コメディ・ライト小説(新)

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泥中に咲け
日時: 2021/03/28 16:24
名前: むう (ID: mkn9uRs/)

 誰かが言った。日の差すことのない泥の中で栄養を蓄えた花が好きだと。
 誰かが言った。雨の中をのんびりと歩くのが好きだと。
 誰かが言った。人に見えないところでこっそり泣いた日があると。
 誰かが言った。感情をさらけ出し、罵り、沢山のモノを失ったと。

 もしも今日がリスタートできるなら。
 もしも今日をやり直せるのなら。
 願った未来はくるのだろうか。明日が変わるのだろうか。

 何も変わらないのではないか。もう何もできないのではないか。
 それでも僕は、この手のひらの中にあるスイッチを押す。
 全てはあの時の笑顔を守るために。


 ****

 どうも、むうです。
 もうすぐ春休み。高校入学までの期間、課題もようやく終わりに近づいてきました。
 そう言えば、私は【人に伝えたいこと】を前面に押し出した小説は何も書けてない。
 でも、書けない時も言いたいことはちゃんとありました。
 今までいろんな人の小説を読み、勉強させてもらいました。
 その感謝を込めて、皆さんの心に残るような作品になれば幸いです。
 大体1話2040字前後でやっていきます。




 ◆Characters◆


 日下部くさかべ蒼汰そうた
→主人公。優柔不断で何事も自分一人で決断するのが苦手。
 身長は158ほどで、部活は写真部。
 高校1年生。

 日下部くさかべ燐人りんと
→蒼汰の兄。大学一年生。暇が高じてコンビニスイーツ巡りにハマる。
(実はカオ僕に出てくる八雲ちゃんのお兄さんの友達だったりします)

 黒野くろのあかね
→学校に通うため、蒼汰が下宿している家の隣に住む女の子。
 ひょうきんで明るい性格だが、時折感情に任せて喚いたりすることもある。
 高校2年生。



 ◆目次◆

 第1章:りすたーとぼたんを押しますか?

 1☆僕⇔憧れ>>01>>02>>03>>04>>05>>06
 2☆僕⇔神様>>
 3☆僕⇔先生
 


 

Re: 泥中に咲け ( No.2 )
日時: 2021/03/11 19:02
名前: むう (ID: mkn9uRs/)


 【第1話(2)】

 あれは半年ほど前のことだった。
 前まで住んでいた新潟の片田舎から、高校進学のため東京に移ることになり、課題のない春休みの間はひたすらパソコンの前で宿泊先を検索していた。

 両親とも海外出張でアメリカに飛んでおり、唯一面倒を見てくれたおばあちゃんも先月他界してしまった。やり場のない辛さに押しつぶされそうになりながらも、僕は必死で一日一日を足を引っ張りながらも歩いていた。

 その日もいつもと同様朝早くから机に向かい、マウスをカチカチいわせながらバイトの出来る店と、店舗に比較的近いホテルなどの宿泊施設を調べていた。しかし流石東京。とても高校生が払えるような金額ではないところが多く、どの店が良くどの店が悪いのかも分からない。かといって下宿を受け入れる家もなかなかない。

 自分を置いて刻々と進んでいく時間に苛立ちを覚えていた僕を救ってくれたのは、四歳上の兄ちゃんだった。
 大学の講習が終わり、ソファーに寝そべりながらゲームガチャを回していた彼は、目をこすりながら僕のパソコンを覗き込む。


「あっれ、お前まだ決まらねえの?」
「………お店がありすぎて分かんないんだよ」
「バイトは? 本屋とかで働きたいって前に言ってたじゃん」
「………お店の近くに宿がないの」


 兄ちゃんの質問にぶうたれながら返すと、兄ちゃんは「ふうん」とか「へえ」とか適当に相づちを打ち、テーブルにあったポテチを三枚重ねで口に突っ込んだ。二人しかいない2LDKの家に、キーボードの操作音とポテチを歯で砕く音が静寂を破っていく。


 ポリポリポリポリ。カチカチカチカチ。
 ポリポリポリポリ。カチカチカチカチ。


 何か手伝いになれるようなことがあるから話しかけて来たのではないのかと、僕は呆れと怒りで思わず肩眉を下げた。車輪付きの椅子ごと振り返ると、当の彼は気楽にまたポテチをポリポリポリポリとほおばっていた。


「………どんだけポテチ好きなの」
「俺一番好きなのはうめー棒。一本10円だからって舐めんなよ」
「……じゃあなんでポテチ袋ごと独占してるんだよ」
「おいしいから」

 なんてことだ……と僕は今度は両眉をひそめた。全く理由になってないうえ、弟が折角掃除して埃一つないソファーに身体を預け、話を自分から振ったにも関わらず助言をしない兄。これから一生この人と一緒に生きていくのか。


「あもは(あのさ)。どひょいくか(どこいくか)まおってうなら(迷ってるなら)」
「………あのさあ。さっきから僕の作業用BGMをポテチ食べる音にするのやめて」
「しはたないあろ(しかたないだろ)、食べてんだから」


 

Re: 泥中に咲け ( No.3 )
日時: 2021/03/12 17:45
名前: むう (ID: mkn9uRs/)


 【第1話(3)】


 ようやくポテチを胃袋に納め、水で押し込んだ兄ちゃんは「ちょっと待っとき」とかなんとか言いながらスマホを操作しだした。途中操作を間違えたのか、全然関係ないラーメンのⅭMや某幼児アニメのキャラクターの音声が聞こえたがそれは一旦横に置いておく。


 ≪みんな――ッ。こーんにーちはー≫
「……やべ。おっ、どうしたら……」
≪お兄さんも― お姉さんも― 元気元気―――♪♪≫

 これまた懐かしい歌のお兄さんお姉さんのご登場だ。確か3歳くらいはよく観ていた。5,6歳くらいになってくると兄ちゃんがあの某少女アニメを観始めたから、それにつられて……。


「………あのさあ」


 僕はもうすっかり萎えてしまい、マウスを動かす気力もゴミ箱へ入ってしまう。漫画で言う所の効果音が、今はっきりと顔の横に【はぁ…】と表示されたことだろう。再び振り返ると、兄ちゃんはようやく音声を消し、スマホの画面を突きつけて満足そうに笑った。


「そうカリカリすんなって。見ろよコレ。俺の同級生の知り合いの家なんだけどさ」
「……民宿? っぽいね」
「YES。金もあんまかからねぇし、蒼汰の学校からも比較的近いって噂よ」

 画面の中には昔ながらのおもむきを感じさせる木造建築の二階建て住居。決してキレイとは言えないが、その分かしいだ柱やシミのついた壁などからその家の歴史を感じられる。

 そして建物の奥の山の上には、わずかにだが僕が春から通う予定の進学校の時計塔が見える。ざっと徒歩十分……と言ったところだろうか。家賃もそこまで高くない。コツコツとバイトを続けていれば、何とか払えそうである。

 良かった、やっとお目当ての場所が見つかったと僕は安堵の胸をなでおろし、一つ確かめてないことに気づき再三兄を下から見上げた。兄ちゃんはなんだよ、と訝し気に首を傾げる。


「で、バイトは??」
「えーっと、まあ…………あるにはあるんだけど…………うーん、まぁ……ええ……」


 急にしどろもどろになって視線を彷徨わせる彼の態度に、僕は「え?」と目を見開く。
 答えに迷うほどの店ってことは……例えば………あ、あの、そのラブホテルとか? そういうところばかりなのか?? 嫌だよ絶対そこで働くとかないからな!??


「あの、あるにはあんだけどさ。お前のさ、その勇気と……言いますか」
「だから絶対行かないから! 行くわけないだろうが!! 誰が行くか!!」

「……その、家の隣に………」
「行かないって!!」


 隣にそんな店がある時点でもうそこはキャンセルに値する。誰がわざわざそんなところに出向いてやるものか。両腕をブンブン振りながらの必死の抵抗に、今度は兄ちゃんが「え?」と目を見開いた。


「お前、好きじゃなかったっけ」
「何をだよ!! つーか、何で好きになるんだよ!!」

「マジ!? じゃあ今までのお前のあの頑張りは何だったんだよ!! ラブレター書いたけど渡せなかったんだろ?? 体育祭で同じ色になったけど一言も話しかけなかった、そしてついに先輩は卒業して……」


 ………ん? ちょっと待って。誰のことを言ってるんだ?
 やっと話がかみ合わないことに気づいた僕は、自分の思い違いに顔を染めた。え、ということは僕の想像は全部関係なくて………。嘘ぉぉおお!?



「だ、誰のコト?」
「とぼけんなよ。まあ下宿先の家の隣に彼女の家があんのはラッキーだよなー」
「だから誰なんだよ!??」


 もったいぶる兄に声を荒げた僕に向かって兄ちゃんは意地悪い笑みを向ける。ニンマリ、そうニンマリと口の筋肉を緩めて彼は呟く。



「せいぜい仲良くやれよ。 黒野先輩と」



 ◆□◆□◆□



 ――――――『ほぉっほぉっほおっ』



『全くお前も変な運命に巻き込まれておるの。そんな都合よく下宿先があるわけないじゃろ。こんなん神様のワシもびっくり仰天、インド人もびっくりを通り越して神様もびっくりじゃ』


 不意に頭の中に知らない声が響き、僕は弾かれるように顔を上げた。
 目の前には東京駅の入り口、後ろには十字路と通行人、斜め横には高層ビルが立ち並ぶのは流石日本の首都。


 ………なんだ、この声は。


Re: 泥中に咲け ( No.4 )
日時: 2021/03/18 18:25
名前: むう (ID: mkn9uRs/)

 【第1話(4)】

 キャリーバッグには必要最低限のものしか入れてないはずなのに、あの時の自分が引いて歩くにはやけに重かったのを今でも覚えている。途中、神奈川のホテルで一泊したからだろうか。行くときは綺麗に畳まれていたはずの着替えが、ホテルを出るときは風呂敷からはみ出てその分鞄が横に膨らんでいる。

「え――っと、ここを降りて……真っ直ぐ……」


 目の前に広がるのはひたすら四角い高層ビル。一体お金をいくらつぎ込んだらこんなに建つのかと僕は感心半分呆れ半分でその厳格な建物を睨む。一軒家が数えるほどしかなく、あとはマンションとネオンピカピカの看板を通りに掲げたレンタル店やクラブ店が軒を並べている。

 兄ちゃんから渡された地図は大雑把で、「まっすぐ行きゃ着く」「人生とは冒険だ。よって迷っても泣くな」とか、「交番は110番だぞ」とか、完全に僕が警察で厄介になるのを確信してメモが記されていた。肝心の情報は何一つ教えてくれない。誰が迷うかよバーカ。


 でも……同じ通りを三十分も右往左往してしまったら流石にマズいと気づく。
 民宿の「み」の字も出ない景色に翻弄され、今まで意識しないようにしてきた疲れがどっと足に来た。


「どっこだよ………ないじゃんか………兄ちゃんマジで恨む………っ」


 ここにはいない犯人の顔を思い浮かべ、心の中で鉄拳を振るう。額からも首からも汗が滴り落ち、ハンカチで拭うと水がポタポタと地面を濡らした。


「…………ホントあのクソ兄貴マジで恨む。人を先輩で吊りやがって……」
「? 人を先輩で吊りやがって?」


 不意に、鈴の音を転がすような凛とした声が耳に響いた。澄んだ声色は低音と高音の中間ぐらい。若干の甘ったるさが、幼い子供の面影を残している。
 僕は反射的に振り向き、声の主を視界に留める。


「こんにちはっ」
「…………………お、オヒサシブリデス……」


 顎までの長さの黒髪をかきあげて、目の前の女の子は白い歯をのぞかせる。
 薄い桃色のTシャツには花柄があしらわれている。下はデニムの短パン。頭の上の白のキャップ帽が彼女の今日の服装にとても合っていた。



 ドクンドクンドクンドクン。
 急に鳴り始める心臓。ぐるぐると回りだす思考回路。
 
 いつぶりだっけ? 中学2……いや3年の時? 初めて会ったのは体育祭のペア活動の時で……僕の名前、知ってんのかな? たった一カ月だけだったし忘れられてるかな? こっちは一度も忘れたことないけど……ってああ何考えてんだ僕。それじゃストーカーみたいじゃないか……。


「君でしょ。今日からおとなりの藤宮さんちでお世話になる」
「あ、はい、日下部蒼汰です……。あの、そのっ」
「ん?」
「………ぼ、僕のコト……覚えていらっしゃいますか」


 黒野あかね先輩。同じ中学出身の先輩で、体育祭の時にペア活動で一緒になっただけの、それだけの関係だった。おそらく、先輩にとってはそうだろう。

 しかし僕は、あの一カ月間ですっかり彼女に魅了されてしまった。

 まず誰にでも態度を変えない姿勢で既にやられた。と言うのも、小学生の頃に女子に『くさくさ くさかべ』とからかわれたことがあり、女子はずっと苦手だったのだ。でも先輩だけは、ほかの子とは違う雰囲気があった。彼女の行動全てが眩しかった。


「日下部くんでしょ!? ほら、二年前一緒に運動会でペアになった」
「っ? 覚えて……」
「障害物競走で一緒にアメなめたもんね~」


 ………白い粉でいっぱいになった顔のままテープを切った記憶から僕と言う存在を引っ張り出してくれるのは、何と言うか……。
 

「よし日下部くん! 迷ってるんでしょ。私も散歩してたし、送ってくよ!」
「いや、その、悪いですよ」

 先輩の両手はコンビニ袋で塞がっている。白いビニール袋からペットボトル飲料やお菓子の袋が見えた。その中にポテトチップスももちろん入っている。老若男女大好き、流石ポテチ様。
 自分の用事があるのに、僕を気遣って案内まで。委縮して慌てて断ると、黒野先輩は「ふうん」とそっけなく相づちを打った。拗ねた時に見せる彼女の癖だった。


(き、嫌われそう……)


 先輩に気を使わすのも嫌だけど、先輩との仲が不仲になるのは更にいやだ。ここはお言葉に甘えることにしよう。僕はさっきからずっと顔を背けている先輩に苦笑いして言う。


「荷物、片方持ちますから、案内してくれますか」
「………わかった」


 一度気分をそこねてしまうと先輩はなかなか戻らない。叱られた後の子供のように頬を膨らませ、不承不承というように先輩がのろのろと歩き出す。僕はその後ろを慌てて付いていく。

 数カ月たっていたけれど、黒野先輩はやっぱりあの時のままだった。
 笑うときにえくぼができる顔も、綺麗に手入れされてサラサラの黒髪も、あどけなさが残る童顔や黒目の大きい瞳も。周りをじんわりと癒していくその温かさが羨ましくて、僕は同時に憧れていたのだ。

 これからお隣になる。付き合う時間が長くなる。高校も、学科が違うけど同じところに通うのだから、もしかしたら廊下ですれ違うかもしれない。楽しみだ。先輩が日々自分に何と声をかけてくれるのか。そして自分がその都度なんと返すのか、想像しただけでワクワクした。



 


 
 

Re: 泥中に咲け ( No.5 )
日時: 2021/03/19 17:33
名前: むう (ID: mkn9uRs/)

 【第1話(5)】

 ――しかし、先輩に会えたその日以降、僕と彼女が出会うことはなかった。

 先輩の家の隣にある二階建ての木造住宅こそが「民宿 藤宮」であり、あの日あの時僕は確かに先輩の案内でその建物の中に入っていった。先輩にレジ袋を返し、彼女の背中が自分から離れていくのを見送りながら、ついさっき交換したばかりのAINE(あいん)IDの書かれた桃色のメモ帳を胸元で握りしめる。

 昔はラブレターでさえ渡せなかった。勇気を振り絞ってやっと聞けたのがこれだけだ。でもこれがあれば好きな人と連絡が出来る。遠く離れた場所に居ても意思の疎通ができる。

「やったぁぁぁぁ! やったぞぉおおおお!!」

 そのことが同時はすごくうれしくて、ディズニーランドに行く時よりもテンションが舞い上がってしまって、部屋に案内してくれた大家さんの話なんか空気へと化していた。

『あっちがトイレで――、お手洗いはここね。―――ゴミの日は毎週火金だから忘れずに……』
「………はい」
『蒼汰くんの部屋は二階の突き当りよ。同じ階にお客さんが一人いるから挨拶してあげてね』
「………はあい」

 大家のおばさんは、虚ろな表情で返事を返す僕を怪訝そうに見つめていた。この子本当に大丈夫かしらと言う、大人の思いやりと言うやつだ。

 僕は平気だった。心配なんて全然必要なかった。
 ただ先輩との関係が一歩近づいたことがその日の何よりのビックイベントで、ひたすら頭の中はその余韻で埋まっていた。


 手入れの行き届いた八畳式の和室に通された時、ようやく我に返って頬を染める。子供のようにはしゃいでしまった自分に喝を入れたい気分だ。何をしているんだと頭を抱えたくなる。

(ぜんっぜん人の話聞いてなかった。ゴミの日いつだよ……。)

 取りあえず必要な勉強道具や着替え一式をタンスや机の引き出しにしまう。それからホッと一息をつく。この部屋は南に位置するので、窓から日光が差してかなり温かい。目をつぶると瞼の裏に熱を感じた。

「そうだ、AINE(アイン)………!」


 先輩から受け取ったメモ帳を見ながら、AINEの友達検索。元々スマホやパソコンなどをあまり使わないので、フリック入力は亀並みに遅かった。

「K………はえー―――っと………あった。U………あーもうどこだ……ってあった」


 これが毎日勉強ばかりやっていた結果なのだろうか。苦戦しながらなんとかIDを打ち終わり、検索ボタンを押す。どうかな……? 大丈夫かな……?

 と、「黒野あかね」というアイコンが画面に映し出される。ピンク色の背景に白いおばけの、可愛いアイコン。恐る恐るトークボタンを押すと、僕はまた大きくため息をついた。

(なんて話しかけようかな……取りあえず『こんにちは』かな。それか『日下部蒼汰です』って名乗ったほうが好印象かも……それか『今日はありがとうございました』ってお礼言った方が……あぁぁあもう……!!)


『日下部っていい奴だけど、優柔不断なとこがあるからな』

 中学のクラスメートが僕のことをいつもそう評価していた。この言葉を口にする人はみんな、困ったように笑うのだった。なるべく僕を刺激しないようにとわざと口角を上げて、愛想を振りまく彼らが僕は苦手だった。そしてまた、そんなレッテルを貼られてしまう自分の性格に舌打ちもした。


 そんなこんなでクラスメイトの足手まとい。親切をしようとしていつも空回り。もういい加減飽きてしまって、唯一の話し相手は家族だけになった。みんなも自分から僕を遠ざけたしお互い様だと、そう言い聞かせることで孤独から逃げようとしたのだ。

 何で馬鹿なんだろうと、今になっても後悔している。トークの挨拶でここまで悩む人間がいるだろうか。いたら捕まえて目の前に連れて来てほしい。僕がそうですと。



 ピロン


 不意に着信音がなって、頭の中で思考をめぐらしていた僕は反射的に画面に視線を移す。


 黒野あかね:《こんにちは よろしくね(^▽^)/》


「………あぁもう………」


 自分から話しかけれるかを賭けてたのに、あっさりと失敗。なんでいつもこうなんだ。
 がっくりと肩を落とす間も通知音は絶えずピコピコと鳴っている。


 黒野あかね:《今日は荷物持ってくれてありがとう! またいつかお礼させてね》
 日下部蒼汰:〈いいですよお礼なんて〉


 作戦其の②、お礼を伝えてみようも台無し。流石先輩だなと僕は力なく笑う。やっぱり彼女のような性格は行動力も備わっているのかと、なぜかすとんと腑に落ちた。


 黒野あかね:《そう言えばそっちにトトロって子いなかった?⦆


 ………トトロ? 僕は肩眉を顰める。
 あんなに大きくてずんぐりむっくりした、ポピュラーな生物がこの建物内に居たらもうファンタジーだよな。


 黒野あかね:《日下部くんと同い年の男の子でね、戸田虎太郎って言う子がいるの。縮めてトトロ》
 日下部蒼汰:〈無理がありすぎでは〉
 黒野あかね:《……今度、トトロくんにも挨拶したいから、そっちに行かせてもらってもいい!?》

 たかが文面上の言葉。しかしされど文字。僕の中で何かが爆発し、思わず「ふにゃっ」という変な声が口から飛び出た。先輩が家(民宿)へ来る……!? 冷めたはずの興奮の熱が、再び胸の内側から湧いてくる。僕はシャツの裾を強く握りしめた。


 日下部蒼汰:〈ぜ、ぜひ!!〉


 先輩が家へ来たらどうしよう……。
 先輩、趣味はなんなんだろう。音楽を聴いたり、YouTubeを観ることだろうか。一緒にパソコンで動画を観たりしたいな。この前発見した面白い動画があるから、そのトトロとかいう子とも一緒に。


 いつこちらへ来るのか決まったら連絡を下さいとコメントし、僕はスマホの電源を切って畳の上に仰向けになる。最高だ、と真っ先に思った。憧れの先輩と隣同士。ラブコメみたいな展開じゃないか。いっそ『みたいな』じゃなくてそうだったらいいのにな、と突飛な妄想が脳の中を駆け巡る。ああこれが青春って奴なんだ。


 でも、あれから先輩との連絡は一向につかず、電話も繋がらかった。大家のおばさんに聞いても、彼女の家を訪れても求めていた姿はなかった。彼女の制服やカバン、何もかもが残っているのに、彼女だけが僕の世界から忽然と姿を消したのだ。

 悪いニュース。例えば事件とか事故とか。殺人とか。僕はテレビのニュースが流れるたび、肩に力を入れて最悪の結果を待ち続けた。頼むから何らかの形で彼女の存在を証明したかった。たとえ彼女が事件や事故に巻き込まれていたとしても、正しい真実が知りたかった。


 でもいくら待ってもテレビに映るのは、違う地方の事件や株価の上昇や国会議員の失態の報道ばかりで、僕の心の穴を塞いでくれる情報はなかなか見つからなかった。

 先輩が今どこにいるのか、なぜ姿を消したのか、考えれば考えるほど思考は暗くなり、いつしか僕は彼女のことを勝手に故人だと決めつけてしまっていた。そうすることが、今の気持ちに整理をつけるのに酷く楽だった。………ひどく楽だった。







 ◆□◆□




 ――――『お前と言う人間は実におかしな運命に翻弄されておるの』


 ――――『うん? ほっとけ、とな。じゃあほっとくわい。ばいばいきん』


 ――――『なんじゃ、ちょと待てとな。 ほっとけとさっき言ったのになんじゃ……』


 ――――『……お前は何者か、そして今はどういう状況か教えろと。ほぉっほぉっほっ』




 ――――『年寄りに話を急かせるか坊主。まあ、話せというなら聞かせてしんぜよう』






 ――――『ワシの名前は―――』

Re: 泥中に咲け ( No.6 )
日時: 2021/03/19 15:18
名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: mkn9uRs/)

 【お知らせ】

 現在投稿中の全ての小説に書き込む予定です。
 今回新しくトリップをつけてみました。把握お願いします。
 あと、私が無断使っているIDが違う場合は、スマホやiPad用ですのでそちらもご了承ください。


 メイン PCのID⇒ID: mkn9uRs/
 サブ  スマホID⇒ID: bQoLP122


 これからも引き続きこの小説をよろしくお願いいたします。
 また何か質問などありましたら気軽に連絡してくださいね。


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