コメディ・ライト小説(新)

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何かが欠落している世界で、私達は。
日時: 2021/03/24 16:13
名前: しろねこ。 (ID: ImTN6slL)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12987


何かが欠落している世界で、私達は。

プロローグ

魔法を使える魔族と普通の人間。
普通の人間の力は次第に衰え、この世界は魔族の王………魔王によって支配された。
そして最近、人々は悪魔の存在に悩ませられている。
悪魔は人の魂を食らう。悪魔と人間は、「契約」することができる。「契約」とは、自分の魂と引き換えに自分の望みを叶えさせてもらうものだ。「契約」をしなければ悪魔は何もできない……………が。10年前、突如“世界から何かが欠落した”。例えば身体からだ………片足、視力・聴力。記憶力など。
突然、当たり前にあったものが消えることがどれだけ恐ろしいものなのか、皆、思い知った。この現象は、誰かが悪魔と「契約」したことによって起こったと考えられている。
そんな世界に、ある少女がいた。魔族特有であるはずの黒髪を持ち、皆から恐れられていた。さらに、少女は感情が欠落していて………………?

第1幕 フカヒレって美味しいんでしょうか

「あんたは世界の平和のために“いけにえ”になるんだよ。大事な役割だぞありがたく思え」
何を言ってんだか。
義母さんは私の事が嫌いだ。
義母さんに限らず皆私の事が嫌いである。黒髪であるがゆえに魔族の子供じゃないかと疑われているから。
…………ま、それだけではないけど。
っていうか「生け贄」なんて死語だろ。
ところで此処は……魔王城?
目の前にそびえ立つ城。魔王城の周りはいつも厚い雲に覆われていると聞いたことがある。だからなのか、此処はまるで夜のように暗い。
この状況、絶望的だけど、私は物語の主人公ヒロインのように哀しみにくれたりはしない。
最近の悩みはキャラが濃すぎることだ。どういう意味かって?すぐに分かることだろう。
と、その時足音がした。
「誰だ」
後ろを振り返ると、眼鏡をしたいかにも頭の良さそう(偏見)な人がいた。
「こんにちは私の名前はシェーナです!この外見から孤独の日々を送ってきましたーこの度遂に義母さんに生け贄として此処魔王城に捨てられました~驚き桃の木山椒の木ですねHAHAHA☆」
今までの暗い雰囲気を一気に覆す台詞だと、我ながら思う。それプラス謎のテンションで言うと彼は嫌悪の表情。草
流石にキャラが濃すぎたか?
そして無言で私を担いだ……担いだ?
そして無言で歩き始める。
「……幼く見られがちな私ですが、こう見えてもう14なんですよねーなんで身長伸びないんでしょう呪われているんでしょうか?やっぱり牛乳二L飲んだ方がi」
「うるさい黙れ」
クールだな……しかしキライじゃない。魔族だから当たり前だけど私とおんなじ黒髪だしな。
「お前の義母さんはどうやってここに来た?」
「成程そう来ましたか~確かに疑問に思いますよね人間の住む場所は結界で守られているものの魔王城周辺は結界なんて無いですからね~魔物がうろちょろしているんですよね~自然の護衛と言いますか本当に便r」
「いちいち台詞が長い。さっさと話せ」
「えー読者の皆さんに説明してあげてるんじゃないですか……せっかくめっちゃ自然に説明を台詞にぶっこんだのにその対応はn」
「メタ発言は辞めろ」
「お言葉を返すようですが“台詞”という言葉もメタいと思いますそれなのに私だけが悪いみたいな言い方は少しいやだいぶ酷いt」
「もういい。どんだけ喋るんだ」
あ………………久しぶりにたくさん話せると思ったのにな…………(苦笑)。
《※メタいとは“こういう設定”とかシェーナの台詞で言うと“読者の皆さん”とかこの話が物語であるようなことを示唆しさする発言や、作者や読者しか知らないことを作中で言うことです。》
あれれ、いつの間にか凄く凄そうな(小並感)ドアの前に来たぞ?
《※なみかんとは、小学生並の感想の略です》
メガネ君はドアを開けて私をポイッと投げた。え、待ってくれどうしてそのまま立ち去るのだ?
言ってなかったが私、逃げられないように義母さんに縄で手を縛られているのだが…………………。
「可愛らしい子供がどうしてこんなところにいるんですか?」
と、後ろから声。振り向くと……白い髪に青い瞳のイケメンが……………えっ、白い?
「いや、私もう14なんだよな。そんなに幼い顔してるか?確かに身長は148しかないけどそこまで低くないんじゃないのか?っていうか少し失礼じゃないのか皆揃って子供扱いをして外見で人を決めつけるのは良くないと思うんだな童顔であることだけじゃなく黒髪だって良いじゃないみんな違ってみんな良いじゃない個性だと思うんだよn」
「ちょっと一旦ストップ。あなたの台詞だけで本が作れそうですね。絶対誰も買いませんよ」
「私は1000万出す」
なんの会話ですかこれ(お前や)。
とりあえずさっきからメタ発言が多いな。あとキャラ濃い(お前や※二回目)。
「んで……お前は誰だ」
「こっちの台詞ですよ」
彼はにっこり微笑んだ。がしかし、目は笑っていない。
しばらく沈黙が落ちて彼が口を開いた。
「先代の魔王はとても働き者だったらしいんですよ」
「おん(興味なし)」
「しかし僕と言えば自分で言うのもなんですが公務をサボってる怠け者なんですよねニートみたいなもんですよHAHAHAHAHAHAHA(現実逃避)」
「そんなのどうでもいいから縄を解いてくれないか」
彼は私の話を全く聞かずに喋り続ける。
「もう王位をルイに……君を連れてきたメガネ君に譲ろうかなーと思って……」
イケメン君の後ろに恐ろしい気配が…………。
「魔王様?何を、言っているんですか?」
さて、ここでメガネ君改めルイの登場だ。白熱した(?)戦いが見られるのではないか?
「あ……えーとね…………ルイ。違うんだ」
頑張ってごまかすイケメン君!
「何が違うんですか」
「は、ははは!じ、冗談、ジョークに決まっているじゃないか……」
「たちの悪い冗談、ジョークですね」
おおっとルイはだいぶ怒っているぞ!
「知っていましたよ貴方がそういう人なのは面倒くさがり屋ですもんね猫被りはお上手ですが性格に問題がありますからね」
ルイの猛追!イケメン君はまさに“ぐぅの音も出ない”!
「ごめんって……」
やっと出た言葉がそれかい……。
「まあそれは後でゆっっっっっっくり話すとして……魔王様、この子どうします?」
やっと私のターンが回ってきたぞ!体感時間一時間!
「この子じゃないシェーナです!義母さんに生け贄として捨てられました!煮るなり焼くなりお好きにしてください!ただし美味しくなくても自己責任です!廃棄処分だけは辞めていただきたいですね~この通りとてもうるさい私ですが場の空気を変えるのは得意なんですよねー!あ!良いの思い付いた!シェーナはうるしぇーな!なんつって!大草原フカヒレ!シェーナさん面白すぎてくs」
「そろそろ黙りません?」
「すみませーん……」
こえぇ……目が笑ってないんよ。
ルイがボソッと、違う意味で場の空気変わったな、と言った。彼、良いツッコミ要員ですね。
「あと、魔族も人を食べたりしません。悪魔は人の魂を食らいますけどね?」
え、そうなのか。どうせなら美味しくいただいてもらっても良かったんだが。
「ひとつ質問だが、お前は魔王様なんだよな?だとしたら何故魔族特有の黒髪を持っていないんだ?」
私が気になっていたことを口にすると、二人とも感銘を受けたような顔をした。
「「初めてまともなこと言った…………!!」」
「…………は」
失礼じゃないか?おいおい感動するなー?涙をそっと拭うなー?ついでに鼻もかむなー?
「まぁ僕は魔族ですが“異形”ですからね」
…………そもそも魔族とは、三種類に分けられる。
一つ目が魔物。知能が低く、人間と明らかに違う顔立ちをしている。
二つ目が悪魔。とても知能が高く、人間と違うのは、黒髪を持っていることと“魔法”が使えることだけだ。
三つ目が異形。何らかの原因で普通の魔物・悪魔と違う姿になることだ。ごく稀にしかいない。
「成程、それじゃあもうひとつ質問だ」
「質問はひとつじゃないんですか?」
「おい、いつの間にタメ語になっているんだお前。魔王様の前だぞ」
「はいはい。細かい男は嫌われるぞ」
「余計なお世話だ!(怒)」
「まあまあ、ルイ。落ち着いて」
気を取り直して、と私は咳払いをする。
「“ユリス”という悪魔は知っているか」
私は魔王様をじっと見つめた。
彼は少し目を細めて、言った。
「どうしてそんなことを聞くんです?」
「…………いや、知らないなら良い」
私はそっと息をついて…………ばっと顔をあげた。
「っていうか、さっきから言ってるが早く縄を解いてくれないか!」
「………………魔王様、私は“あなたの代わりに”仕事をやって来ますから失礼します」
「う、うん…………ごめんねー…………」
「ちょっおい」
私の制止を彼は無視して歩いていった。なんだあいつ。
ルイが出ていくと私は魔王様の方を向いた。
「早く縄を…………」
「よっと」
ふいに体が浮いた。
え、何この状況。
これは……お姫様抱っこというものではないか??
彼の意図がわからない。何をしているんだ彼は。
魔王様は私を抱き抱えたまま玉座(?)に座った。
わーすごーい初めて見た~…………じゃなくて!
「え、おい…………」
「すみません僕かわいい子供っぽい女の子が好きなんですよね僕子供の頃から女性が周りに集まってきていたのもありあまり女性が得意ではないのですがだからこそ自分に興味がない人が好きでシェーナさんみたいに変わってるけどどこか冷めているっていうか人生なんてどうでもいいやって思ってそう(?)な人が好きなんです子供っぽい女の子が好きなのはただの性癖ですつまりロリコンってことですよねでも好きなんですすみません付き合ってください(?)どストライクなんです!」
「へ」
私は思わず間抜けな声を出した。
地味にモテるって自慢してきてるし、頬を赤らめながら言ってるのがキモいし、彼の台詞200字以上。私だって一度にそんなに喋らない。
っていうか………………。
「私はもう14だ!!」
「可愛いならOKです!!」
「いやきもいきもいきもいきもい」
「そんな悲しいこと言わないでくださいよ~」
「“顔は”良いのに残念なやつだなー………」
「ありがとうございまs」
「誉めてねーよ」
キャラ崩壊がすごいんじゃー(ノブ)
「シェーナさんタイプなんです!」
「縄はずせよ」
「妃になってください!」
「縄をはz」
「好きです!」
「縄」
「愛してます!」
「黙れ」
私は魔王様の顔面を思いっきり殴った。縄が引きちぎれた。
「いひゃい…………」
ご愁傷さまです。
私は魔王様の膝からピョンと降りた。
そういえば「大草原フカヒレ」って軽い感じで使ったけど、フカヒレなんか食べたことも見たこともないんだよな。
「フカヒレって三大珍味だっけ」
「大型の鮫のヒレを…………乾燥させたものです……中華料理の……食材で…………す」
律儀に説明してくれるんだな……………
しかし最悪なやつと知り合ってしまったかもしれない。
これは、最悪な生活の幕開けにすぎなかった。

第2幕 「友達辞めた方がいいよ。」

「今日もかわいいですね…………」
「怒ってるシェーナさんも可愛かったですよ」
「妃になってください……」
「うるさい話しかけるな」
「シュークリームいりまs」
「もらおう」
「ふふふ」
気持ち悪い笑いかたをしているやつがいるが、シュークリームに罪はない。美味い(至福)…………。
「魔王様、幸せそうで何よりですが、仕事をしましょう」
「ルイ、僕魔王様辞めます」
「何を言ってるんですか!そんな簡単にいっていいことではありません!大体あなたはいつも……」
嗚呼ああ、ルイの愚痴愚痴説教タイムが始まった…………。
「良いじゃないですか!僕はロリロリして暮らしたいんです!」
「きも」
「勝手に言葉を作らないでください、
魔王様」
「なんかすごい辛辣な言葉が聞こえました(涙)」
魔王様の目から水が(他人事)。
「シェーナさん、あなたがここにいると魔王様がダメになってしまうので部屋に帰ってください」
「り。」《※了解の略》
「シェーナ!帰らないでくださいよ~!」
「シェーナって呼ぶな」
いつの間にか呼び捨てになっている。
私は後ろの方でシェーナァァ……と叫ぶ魔王様を無視してその場を去った。

番外編 ギャップ萌え?

「僕ばっかりきもいとかロリコンとか言ってきますけどルイはどうなんですか」
「ロリコンとは言っていないぞ。カミングアウトしたのは自分だろ 」
「私は……………ショタが好きです(照れ)」
「………………………………ふ」
「魔王様、今鼻で笑いましたか」
「ふ」
「シェーナさん?」
「見た目とのギャップヤバイですよね、シェーナ!」
「それな!……シェーナって呼ぶな」
「冷たいですね。。(小声)」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
シェーナが居なくなり、後には二人が残された。
「………………ところでルイ」
「はい」
「彼女はどうしてユリスのことを知っているんだろうか?」
「さぁ、ですが彼は………」
その先を言うことは無くルイは口をつぐんだ。
「そこまで心配することでもないと思いますけどね、」
彼は一旦言葉を切って、こう言った。
「もし彼が僕の前に姿を表したら、僕は何をしてしまうかわかりませんけどね」
青い瞳が妖しげに光った。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
~30分後~
ルイには部屋で大人しくしろと言われたが、流石に暇で部屋を出てきてしまった。
まったく、部屋まで用意してくれて、服も用意してくれて、ご飯もお風呂も、至れり尽くせりだな…………ありがたいはありがたいが、下心があると考えると、ちょっと…………だいぶ…………。
それにしても。
本当に人がいない。おそらくだが……彼………魔王様は異形であるから、異形が魔王だというのは民からの当たりが強いのだろう。だから、それがばれないように人を入れていないのかもしれない。おそらくだが。
つまんないなぁ、結局部屋を出てもなにもない………………
「ぃたっ」
「おととと、」
角で誰かとぶつかるなんて少女漫画かよ(?)。
「すまない、ちょっとよそ見していた」
「いや、こちらこそごめんね」
改めて顔をみて………いやイケメンやん(似非えせ関西弁)。
魔王様のように白い髪で、紫の瞳を持っている。魔王様は横髪だけが長いが、彼は長い髪を後ろでくくっている。魔王様とどこか雰囲気が似ている……………いや、それは彼に失礼だな(?)。
「えっと………君はレオの知り合いなのかな?」
「レオ?って………魔王様のことか?」
「うん。昔から友達なんだ」
「………………え、何でよりによってあいつと友達になる?」
「いや、まぁああ見えて優しいし真面目だしいい人だよ?ロリコンだけど」
「悪いやつじゃないのは私にもわかる。ロリコンだけど」
「それに面白いから一緒にいて飽きないし。ロリコンだけど」
「確かにいい意味でも悪い意味でも変わってるから飽きなさそうではあるな。ロリコンだけど」
そんな風に誉めてるのか貶してるのかわからない会話をしつつ私は考える。
彼は昔から魔王様と知り合いだと言った。いくら同じ異形とはいえ、魔王と親しいのはおかしい気がする。
「友達辞めた方がいいよ。」
「考えておくよ」
こんな返答が返ってくる時点で魔王様あいつのことあんまり好きじゃないだろ。
「僕はヨルンっていうんだ。君は?」
「シェーナだ」
「それじゃあシェーナさん。レオにシュークリームのお土産を買いに行くんだけど、一緒にk」
「行く」
即答である。シュークリームは正義だ。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
町は意外に賑わっていた。その全てが“魔物”だ。二足歩行ではあるが獣のような姿をしているのが魔物である。しかし私はこの見た目なので心配無用だ。
義母さんは「魔物よけ」を持っていたから魔物が来ることはなかった。しかしよくよく考えれば、何故とても高級な「魔物よけ」を持っていたのだろうか?
「………シェーナさん~買ってきたよ」
「お」
ヨルンが戻ってきて、私に一つシュークリームをくれた。お、美味しそう。
「う……うまぁ………」
思わずため息を漏らす私に、ヨルンは優しく微笑んだ。
「有名店だからね」
なんというか………彼、優しいよな。雰囲気もだし、全てが。
「シェーナさん」
「なんだ」
「ちょっと来てほしいところがあるんだけど、いいかな?」
「………………ああ」
そうしてヨルンは森の中へ足を踏み入れていった。
…………どんどん人里から離れていっている気がする。絶対におかしい。そう思ったが、私は黙っていた。
しばらくすると、ひらけたところに着いた。大きな切り株が中央にあって………その上に誰かが座っていた。
「連れてきたよ」
「………君はもう帰っていいよ」
彼の言葉を聞いてヨルンは私に相変わらず優しい顔で………でもなんだか恐ろしさを感じた………微笑み、この場を去った。
「“久しぶり”だね、シェーナちゃん」
そう言って彼はこちらを振り向いた。
黒く美しい髪、血のような瞳、恐ろしいくらい整った顔。
“8年前”となにも変わっていない。
「久しぶりだな“ユリス”」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「………シェーナちゃんが居ない?」
「はい、部屋を覗いたら既にいませんでした。探索魔法を使いましたが、魔王城周辺にはいませんでした。……すみません僕の責任です」
「いや、君のせいじゃありませんよ、ルイ。…………しかし、まずいですね。ユリスを知っていたことといい、彼女はなんだか危うい存在な気がします」
レオは珍しくやる気に満ちた顔で玉座(?)を立った。
「至急シェーナちゃんを探します」
いつの間にか今度はちゃん付けになっている。

第3幕 コメディでしかない!!

モノローグ

家族にも恐れられているのは知っていた。
お母さんもお父さんもごく普通の人間だった。とても優しい人たちだったから、私には優しく接してくれていた。私のような子を産んでしまった責任も感じていたのかもしれない。
ある日、家に帰っても誰かが出迎えてくれることはなかった。いつもだったら「お帰り」と言ってくれるのにどうしたのだろうか。
「………………」
リビングには、二人が倒れていた。
私はなにも感じなかった。そういう人間だったから。しかし、なにも感じない自分に呆れている気持ちがあった。
私は二人の前にしゃがんで、顔を覗きこんだ。眠っているみたいで、とてもじゃないが死んでいるなんて信じられなかった。何故………………
「君は自分の親が死んでも悲しまないんだ?」
突然、耳元で声が聞こえて、私は身を固くした。
「…………誰だ」
私が振り返らずに問うと彼は……恐らくだが……笑った。
「悪魔です」
私はその言葉に眉をひそめ……後ろを向いた。
思ったよりずっと近い位置に整った顔があって私はたじろいた。彼は私の顔を横から覗きこんでいた。
「どういう意味だ」
「ん?そのまんまだよ。悪魔ってのは人と「契約」をするんだ。そして人の望みを叶える代わりにその人の魂をいただくんだよ」
その言葉に私は目を細めた。
「それじゃあお母さんたちと「契約」したのか」
「そうそう~!普通は複数の人数相手に「契約」はしないんだけどね。頭いいね、君何歳だっけ」
当時の私は6歳であったが、彼の質問に答えるつもりもなく、彼の瞳をじっと見つめた。
「それで。お母さんたちとお前の「契約」の内容はなんなんだ」
「……んーそれは君がもうちょっと大人になったら教えるよ」
「具体的には」
「15才の誕生日」
彼は意地の悪い微笑みを浮かべた。
「その時に迎えにいくよお姫様」
「痛い痛い痛い」
「ちょっと雰囲気ぶち壊しなこと言わないでよ……………」

あのときから何一つ変わっていない。
歳もとっていないし、いつも余裕そうで、あの意地の悪い笑みも全て。
「可愛くなったねお姫様」
「痛々しい……」
「あ?なんだって?(圧)」
何一つ変わっていない(呆れ)。
「それで?シェーナちゃん?あの時の答えを知りたいかい?」
「……いや。あれから考えたんだが、お母さんとお父さんは“シェーナを普通の人間に戻してくれ”と言ったんじゃないか?」
「ふふ、だいせいかーい!僕はちゃんと聞いたんだよ?本当にそれでいいのかなって。とても優しい人たちだよね~!…………とても愚かだった。」
どういう意味かって?
……彼は“私を普通の人間に戻す代わりにお母さんとお父さんの魂をもらう”という「契約」をした。でも。
「そんなことしなくたってシェーナちゃんは普通の人間だもんねぇ?」
屁理屈である。確かに私は普通の人間だが、どう考えても普通ではない。
そんなことのためにお母さんとお父さんは命を失ったのか………………。
つくづく嫌なやつだ。ユリスというのは。
「ところでシェーナちゃん?俺のお嫁さんになる気はあるかな」
…………………………?
「オヨメサン……?」
「お嫁さん。」
「ヨメ…………?よめ……嫁…………嫁……?!」
え、な、ん?何をいっているのだ?彼は。
「え、なん…………え?」
「ふふふ」
動揺する私に彼はニコニコ笑った。
駄目である。こんな風に動揺しては彼の思うつぼだ。しかし…………本気で意味が分からない。彼の真意が掴めない。
「私を動揺させる作戦か…………?」
「違うよ?俺はいつだって自分がしたいと思ったことを素直にするよ。変な探り合いは嫌いだからね」
彼らしい言葉だ。しかし意味がわからん(2回目)。
「それじゃあ私もマジレスさせてもらうけどな、」《※マジレス…マジで返す》
「うん」
私はそっと息を吸って…………
「誰がお前なんかの嫁になるかアホ!どんなに金積まれても!命がつきるとしても!世界が滅びようと!ぜっっったいに嫌に決まってるだろふざけんなよ!チャラ男はチャラ男らしく遊んでろバーガー(?)!!」
映像が乱れました。しばらくお待ち下さい……(自然遺産の映像)
鳥のさえずりが聞こえる。
まさに体感時間一時間(伏線回収)でユリスはやっと口を開いた。
「えっ…………と、バーガー!!はバーカ!!の変換ミスでいいかな?」
「え、そこ?」
なんか叫んで疲れちゃったよ。
「い、いや冗談だけどね?流石に俺も傷ついt……」
「うんだよな全部冗談だよなそりゃそうだよな嫁になってとかあり得ないよなHAHAHAHA」
「めっちゃ都合いいように解釈するじゃん。」
以上、こちら全く緊張感のない現場でした~。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「大変だレオ!!」
そう言って魔王様のプライベート部屋(地獄)に入ってきたのはヨルンだ。
あれ?魔王様、シェーナ探してないじゃん。
「ヨルン?どうしたんですか」
「ごめん………俺のせいなんだ。シェーナさんが居なくなったのは」
「…………え?」
そしてヨルンは一緒に町に行ったこと、そして“シェーナが悪魔に連れ去られたこと”を話した。
えぇぇ!?こいつサイコパスかよ!タイプだったのに!!
『ナレーション?仕事しろ?』
あ、すみません。別の世界線から来たシェーナさん。
「そうですか……シェーナさんとはぐれた場所へ案内してください」
「う、うん」
おい、魔王様!気づいてよ!そいつ嘘ついてるよ!?
『ナレーションちゃん?ちゃんと仕事しないとシェーナちゃんと協力して「契約」でどうにかすることもできるけど?』
すみません申し訳ありませんでしたちゃんと仕事します許してくださいお願いします
あ、魔王様たちが魔王城を出ました!
えーとね……と、え、あ。
以上、こちら現場でした~!
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「シェーナちゃん?俺は君の事好きだからさ。まあシェーナちゃんが嫌がることはしたくないの。でもね、それは…………駄目、だと。思wうなぁ↑」
「……………や、ばいな」
「「あぁああああああああ!!」」
あれ何だろうこの状況。
テレビゲームって楽しいね(°▽°)
あれ待ってなんで悪魔とテレビゲームしてるんだろう。てか悪魔とテレビゲームてパワーワードじゃん。
「シェーナちゃん。ふと思ったんだけどさ。」
「うん」
「俺たちなにやってるんだろうね。」
「こっちの台詞だよ。」
私はキレ気味に返す。
「森なのに何でテレビゲームできるの?電気とかどうなってんの?魔法の力ってすげぇ状態じゃんてかまず何でテレビゲームをやろうとした?お前って敵キャラじゃなかったっけ」
「敵だよ?ゲーム内でね☆」
「あぁぁ!おまっ、お前!!」
「はいお疲れぃ」
「何してるんですか二人とも」
………………………………。
「……………すん」
「……すん」
「あ、あれぇ?何してるんだろう私たち。え!?(衝撃)何でゲームなんかしてるの!?(コントローラーを投げる)こんな緊迫感溢れるときに!!(頭を抱える)きっと誰かに操られてたんだわ!」
「そうだよ!俺たちはどうかしていた!(勢いよく立ち上がる)物語の世界観を壊してしまいかねない“ゲーム”という存在!!」
「(勢いよく立ち上がる)敵と主人公が仲良くしているこの構図!!」
「(拳を握る)魔王様チーム(魔王様、ルイ、ヨルン)との温度差!!」
「(顔をおおう)うざいほどのキャラの濃さ!!」
「(天をあおぐ)濃いめのカル○スとかのレベルじゃない!!」
「(とりあえず叫ぶ)原液だぁぁぁぁぁ!!」
「これはもはや…………」
「もはや…………(復唱)」
「「コメディでしかない(決めポーズ)!!」」
…………………………………。
沈黙。

第4幕 悪魔と魔王様と私とついでにヨルンも

「は"?」
あ、あ、魔王様お、おこですか。
「僕も一緒にやりたかったのにー!」
「「あぁぁ(安堵)」」
「「はぁ?(呆れ)」」
私とユリス、ヨルンとルイは全く違う反応をする。
「シェーナちゃん。仕切り直そうか」
そうだな。よし…………
「「もう一戦ゲームやろうか」」
「仲良いかよ!!」
突っ込んだのはルイだ。
「いやごめんじゃん。そんなに怒らんでいいじゃん。冗談じゃん。酷いじゃん。」
「え(困惑)」
「シェーナちゃん」
「ん、」
ユリスの方を向いた瞬間、ぐっと腕を掴まれて引き寄せられた。
………………え……?
抱き締められた。
「シェーナちゃんを返して欲しいと思ったなら、レオ君。」
ユリスはそこで言葉を切り、にっこり笑った。
「分かるよね」
「………………っ」
魔王様が息をのんだ。私はユリスにしっかり捕まえられていて動こうとしても動けない。
いやずるいやん!!さっきまで騒いどったやん!油断してたやん!酷いやん!
「それは……できません。何があっても」
「へえ。じゃあもしかしたらシェーナちゃんも君の親みたいにしちゃうかもね」
「………………っ!!やっぱり父さんと母さんを殺したのはお前か!!」
え…………こいつ魔王様の両親も……?
「……………ずるいかなぁこれは。俺じゃないし」
「ぇ………」
私は思わず小さく声をあげる。
私にしか聞こえない、小さい声だったけど、確かにそういった。
「……探り合いは嫌いなんじゃなかったのかよ」
私はボソッと呟く。
「え……?」
ユリスの力が少し緩んだその時私は彼の胸を押し返した。
「ずるい。お前はずるいんだよ」
私はムッとしてそう言った。
「へ」
彼が油断した……今だ!
背中を見せてかがみ右手で彼の二の腕辺りの服を掴み、左手で手首を持ち、腕を思いっきり引っ張る!!
「んんんんんん!?」
ユリスがビックリした声を出す。
背負い投げだ。
ユリスは油断していたので受け身もとれず地面に体を打ちつける。
実は私の祖父は空手道場を営んでいた。私も少し教わったりしていたのだ。5歳のときに亡くなってしまったが。
「くっ………あはははは!」
笑いだしたのはユリスだ。
「シェーナちゃん、やっぱ最高だよ!」
「うん」
「あ、待って、俺起き上がれない」
「ばいばい」
「マジかよ」
魔王様たちは何だかポカンとしていた。
「帰るぞ、レオ」
「え」
あれ、結局何もなかったようなもんなんだけど…………。
「シェーナちゃん、それは無いわ……(泣)」
無駄な時間だったな。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「いや、絶対に呼んでいましたよ!」
「木の精だ妖精だ」
「いいや、しっかり呼んでました!」
「どうでもいいですからもうその話やめませんか」
「シェーナが認めるまで辞めない!」
「言ってない(圧)!」
「いいやあの時絶対“レオ”って呼んでいました!!」
知っている。何故かは分からないが、私はあの時レオと呼んだ。だがそれを認めたくはない。
「そんなことより、ヨルンと町に行った後、何があったのか詳しく教えてください」
そうだ。そっちの方が重要なはず。
魔王様たちは私を助けに来てくれたときヨルンと一緒だった。ということはヨルンが森へつれてきたんだろう。そしてヨルンはユリスの言うことを聞いていた。つまり“ユリスの指示で私を森に連れてきて”、“ユリスの指示で魔王様たちを森に連れてきた”のだろう。
さらに、ユリスが指示したと言うことは彼の狙いは魔王様と私、もしくは最初から魔王様を狙うつもりで私をヨルンに連れてこさせたのか。ルイを狙っていた線は薄いだろう。彼は明らかに魔王様に注目していた。………ここまで考えて、私はルイの質問に対する答えを出した。
「まずヨルンに町に一緒にいく?って言われて、町に行ってシュークリームとか食べてたんだ」
「シュークリーム……」
「シュークリーム………」
「それで“私が、森に行こう”って言ったんだ」
「え?何故だ?」
「……だって、だって………………」
私は震える拳を握りしめた。
「動物たちをモフれるかなって!!鳥しかいなかった!!!」
「当たり前じゃないですか。人間の町じゃないんですから。」
「そんなことは知っている!身をもって知った!!(号泣)」
「それで、そのあとはどうなったんだ」
「ユリスが来て、あとは知ってるだろ?」
「いや、私たちが来るまでもずっとテレビゲームしていたのか?そんなふざけたことはないだろう。お前はさっきから重要なところをすっぽかしていないか?」
“嘘は”ついていないだろう?私はヨルンが「来てほしいところがある」と言った時に、「行こう」と言った。少し語弊はあるが、間違っていないだろう。動物をモフりたいと思ったのも本当だ。少しだけな?結果、鳥しかいなかったけどな。
「どうしてだ?私はありのままの事を話しているぞ?」
「ルイ」
ふいに魔王様がルイの名を呼んだ。
「席をはずしてくれませんか」
「……………………分かりました。」
ルイは納得いかない様子だったが、部屋を出ていった。あとには玉座(?)に座る魔王様と突っ立っている私が残された。
手首を掴まれてぐっと引かれた。
……だいぶ、近い。
「なんだよ」
「何か、隠していますね?」
「なんの事だ」
「君はとても嘘をつくのが上手ですが、僕たちを騙せると思いますか?」
「…………いいや、思っていないよ」
「全て話せというわけではありません。僕だってルイや君に隠していることがあります。でも、ユリスに関しては、命に関わる問題でしょう?君は自分で自分を守れますか?」
「……………………。」
「君は自分なんか死んでもいいと思ってるかもしれない。でも、僕は嫌ですよ」
「……………………………………。」
「悪魔が「契約」しないと何も出来ないなんて間違いです。もとから身体能力も知能も人より高いし、“心”を持っていないから、どんなことだってできるんですよ」
「………………………………………………。」
「ねぇ、タイプだからとか、そんなふざけたことじゃなくて、普通にいなくなったら嫌ですよ。…………ルイも、そう思っているでしょう」
さっきから、“シェーナ”と呼んでくれない。私は思わず魔王様から目をそらした。
「こっちをみてください」
魔王様は両手で私の頬を挟んだ。
「目をそらさないで」
魔王様は玉座(?)に座っているから私と目線が同じくらいだった。
「…………………………魔王様が、隠していること、話してくれるなら、私も話す」
「本当にですか?」
「ああ、絶対だ。」
私がしっかりうなずくと、魔王様はやっと手を離した。私は反射的に一歩下がる。…………どうしてだろう?心臓の動きが少し速い。
「それじゃあ、ルイも呼んで、僕から話すとしますか」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
僕が子供の頃の話です。
僕の家はあまり裕福とは言えませんでした。異形だから孤立していました。それでも幸せでした。
とある日、僕は町で王子様に出会いました。当時の魔王の一人息子です。
城から抜け出して遊んでいたらしいです。僕たちはすぐ仲良くなりました。彼は二日に一回城を抜け出してきました。だから僕らは、二日に一回、噴水の前で待ち合わせしていました。
雨が降っても傘を指してきました。
雷がなっていたら、二人でうずくまって去るのを待っていました。二人なら怖くありませんでした。
でもある日、彼が来ませんでした。これまで欠かさず来ていたのに。
たまたま、体調が悪かったのかもしれない。
たまたま、城を抜け出すときに見つかって、来れなかったのかもしれない。
その二日後も、その次も、彼は来ませんでした。でも僕は待ち続けました。
一週間ほどたった日、やっと彼が来てくれました。「どうして来なかったの?」「会う頻度を減らす?」あくまでも責めずに聞くつもりでした。そもそも、僕は最初から怒ってなどいませんでした。
でも、彼の顔が、悲しげだったから、僕はかける言葉を失いました。
そして彼はこう言いました。「もう会うのは辞めよう」。僕は「どうして」と聞きました。彼は…………病気だって言いました。長くは生きられないと。「でもそうしたら次に魔王様になる人がいなくなっちゃう」って。そんなことを、心配していたんです。
僕は言いました。「そしたら、僕が魔王様になるから。そんなこと心配しないでよ、自分のこと心配してよ」と言いました。彼とはそれっきり会えず、一週間後に“王子様が亡くなった”という知らせを聞きました。
悲しみにくれていたとき、さらに僕を追い込む出来事がありました。
ユリスです。
家に帰ったら皆死んだように眠っていて……いや、死んでいたんだよ。だって、お腹にはナイフが刺さっていたから。
呆然と立ち尽くす僕に、ユリスは言ったんだ。「強くなれよ」って。
どういうことだよ。意味わかんないよ。
……僕は怒りで何も言えなかった。
……怒りで、涙もでなかった。
……怒り以外、何もなかった。
それからはなにも考えず、ただ毎日を過ごしていたんですが、彼と約束したことを思い出したんです。
僕は無理矢理にでも魔王になるつもりでした。いつか王子様に教えてもらった、城の抜け道を通って、僕は城に忍び込みました。そして、魔王様の部屋に入って……魔王様を殺してでも、魔王になるくらいの気持ちでした。
しかし、魔王様は部屋に入った僕を怒るでもなく、僕の話を聞いてくれました。「息子の認めた人なら安心ですね、私ももう歳だから。…………この国をよろしく頼みますぞ。小さな魔王様」
そう、彼は言いました。

「今の自分があるのは彼らのお陰です。どうしても僕はあいつを、ユリスを許せなかった」
「………………ぅ……びぅ、びゃおうじゃみゃに"じょんに"ゃぎゃぎょがあ"ったに"ゃんて"(※訳 魔王様にそんな過去があったなんて)」
「…………………………。」
「ルイ、泣きすぎです。」
ルイはハンカチで顔をおおった。本当に魔王様の事を大切に思っているんだな。
「それで。シェーナは?」
魔王様にそう聞かれて、私は過去にあったことを説明した。両親が死んだこと。そして……そのあとは、保護施設に引き取られて、里親のもとを転々とし、やっと落ち着いたけど捨てられたことだ。まあどう考えても落ち着いてはなかったけどな。
「そう、なんですね。シェーナも辛い思いをしたんですね」
「へぇ」
「お前反応薄くないか。マジで嫌い」
「こっちの台詞だ」
ルイはそう言って鼻をかんだ。
「でもあいつ、絶対やっていないと思う。」
「何がです?」
「ユリスだよ。魔王様の気持ちもわか…………らないわ。私は人を恨んだりしないしな。でも、あいつは違う。」
「どうして分かるんです?」
「私がユリスに……人質?にとられたとき、魔王様が“僕の父さんと母さんを殺したのはお前か”って言ったじゃないか。」
「確かに言いましたね」
「その時、ユリスが小さく呟いたんだ。“これはずるいかなぁ、俺じゃないし”って。これって、これを持ち出して魔王様を脅すのはずるいかな、殺したのは俺じゃないしって言う意味なんじゃないか?」
私がそういうと、魔王様はポカンとした。しばらくしてクスッと笑った。
「本当にそうだったら面白いですね。でも、その言葉だけじゃ信じられませんよ」
強がっている。そう思ったが、口には出さなかった。
まぁでも、そりゃそうだろう。だって考えてもみてくれよ。家族が、親が殺されたんだぞ?そんな簡単に片付けていい問題じゃないだろう?私がおかしいだけだ。
「シェーナも普通だって、僕は思いますよ」
「……?…………どういう意味だ?」
「いえ、いいんですよ」

番外編 魔王様のプライベート部屋

「大変だレオ!!」
そういって魔王様の部屋に入ったはいいものの、ヨルンはユリスの命令も忘れて呆然とした。
「え…………となんだこれは?」
壁のいたるところに写真、写真。
しかも全部シェーナさんのじゃないか。
「可愛いでしょう?」
「友達辞めた方がいいかも……」
「え?」

第5幕 一件落着?

一つ、気になることがある。いや、二つだ。
まず、私の親は「契約」して死んだ。
でも、魔王様の親は普通に殺された。
この違いはなんなんだろうか?仮にユリスの仕業でないとしたら、何故ユリスは嘘をついた?あの場だけなら、魔王様を脅すためかもしれない。でも、魔王様の親が死んでいた現場に彼もいたとなれば、話は別だ。彼を信じろと言う方が無理があるだろう。とにかく、今は情報が少なすぎる。
もう一つ。ヨルンのことだ。
結局魔王様には“本当のこと”を言わなかった。何故か?
だって彼は、魔王様の友達なのだろう?友達が悪者だなんて悲しいと思わないか?彼にどんな理由があろうとも、ユリスに脅されていようとも、悪者であることに変わりない。彼は直接的に何かをしているわけではないのだから、言わない方がいいと思ったのだ。
ユリスが“本当に”何もしていないのであれば、ヨルンを脅しているとは考えにくくないだろうか?彼のそれが偽善であったとしても、優しい心を持っているとしたら、おかしいと思わないか?
私はおかしいと思う。
そもそも、脅してまでしてヨルンを従える必要があるのかも分からない。ヨルンはたいした仕事はしていない。それなのに、わざわざ“ヨルンを”選ぶ必要があったのだろうか?
まぁ考えても仕方ないか。さっきも言ったが、情報が足りないしな。
私はベッドに腰かけてため息をついた。
窓から少し冷たい風が入ってくる。
そして振り返らず聞く。
「誰だ」
窓から入ってきたそいつはフッと笑った。
「さすがだね。やっぱり君は普通じゃない」
その声に聞き覚えがあって振り向くと、なんとそこにいたのはヨルンだった。
「お前…………なんのようだ?」
彼はただ微笑んでいる。
「ユリスに指示されたのか?」
そう聞くと、ヨルンはやっと笑みを消した。
「………………いいや、違う。俺の意思で来たよ。」
私は首を捻る。彼が私に……?まったく心当たりがない。まさか助けてほしいなんて言うんじゃないだろうな?
「君はさ、」
彼が私の方へ近づいてきた。
「感情がないんでしょう?」
私の真横に、人一人分くらいスペースを開けたところに彼は立った。
「まぁ、そうだな」
「じゃあ…………いや……俺、実はさ…………」
彼はそこで言葉を切って、首の後ろに手をやった。
「“善悪の判断”が欠落してるんだよね」
「え………………?」
善悪の、判断?
なんだか難しく聞こえる言葉だが、要は何が悪い事で何が善い事なのかが判らないという事だろう。
「実は俺、いろいろ嫌なことがあって生きるのも嫌になってもういっそみんな不幸になればいいや!…………って思って。彼と……ユリスさんと、「契約」したんだ。」
その言葉に私は思わず立ち上がった。
「どんな、「契約」をしたんだ?」
「…………“この世界の人間みんななにかが欠落している世界にしてほしい”」
「交換条件は?」
「ユリスさんは……“世界のあり方を変えるような望みは、交換条件が重くなったり複数になる”って言ってて……」
「それで?」
「俺は二つ契約したんだ。一つはユリスさんの言うことを聞くこと。もう一つは…………“不老”になること」
「…………は?」
意味の分からない条件に、私は思わず声をあげた。ユリスは何を考えているんだ?
「俺……何が悪いことなのかわからない。ユリスさんのしていることって、俺のしていることって正しいよね?間違ってないよね?俺があの時契約したことって……間違ってないよね?だとしたら、あの人の指示通りに動かずここに来たのは間違ってるのかな?」
そうか、この人は、本当に何も判らないんだ。何がいけないことで、何が良いことなのか判断できないんだ。もしかして、ユリスは「契約」する前から彼の欠落するものが分かっていて、放っておくのは危ないと思って“言うことを聞く”という交換条件にしたのか?だとしたら“不老”ってのはどういう…………。
「シェーナさん?」
「えっ?」
「俺、もしかして、取り返しのつかないことしてしまったのかな」
「…………そうだな」
私がうなずくと、彼は衝撃を受けた顔をした。
「やっぱり俺……根本から間違ってたのかな…………」
「ああ、そうだよ。まず悪魔と「契約」することが間違っている。望みっていうのは、そんな風に人の力を借りて叶えるもんじゃない。でも、間違うときだってあるんだよ、ヨルン」
私はヨルンの濡れた瞳をじっと見つめた。
「なあ、結んだ「契約」を破棄できるかもしれないってこと、知ってるか?」
「うん。結んだ人、二人ともの承諾のもと、できるんだっけ。」
「実例はないが、やってみる価値はある。ヨルン、お前は取り返しのつかないことをしたけど、まだ諦めるのは早い。今からでも遅くない」
「…………うん」
頷いたヨルンの瞳には、強い決意が見えた。
「よし、ユリスには何処に行ったら会える?」
「いや、その前に……レオにはこの事、話さなくていいのかな?」
「え、」
まさか彼からその事を言い出すとは思っていなくて、私は少し驚く。
…………驚く?…………いや、それより。
普通に考えて、“正しい”のは話すことだろうが……こういうのは他人が決めることじゃないんだよな。でも今、ヨルンは判断ができない状態だ。結局私が決めるしかない。
「…………そうだな、話してからいくか」
「うん」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「…………ということなんだ」
ヨルンが話終わった頃、私はうつらうつらしていた。
「成程。それじゃあ今すぐにでも行きますか」
魔王様が立ち上がりかけたその時。
プルルルル……プルルルル……
急に電話がなった。私はビックリして覚醒する。
「もしもし」
そう言いながらルイはスピーカーにした。
ていうか電話あるのも世界観がぶち壊s
※作者が黙らせました
『こんにちは~!ユリスだよ?ヨルンが居ないからまさかとは思うけど……そっちにいる?』
私たちは思わず目を見合わせた。
「あぁ、いる。今からお前の方へ行こうとしてたんだ」
え?それぶっちゃけていいの?あ、でもどうせ「契約」を破棄するためにはユリスを納得させなきゃいけないし、いい…………よね?
『そっかぁ。でも男が来ても嬉しくないから、シェーナちゃんと、ヨルンで来てよ。』
「は?ダメですよ!またシェーナに変なことする気でしょう?」
魔王様ぶちギレ案件。
『しないしない。だいじょーぶ!』
全く信用できない言い方。
が、次の瞬間声が低くなった。
『もしそれ以外の人つれてきたら許さないから』
ツー……ツー……ツー……
「勝手なやつだ」
ルイが心底どうでも良さそうにそう言った。
「ユリスさんは俺に家までくれたんだ。多分そこにいる。それじゃあ、レオ。またあとで」
「シェーナ!何かあったら背負い投げするんだよ!?」
「心配するな、右フックいれるから」
さて、最終決戦だ。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「やぁ、よく来たね。だいたい何をしに来たかわかるよ…………うん。破棄してあげるよ」
「え?」
あまりにも快く頷いてくれて、私は眉をひそめる。
「やったね~!シェーナさん!」
素直かよ。元気かよ。
「その代わり」
やっぱり交換条件があるんじゃないか。
「シェーナちゃんがお嫁さんになってくれたらだけどね☆」
「は?(怒)」
「嫌ならいいよ!このままずぅっとこの世界は不完全なまま。それだけだよ」
え、この人嫌い。
「死ぬほど嫌だがまぁしょうがない」
「「え!?」」
私の言葉にヨルンと……何故かユリスも驚いた。
「何でお前も驚くんだよ」
「いやまさかホントにOKとは……よろしく~!」
なんだこのノリ(泣)。
「じゃあ世界を元に戻そうか」
ユリスはヨルンに手を出した。
「俺のいったことを真似して、俺と握手して。」
「わかりました」
ユリスはニコッと笑うと、目を閉じた。
「我は、この契約を破棄することを許可する」
ユリスに続けてヨルンも言った。
「我は、この契約を破棄することを許可する」
すると、世界は光に包まれ………………………
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
次目を開けたとき、世界は何も変わっていなかった。しかし、私の目の入っていないところで、確かに変わった瞬間だった。
でも、何も感じなかった。
嬉しさも感動も、何も。
「俺は……何て馬鹿だったんだろう」
ヨルンがそう呟くのが聞こえた。
「さてシェーナちゃん!いや、シェーナ、約束は守ってもらうからね」
「あー………………なんの話だっけ」
「シェーナ」
私がすっと目をそらしてとぼけると、ユリスが迫ってきた。
「約束したよね??」
壁ドォオォォオォン…………
私は下を向いて耳を塞いだ。
「知らん知らん知らん知らん」
「そこまで拒絶されると俺だって悲しくなるんだけど?っていうか死んでも魔王城には帰さないよ?」
「すみません、よく分かりません」
「AIの真似しなくていいかr」
「すみません、よく分かりません」
「シェーナ…………」
「嫌だぁぁぁぁぁあ」
「魔王様よりはましだけど!さ!」
「嫌だ絶対にぃぃぃぃい」
「めっちゃ言うやん(^-^)」
「そうだ!」
私はばっと顔をあげてぎょっとしたユリスを押し退け、ヨルンの手を両手で握った。
「お前が一番まともなんだ!助けてくれないか!」
「へ」
私が必死に訴えかけるとヨルンはぽかんとした。
「そう言われてもなぁ…………そうだ!俺とシェーナさんが付き合えばいいんじゃん♪」
「え(困惑)」
「助けてほしいんでしょ?」
「え、え、ぇぇ……」
掴んでいた手を逆に掴まれた。これは悪い夢ですか?
「シェーナァァァァア!!!」
「魔王様!いいところに!」
彼が来てこんなに喜んだことがあっただろうか(失礼)!
「ちょっとごめんね~」
私はヨルンの手を払いのけた。
「あ」
私は魔王様 の背中に隠れた。
「魔王様助けてください( ;∀;)」
「都合よく甘えてる……」
「いい案だと思ったけどなあ?」
「え、シェーナ、どうしたんですか?」
魔王様がぎょっとして振り返った。
「別に~?」
私は口笛を吹く。
「そういえばユリス。皆に言った方が良いことがあるんじゃないのか?」
「え?そんなのないよ?」
…………仕方のないやつだ。
「ふうん、そうか」
「シェーナがお嫁さんになってくれるなら話してもいいけどね」
「は?」
「はあ………」
「おぉ」
三者違う反応をする。
「何言ってるんですか?」
「そのまんまの意味だよ」
「……本当にそれで真実を話してくれるのか?」
私がいつになく真面目にそう聞くと、ユリスはしばらく黙ってから、笑った。
「冗談だよ」
…………また逃げた。
私は思わず笑った。苦笑に近かったかもしれない。
いいのさ、ゆっくり時間をかけていけば。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「玉座ってこんなに座り心地いいんだな~」
「そうですね。僕はもう慣れてしまったのでなんとも思いませんが。
「贅沢だぞ~?」
「はは、そうかもですね」
玉座に座る私の横に立つ魔王様。彼はふと笑みを消した。
「シェーナ、大丈夫ですか?」
「え?」
「なんか、無理しているように見えたので。」
無理…………そうかもしれない。
「私、やっと気づいたんだ」
「え?」
「私に足りなかったのは“感情”じゃない。“表情”なんだよ。」
「表情、ですか」
「ああ。思えば、魔王様たちに会ってから、何も感じていないときなんてなかった。感情がない人なんて居ないんだよ。いるとしたら、それはロボットだ。」
私はそこで言葉を切って……魔王様を正面から見据えた。
「感情が少ないのは私自身の問題。」
「……はい」
「私にはもう居場所はないからさ。ここしか。だからよろしく頼むぞ、レオ」
「はい!可愛い~~!」
「はい、キモい~~」
「はい、酷い~~」
「は、知るか~~」
「は、悲し~い~~」
こんなバカみたいなやり取りを一生続けなければならないのだろうか…………。
そういえばルイはどこだろうか?物語の最後にいないなんて……まああいつらしいか。
『シェーナ、俺諦めてないから。覚悟しといてね』
何処からかユリスの声がした気がして、私はきょとんとする。どういう意味だ?
「シェーナ、どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。」
何かが欠落していても、この世界には笑顔が絶えなかった。
だから、たとえ何かを失ったとしても、仲間がいれば。
私達は、笑いあっているんだろう。
了?

後書き

こんにちは、しろねこ。です。
まず最後まで読んでくださり、有難うございます。大好きです(きもい)。
ガッチガチのコメディ……のつもりです。沢山読んでいただけたらもしかしたら続きを書くかもしれません。その時は少しタイトルを変えたい。
いや、書いてて楽しかったよ。凄く。というか個人的なことしか書かないのでここ読んでもらわなくて結構ですが…………。
まずそれぞれのキャラについて触れていきましょう。
ネタバレも含みますよ
シェーナ。基本無表情です。ラストを除いて。本当はもっと他の男子たちとイチャイチャさせたかったのよ。グヘヘヘ(きもい)。キャラデザは……まあ黒髪っしょ?ボブかな。で、瞳は紫かな。理由?私の好みだよ。
魔王様。まあレオのことね。彼は超絶イケメンじゃなきゃ駄目。だってメインキャラでしょ?イケメンじゃない男子はいらん。で、作中でも描写があったけど、白い髪に青い瞳。青ってのは、青!って感じの青じゃなくてふかーい青ね。群青色みたいな。じゃあそう書けよってな。あははははは
ルイ。メガネ君。メガネかけてるクールキャラね。とりまメガネかけてたらクールで冷静でSなんです(?)。ここ、テストに出ますからね(出ません)彼はまぁ黒髪に黒メガネ、琥珀色の瞳かな。琥珀色はね、オレンジよ。
ユリス。ユリス・ナル◯ンじゃないわよ。いっつもユリスって打ったら変換のところに出てくるの。多分ブランドか何かでしょうか。間違ってたらすみません。で、キャラデザは 黒髪に左横髪だけ顎辺りくらいの長さで、右は普通で後ろは三つ編みで結んでいます。腰くらいまであるよ。
え?何でユリスだけそんなに細かいのって?推しキャラだからに決まっているでしょ?私は敵キャラが好こなの。ここ、テストにでr(でません!)
ヨルン。もっとシェーナとの絡み、魔王様との絡みを描きたかったけど気づいたらもうユリスゾーンに行ってて草。怖いですね(は?)。で、作中の通り白い髪に紫の瞳。あ、シェーナとおそろいのPeopleだね☆
いや、まだまだ決めてる設定があるし、ユリスの秘密も全然残ったまんまなんだよね~。読んでいただけたら励みになるので是非何度でも読んでくださいね。まあ私は一回で十分だとおm
本当に有難うございます!また会う機会があれば……


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