの電源を切る。
「もう、ビックリしたじゃん………。はい、乾いたよ。」
「ありがとうございます………予想は、そうですね、二十二歳くらいですかね」
「残念!来週で二十ニ歳でしたー」
しいですね……ん?という事は、
「来週、誕生日なんですか?」
「ん、そうだよ。来週の土曜。」
じゃあ祝う準備をしなければ。
ちなみにティナは誕生日、いつ?」
ルイさんの質問に、私は平静をよそおって答えます。
「忘れました。祝ってくれる人なんて、居ませんから。」
正確には、「居た」。ですが同じことでしょう。
ルイさんの反応がないことに気づいてルイさんを見ると、何故か悲しそうな目をしていました。
「……………なんでルイさんがそんな表情かおするんですか」
私がそう言うとルイさんはハッとして笑いました。
「ハハ、なんかごめんね?あ、別に僕の誕生日は祝ってくれなくても構わないからね」
「………祝いますよ」
「気を使わなくても、」
「私が」
私はルイさんの言葉をさえぎり、ゆっくりと言った。
「私が、したいんです。」
「……………そっか、ありがとう」
ルイさんは黙ってその場を立ちました。
ガチャン、とドアが閉まると、私は知らぬ間に入っていた肩の力を抜き、ため息をつきました。
「どうしてあんな言い方をしてしまったんでしょうか、」
でも、だってルイさんが誤魔化ごまかしたから。
私、気付いているんですよ?
初めて会った日、私の体調を心配してくれた、落ち葉の掃除をした後、少し様子のおかしかった私に気を使って、私が落ち着けるように本が在る所での仕事を頼んでくれた、寝る前の他愛ない話で時折ときおり鳴る、私の心臓の痛みに、私自身より早く気づいて、く話題を変えてくれた、そしてそのたび、私より辛そうな表情かおをしていましたよね?
どうしてそんなに優しくしてくれるんですか?
どうしてそんなに優しくできるんですか?私なんかに。
その優しさが嬉しかった。初めてだった。そんな優しさを向けられたのは。
でも、同じくらい、その優しさが痛かった。私は貴方あなたにそんな表情かおをさせたい訳では無かった。
自分が辛い思いをするより、貴方が辛い思いをする方が、ずっと辛いんです。だから笑って欲しいのに。

今日は雨が降っていました。雨の日は気分も下がりますよね。
私は部屋の中でルイさんの誕生日プレゼントを作っていました。それが何かは当日のお楽しみです。
『…………………。』
「……………?!」
今、何かが聞こえました!………外?
私は急いで外に出ました。傘も差さずに外に出ると、
「みぃ……………」
猫の鳴き声…………!?
見ると、花壇の近くにまだ小さい子猫が丸まっていました。私は急いで子猫を抱き抱えて家に入りました。
「ティナちゃん!?そんなに濡れて、どうしたの!?」
アンナさんです。
「子猫が庭に居たんです」

とりあえず子猫を暖めてミルクをあげることにしました。
哺乳瓶ほにゅうびんにミルクを入れて子猫の口元に持っていくと、元気にミルクを飲み始めて、ほっとしました。
必死に飲んでいる姿がとても可愛くて、ほおゆるみました。
そして、アンナさんはそんな私たちを優しい目で見守っていました。
この猫はどこから来たんでしょう?
分からないけれど、この子の人生、いえ猫生はまだまだこれからです。

その日の夜でした。いつも通りルイさんとおしゃべりをして、いつも通りベッドに入りました。
夜中の一時くらいでしょうか。アンナさんが血相けっそうを変えて部屋に飛び込んできました。
「ティナちゃん!子猫の様子が変なの!」
すぐに獣医じゅういさんを呼ぶ事になりました。
「……………助かる見込みは無いと思います。」
無慈悲むじひに告げられたその言葉。私はドアの外でその言葉を聞きました。
子猫の顔が見たかった。でも、獣医さんがいるので行く訳にはいきませんでした。私は“異常者”ですから。
だから、私が子猫の顔を見たのは、子猫が息を引き取ってからでした。
私は子猫を抱き抱えました。その体は冷たかったです。まさか、今日出会って今日お別れする事になるなんて、思いもしませんでした。でも、逆に言えば私は、この子に何の思い入れもありません。だから、悲しい訳が無い。
私の心臓は痛いほど鳴っていました。
でも、この子の心臓は、もう動くことは無いんだって。呼吸が苦しくなりました。私の目からは涙がボタボタ落ちました。そして、子猫の毛を濡らしていきました。
きっと大丈夫。本当に辛い時は涙もでないから。あの時もそうだった。
そう、だいじょうぶ。ダイジョウブ。
だい、じょうぶ…………?
近くにルイさんとアンナさんが居る事に気が付かないくらい、心が押し潰されそうになっていた私。そんな私を、二人は黙って見守っていました。

第四章 輝き出す世界と、

目を覚ますと、ルイさんが心配そうに私を見つめていた。
「ティナ、だいじょうぶ?」
そう聞かれて、私の中で何かが切れました。どうして大丈夫だと思うのか、私の気持ち、何にも分かってない。
私は上半身を起こしました。
「大丈夫な訳ない。私はいつだって大丈夫なんかじゃなかった。もう何もかもが嫌になって、面倒めんどうくさくなって。生きるのも面倒で、でも死ぬのも面倒で。ただしかばねのように生きればいいと思ったのに、貴方のせいでそれが出来なかった。昔と同じことを考えるようになった。どうしてくれるんですか?優しくされても、ただ楽しい日々を過ごしていても、痛みがとれないんです。私はっ」
そこまで言って、自分が泣いていることに気付きました。
「私を嫌う人達のためにも、私自身の為にも、居ない方がいいんです」
「そんなことない」
ルイさんが力強くそう言った。
「居ない方がいい人なんて居ない。こんなこと言ったら綺麗事きれいごとだって笑われそうだ。でも、少なくとも僕とアンナは君の事を嫌ってはいない。むしろ、好いている。」
ルイさんは私の前に来て私の涙を手でぬぐってくれました。
「ティナのこれまでの人生で何があったのかは分からない。無理に聞きたくはないし、逆に聞いて欲しいなら、どんな愚痴ぐちでも聞くから。だから」
ルイさんの琥珀色の瞳が綺麗にかがやいた。
「だから、君の事が好きな僕たちのために、生きてよ、ティナ。居ない方がいいなんて、言わないで。」
「……………!」
その言葉は、私の心のとげを、ゆっくりと溶かしていきました。
完全にではないけれど、この棘と一緒でも、幸せに生きることは出来る。
そう、思えました。
なんて単純なんでしょう。
優しい言葉をかけられただけで。
でも、ずっとこんな言葉を、求めていたのかもしれません。

「ただいま~」
「ルイさん!」
パン!とクラッカーの音。
「…………!?な、何?」
「「お誕生日、おめでとうございます!」」
アンナさんと声をそろえてそう言いました。
「チョコレートケーキですぞ!」
そう言ってケーキを持ってきたのは、美味しすぎる食事を作ってくれていた料理人のジョンさん(ここに来て登場です)!
そしてテーブルの上にはご馳走ちそう
「みんな……。ありがとう……!」
「これで終わりじゃないですよ」
「え?まだ何かあるの?」
私とアンナさんは顔を見合わせ、にっこり笑いました。
「ルイ様、お誕生日プレゼントです」
「うわあ、ありがとう!」
仮面をしていても分かるくらいのはしゃぎっぷり。
「これ、今開けてもいいかな?」
「勿論です。」
包装紙から出てきたのは、一冊の本。
「前から欲しがっていた昆虫こんちゅう図鑑ずかんです」
「「ななななななんで!?」」
ルイさんと私は 同時に後退しました。
「ルイさん、そんな気持ち悪いもの見るんですか!?」
「見るわけないじゃないかっ!アンナ!?何を考えているのかな!?」
「あら、可愛いじゃない。」
「「どこが!?」」
アンナさんの驚愕きょうがくのプレゼント。
私、虫は大っ嫌いなんですよ(泣)
そして、次は私のです。
「ルイさん、これ。」
私は小さい花束を渡した。
「ん、これって、白爪草しろつめくさ?」
「はい。白爪草の造花の花束です。
ルイさん、白爪草の花言葉知ってますか?」
ルイさんは首をかしげた。
「いいや。」
「そうですか。白爪草の花言葉はですね、『約束』です。私と、『約束』して欲しいんです。」
「……………何を?」
ルイさんは真っ直ぐに私を見た。
「これからも、私と、ずっと一緒に居てください」
私がそう言うと、ルイさんは笑った。
「なんだ、そんな事か。当たり前じゃないか。ティナは僕の妹なんだから。」
その言葉に、私は溜め息をついた。
「あー………」
「!? え、僕、なんか言っちゃ駄目なこと言った!?」
「別に。何でもないですよ」
「えぇぇー!絶対何でもなくないじゃん!」

二人を静かに見守っていたアンナは優しく微笑んだ。
白爪草の花言葉は『約束』。
だけど、もう一つ意味があるのよね。
ティナちゃん、やるじゃない。

白爪草のもう一つの花言葉、それは、『私を思って』。
妹としてじゃなくて。思って欲しい。
でも、きっとルイさんの事だから気付かないんでしょうね、今も、これからも。それでもいい。………っていうか、恥ずかしいので、気付かれなくて良かったかもしれません。
「ティナ、ありがとね。」
「…………はい。」
そこで、ルイさんはクスッと笑いました。
「ティナってさ、なんか猫みたいだよね。」
「どういう意味ですか?」
「何となくだよ。」
その言葉に、雨に濡れていた子猫を思い出しました。
……………あの子猫は、天国でけ回っているんでしょうね。
それにしても、猫かぁ。
だとしたら、私は黒猫かな?目が紅色の。黒猫の精一杯の気持ちを込めた白爪草は、呆気あっけなく散っちゃいましたけどね。
いつかこの胸の痛みが取れたなら。
この胸の響きに気づいてくれたなら。
それ以上の幸せなんて、無いです。


ー終わりではなく、始まりー


小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。