コメディ・ライト小説(新)

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小説版☆夜行奇譚伝説
日時: 2021/02/28 17:19
名前: むう (ID: mkn9uRs/)
参照: https://www.kakiko.info/bbs4/index.cgi?mode=view&no=10342

 『ふぅん、じゃあ、君をヨルノメとして採用するね』


 ******


 どうもみなさんこんばんにちは、むうです!
 二次創作(紙他)でやこちらのコメライで主に活動しています!
 今回は、半年ほど前にオリジナルなりきり版で行っていたなりきりから
 小説に起こしていきたいと思いまーす!

 こういうのは初めてなので緊張しますが、楽しく見てくれればうれしいです。
 参加者様のキャラは登場しません。
 なりきり版にまだスレはあるので、そちらもチェックしてみてください。
 ↑参照から飛べるようにしました。

 それでは、よろしくお願いします♪


 戦闘……多分あり? ジャンル……多分現代ファンタジーかなぁ(曖昧)
 妖怪幽霊モノが好きなので、今回もそっち系で(好きだなぁ……)
 毎回台本書きを指摘されているので、今回から失くしてみました。頑張ります!


 ☆あてんしょん☆

 ・中傷行為や荒らしはご遠慮を。
 ・誤字脱字おおめ
 ・不定期更新。だいたい一週間に1~2話更新する予定。

イメージ曲♪ →幽霊東京

 □◆用語ノ集◆□


 ※ちょくちょく追加予定。


 □◆人物ノ集□◆


 >>03


 ※ちょくちょく追加予定。


 □◆本編◆□

 
 ☆第1章:ツキアイのトリセツ☆

 第1夜『この先暴風領域。』>>01-02
 第2夜『究極の取捨選択』>>03
 

Re: 小説版☆夜行奇譚伝説 ( No.1 )
日時: 2021/02/24 21:49
名前: むう (ID: mkn9uRs/)

 第1夜(1)『この先暴風領域。』



 携帯の待ち受けを見て、とある少女ははぁっと息をついた。
 濃紺のブレザーとチェックのスカートを細身の体に包んでいる、彼女の名前は黒江セツ。
 都立の進学校に通う一年生だ。

 緑色のボブカットの髪は、只今追い風で箒のように後ろへ沿っている。
 重い自転車のペダルを立ちこぎで精一杯ふむ表情は険しく、額から脂汗が滲み出ている。
 さっきからずっとスマホから流れているJ-POPなど、すでに聞く気はない。
 頭の中はひたすら、『家に帰ること』で埋まっていた。
 

 セツの通う学校は、特別進学と言う大学合格を目指す生徒たちのためのコースがあり、彼女は特進コースに所属している。
 もちろん、普通コースや芸術コースより断然、授業のコマ数が多くなるので、帰りも遅くなる。春と夏、冬には講習もあり、課題も多い。
 今思えばなんで普通コースにしなかったのかと思うけども、仕方ない。自分の高い志を褒めよう。


「でも、これっばっかりは……っ無理………っ!」


 六月初旬、季節は梅雨真っ盛り。
 横殴りの豪雨に雨が加わって、自転車を前からグイグイ押している。
 体力には自信があるセツもこればっかりは勝つことは出来ず、渋々自転車を降りて手で押しはじめる。

「今日は見たいドラマがあるのに……もう始まったかなぁ……どうしよう……」

 高校生なんだからまず勉強しろ!という親には毎日のように反抗している。
 学校で七限まで授業を受けるうえ、きちんと夜中には塾にも通ってるのだから、これ以上勉強を強いるのは鬼だと本気で考えている。実際叫んでいる。

 だから塾のない日だけは、好きなことをとことんやろうと早く学校を出たのに、何でこんな目に。どこだ神様。今すぐお前の胸倉掴んで台風やめさせたろか。

 しかし天候にどうこう言う暇があれば、必死で足を進めるのだと自分に言い聞かせる。
 と、前方から小学校低学年くらいの女の子がダーッと駆けてきて、派手に水溜まりの上で転んだ。


「きゃっ」
「わ、大変……!」

 慌てて自転車を停めると、セツは女の子に駆け寄って起き上がらせる。
 清楚な印象の白いワンピースは、案の定泥水でぐちゃぐちゃになっていた。
 足にけがはなかったが、擦ったのか若干赤くなっている。
 女の子はみるみるうちに泣き顔になっり、丸い瞳孔でセツを見上げた。

「待ってて。髪が濡れてるね。タオル持ってるから……」

 通学カバンの中からタオルを取りだし、少女の髪を拭く。
 力が強いのか、度々女の子の頸が上下に揺れた。

 しばらく女の子はされるがままになっていたが、髪を拭き終わるとようやく解放され、照れくさそうにはにかむ。

「え、っと、ありがとうございました。お世話になりました」
「ううん、大丈夫。気を付けてね」
「はぁい。……あ、そうだ! 夜行様との待ち合わせ! じゃあまた! 夜行様~~~」

 セツの言葉に女の子は頬を書くと、何かを思い出したように顔を上げ、そそくさと向こうへ駆けて行ってしまう。
 元気な子供だなあと見守りつつ、セツは腑に落ちないものを感じ首を傾げた。

 夜行……?
 変な苗字だなぁと、その子言葉を頭の中で反芻する。あんな小さい子が『様』とつける相手など、そう多くないのではないか。

 
「夜行……夜行さん……」


 胸の中に小さな引っ掛かりを感じつつも、セツはまた自転車を押し始めた。
 その胸の引っ掛かりの理由が判明されるのは、もう少し後になる。




 ****


「遅れました!」

 
 雨でぬれたおかっぱ髪を撫でつけて、件の女の子は無邪気に笑う。その様子に、彼はコートで隠れた顔をわずかに傾けてくつくつと喉を鳴らした。

「遅れたのに笑うなんて余裕だね」
「あわぁ、スミマセン……」


 女の子は慌てて頭の下げる。目の前の相手は「いいよ」と手のひらを自分に向け、またケラケラと笑った。自分をからかっているのが分かり、女の子は頬を無くらませて上目遣いをしてみせる。


「もうひどぉい。そんなんだからいつまでたってもヨルノメは増えないんですよ夜行様」
「へーきへーき。これ以上増えたら扱いが面倒だ」
「わっ、なんて言い草。だいたい、人を増やせといつも言うのはそっちでしょう?」


 この子も言うようになったなと、彼はコートの奥の目で彼女を見つめる。前までは、ただ命令に従うだけだったのに。まぁ自分の頭で考えられるようになってきたということはいいことだ。


「………それで何でそんなに濡れてるの? びしょびしょだね」
「ぁぁはい、さっき転んで、助けてもらいました」
「ふぅん。助けてもらった、と」
「………あ、ハイ。人間の女の人に」


 先ほどのことを思い出したのか、女の子が申し訳なさそうに肩眉を下げる。自分を起き上がらせてくれた上、髪まで拭いてもらったと告げる彼女に、彼ははぁッと息をついた。


「……どうも君は注意力が散漫になってきてない? ちゃんと正体は隠してるんだろうね?」
「ひどいです。私、そんなにどんくさく見えますか?」
「さぁね。少なくても俺よりはノロいね」


 勝ち誇ったように言う上司に反論しようと口を開けた少女だが、彼の言葉が的を射ていたため咄嗟に口を閉ざしてしまった。確かにどうやってもこの人にはかなわないな、と思う。仕方ないか。


 と、横にいた彼が何かを見つけ、後ろを振り返った。女の子もつられて振り返る。
 後ろにいた人物を視界に留め、あっと声を上げて固まった彼女を宥めるように、彼は落ち着いた声で言う。


「……どうやら来たようだね。ようこそ?」

 


 
 

Re: 小説版☆夜行奇譚伝説 ( No.2 )
日時: 2021/02/28 17:19
名前: むう (ID: mkn9uRs/)

 
 『この先暴風領域。』(2)

 東京都立逢魔とうきょうとりつおうまが町は、いわゆる『隠れ』心霊スポットだった。

 この町の住民は夜な夜な怪異現象に巻き込まれることが度々あり、学校の怪談や七不思議などに敏感な人が極めて多い。転校生にかける質問の一つに、「お化け、平気?」が必ず存在するくらいだ。

 という、お化けシティであるこの町には様々な都市伝説がある。
 都市伝説というものは尾ひれがついてだんだん大きくなるものだが、ただ一つだけ噂がずっと昔から変わらないものがある。
 それが、『夜行さん』。


 若い男の姿をしているが、その正体は人食い鬼。
 毎晩人食い馬にまたがり、人の魂を食らう。出会ったら最後、生きて帰れた者はいないという。
 逢魔が町の住民は、まだ幼児のころからこの噂を頭に叩き込まれ、夜は早く寝なさいと教育される。

 セツがさっき出会った女の子も恐らく、『夜更かしすると夜行さんが出るよ』とか親に言われただけの、純粋な子供だろう。セツはそう思うことに精一杯務めた。

 人を勝手に疑うのは良くない。
 だがしかし、頭の中には『夜行さん』という言葉がずっと残り続けていた。ただの噂だ、ただの都市伝説だと何度も自分に言い聞かせるが、一度ついた興味と言う火はなかなか消えない。


 あの女の子がどこに行ったのか知りたい。
 あの女の子が『夜行様』と呼んでいた人物のことを知りたい。
 あの子の跡をついて行けば、なんか、凄く不思議なことを体験できるんじゃないか。



 気づけば、留めておいた自転車のことも忘れて、セツは走り出していた。水たまりを足で蹴飛ばしながら、身体が前へ前へと急いているのを感じる。胸の鼓動が速くなる。自分でも何を求めているのかよく分からない。けれど、確実に何かが起こる予感があった。



 そして今、彼女はつい数分前に感じた予感そのものと向き合っている。



 場所は団地の敷地の中。家と家の隙間にある路地裏。
 黒色のレインコートのフードを頭からすっぽりかぶった男の子と、先ほどの女の子が彼女の足音に気づき揃って振り向いた。



「……着たようだね。ようこそ?」
「……………」



 女の子と一緒にいる人物。この男の子が、いわゆる『夜行さん』……なのかな?
 セツは首を傾げる。

 もともと、噂は半信半疑だったし、それにこの男の子は特にあやしいところはない。見たところ身長は150㎝前後、中学一・二年生くらいだろうか。年齢の割には若干大人びた雰囲気をまとっているが、そこを抜けばただの子供だ。


 なんだ、噂を信じて損した気分。セツは緊張で強張っていた肩の力を抜く。
 多分、女の子の通っている小学校か何かで、都市伝説が流行ってるんだろう。そんなもんだ。
 妖怪や幽霊なんて、そう簡単に会えるわけ………。



「や、夜行様っ、ど、どうします?? これじゃ私たち、ど、どうしましょう!?」
「はぁ…………馬鹿だねぇ君は」



 女の子の口からはっきりと、その単語が漏れた。彼の方もそのことに慌てた様子だった。一瞬虚を突かれたように固まっていたが、それも数分。男の子は、涙目になっている女の子の頭を撫でて、斜めからセツを見つめる。


「………なに? 言いたいことがあるならはっきり言いなよ。わざわざ愛華あいかを追って、ここに来たんだろ?」


 有無を言わせぬ口ぶりに、セツは一歩後ずさりをする。その態度を好ましく思っていないようで、男の子の視線が鋭いものに変わった。


「………あ、あの、さっきの言葉、………本当なの?」
「あぁあぁ、すみません夜行様………あっ」
「いいよ愛華。隠す気はないから」


 愛華と呼ばれた女の子が、とっさに口をつぐむ。男の子は愛華を後ろに下がらせると、セツに近寄って、煽るような姿勢を取り、ぞんざいな口調で告げた。


「その通り。この町の都市伝説のトップに躍り出る存在が俺――夜行さん」
「…………嘘………」
「―――の、孫の孫の孫」


 自ら自分の存在を肯定する彼に、セツの背中から冷たい汗が流れ落ちた。
 どうしよう、噂によると彼は人を食べるらしい。もしかして口封じの為に私、食べられたりとか……っ。やめてまだ死にたくない!!
 
 パニックになりつつあったセツの言葉に被せて、夜行さんはボソッと呟く。



「………は? 孫の孫の孫……?」
「そ。夜行っていう妖怪なのは間違いないけど、伝説に出てくる夜行さんは俺の……えーっと、ひいひいひい……爺さん」


 夜行さんって家族いるんだ、と変なところに感心してしまうセツ。ひいひいひいお爺さんと言うのが本当なら、そのお爺さんは人間を食べていたのだろうか………。


「あなたは………人は食べないの?」
「まさか。人間を食べようとする妖怪って言うのは思ったより少ないもんだよ。俺は食べない」


 夜行さんはそんなことも分からないのかという様子だが、こっちは分からなくて当たり前だ。今でさえ彼の存在が夢ではないかと疑っている身である。そんなこと言われたって、とセツは心中で愚痴った。


「わ、私も、人間さんを食べようとするのは反対ですね。昔から人間と妖怪は強い縁で結ばれていますし、付喪神様もいたようですから」


 愛華が興奮したようにまくしたてる。
 そう言えば彼女は何者なのだろう。歳の割には難しい言葉を多く知っているな、とセツは彼女に視線を移す。と、濡れていたはずの純白のワンピースが、赤い着物に代わっていることに気づく。

 セツが愛華の方をジーっと見つめているのに気づいた夜行さんが、コートのフードを脱ぎながら紹介をしてくれる。今までコートに隠れていた髪の根元には、鬼の象徴である小さい朱色の角が二つついていた。


「彼女は愛華あいか。俺の部下として働いてもらっている座敷童さ」
「ざ、座敷わらし……っ!?」
「えへへ。さっきはありがとうございました」


 愛華はニッコリとはにかむ。そのあどけない笑顔に、セツの頭の中で電流が駆けた。
 可愛い。この座敷童可愛すぎる。もう妖怪とか幽霊とか、そういうのはどうでもいいからこの子に癒されたい。
 セツの中のロリコンスイッチが若干入りかけた。


「……で、君? 名前と性別は?」
「えっ。く、黒江セツ……だけどなんで性別まで……?」
「さーね。一応聞いてみただけだ」


 その一言にまたも、背中から冷たい汗が流れ落ちた。
 気づかれてる? いやまさか初対面だし、クラスメートにも言ったことはないし……。
 大丈夫大丈夫。絶対バレてない。多分バレてない。大丈夫。


「………それでセツ。俺達の存在を知ってしまった君は、これからどうなるべきかな?」


 さっきまでの雰囲気とは一転、ドスの利いた低音で夜行さんは静かに言う。


 ヤバい。うすうす嫌な予感はしていたがこれはヤバい。
 人は食べないとは言ってたが、人を消さないとは言っていない。仮にも妖怪……(?)なんだし何か超常的な力を持ち合わせていてもおかしくない。
 ……って、私飲み込み早すぎないどうした?? どうする? ダメもとで肩もみしますからとか言ってみる? ダメだそんなコト言ったら消される。ああお母さんお父さん今までありがとう。クラスメートたちも、たった三カ月だけどお世話になりました。あとペットのハムスターの『デビルスター』ちゃんと『エンゼル』ちゃんと、犬の『ジョセフィーヌ』ありがとう。


 さようなら………っ!




「ハイ、あなたに消されてハイサヨナラしますっ!」
「…………君を、ヨルノメとして採用することにしよう」



 
 消される前提で黙々と想像をめぐらせていたセツの悲痛な宣言と、彼女を消そうなど一ミリも思っていない優しい妖怪の提案が、見事にピタリと重なり……。





「「は?」」



 セツと夜行さんは揃ってキョトンと首を傾げたのだった。



 

 

Re: 小説版☆夜行奇譚伝説 ( No.3 )
日時: 2021/02/26 15:42
名前: むう (ID: mkn9uRs/)

 ☆キャラクター設定集☆


 登場人物の紹介などをここに乗っけていきます。
 物語が進むにつれ明かされて行く情報が増えるので、ちょくちょく更新予定。
 


 ・黒江くろえセツ

 本作の主人公……と思いきやヒロイン。
 ドラえもんの主人公がのび太と思いきやドラえもんっていうのを完全再現している物語の語り手。
 都立高校の特進コースに通う一年生。8月20日生まれ、しし座B型。部活は帰宅部。
 趣味はめちゃくちゃ早いボカロ歌唱。緑色の髪はショートボブ。
 好きな食べ物はいくら。なのにTwitterのIDは@maguroという不思議。



 ・夜行やぎょうさん


 逢魔が町に伝わる一番有名な怪談の妖怪。
 人を食らう人食い鬼として恐れられて来た『夜行さん』の子孫。
 年齢……知らん。 本名……わからん。能力……うーん。
 他の妖怪からは『夜行様』、と呼ばれている。外見年齢は12,13歳くらい。
 とにかく謎が多いが、普段は頭の角をレインコートで隠し、夜の間だけ出現する。



 ・愛華あいか
 
 夜行さんに仕える座敷わらしの少女。小さな子供の姿で、純粋な性格。
 明るく人当たりがいいが、おっちょこちょいな一面もある。
 使える能力はまだ判明していない。



 ・白花しらばなゆき

 
 セツの小学校の頃からの親友。世話焼きな性格。
 実家がケーキ屋さんで、将来の夢はパティシエ。商業科コースに所属している。
 顔立ちが幼く、声も高い声で演技が上手なので、声優であるお姉ちゃんの所属事務所から
 スカウトが来てるらしいがずっと断っている。


 ・黄瀬きせわたる

 セツのクラスメート。サッカー部所属で、やんちゃな気質から主に職員会議で話題にされる。
 学校のガラスを割った数、遅刻した数、校則違反、全て最多。
 このままじゃヤバイ。お母さんが今度こそ学校にお呼ばれされそう……という噂。

 

Re: 小説版☆夜行奇譚伝説 ( No.4 )
日時: 2021/02/28 17:18
名前: むう (ID: mkn9uRs/)

 第2話『究極の選択』


「セツ~ねえセツ~? ちょっとー?」

 はっとして机から顔を上げると、目と鼻の先に親友の顔があり、セツは思わず悲鳴を上げた。

 場所は変わり、翌日学校にて。時刻は二時間目と三時間目の間の休み時間……らしい。
 ヤバい、さっきまでのことが全然思い出せない。私は何をしてたっけ……とセツは自分の机に視線を移し、数学の教科書やノートが一ページも開かれずに積まれてあることに気づく。

「せーつー~??」
「あ、ごめんゆき……」


 ずっと上の空で、話しかけても返事すらしない自分にいい加減うんざり気味の親友―白花しろばなゆきは、小学校時代からずっと続いている親友だった。
 くりっくりのお目目と童顔、更に小柄な体格のため男子によくモテる。商業科コースに所属していてセツとはコースが違うけれど、休み時間はよく渡り廊下を行き来して、こうして落ち合っているのだ。


「どうしたの? 授業中もずーっとポケーとしてたし。あ、さてはドラマの見過ぎかな?」
「い、いやぁ……ドラマは昨日は見てないよ」


 慌ててあわあわと手を振ると、ゆきの両目が猫のように細くなる。
 完璧に疑われているのを感じ、セツは声を裏返らせる。


「ホント何にもないよ! ちょっと朝ごはん抜いてお腹減っただけだから」
「ホント―?」
「ホントだよ! 昨日は疲れてそのまま寝てたし」


 ふぅんと相づちを打ちながら、ゆきは後ろにあるロッカーのほうへ教科書をしまいに行く。
 そう言えば次は移動教室だっけ、とセツも彼女に続き、若干散らかっているロッカーから必要なものを漁った。

「セツってさー、なーんか急に人格変わるときあるから心配なんだよねぇ」
「……っ。じ、人格って?」


 なんてことないような調子のゆきの言葉が、セツの胸に突き刺さった。
 全身の体温が一気にぐぅぅんと下がったように感じられる。
 思わずセーター袖の中に指をひっこめ、こっちもなんてことないような調子で聞き返した。


「さぁ? 時々なんだけど、………すごい勝気になって……うーん男の子みたいな?」
「そ、そうなんだ……自分じゃ分かんないや……」


 愛想笑いを返し、不自然にならないように教室を出る。
 流石親友、よく人の事を見ているなぁという尊敬の気持ちと、油断すれば自分の秘密を暴いてしまうかもしれないという不安が頭の中を横切った。


(………だったら尚更………決めにくいだろうが……)



 馬鹿野郎。夜行さんの大馬鹿野郎め。



 ****



 セツには、今二つ、クラスメートに隠していることがある。


 一つは、自分はISだということだ。
 ISは、インターセクシャルの略で、簡単に言うと、医学的に性別の判別が出来ない人のこと。主に医学では『性同一性障害』と呼ばれる。
 障がい者……という自覚はない。もともと自認性は女だし、ずっとそうだと思って来た。稀に男の方の性格が出てしまうこともあるけれど、そのときは『ストレスによるもの』とみんなが認めてくれる。

 二つめは、昨日、この町で一番恐れられている怪談に出くわしたこと。見た目はごくごく幼い男の子だが、その正体は人を食らう(といわれている)鬼―『夜行さん』。

 何であの時彼に会えたのかは分からないが、会ってしまったのならしょうがない。
 昨日、あの小さな女の子の跡をつけていかなかったらと後悔するもすでに遅し。
 セツは今、自分の秘密を天秤にかけられている。




『君をヨルノメとして採用しよう。つまり俺の助手になるってことだ。いい案だと思わない?』



 夜行さんは言った。口封じという形で、自分の助手になる気はないかと。なんでも彼はこの町を陰ながら守る仕事をしているらしく、人手が足りないとかなんとか。
 セツとしても、助手くらいならいくらでもなってあげよう。妖怪の助手って何かカッコ良さそうだしいいんじゃない!?とやる気になったのだが………。


 
(私は妖怪を馬鹿にしていた……)



『まさかタダだと思ってないだろうね? 妖怪は君が思うほど優しくはないさ。それ相応の見返りってもんを頂くのが性分だからね』
『じゃ……見返りを支払えばいいの?』


 おそるおそる口を開いたセツ。それさえ払えば、危険なことはないってことでいいんだよね?
 淡い希望が刺し始めたJKのやる気を、夜行さんはいともあっさりとへし折った。


『見返りはそうだねぇ。じゃあこうしよう。君の寿命の三分の一を俺に渡したら、でどうかな?』
『えっ……』


 寿命の三分の一?
 確か日本人の平均寿命は六十歳以上っていうから、六十を三で割ると……。
 えっ……私、二十歳までしか生きられなくなるってコト……!?
 あと余命、五年!??

『もちろん君が嫌なら無理強いはしないよ。でも妖と関わった人間がその後無事に生活できるという保障はない。今のうちに頼れる人についていたほうが安全は守られるよ』


 一見、助手という立場はとてもいいもののように思えるけど、彼が言っている内容は決してやさしいものではない。
 暗い顔で押し黙ってしまったセツを見て、夜行さんは景気づけようとしてくれるが……。

『じゃあさらにこういうのはどうかな。君は俺の助手になる代わりに寿命を差し出す。助手にならないかわりに、自分の秘密を打ち明ける……』


 その内容もまた、うんとあっさりOKできるものではない。秘密ってことは自分がISであることをばらすってことだ。自分が二つの性別を持っているってことだ。

 ゆき……。ゆきはどういう反応をするだろう?
 十年間の付き合いで、友達では一番長い時間を一緒に過ごしてきた。いつだって明るくて優しくて可愛かったゆきに打ち明けてしまったら………。


 どうすればいいのか分からないよ。渡り廊下の陰で、頭を抱えてしゃがみ込む。

 寿命を取られるのは嫌だ。まだまだやりたいことがある。大学にも行きたいしみんなと遊んだりもしたい。もし寿命を取られたら余命のことが頭から離れなくなってしまうだろう。それは嫌だ。
 

 かといって秘密をばらすのも気が引ける。あのおひさまみたいな笑顔を失いたくない。変化が怖い。ゆきが自分から離れていったら私………。


 セツは勘違いをしていた。ファンタジーでも漫画でも、出てくる妖怪やお化けは優しくて、簡単に話も通じるし、お友達にだってなれる。
 だから夜行さんも、自分をアッサリ解放してくれるとそう思っていた。



(馬鹿だ)



 夜行さんは人を食べない。ただ、人の―あるいはほかの妖怪の寿命や魂に干渉できる。
 愛華が別れ際、そう言っていた。
 実際自分も夜行様におつきする際、寿命を差し出しましたと。


『………なんで、差し出したの?』


 なんで、自分の生きる希望をあの方にあげるの?
 そう尋ねたセツに、愛華は一瞬キョトンとして、直後柔らかく笑った。


『私の、私の大切なものを、お守り頂いたからです』



 幸せそうに微笑む座敷童が、自分と明らかに遠い場所にいるのを感じた。
 私はどうすればいい?
 誰か教えてよ………。私は、どうすればいいのか。


 せめてヒントを教えてよ。自分で決めろとか言わないでよ。
 ねえ、せめてヒントくらい教えてくれてもいいでしょ。馬鹿。


 
 


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