コメディ・ライト小説(新)
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- 二十歳になったら死ぬ
- 日時: 2021/05/01 03:53
- 名前: 未環 (ID: 3NNM32wR)
高校生は地獄の始まりだ。
小中学生の時にもあった容姿格差が更に明確になるし、男はどんどん男感が増して汚くなるし、テキトーに過ごしてるだけじゃ数学の100点は取れなくなるし、大学受験は一生を左右しかねない。
でも、その先に続いている真の地獄よりはよっぽどマシ。自分の頭で考えたり自分で責任を取ったりするなんて最悪だ。働きたくないし叱られたくないからもう死にたい、でも首吊りとかで苦しんで死ぬのは嫌だから二十歳になったら家で酒飲んで急性アル中になって死ぬ。
でもその前に、取り敢えずあの女だけは殺す。
- Re: 二十歳になったら死ぬ ( No.1 )
- 日時: 2021/05/01 03:16
- 名前: 未環 (ID: 3NNM32wR)
第一話 偉人にはなれない
――人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見ればコメディだ。
チャールズ・チャップリン
――悲観主義は、どの戦いにも勝利してこなかった。
アイゼンハワー
「こりゃだめだ」、と近松るいはS高校の三階に位置する女子トイレで頭を抱えた。花も恥じらうセブンティーン、青春の代名詞、恋に部活(帰宅部だけど)に友情に大忙しの高校二年生が始まろうとしているこの瞬間、るいは腹を下していた。
クラス分け表は見た。最悪だ。「近松るいはパパ活している」とかいう噂を流してクラスから孤立させたあの女と同じクラスだった。唯一そんな自分と行動を共にしてくれた友人とは違うクラスだし、それに何故かは分からないが怒らせてしまっている状況なので、あまり関係ない。
他のメンバー?――所謂陰キャのオタク女子が二人、陽キャ美女が二人とその周りにいる女が三人、あとは当たり障りなさそうな女が何人かいる。不幸なことに、去年から同じクラスなのはクソ女と芋ブス二匹。
そんなるいの人生の中では限りなく最悪に近い状況の中で偉人の名言を見たところで胃薬替わりにもならない。寧ろ煽っているのかと腹立たしくなってくる。
「今年こそはいじめられるわけにはいかない……」
一か月に二度ほどは詰まって使用禁止になるうえ悪臭が立ち込める女子トイレの中、るいは決意を新たにした。黒髪ロングは似合わなかったから切ってショートボブにしたし、真っ黒な髪の毛は自分には似合わなかったからほんの少ーーしだけ柔らかい色にした。この春休みのうちに補習をサボり倒し、筋トレと有酸素運動を死ぬほどして体型もマシになったし、化粧技術も身に着けた。
何だか最近ありがちな少女漫画みたい、若しくは、Twitterでふわふわとバカみたいな絵文字を使っているアカウントみたいだと思わず苦笑する。
実際、元の顔面レベルと骨格のつくりは高が知れているのでそんなに大変身できたわけではないが、垢抜けているブスと芋臭いブスなら垢抜けているブスの方が数段マシだ。
人生は悲劇だと思う。きっと、これからも泣いたり死にたくなったり「殺してやる」と叫んだりする日は絶え間なく訪れる。ロングショットで見たところで悲劇は悲劇。
楽観主義で生きられたら幸せだと思う。でも時に、悲観主義は客観的に物事を見て、作戦を立てることに役立つのだ。
ハッピーエンドにしようなんて欲張りは言わない。だけどせめて、共倒れになったとしてもあの女を地獄に叩き落してやりたい。
ポジティブな感情なんて人を奮い立たせるのにそこまで役には立たないな、と思った。「きっとうまくいく」「絶対皆可愛いって言ってくれる」なんて上っ面だけの励ましや偉人たちのそれらしく思える名言よりも、「あの女絶対殺す!」という憎しみのこもった一言だけが嘔吐下痢から救ってくれるのだ。
るいは意気揚々とトイレから出た。
誰もいないのを確認して、鏡でしっかり自分の顔を確認した後――手を洗わずに歩き出す。春とはいえ、まだ肌寒い。
- Re: 二十歳になったら死ぬ ( No.2 )
- 日時: 2021/05/03 03:25
- 名前: 未環 (ID: 3NNM32wR)
第二話 「えっ、近松さん超可愛い!え、ほんとやばい!超垢抜けた」
「いじめられる人間には、それなりの理由がある」
SNSに投稿したら炎上しそうな発言だが、幸いにもSNSはしていないので炎上しようがない。し、理由があったからと言っていじめていいわけがないのだ。犯罪者にも人権が認められるこの国で、「癇に障る」「芋臭い」「ちょっと空気が読めない」なんていうあやふやな理由で人権を踏みにじっていいわけがないのだ。
それに、全員が全員理由が合っていじめられているとは思わない。本当にとばっちりな人もいるのだろう。ただ、るいの周りの元いじめられっ子たちは大概“異常なまでに空気が読めない”だとか、“すぐに泣く”とかそういう“何か”を持っていた。――元いじめられっ子というか、「アタシいじめられてたんだ」みたいなことを言う、クラスでちょっと浮いているポジションの人というか。
――お前はどうだ?と思うだろうが、それなりの理由があった。
芋のくせに自信過剰で自分を明るくて天真爛漫だと思い込んでいる空気が読めないブスだった。正直、自分の目から見ても友達になりたい人間ではなかったと思う。そんなことを自覚出来たという点では嘘の噂を流され、汚物入れの中身を制服の上にぶちまけられたあの忌々しい出来事も糧になっているのかもしれない。一生許さないけど。
好感度(特に女からの)を上げるためにはどうすればいいか。
るいは今、最初の課題にぶち当たっていた。
教室には今、何故かいつも登校が早い陰キャ男子たちと異様に早く来てトイレに閉じこもっていたるいと陽キャ美女……の取り巻き的存在でメイクやファッションには詳しいが太っていて男子からの人気は低い安時環奈。ただし、女子からの好感度は抜群で陽キャ美女二人からは気に入られているし、中間的存在の女子たちとの仲も良好なうえ、陰キャ女子からも好かれているという貴重な存在。つまりはスクールカーストの頂点に位置しているクイーン的存在である。
そんなビッグ・クイーンからるいはこんなお言葉を頂戴した。
「えっ、近松さん超可愛い!え、ほんとやばい!超垢抜けた」
以前までのるいなら。
お調子者キャラ的路線で「でしょー、うちマジで美少女!だけどそんな面と向かって言われたら照れるわ」とかなんとか鬱陶しい返事をしていただろう。馬鹿者め。
かといって謙遜して相手を褒めたりしたら相手は否定&謙遜してきて、それに対してまた否定&謙遜しての繰り返し。これはこれで鬱陶しいと思われるに違いない。
否定も肯定もせずに相手から嫌われず、かつそれだけでなく好感度を上げる方法。
るいの脳は0.1秒間の間に凄まじい速度で回転した。
「えっ、嬉しい!なんか私重めの黒髪ロングやばいくらい似合わないからさ」
「確かにショートの方が似合う!切って正解だよー」
「あとはまじで化粧のおかげって感じ」
よし、好感度が上がるかはわからないが、少なくとも下がる事はないはず。
これで行くしかない。
- Re: 二十歳になったら死ぬ ( No.3 )
- 日時: 2021/05/03 03:38
- 名前: 未環 (ID: 3NNM32wR)
第三話 陰キャは口が動かない
――そう、完璧な会話プランを考えていたのだ。しかし、約半年間虐められ続けた陰キャラにはハードルが高すぎた。要するに、思っていた通りに口が動かなかった。
「えっう、」
気持ち悪すぎる。初対面から嘔吐しかけているブスなんて印象は最悪だ。相手の口から「大丈夫?」と出て微妙な空気になってしまうことを予期し、るいは素早く口を開いた。
「化粧濃すぎかと思ってたけど安時さんにそう言ってもらえて安心したー」
嘔吐しかけながらのスタートではあったが、これは……なかなか良い返しではないか?自分で自分を可愛いとは思っていないと薄ら(薄らというところが重要である)アピール、天然ではなく手を加えた可愛さだとアピール、そして相手の発言に喜んでいると伝える。なかなかどころか天才的である。
咄嗟に出た発言ではあったが、計画通り――むしろ計画以上だ。
いや待てよ?
化粧をしているというアピールは、今後デカい声で「るいちゃん今日の化粧カワイイー」などと言われてしまうことに繋がるのでは?それは避けたい。しかし、安時環奈以外に化粧がバレるデメリットとここで安時環奈に胡麻をする事で得られるメリットを天秤にかけたら……。
化粧バレをして困るのは主に男子からの好感度と教員からの好感度。男子からの好感度はもうこの際構ってはいられない。虐められないためには女子からの好感度が先決である。次に、教師からの好感度。これに関しては心配ない。安時環奈も常時周りからの好感度を気にしている女、教師の前で化粧をバラすという自分には何のメリットもない行為をしようとはしないはず。
――この間、1秒にすら満たない。
「そんなことないよ、超可愛いよ!」
環奈が予想通りの表情で、予想通りの言葉を返してくる。それにるいは心から安堵した。
「てかさ、普通にるいちゃんって呼んでいい?」
「いいよ!じゃあ私も環奈ちゃんって呼んでいい?」
「いいに決まってるじゃーん、なんか一応一年間同じ特進コースにいたのにさん付けとか逆におかしいよね」
「まあ特進でもクラス違ったら案外関わらないしね」
と会話がうまく進んだところで、るいはさっきの“しね”が“死ね”に聞こえてないだろうかと懸念した。そんなわけがないのは分かっているが、現時点では少しのマイナスも許されない。
「だよねー。でもなんか、るいちゃんってもっと取っつきにくい感じだと思ってたから驚いた」
「えー、そんなことないのに!」
そんなことない、とは言いつつもそうとも言い切れないなとるいは思った。同じコースと言ってもるいが在籍していた7組と環奈たちの8組――主に上位層の女子同士は敵対していたし、るいも当初はその上位層と一緒にいたので感じは悪かったのだろう。
あの頃のせいでマイナスからのスタートになってしまう。たった三ヶ月足らずで、後の期間はただいじめられていただけなのに。
「ねーえ、かんちゃん!おはよ、好きい!」
るいが不安を感じながらも環奈と会話をしていると、環奈の後ろから大きくて高めの声が聞こえた。勢いよく環奈に抱き着真理華いたその女子の名前をるいが知らないはずはなかった。
――伊勢野真理華、元8組のトップにいた気が強くて化粧が濃い美人。
「え、あんた誰」
- Re: 二十歳になったら死ぬ ( No.4 )
- 日時: 2021/05/03 03:57
- 名前: 未環 (ID: 3NNM32wR)
第四話 困った時にはトイレが良い
さっきとは打って変わって低くてどすのきいた声で真理華が言う。“近松るい”という名前はおそらく知らないだろうが、7組にいた感じの悪い女という認識をされているのだろう。
その事実をるいの頭脳は冷静に受け止めたが、どうやら脳と身体とは繋がっていないらしい。冷静な頭とは裏腹に、顔は紅潮し舌は縺れ、鼻の穴さえ開いている気がする。
「てぃ、近松るい。元7組、よろしく、お願いします……」
同級生に敬語の上さらにどもっている。典型的な陰キャである。しかも鼻の穴が開ていてブス。関わる必要のない人間認定間違いなしだな、とるいは少し落ち込んだ。
「あ、そ。よろしく」
真理華はそれだけ冷たく返すと、るいの事はお構いなしに環奈に話しかけ始めた。るいは為す術もなく、かといって自分の席に一人で座るのも何となく気が引けて荷物だけ置いて再びトイレに向かった。自分の不甲斐なさにイライラする。これではあの女を突き落とすどころか自分だけ死んで相手が高笑いという最悪な結末に近づいている。
臭いトイレの個室の中でるいは自分の席の周りを思い出した。前の席は柴谷杏――こいつは特に問題がない、特に明るくはないが暗くはない中間ポジションの女子だ。後ろの席は遠坂志穂――真理華たちと仲の良い女子、少し怖い。隣の席は……最悪だ。あの女だ。
山下七瀬。性格は最悪で、見た目も大した事はなくて、だけど去年うちのクラスの頂点にいた女。嘘をつく能力と人を信じ込ませる能力が天才的で、関わってはいけない人間。
少なくとも志穂を取り込むことは無理そうだ、とるいは思った。
反対隣の席の男子は多分取るに足りない奴だったな。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
吐息ほどの声で絶叫――吐息ほどの声でしたものを絶叫と呼ぶかは不明だが――してるいはトイレから出た。もうそろそろクラスのほとんどが教室にいる頃だろう。
あの女の顔を見て平常心でいられるかはわからないが、取り敢えず行くしかないのだ。
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