コメディ・ライト小説(新)
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- また会える日まで
- 日時: 2021/02/11 00:39
- 名前: あーくん (ID: E0cJIekf)
また、会えたね。そう言って私は、一歩足を踏み出した。
「もう…やだ……。」
「何がやなんだ?」
「⁉ あなた、誰?」
思わず呟いた一言で、まさか声をかけられるだなんて思っても見なかった。しかも、赤の他人に。
「あぁ、おれは千輝だ!」
「ちあき…くん」
「お前、ちっせぇし、女っぽいって思っただろ⁉︎おれは男だからな!そこ、間ちがえんなよ!……お前は⁈」
「私は、雫。」
「そっか、よろしくな。しずく!」
何故かは分からないないけど、それ以降千輝くんは何かと私に構うようになった。千輝くんはいつも底のなしの笑顔で私を包み込んでくれる。中2になってから、イジメられて友達がいない私は千輝くんとの時間を、毎日待ち望むようになっていた。
「なぁ、しずく。」
「何?」
珍しく千秋くんが少し悲しそうな顔をしていた。
「何で、いっつも学校から帰ってくるとやな顔してんだ?」
「…そんな事…ないよ?千輝くんの勘違い…じゃないかな?」
自分の心の弱さを覗かれているようでなんとなく居心地が悪い。千輝くんとの時間は楽しい時間でし居たいから、こんな話はしたくなかった。
「ぜぇーったいうそ!なんでもなかったらそんな顔しない!それに、はじめに話したとき、やだって言ってた!おれの前でむりしないでほしい…話すときは…楽しい方がいい………」
千輝くんは今にも泣きそうな顔をしながら一生懸命になって私に話し掛けてきた。やっぱり私は千輝くんに敵わない。私は嫌なことから逃げた。でも、千輝くんは逃げずに立ち向かおうとしている。自分のことじゃないのに。気付いたら、私はポツポツと学校で置かれている状況、迷惑かけたくなくて親に相談出来なかった事を話してた。千輝くんは何も言わずに聞いてくれた。話が終わった頃には、お互い、涙で顔がぐちゃぐちゃになってた。
「バカみてぇ…。おれに出来る事はないけど、でも、でも…なんで今まで言ってくんなかったんだよ…」
「ごめん、迷惑かけたくなくて…」「……じゃんかよ。親も、おれも、めーわくって思うわけないじゃんかよ!しずくがあやまんな!自分の子どもとか、友だちがつらい思いしてんのに、めーわくって思うやつは、さいてーだ。しずくの親は、そんなやつなのか⁈おれのこと、そんなやつだと思ってたのか…⁈」
「違う、そんなことない。お父さんも、お母さんも、千輝くんも、最低なんかじゃない、最高だよっ!」
「なら、もっと早く話せ!ちゃんと親にも言って、いやならにげろ!しずくはわるくない。おれがほしょうする。」
「…ありがと、千輝くん。私、ちゃんと親にも話してみるね、」
「あぁ、もうかくすんじゃねぇぞ。」
「うんっ!」
その後、千輝くんは私を家まで送り届けてくれた。泣き顔で帰ってきた私に、お母さんは驚いてたけど、勇気を振り絞って話したら、転校させてくれることになった。
それから数日後、ついに明日は新しい学校、初めての登校日…不安が募って、なかなか寝付けない。
「しずく……おきてるか…?」
「起きてる…どうしたの?あの日以降一回も会えなかったし、こんな時間だし…」
時計はすでに11時を回っていた。
「……ごめん。おれ、もう行かなきゃなんねぇんだ。」
「どこ…行くの…。」
「上。長く下にのこりすぎだって、おこられちまった…。今も、本当はもどれなかったんだけど、むり言って、会いにきた…。」
「嫌だ…。行かないでよ。だって私、明日から新しい学校なんだよ?1人じゃ怖い。置いてかないでよ。」
「…ごめん。おれは行かなきゃ…だから。」
「嫌だよ…千輝くんが行くなら、私もそっち側になる…!千輝くんに付いてく……!」
「それはダメだ。しずくには親がいるだろ。こまったらたすけてくれる、いい親が。」
「でも……千輝くんがいなかったら、どうやって頑張ったらいいかわかんないよ。」
「…しずくには1つ頼みがある。」「……何?」
「おれは、この町の外のことは、なんにも知らねぇ。それに、この町からは出られないから、下にのこったとしても、ずっとわかんねぇままだ。だから、しずくが何十年も何百年もかけて生きて、見て聞いたことをおれにいつか教えてくれ。おれが空から見まもってっから。」
「何百年は無理だよっ。分かった。私、頑張ってみる。」
「ありがとう。やくそくだかんな、やぶるんしゃねぇーぞ!」
「分かってるって」
「.そろそろ時間だ…。」
「…うん。」
「あ、言いわすてた…。しずくはないてるとき、ブサイクだかんな。何があっても、わらって、むねはっとけ!そーすりゃ、こわいものなしだ。わらってるときのしずくはかわいいんだからな。…じゃあ、おれはこれで。」
千輝くんはそれだけ言うと、光の粒子に包まれて、そのまま消えてしまった。がんばれよ!いつもの懐かしい、子供っぽい笑い声と一緒に、そんな声が聞こえてきた気がした。
「もう、千輝くんは酷いなぁ。今までずっと、泣いてる時、ブサイクだなんて思ってただなんて、何回千輝くんの前で号泣しちゃったと思ってるの。でも、ありがとう。ばいばい、千輝くん。また、会えるその日まで。」
はっきり言ってまだ辛い。でも、泣くわけには行かない。千輝くんにブサイクだって言われちゃうから。怖いこと、苦しいことがあっても、笑って乗り切ってみせる。きっと、そういうことだよね?千輝くん。
あれから数十年。
千輝くんの言葉を胸に歩んできた人生も、そろそろ幕を下ろす。
私は今、エレベーターの中にいる。ボタンが光った。今まで92から順に階に止まり、一年ずつ人生を逆再生のような形で見てきた。でも、さっきの0のボタンで生まれるところまで見たし…次はなんだろう。私は迷わず、その何も書かれていないボタンを押した。エレベーターが止まり、分厚い無機質な扉が開き中から光が差し込んできた。とても懐かしい、待ち望んできた暖かい声とともに。
「久しぶりだな、しずく。」