コメディ・ライト小説(新)

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白雪姫は王子さまを拒む。
日時: 2021/01/07 11:54
名前: blue gain (ID: rirfL/pS)

意外と毒舌な雪ちゃんと、ガンガン攻めてくる玲央先輩の、笑いあり笑いありのお話です。

episode 1.初めまして

「雪!おはよぉ!!!」
前方から手をブンブン振りながら走ってきたのは見事同じ高校に受かった親友の白藤奈々である。
「おはよう奈々。制服似合ってるぞ、可愛い」
「やだー雪ったらかっこいい彼氏みたいなこといってー」
奈々はそう言ってケラケラ笑った。
奈々とは同じ中学だったんだけど、名字が同じ白藤だったから意気投合して仲良くなった。まさか同じ高校に二人とも受かるとは、嬉しい限りだ。
「そういえば奈々。梅園高校の情報、従兄弟の美奈さんから聞いてきたのか?」
「あ、うんもっちろんだよぅ」
奈々の従兄弟の美奈さんは私たちと同じ高校に通っている。先に部活の話とか、聞いておこうと思ったわけである。
「えとね、二年にやばいくらいかっこいい先輩がいるんだって!」
「やばいくらい?」
「ん、なんか人間じゃないってくらいらしい。」
人間じゃないってなんだ?人間だろ。
「名前はたしか…………水原………そう、水原玲央先輩だ。顔はもちろん頭脳もイケメンで内面もイケメンで運動神経もイケメンでやばいんだよ!」
「要するに完璧人間ってことだな?」
「そそ。会ってみたくない!?」
謎にテンション高い奈々には悪いけど、私はんー、と声を漏らした。
「別に。」
「ぅえええぇぇ、イケメンだよ!?人間じゃないって言われるほどの!」
「奈々、イケメン好きだもんな」
「そだよ!」
てか部活の話は……………………?
奈々はそのあともイケメンの良さについて熱弁していたが、校門が見えると一気に駆け出した。
「雪とおんなじクラスがいいぃぃぃ!!!」
「あ、奈々ちょい、」
私の制止を降りきって奈々は名簿表の方へ走る。
おぉぅ人多いな……………。
急に前にいた人が止まり、その背中に頭をぶつけてしまった。
「すみませ……………ん?」
その男の人はばっと振り返って私の肩を掴んだ。
「熊のキーホルダー見ませんでしたかっ?」
なななななななんだこいつ?
人間とは思えないほどの顔立ちをしている!
イケメンオーラがすごい!
まさかこの人が奈々の言っていた玲央先輩とやらなのか?やっと言いたいことがわかったぞ。
私はキョロキョロと辺りを見回して、あっと声をあげた。
「そこに……………」
「僕のベアー君!」
先輩はわざわざスライディングでベアー君を取った。近くにいた人たちが驚いて身を引く。優しくベアー君を撫でる。
「良かったっ!無事だったんですね………!」
そしてそっとベアー君にキスを落とす。キスを……………………。
……………え?
一同「! !?!?」
「先生!女子が一人鼻血だして倒れました!」
「こっちもです!」
顔面凶器だ………………。
「白藤さん、有難うございます!」
なにも知らない先輩は私に満面の笑みを向けた。
「いや、どこにあるか教えただけですし………。」
私以外の女子にその顔を向けたら多分鼻血出してたんじゃないか?
「玲央さまのあんな顔初めてみた……………!」
「かっこいいだけじゃなくて可愛いなんてずるい……………!」
二年生らしき女子の声がする。嗚呼、私、初日から目立っている……………最悪………………………。
ていうかよくよく考えたらベアー君てダサいな。
「あ、それじゃ、白藤さん、何かあったら気にせず先輩を頼ってくださいね!」
「え、あ、はい。」
そう言って先輩はスキップで二年生の校舎へ消えていった。
「雪!!」
「おう!ビックリした、奈々か。」
「奈々か。じゃなくて!さっきの人、玲央先輩、めっっっちゃかっこ良かったね!雪、あんな人に声かけてもらえるなんてすごい!!」
「……………いや、私は目立ちたくないんだけど」
「贅沢言わないの!」
「そんなことより、私何組だった?」
「私と同じ二組!てかそんなことよりって……………!」
奈々、今度は先輩の美しさを熱弁し始めた………………やれやれ。

「白藤奈々です!犬か猫かで言ったら犬派です!雪とおんなじ名前なので奈々でもなっちでも奈々っちでも好きに呼んでください!よろしくお願いします!」
流石奈々。自己紹介完璧だ。
「……………白藤雪です。犬か猫かで言ったら猫派です。奈々は可愛いし頭いいし優しいし可愛いけど誰にも渡さないのでよろしくお願いします」
一同(可愛いって二回言った………)
「雪ー?私の紹介みたいになってるよ?」
「一年間よろしくお願いします」
「ええぇぇぇぇえ」
それ以外話すことがないんだってば。
全く。朝の一件でだいぶ目立ってしまって居心地が悪いぞ………あの先輩め………。

それから一週間がたった。
「雪ちゃんおはよー」
「おはよカナ。」
私に声をかけてきたのは黒崎佳菜子ちゃん。新しいクラスで、家が近いこともあり仲良くなった。
最近は奈々も含めた3人で登下校している。
「奈々ちゃんもおはよ」
「おはよぅカナっち!」
今日も二人ともかわいいである。
「そういえば雪、最近はどうなの?」
「どうって?」
「例の先輩にあれから会った?」
「会うわけないだろ。会いたくもない。」
「水原先輩かー。そういえば始業式の時雪ちゃん話してたね。」
「いい迷惑だった。」
「雪ぃそんなんじゃいつまでたっても彼氏できないよ?」
「別にできなくていい。興味ないからな。」
「雪………まじか」
「まあ水原先輩に恋したとしても叶う確率ほぼゼロに等しいからねー。廊下歩くだけで人だかりができるほどの人だし。」
「それに告白されても絶対OK出したことないんだよ?玲央先輩。彼女の気配も今までも全くなかったらしいし、みんなに優しいけどホントにみんなに同じ対応するから、ある意味冷たい人だとも言われてるみたいだよ。まあ女子の前でこんなこと言ったらシメられるけどね。」
「シメられる……………。」
なるほどね。まあどちらにしろ人気者には関わりたくないな。
「シメられる……………。」
「カナ、心配しなくてもカナに手を出そうとする輩は私が追い払うから大丈夫だ。」
「よっ、雪カッコいい!」
「ありがとう~雪ちゃん!」
……………その日の昼休みのことだった。
「先生、呼び出してどうしたんですか?」
うちの担任の先生は八坂悠人先生。さばさばしていて、生徒からも親からも同じ教師からも人気があるいい先生である。野球部の顧問だ。
「白藤、今度の土曜に野球部の二、三年が、隣の市の高校と交流試合をするのは知ってるか?」
「そうなんですね」
「で、去年二年の水原を助っ人として呼んだんだ、ほら、あいつ部活やってないくせに運動できるだろ。」
話が見えない………。が、嫌な予感がする。
「今年もお願いしたんだ。………新入部員の手前、負けるのはカッコ悪いしな。でも、断られたんだ」
おぉ。
「だから白藤から説得しt」
「嫌です」
「だいぶ食い気味に嫌って言ったな今。」
「なんで私なんですか」
「始業式の時話してたから仲良いのかな?って」
「違います。てか私が言ったところで先輩の気が変わるとは思えませんよ。」
「ダメ元でもいいから。」
「そもそも野球部だけで勝てばいいんですよ。頼む方がカッコ悪いです。」
「ぶつくさ言わずに頼むよー。水原今屋上にいるから。」
「違う人に頼んでくださいよ」
「お前しかいないんだよ………。ついでに女子の前でベアー君にキスするのは禁止って言っといてくれ。怪我人が出るから。」
「だからなんで私が……………」

私は屋上へ続く階段をコツコツと上る。
押しに弱い私、情けない………………………。
ドアノブを捻りガチャン、と扉を開けると、屋上の壁にもたれていた先輩と目があった。
「あれ……………白藤さん?」
よく名前覚えていたな…………てかいつみてもイケメン。
「先輩。突然ですが、野球部の交流試合には本当に出ないんですか」
「え……………今年は出る気はないですけど。」
「ですよね、じゃあこれで。」
私が再びドアノブに手をかけると、先輩がちょっと待って、と言った。
「どうせ八坂先生に頼まれたんですよね?そのまま帰っちゃっていいんですか?」
「いいも悪いもないです。何で私があの先生の言うことを聞いて熱心に先輩を説得しないといけないんですか?」
私がムッとしながらそう言うと、先輩は目を瞬かせた。
「白藤さんって意外と言う人なんですね…………」
意外なのか?自分ではこれが普通だけどな。
「んー」
先輩は顎に手をあて、ほんの少し笑ってからこういった。
「やっぱり試合に出ることにします。」
「………………………は?何で?」
私が素っ頓狂な声を出すと先輩は笑った。
「白藤さんが可愛いからです」
「………………………はい?何?」
「聞こえませんでしたか?」
先輩は私に二歩、三歩と近づいてきた。
そして私の目の前まで来ると、少しかがんで私の顔を覗きこんだ。
「白藤さんが、可愛いからです。」
何を言っているんだこの人は………………?
私がかわいいだと??
「分かったぞ、そういうこと、みんなに言ってるんだろ?」
「白藤さんにしか言いませんよ」
「…………じゃあ、目、腐ってるのか?」
「腐ってませんよ」
先輩は実に楽しそうに笑った。
「白藤さんはすごくかわいいです」
「………………からかってるのか?」
「はい。でも本心です。」
なんだこいつ(デジャブ)!?
めっちゃ扱いづらいじゃないか!
ていうか近い近い近い。
私はすっと目をそらして言った。
「そういえば、八坂先生が女子の前でベアー君にキスしたりしないでくれって言ってたぞ………………」
「何でですか?」
「怪我人が出るから。」
無自覚なのが一番怖いやつだ。
「そうですか………‘’そういえば”、白藤さん、クラスに同じ名字の人がいるんですよね?だから雪さんって呼んでもいいですか?」
「いい、ですけど………………」
やけに‘’そういえば”を強調していってきたなこいつ。
「敬語、無理して使わなくていいですよ。ちなみに僕のこれは癖なので。」
こいつ嫌いだ……………嫌だ………………。
「で、いつまで目をそらしてるつもりですか?」
先輩は私の頬を両手ではさんで無理矢理自分の方に向けた。
「お前距離感おかしいぞっ」
「そうですか?」
「そうだ。私以外にやってたら今頃救急車来てるぞ!」
「雪さん以外にはやらないので安心してください。」
「全然安心できない言葉だな。つまり私にはやるのかよ。」
「やります。嫌ですか」
「嫌だな。」
私が言い切ると先輩は少し沈黙した。
「………………照れて」
「ないね。鬱陶しいからだ。」
「酷いです………………もう少し僕のこと意識してくれてもいいじゃないですか」
そんな顔で言われたら言葉に詰まる。
「そういう発言が鬱陶しい。知ってたか?鬱陶しいの鬱は“ふさがる”とか‘’心持ちが晴れ晴れしない”って言う意味で、陶は“人間性を形作る”という意味だ。つまり鬱陶しいお前は存在するだけで私の心を雨模様にする、塞ぐわけだ。」
「なんか悪い部分だけ切り取ってる気しかしないんですが。」
「そんなことないぞ」
言い返せてちょっとスッキリだ。
「とりあえず試合でるなら先生に報告しにいくか。」
「そうですね」
私はドアをガチャ、と開ける。
階段を降りながら呟くように言った。
「ホントに良かったのか?無理に試合でなくてもいいのに。」
「いいんです。ただ、雪さん見に来てくださいね」
「ま、いいけど。」
教室に戻ってくると先生が驚いた顔をした。
「あ、水原?白藤もしや説得してくれたのか!?」
「案外ちょろかったですよ」
「雪さーん言い方を考えましょうね」
「だって私は出なくてもいいって言ったのにわざわざ自分から出るって言ってただろ?実は出たかったんだなー最初から素直に言っとけば良かったのに。」
私が笑みを浮かべてそう言うと先輩が眉をぴくっと動かした。
「雪さんはそんなに僕を怒らせたいんですね」
「あ、他のクラスの教室には入っちゃダメなんだぞ?」
「……………後で覚えていてくださいね」
先輩はそう言い残して去っていった。
先生がポツリと呟く。
「白藤、お前すげぇな」

episode 2.久しぶり

「雪さん、おはようございます」
「………………なんでここにいるんだ?」
「ごめん雪、美形にお願いされたら断れなくて。」
お前かーい。まあ奈々イケメン好きだもんね。
「かわいいから許す。」
「センキューベリーマッチ」
「このメンツ…………すごくないー?」
カナの言うとおり、色々とすごい。
なんて言うか………………。
ボケが渋滞しそう(白目)。
「そんなことより雪さん、昨日の借り、きっちり返させてもらいますよ」
「やられたら(雪)」
「やり返す(奈々)」
「倍返しだぁー(佳菜子)」
「おい」
笑顔でおい、とか言われると怖いんだけど………………。
「別に銀行員に憧れてもいいだろ?」
「だめとは言ってませんが、今のタイミングで言いますか?」
「言います。」
「雪さん、倍どころじゃ済みませんよ?」
「お、百倍返しか!」
「テンションあげてる場合ですか」
私と先輩の軽口の叩き合いを横で見ていた雪とカナはげらげら笑っていた。
「漫才みたいじゃんっ 雪、コンビ結成したら?」
「あ、ガリレオならぬ雪玲央か」
「レオしかあってないですけど」
「やばい………………っ死ぬー…………」
え、何がそんなにツボに入った?
「カナっち!?呼吸困難になってる!死なないでー!もう、雪のせいじゃん!」
「なんでだよ」
朝からなんと騒がしいのだろうか(他人事)。
「雪ちゃん!!」
一同「ん?」
前方に不審者……………ではなく叔父さん!?
「雪ちゃーーーーーん」
抱きついてこようとする叔父さんをさっと避けると叔父さんは地面に頭から倒れこんだ。
「痛い…………なんで避けるの?!」
「叔父さん?なんでここに、」
「「イケメンじゃん!」」
カナと奈々である。
イケメン………………確かに。
認めよう、叔父さんはイケメンだ。
しかし、それ以上にめんどくさいやつである。
叔父さんはお母さんの弟で、まだ二十五才である。
「雪ちゃん、僕、仕事が一段落ついて、アメリカから帰ってきたんだ」
「ふぅん。遅刻しちゃうから行くね」
「え、雪ちゃん?」
「そうだね行こっか雪。」
「そうだね雪ちゃん。」
「ですね」
「………………なんでぇ!!??」

「………………というわけだから、雪ちゃん、よろしくね」
「ん?何が?」
「いやいや、話聞いてなかったの?」
「おぅ」
「もぉ………………要約すると、あっちでの仕事が終わって、こっちに戻ってきたんだけど、一ヶ月後に東京の本社に移動になったので、一ヶ月間ここに住ませてもらうことになったから」
「え、やだ」
私がそう言うと叔父さんはガクッと体勢を崩した。
「いやいや“やだ”じゃなくて…………」
「だって一ヶ月も叔父さんがいるなんて地獄以外の何物でもないぞ」
私がオブラートに包む気ゼロで言うと、叔父さんがわざとらしく胸をおさえて呻いた。
「昔は光お兄ちゃんって呼んでくれてたのにな」
「お兄ちゃんっていう年じゃないだろ?“顔は”良いんだから早く結婚したら?」
「酷い…………顔だけだって言うのかい?」
「おう」
「…………………………………………。」
容赦ない私に叔父さんは遂に会話を諦めた。
「じゃ、私行ってくるな。」
「え、何処に?」
「先輩が助っ人で野球に出るから、応戦しにいくんだ」
「先輩って、朝となりにいたイケメン?………………もしかして、雪ちゃんの彼s」
「なわけないだろあんなやつ」
「え、あんなやつ?」
「じゃ行ってきます」

「彼氏君の出番はまだ?」
「多分まだ………………叔父さん何できたんだよ」
「彼氏君の活躍見たいじゃない」
「彼氏じゃないって」
この人思い込み激しいタイプだしな。
「あ、あれ彼氏君じゃない?」
「ん?ホントだ。彼氏じゃないけどな」
次のバッターか。せっかく応援にして来てあげたんだぞ?ホームランくらい打ってくれよ。
野球知らんけど。
「見逃し三振………………もしかしなくても梅園弱いでしょ」
「助っ人呼んでる時点でな。」
さて、先輩はどんなプレーを見せてくれるんだ?
すると、先輩はバッターボックスに入ってもバッターを構えず、代わりにバットを片手で上にかかげた。
なにやってるんだ?
「え、ホームラン宣言………………?」
「? 叔父さん、ホームラン宣言ってなんだ?」
「雪ちゃん知らないの?バットをこう、バックグラウンドに向けてかかげるのがホームラン宣言。彼氏君はこれからホームランを打ってやるって言ってるんだよ」
「え、ほんとに打てるのか?」
「さあ。打てなかったらだいぶ恥ずいよね」
叔父さんが他人事でそう言った。
一球目はボール。でも先輩は振りにいってファウル。ホントに打つ気満々だぞ?大丈夫か?
二球目。時が止まったようだった。
やけにボールがスローに見えて、先輩のバットに吸い寄せられるように動いた。
次の瞬間、カン!といい音がして、打球は高く、伸びていった。
ホームランである。
「おおおぉぉぉ!!彼氏君すごい!」
先輩………………ホントに打った。
ちょっとカッコ良かったな。………………いやいや、何を言ってるんだよ私。カッコいいなんて………………。
今日の私はちょっとおかしい。

試合は結局三対一で負けた。先輩は全打席打っていたのに………………。
「彼氏君、猛打賞だね」
「彼氏じゃないけどな。猛打賞ってなんだ?」
「一試合に三安打以上打った選手に送られる賞だよ。」
「ふぅん」
「雪さん!」
後ろから声が聞こえて私は振り返る。先輩だ。
「ほんとに来てくれたんですね………………と、雪さんの叔父さん??」
「叔父さん、勝手についてきたんだよ。」
「どうも。雪ちゃんがお世話になってまーす」
「保護者ぶるなー?」
何故か先輩と叔父さんは握手を交わした。
「雪さん、僕のホームラン見てましたか?」
「見てたぞ。すごかったな!」
「試合は負けちゃいましたけどね」
「十分すごかったぞ。なんで野球やってないのに打てるんだよ」
「さあ?」
さあ?ってなんだよ。ちょっとここまで完璧だとムカつくな。
「そんなことより、雪さん。この前の借り、まだ返してませんでしたよね?ちょっと付き合ってもらってもいいですか?」
「おぅ。じゃ叔父さん先に帰っといて」
「おうちで待ってるねー」
そう言って叔父さんは帰っていった。
「で、どこにいくんだ?」
「すぐ近くですよ」
先輩は歩き始めた。歩く早さを私の方に合わせてくれている。さりげなく車道側にいるし、こういう気遣いは出来るんだな。
やがて坂を登り始め、頂上に公園が見えた。
「こっちです」
その公園に着くと、先輩はベンチへ手招きした。
「おお………………!」
ちょうど夕日が沈んでいく頃だった。
「いい眺めだな。先輩、もしかしてこれを見せるために連れてきてくれたのか?」
「まあそうですね。………………雪さん」
「なんだ?」
先輩は、屋上で会ったあの日のように、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
そして、優しく私の頬を撫でると、胸キュンな笑み(?)を浮かべた。
「僕、決めました。雪さん、あなたを必ずオトしてみせます」
「え………………?」
「“先輩のことが好きでたまらない”って言わせて見せます。だから、」
そして少し意地悪に笑った。
「覚悟してくださいね?」
「………………………………。」
私は返事をする言葉が見つからなくてただ先輩を見つめていた。相変わらずきれいな顔だった。
「……………………楽しみにしとくな」
悩んだ末、私はそう言って笑った。
「ということは脈あr」
「そう簡単にはいかないけどな?」
私は笑顔のまま言う。
「全然うまくいかないよーって泣きわめく先輩の姿を見るのが、楽しみだ」
「……………………………………。」
私は信じたくないことがあったら笑みを浮かべる。この先輩も同じだったらしい。
ちなみに怒っても笑みを浮かべる。
「よし、じゃ帰るか」
私は先輩の手を外して歩き始めた。
「……………………本当に、覚えといてくださいね」
後ろで先輩がボソリと呟いた。

「雪ちゃんお帰り!」
「!?」
昨日のようには避けきれず、私は叔父さんに抱きしめられた。
「ちょいちょい叔父さん何」
「雪ちゃんに彼氏ができたのは嬉しいけどやっぱり寂しいよ!!!」
「彼氏じゃないし」
「雪、彼氏できたのか!?」
リビングのドアから顔をだして会話に参戦してきたのはお父さんである
「だから違うって」
「そいつは誰だ!?パパが成敗するぞ!」
「成敗するな?てか彼氏じゃないって」
「僕はすごく悲しい…………!」
「雪に見合う男はそうそう居ないぞ!?」
「話聞けー?叔父さん離れろー?」
その後もごちゃごちゃ言っていたが、誤解は解かれた。が、叔父さんはわざとやっていた疑惑がある。
「叔父さん私をからかってたろ?」
「違うってー」
今日のご飯はオムライス。お父さんが作ったから形は少々悪いが、まあ許容範囲だ。
「まあいいじゃないか雪。せっかく久しぶりに会えたんだし。」
「そもそものところあんまり叔父さんに会いたくなかったんだけど」
「確かに光くんはちょっとめんどくさいところあるけどさ、いいところもあるじゃない。」
「ないぞ?ちょっとじゃなくてだいぶ、だしな」
「二人とも、さっきから聞いてたら酷くない?」
その時、私は重要なことを思い出してスプーンを取り落とした。
「雪ちゃん?」
「何てことだ………………!来週は“あれ”がある!」
「“あれ”?」
「ああ、授業参観のことかな?二学期は行事がたくさんあるよね。」
「「お父さん!!」」
違う意味の“お父さん”がリビングに響く。
私のは悲鳴。叔父さんのは歓喜である。
「お父さんなんで言っちゃうんだよ!叔父さん来ちゃうだろ!?」
「お父さんナイス!雪ちゃんの普段の様子が見れるチャンス!!」
っていうか叔父さんからしたらお父さんは“お父さん”ではなくお兄さんなんだよっ。
「大体授業参観なんて皆、猫を被って………………」

「おはよー雪ちゃん」
「……………………ぉはよ、カナ」
「あれ、雪なんか元気ない?」
「叔父さんのせいですか?」
先輩が来た瞬間カナと奈々はバッと身を引いた。
「雪の叔父さんってあのイケメンの?」
「……………………うん。授業参観があるのがバレた」
「えー!来てくれるの!?雪ちゃん愛されてるね!」
「いやいやむしろ来ないでほしい」
本当に嫌だ!嫌だぁぁぁぁぁ………………。
「雪さん」
「ん?」
先輩の方を向くと、先輩は私をじっと見つめた。
先輩が私に一歩近づく。
私は一歩下がる。
先輩が一歩近づく。
一歩下がる。
そして私はブロック塀まで追い詰められた。
先輩………………?
壁どぉぉぉぉん!!
ぅええええぇぇ!?
「今日もかわいいですね。」
一同「!?」
カナと奈々は鼻血を出す。ギリギリアウトである。
「ヤヴァイ」
「オナジク」
「このままじゃ全治三ヶ月、いや三十年の大ケガを負いそう」
「同意」
「この先輩未知の生命体だわやばい」
「激しく同意」
「普通に失礼ですよ?」
未知の生命体…………?
「雪、先輩がいる限り一緒に登校は無理。」
「え!?奈々、何言ってるの?!」
「雪ちゃん、学校では会えるから!ごめん!」
そういうと二人とも五十メートル走四秒くらいの勢いで爆走していった。
「「…………………………。」」
取り残された私たちは壁ドンの状態のまま固まった。
「先輩のせいだぞ」
「今のあの二人関係ありませんよね?」
「お前が未知の生命体だからだぞ」
「どういう意味ですか?」
困ったもんだ。

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ………………
「雪、心の声がずっと漏れてるよ」
「だって嫌だ」
「雪ちゃん、観念するしかないよ」
今日は授業参観の日なのだ。つまり叔父さんが学校に来てしまう。
最悪&最低!
「うぅぅぅ…………」
二人(雪の、雪ちゃんのこんな顔初めて見た………)
そんなこんないっているうちに廊下がざわついてきた。
きたよ!あいつが!
「雪」
「雪ちゃん」
「うぅぅぅぅぅうやだぁぁぁ」
「雪ちゃんーきたよ!」
来んなよ!
二人(また心の声漏れてる………………。)
私は叔父さんの方へ歩いていく。
そして叔父さんの肩をガッと、掴んだ。
「雪ちゃんどしt」
「叔父さん、お願いだから目立たないで。」
「ん?」
「喋るな動くなてか息するな」
二人(辛辣……………………。)
「それは無理だよーだって死んじゃうじゃん?」
*******!!*******!!

見苦しい状態なのでしばらくお待ちください……

すみません、取り乱して。
能天気で空気読めない叔父さんに腹が立ってしまいました。
だってこの人「空気は吸うものだよ?」とか絶対言うじゃん!なんなんだよ!
「もうすぐ授業始まるから座れー」
先生が来てしまった………………。
私は叔父さんを思いっきり睨み付けて席に座った。叔父さんの頭に?が浮かぶ。
なんだこいつ(デジャブ再来)!

「雪ちゃん真面目に授業受けてたね」
「おん」
「授業参観緊張しましたか?」
「先輩も叔父さんもほっておいてくれないか」
「「あはははは」」
「喧嘩うってんのか?お前ら」
「違うよ雪ちゃん」
先輩?否定してくれ。
イケメン二人に挟まれて歩いてるこの絵面も最悪である。
「もう私帰る!」
「ばいばーい」
最悪である!
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
雪ちゃん帰っちゃったなー。家一緒だけど。
「叔父さん」
「君の叔父さんではないよ?」
「あ、そうでしたね。名前は…………」
「江原光。雪ちゃんの、お母さんの弟なんだ。」
僕がそういうと、彼はそうなんですね、と言った。
「僕は水原玲央と言います」
…………彼は男の僕から見てもすごくきれいな人だ。
「単刀直入に聞くけど、君は雪ちゃんが好きなのかな?」
「……………………………………?」
彼は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにこう答えた。
「はい。」
まっすぐな瞳だった。本当に、雪ちゃんが好きなんだろうな……………………。
「…………君になら、雪ちゃんを任せられるよ」
「あなたはそれでいいんですか」
「………………ぇ」
僕は驚いて小さく声を漏らす。
「光さんも、同じなんじゃないんですか」
…………この人は、全部お見通しだったのか?
「いつから気づいてたのかな?」
「最初から、もしかしたらそうなのかな、と」
彼の言葉を聞いて僕はため息をついた。
照れ隠しで笑って頭をかいた。
「駄目だなぁ。年下に気を使わせちゃって。でもね、むしろこれが一番いいと思ってるんだよ。雪ちゃんは僕のことをそんな風には思ってないだろうし、元々……………………叶うはずないと判ってた」
「…………あなたは、雪さんに会うたびに毎回、そんな思いをしていたんですか」
彼は悲しそうな顔をしていた。
「何で玲央くんが悲しそうなのかな?」
「いえ………………しかし、叔父だからといって諦めるのはよくないと思います。恋に年齢も立場も関係ありません。」
「そう、かもね。でも雪ちゃんは絶対僕を好きにはならないよ。」
「どうして言い切れるんですか」
「親ほどじゃないけど、小さい頃から妹のように可愛がっていたからね、なんとなく分かるよ。」
僕は無理やり笑顔を作る。
「だから、雪ちゃんをよろしく。別に君に譲ったわけじゃないんだ、むしろ僕がこうさせて欲しかった。諦めがつくからね。」
「………………はい」
「じゃ、頑張ってねー」
僕は玲央くんに手を振り、家の方へ歩き出す。
僕、ちゃんと笑えていたかな?
大人として、強がったけど、本当は雪ちゃんに未練たらたらだなんて、もしかしたら玲央くんにはお見通しかもしれない。
「…………よろしく、ね」
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
「ただいまー」
「叔父さん、遅かったな」
私が声をかけると、叔父さんは相変わらずの笑みを浮かべた。
「ちょっと玲央くんと話が盛り上がったんだ~」
「………………なんかあったのか?」
「んぇ?」
いつも通りの叔父さんだけど、ほんの少し元気がないように見える。
私がじっと見つめると、叔父さんの瞳が揺らいだ。
「………………何でもないよ?」
「そうか?」
気のせいだったのか?
でもなんだろう、叔父さんが遠く見える…………。
「大丈夫だぞ」
「え?」
「“人生何かあっても大概のことはどうにかなる”って、叔父さんが言ってくれたじゃないか。
「っ………………」
次の瞬間、私は叔父さんに抱き締められていた。
いつもと違って、少し苦しいくらいに強かった。
「………全く、僕の気も知らないで………………。」
「? 何か言ったか?」
「ううん」
なんというか、今日の叔父さんは余裕がない。
「あ、ごめん。苦しかったよね?」
「いや……………………。」
叔父さんは私の肩を持ち、自身の体から離した。
「次の行事は文化祭だね!あ、でも一ヶ月しかここにいれないからいけないか、残念………………。」
「今すごく安心したぞ」
「ひどいなぁ」

episode 3.なんだこいつ(終)

「雪さん、連絡先交換してくださいよ」
「何でだよ。何のために?」
「好きな人の連絡先くらい知っていたいじゃないですか」
好きな人…………。今悪寒が走ったぞ。
「お前に好かれるやつ可哀想だな」
「何言ってるんですかあなたのことですよ」
「私可哀想」
くそ、こいつのせいで親友たちと一緒にいる時間減ったし!
「雪さん、お願いします」
「嫌だ」
「タピオカミルクティー」
「よし、駅前に売ってるぞ」
「先に交換です」

「い、い、いらっしゃいませぇ↑」
めっちゃ語尾上がったな。
まあ、未確認生物いるからな。
あ、未知の生命体だっけ?どっちでも一緒か。
「タピオカミルクティーひとつ下さい」
「か、かしこまりまりました!」
まりまり?
「てか先輩は良かったのか?」
「僕は良いんです」
店員さんが先輩に見とれてる…………ってあ!?
「ちょ、それタピオカ入りすぎじゃないか?」
店員さんの手からタピオカがドバッとミルクティーに入った。
「あ、すみません。これは私が後で飲みます」
「胃に穴空くぞ?」
新しいタピオカミルクティーを受け取りながら店員さんの体を心配する。
「ありがとうご、ございましたぁ↑」
結局噛むんかい。
私はタピオカを一口飲む。
んー!もきゅもきゅしてて美味いぞ!
「タピオカって美味しいんですか?」
「むっはほひひひぃほ!」
「めっちゃ美味しいぞ?」
「むふ!」
「タピオカって何からできてるんです?」
「みほほひっふ!」
「イモの一種?」
「お前凄いな」
よく今の聞き取れたなやば。
「先輩将来タピオカを口に含んだまましゃべる人の通訳の職についたらどうだ?」
「どこに需要あるんですかそれ」
「女子高生」
「っていうかもうタピオカブームは去ったそうですよ?」
「私の中では終わってない」
「じゃあ雪さんにしか需要ないですね」
確かにー。
「ホントにもったいない。先輩も買えばよかったのに」
「そこまで美味しいんですか?僕まずミルクティーをあまり飲まないのですが」
「まーじか!」
食器用洗剤よりマジか。
と、先輩が身を乗り出して私のタピオカを飲んだ。………………飲んだ!?
「………………むふ、不思議な食感ですね。」
「ゑ」
昔の文字が出てくるくらい驚き桃の木さんまの木
なんだけど(?)!
ん、驚き桃の木さんしょの木か。
「え、もう飲めないぢゃん」
「ちに点々が付くほどショックですか?何かへこみますね」
「勝手にへこんどけ」
私がムッとしてそう言うと先輩はにやっと笑った。
「でも捨てるのはもったいないですよね?」
「……………………そりゃ、ね」
「じゃ今飲むしかないですよね?」
うぅ…………………………
タピオカを捨てるか、プライドを捨てるか。
(上手いこと言わんでええねーん)
どうするかどうしよどう…………。
「やっぱりタピオカは捨てれない!」
「おおすごい(棒)」
私はタピオカを飲む!
うん、美味しい。
「何か先輩の味がする気がするぞ………………………。」
「僕の味って何ですか」
きっと気のせいである。そう、
心臓の音がうるさいのは。

「レイン レイン レイン...」
さっきからレインがうるさいんだけど!
誰?こんな時間に!
《水原玲央からのメッセージ》
お前かい!!!電話かけよ!
『もしもし』
「先輩、さっきからうるさいんだけど。」
『何がです?』
「レインが。何で夜中に送ってくるんだよ」
『最近例の歌流行ったじゃないですか』
「夜中に~いきなりさ~いつ空い~てるのって……じゃなくて!え!?ほんとだ!メッセージ全部“いつ空いてるの”じゃん!頭おかしいのか!?」
『ちょっとしたイタズラじゃないですか』
「もうちょっと考えろよ。普通に迷惑だ」
『で、いつ空いてるんですか?』
「土日はいつも暇だけど?」
『じゃあ今度の土曜日にデートしましょうそれじゃまた明日ー……』
「待て待て待て、何彼氏みたいに普通にデートに誘ってるんだ?」
『え、違うんですか?』
「頭おかしいのか(二回目)?」
『おかしくないですよ。まあいいじゃないですか』
「何でせっかくの休日をお前のために潰さないといけないんだよ」
『ちょっと電波悪いですね。』
「あ?」
『電話切れるかもです。』
「頭おかしいのか(三回目)?全然悪くないんだけど…………」
『あ、もう無理ですね』
「無理ですねって言えてる時点で無理じゃない!もしもし!?…………………ホントに切ったあいつ!」
ぇぇぇぇぇ…………。
「なんだあいつ!?」
了?

後書き ※飛ばしてもらって大丈夫です
なんだか恋愛というよりガチめにコントみたいになってしまった。
雪ちゃんは言葉遣いはちょっと乱暴だけど、優しくて天使みたいな子。
イメージとしてはちょいつり目でツインテール。
玲央はサイコパスっぽい気がする。
イメージとしては髪を後ろで結ってる感じだと思ったんだけど、校則違反ですね多分。
叔父さんも結構すごいひと(意味深)。
正統派のイケメンみたいな顔だけど、ワンコみたいに人懐っこい感じかな?
奈々はクラスの中心にいそうな明るい子。
ファッションとか好きそう。髪型は編み込みかな?凝ってそうだし。
佳菜子はどちらかと言えばおっとりしてる?
三つ編みにメガネってかんじかな。
八坂先生は清潔感溢れる感じだろうね(雑)。
振り返ってみればキャラ濃すぎんか?
と、いうわけで、最後まで読んでくれてありがとうございました!!!
追伸
白藤雪で“白雪”姫。名前の付け方雑。




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