コメディ・ライト小説(新)
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- ハイリターン
- 日時: 2021/01/21 13:34
- 名前: T (ID: 5yMLPDHi)
雨が上がり、いらなくなった傘を持ち、歩き始めた。道路、歩道はぬかるんでいる。しかし、照りつける太陽に徐々に水分が消えていく気がした。そんな現象に対して思いながら、いつもの道を歩いた。
4月。来週から新学期が始まる。高校2年生になるのだが、何もそれに対して準備はしていなかった。考えてみても、特に準備をするものもないし、必要性も無いように思っていた。バスケ部だが、部活内での活動といえば雑用だし、レギュラーメンバー等でもないわけだから、特に身構えることもない。自分自身が高校2年生になる、というだけの話だ。
今歩いている道は、自宅に続くいつもの歩道だ。今日は春休みだ。あと数日残っている。月曜日なのでコンビニに「週刊少年○ャンプ」を買いに行った。そしてそれをゲットし、今帰路である。行きは雨が少し降っていたのだが、帰りは止んだ。それも、綺麗に。
翌日。朝を迎えた。
今日も春休みだ。何かを考えることもなく、いつも学校へ行く時間よりもはるかに遅い時間に目覚めた。朝食を食べ、歯を磨くことだけは一緒で、あとは休みの日らしく適当に過ごした。いつもは休みの日は部活があった。そこに専念していたが、春休みは特に部活も無いので、漫画、ゲームという娯楽に囲まれ時間を堪能した。気付けば午後。家に数人家族がいたが、部屋が別ということもあり何ら弊害なく過ごせた。
ふと、携帯にラインが届いた。お菓子を食べていた手とは逆の方の手で携帯をとった。誰からだろうな、と考えながら確認すると、数秒後、僕は頭が真っ白になった。動けない。手が微かに震えた。こんな感情、思いにいまだかつてなったことがなく、突然のことに感情が溢れた。ラインには、こう書かれていた。
「鈴木が自首をするらしい。お前も自首するか?」
- Re: ハイリターン ( No.1 )
- 日時: 2021/01/21 14:08
- 名前: T (ID: 5yMLPDHi)
2
居ても立っても居られない、とはまさにこのことだと分かった。16年という自分の中では長い時間を過ごしてきたが、それらが一気に崩れ去る、という奇妙な感覚が、次第に襲ってきた。携帯で時計を確認する。午後2時。まさか、楽しいはずの春休みに、こんな事に巻き込まれるとは、想像もしていなかったことだ。
まず、鈴木に電話をかけた。ラインよりも直接のやりとりが早い。数秒後、鈴木が出た。そして僕は、言いたいことがたくさんあったが、まずは、一番聞きたい事を問いかけた。
「何で、自首をしようと思った?」
すぐに返答はなかった。だが、その数秒の黙秘が、自首をしようと思っているのが真剣そのもので、鈴木なりに決心したのだと確信した。そして同時に、自分に対して「どう保身するか」を突発的に考えた。そして鈴木が返答した。
「悪い。本当、悪い。柏木にも悪いし、お前にも悪い。俺はどうしようもない人間だ。本当に申し訳ない。ただ、これだけは分かってほしい。俺は、3人も殺したという現実を受け入れられないんだよ。受け入れられないからこそ、普通に過ごせないんだ。だから、俺はこの嫌な現実から解放されたいんだ。だから、自首して、罪を償いたい」
そう言い切った。僕はまた頭の中が蒼白になった。鈴木は確かにそう決心した。それを声で、直接電話越しに聞いた。それは現実。ということは、僕の悪事も暴かれる、ということになる。僕は、それだけは許せなかった。鈴木が自首さえしなければ僕は一生犯罪者ではないのだ。鈴木が黙っていれば誰にもバレることはない。次第に鈴木に対して嫌悪感が生まれた。仲間であるはずの鈴木に。僕は力強く、感情的になりながら、再び鈴木に問いかけた。
「待ってくれ。お前が自首をすれば、僕と柏木はどうなる?分かってるのか?2人とも捕まるんだぞ?お前はそれでいいのかよ?」
声を荒げた。動悸が強くなる。鈴木はまた黙ったが、すぐに声を出した。
「いや、俺が一人でやったことにするよ。俺はそれでいい」
僕はそれを聴いた瞬間、何故か安堵してしまった。
- Re: ハイリターン ( No.2 )
- 日時: 2021/01/21 14:26
- 名前: T (ID: 5yMLPDHi)
3
一週間後、春休みが明け、普段の生活に戻った。春先の心地よい晴天が僕を照らす。辺りは既に冬の名残など無かった。跡形もなく消えた。その道を、ゆっくりと急いだ。
学校に着くなり、新学期だというのに騒々しくなかった。暗い雰囲気だ。自分だけが感じているのだろうか。新しく決まった組の教室に入ると、既に居た生徒達が話し込んでいた。会話の内容は聞かなくても想像できた。
ホームルームが始まると、新任の教師が教壇に立った。そして「大事なお知らせ」と銘打って話し始めた。
「みなさんご存じだと思いますが、このクラスの鈴木舞人さんが先日逮捕されました」
僕は真ん中の方の席に座りながら、周囲が更に暗くなっていくのを肌で感じた。正直学校には来たくなかった。だが、新学期その日に来ないなど、どこから「疑惑の目」が立つかもわかないと思い、仕方なく重い足取りで学校に来た。
「えー、先生達一同、学校関係者、みんなが衝撃を受けました。この学校からまさか犯罪者が出るとは、思いもよりませんでした。数か月前に民家に放火し一家3人を殺害という常識では考えられないことをしてしまったのだから、もちろん、今回の逮捕は妥当だと思います。これからは鈴木が罪を償い、更生してくれることを願いながら、皆さん、一日一日を過ごしていきましょう。では、新学期ですから、色々時間割など書類を配りたいと思います」
担任がそう言うと、僕はまず柏木のことを考えた。
次第に日は堕ち、曇って来た。天気予報通りだ。普段天気予報など見ない僕だったが、最近になって気にし始めていた。4時間目が終わり、昼食時間になると、僕はラインで約束した通り、体育館の裏で待っている柏木に会いに向かった。
- Re: ハイリターン ( No.3 )
- 日時: 2021/01/21 14:52
- 名前: T (ID: 5yMLPDHi)
4
「おう五十嵐」
柏木は僕の姿を見るなり、開口一番そう言った。雑踏からはほど遠い、学生の声や物音すらしないその雑草で生い茂った体育館の裏に、僕と柏木だけが立っていた。
「柏木、これからどうする?」
鈴木が自首さえしなければ、毎日が平穏なまま過ごせていた。民家に放火したときから、それは確証されていた。だが、事態は変わってしまった。鈴木は警察に自ら罪を認めに行ってしまった。僕と柏木、二人の共犯者がいながらも、鈴木は自分一人でやったことにすると言い、自首した。もちろん僕は安堵した。柏木も同じ心境だろうが、これからのことについて話さなければならないと思い、ここで話すことにした。柏木はすぐに言う。
「これからは、いつもと同じように学生生活を送るべきだろうな。じゃないと俺らが共犯者だと警察から目をつけられたりしかねないだろう?」
確かに、と僕は頷いた。
「僕もそれは同じ考えだ。現時点では僕と柏木が鈴木と共犯だとは誰にもバレてはいない。警察にもだ。もしかしたら鈴木がいづれ口を割るかもしれないが、それまでは・・・」
「いや、鈴木はそんなことはしない」
柏木がそう断言した。
「鈴木が自首をしたのは、相当な覚悟だっただろう。俺らに迷惑が掛からないようにって自分だけで自首したんだ、まさか後から俺らのことを話すはずがない」
柏木はそう言うが、僕は100%そう思うことは出来なかった。逆に、自分が犯したことの重さに耐えきれずに真実を警察に語ってしまう人物が、共犯者の存在を警察に言わないとは限らない。
「そうだな、でも、鈴木は、何で自首なんかしてしまったんだろう。言わなければ誰にもバレずにこれからも普通に生きていけたのに」
僕がそう言うと、柏木は頷いた。
心の中は空っぽだった。鈴木が自首を決心した、あの日からだ。もうあの時のような平凡な日常は戻らない。そう思うと、すぐに落ち込む。だが、自分のしでかしたことは誰にもバレてはないと自分に言い聞かすことで心情の均衡を保つ。それがあり、どうにか時間を過ごせた。新学期が始まった本日の学校も終わり、放課後になった。
- Re: ハイリターン ( No.4 )
- 日時: 2021/01/23 16:17
- 名前: T (ID: 5yMLPDHi)
5
新学期の放課後も、部活はあった。新入生が入部するのは来週からだ。僕は乗らない足取りだったが、部活に行くことにした。
バスケ部において僕の活動は、ほとんど雑用のため、おそらく部を欠席したとしてもバレない自信はあったが、やはり普段通りの生活をしないと誰かに感づかれてしまうのではないかという思いから、部活には嫌が応でも行かねばならない。
体育館にカバンを提げ向かうと、3年生たちが集まって話していた。その輪の中には、僕と同じ学年の人たちもいた。その中の一人が僕に気づくと、手招きをした。
「先輩、五十嵐のクラスの人が鈴木です」
そう同級生の西田が言う。やはり、今日は鈴木のことで学校中は持ちきりだった。それからしばらく、部活動の時間に、僕はバスケ部のメンバーに対して鈴木がどういう人物だったのかなど彼のことについて話すはめになった。
窓の外は、暗闇が既に広がっていた。同時に部活動終了を告げる校内放送が鳴る。バスケ部もその声にならい、ぞろぞろと更衣室に向かって歩いていく。僕も汗をぬぐいながら、着替えに向かった。
自宅に着くと、自分の部屋に入った。その空虚な空間に数秒間立ち止まると、再び部屋のドアを開け、テレビを見に居間へ移動した。テレビを点け、ニュース番組を見る。やはり、鈴木が逮捕され数日経った今でも、鈴木関連のニュースが大半を占めていた。もちろん、そうだろうとは思う。事件当時高校1年生の学生が放火し3人という何の罪もない人間を殺した。そのインパクトは計り知れないものがある。疲れた足取りで、誰もいない家を少し徘徊しながら、今頃鈴木は牢屋の中なのだろうか、など色々考えていた。
しばらくして、母親が仕事から帰って来た。
翌日。朝になると、同じような景色が広がっていた。起き上がると、夢に見た鈴木が死刑になる瞬間の記憶をかき消すように思い切りカーテンを開けた。フラフラしながら部屋のドアを開け、朝食を食べに向かった。
- Re: ハイリターン ( No.5 )
- 日時: 2021/01/23 16:40
- 名前: T (ID: 5yMLPDHi)
6
半年前。僕、鈴木、柏木の3人はゲームセンターで休日を過ごしていた。中学は皆違う学校だったが、高校で同じクラスになり、意気投合した仲間だった。その日は、本当にくだらない事ばかり話したりした記憶がある。
陽が落ちてきて、暗くなってきたのでそろそろ帰ろうか、という流れになった。僕たちは肩を並べ帰り道を歩いていた。
「この辺りにうるさい犬いるよね?」
鈴木が言うと、僕と柏木は同調した。
「わかる、俺もこの前吠えられた。めちゃくちゃデカイ声なんだよな。どういうしつけしてるんだか!」
柏木が言うと、僕も同じ経験がある、と言った。すると鈴木が、
「ほら、この家だよ」
と言うと、目の前にその家が見えた。2階建てのその一戸建ては、白い塗装、夜だというのに灯り1つ点いていない、犬は見当たらない、というのが暗闇の中で把握できた。辺りも静まり返っている。閑静な住宅街になっていた。
「火でも付けるか?ははは」
柏木が言うと、いいねえ、と鈴木が乗った。柏木がどこからかライターを取り出すと、何かに引火させようぜ、と言った。僕はこいつら本当にガキだな、とは思いつつ、心底では「面白い」と思い、その辺に堕ちていた小さな落ち葉に火を点け、鈴木が犬小屋のある芝生の方に投げ込んでも何も思わなかった。柏木と僕も、それぞれ適当に紙クズなどにライターで火を点け、家の敷地内に投げ入れた。当時は、まさか数時間後には大火事に発展してしまうことや、中で寝ていた3人の家族が死ぬことなど想像もできなかった。せいぜいボヤ程度で、すぐに火は消えてしまう。そう思い込んでいた。
その場を、僕らは後にした。
翌日、僕らが放火した民家は全焼し、ニュースになった。僕は、その光景をテレビ画面で見た瞬間、膝から崩れ落ちた。「3人死亡」というテロップが、僕の胸に大きく強く突き刺さった。とんでもないことをしてしまったと嘆いた。
しばらくして、この事件に進展は無かった。事件発生当初からニュース上において「火の不始末が原因か」と報道されていて、誰かの手による放火だとは報道されなかった。僕ら3人は、事件から1カ月経っても自分達の身に何も起きないことから、「僕らは逮捕されないのではないか」と確信した。
そして、一生このことは3人だけの秘密にしよう、と誓ったのだ。
それを、鈴木が破ってしまった。
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