コメディ・ライト小説(新)
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- 朝の珈琲は嫌というほど苦いでしょう
- 日時: 2020/12/10 14:30
- 名前: muteR (ID: zLQY23p7)
ピピピピ ピピピピ。
もぞもぞと布団の中から顔半分を覗かせて、灰色のカーテンの隙間から漏れ出る陽光をしばらく見詰める。
ピピピピピ ピピピピピ。
ぼ〜っとした様子でゆっくりと布団から上半身を起こせば寝起きのせいか、頭がうまく働かず虚空に舞う埃に手を伸ばす、手の平は空を切り、埃は床へ流れ落ちた。
ピピピピピピピ ピピピピピピピピ。
ピピピピピピ ピピピピ、カチャ。
ようやく布団から立ち上がり、気怠げに欠伸を数回吐き出す。
カーテンを開こうとしたが手を止め、のろのろとテーブルの上の2つの目覚まし時計を止めた。
甲高い機械音が聞こえなくなると狭い部屋の中には、自身の呼吸音だけが静かに、規則的に、聞こえる。
片手鍋に水を入れ火にかけて、お湯が沸くまでの間に顔を洗おうと洗面所へ向かう、鏡の前の台にはピンクとブルーの歯ブラシ2つ。銀色の蛇口からぽたぽたと水滴が落ちていた。
蛇口をひねって水を出す、手の平に少し水をのせてパシャ、と顔を濡らす程度で済ませた。キッチンからゴボゴボと、湯が沸騰する音が聞こえたから。
蛇口をひねって水を止める、水道からはまた規則的にぽたりと水滴が垂れた。タオルで顔を拭きながら火を止める、2つ揃った耐熱性の可愛らしい苺柄コップ(108円)の片方に、インスタントコーヒーを小さじ一杯入れて湯を注ぐ。
ぐるぐるぐるぐるぐる ぐるぐるぐるぐるぐる、スプーンでかき混ぜて、嫌と云う程スティックシュガーを無駄にする。そうして完成した珈琲を一口含んだ。あぁ、今日もまた、朝の珈琲は苦い。
明日もまた、苦いのだろう。
明後日もまた、苦いのだろう。
明々後日もまた、苦いのだろう。
苦くて苦くて、苦くて苦くて苦くて、苦しくて苦しくて苦しくて苦くて、
嗚咽をもらした。きっときっとこんなに悲しいのは、珈琲が苦いからであってくれ。
「朝の珈琲は、嫌と云う程苦いでしょう」
洗面所のピンクの歯ブラシ、安っぽい苺柄コップの片方は、もう二度と使われることはないだろう。