コメディ・ライト小説(新)
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- 文学的青春の過ごし方
- 日時: 2022/02/03 16:46
- 名前: 単位落太郎 (ID: QR80N2ur)
第一話 文学的人物紹介
この世界に僕ほど「普通」という言葉の似合う男はいないんじゃないか、と常々思っている。
決して自慢するわけではないが、僕の普通さは常軌を逸脱している。あげればキリがないが、いくつかあげるとすればまず名前で、何の変哲もない鈴木大輝だ。
山田太郎、とか田中一郎、とかだったらテンプレすぎてかえって個性となったろうが、大輝ではいささか中途半端だ。
次に頭、いわゆる頭脳。今まで受けてきたほぼ全てのテストが平均点付近を彷徨っている。平均より1高くて喜び、2低くて嘆く、といった具合だ。
塾の全国模試なんかで順位が出ると大概は20000人中10100位とか9800位とかだ。
10000位とか平均点ピッタリじゃないのが悔しい。
ついでに先月入学したこの高校も都内で「中堅校の代表格」と呼ばれている。
運動神経も平凡で、体育のバスケやサッカーでチーム分配すると必ず忘れられる。
運動できる奴は勿論すぐ選ばれるが、傍目に見てわかるほど鈍い奴はかえってみんな「チームにいれたくない」と意識する。
チームリーダーが策士なら「こいつを貰ってやるからあいつをよこせ」と取引材料にさえなるだろう。
その点僕は居て足手纏いではないがいなくても困らないのでいつも忘れられ、大概はチーム決めの終わる直前に誰かが気づいて慌てて人数の足りないとこへ押し込まれる。
「おい。鈴木」
顔も特徴のない普通の顔で、女子達曰く「顔面偏差値ランキング惜しくも入賞ならず」らしい。
「もしもーし?聞いてンのか?」
他にも色々あるがまぁこんなもので、普通という言葉を擬人化したら僕にそっくりに違いないと自負している。
「何とか言えや鈴木コラ」
そんな僕に唯一普通じゃないところがあるとすれば友人に少し普通じゃない奴が多い、ということだろう。
今、僕の思考を断ち切らんと話しかけてくるこの男はその筆頭格だ。
名前を「山口 聖帝」と言う。
インパクトが強すぎて唖然としてしまいそうな名前だ。というかした。
自己紹介された時に不意打ちで食らわされたあのショックは「テレビをつけたらいきなり大音量で父親が見たであろう破廉恥なビデオが流れたあの時のもの」と同じだった。
ところが、彼の内面の暴虐ぶりは微塵も名前負けしていない。むしろ名前の方が負けている。まず彼は口が悪い。そして理不尽だ。こちらが「ごめん」といったら「謝るぐらいならすんな!ボケが!」とかえってくる。
ちなみにこれは彼が不注意で僕の牛乳を落とした時の会話で、彼曰く「僕の持ってた牛乳の運気が悪かった」らしく彼の上履きが濡れてしまったことに対する詫びの言葉を僕が言わされる羽目になった。
あとこいつは自分の通る道のドアが閉まってると必ず蹴る。それで別に開くわけではないのだが必ず蹴り飛ばす。
性格を表すように顔つきも鋭い。美形には違いないが、ヤクザの若頭か用心棒かと言った見た目をしている。女子達曰く「イケメンではあるけど…」らしい。
「聾唖にでもなったか?ン?」
差別用語が出てき始めたのでこれ以上無視すると会話を小耳に挟んだ他人が気分を害しかねない。なぜか教室には他に誰もいなかったが。
「ああ、サウザーか。どうした?」
応答を開始するにはこれ以上なく無難な言葉を放つ。名前のインパクトが強いからかこいつを苗字で呼ぶ人を見たことがない。
「どうした?じゃねえよ。無視してごめんなさい、だろうが」
いかにも彼らしい答えに僕の中でこいつが偽物でないと言う安堵が沸き起こる
「無視してごめんなさい。で、何の用だったんだ?」
こいつとの会話にも慣れたものだ。
「なんのってテメェ、次は体育だからこの俺様が起こしてやったんじゃねぇか。感謝しろよ?
今時金取らないでモーニングコールしてくれるホテルなんてどこにもねえぞ。『無料で起こしてくれてありがとうございます』って感謝しながらチップよこせ。」
タダじゃないじゃん、とか寝てはないし、とか思いつつも起こしてくれたのはありがたい。
もし僕があのまま物思いに耽り続けて授業をフけたところで誰も困らないだろうが減点はされただろう。
影がすごく薄いなんて立派な個性は持ち合わせてない。
幸い、着替えはもう済ませてある。
サウザーへの礼もそこそこにグラウンドへ急いで向かう。
急いだ甲斐あって何とか間に合ったのはいいが、始業ギリギリだったので少し注目を集めてしまった。
目立ちたくない、なんて五年ほど前のラブコメ主人公みたいな思想は持ってないので別に構わないのだが。
「じゃあ授業を始めるぞ」
そういったのは体育教師の権田だった。
権田はゴリラの異名を取るステレオタイプの体育教師で、昭和の漫画家に体育教師のキャラクターを作らせたらこいつができるだろう、と言った見た目をしている。
見た目の割には厳しい教師ではないがたまに意味もなく竹刀を持ってたりする。そーゆー奴だ。
なんてことをぼんやり考えてるうちに授業は終わってしまった。
どうやら僕には思考に耽る悪癖があるらしい。
「いつになくぼーっとしてたじゃないか。」
授業が終わると友人が話しかけてきた。
僕はまだぼんやりと思考を引きずっていたが声に刺々しさがないことからその友人がサウザーではないことを確認すると思考を一時停止させ、その友人の顔を視認する。
「ああ、桐生院か」
声の主が桐生院こと「桐生院 正義」であることを認識する。
自己紹介の時サウザーのすぐあとにこいつの番が来たので、最初「正義」とか言うのかと思ってしまったがそんなことはなかった。
苗字が示す通り良家の子息らしく、こいつの家は一見教会かウェディング場かと勘違いさせるほどで、遊びに行った際にはいかにもと言った感じの老執事が美術館に展示してあっても良さそうな見事なティーカップに入った外国産の珍しい紅茶でもてなしてくれた。
「名は人を表す」を体現するかのように彼は一年生でありながら風紀委員に属している。そのくせしてサウザーなんかと友人なのでダブルスタンダードな奴だと思う。
ところで、ダブルスタンダードをダブスタと略すのってどうなんだろうか。個人的にはダビスタみたいで好きなんだけど。
「放課後部長が呼んでたから部室こいよ」
こいつはサウザーと違って人の思考をあまり邪魔しない。育ちの良さが前面に出てる。
前面どころか顔面にも出ており、やや女顔の美形で、サウザーと違って清潔感のある見た目だ。女子達制作の月刊顔面偏差値ランキングでは二月続けてトップ3に入っている。
「ああ、わかった。サウザーにも伝えておく」
嫌な事を自ら引き受ける事で伝えてくれた礼の代わりにする。
「ああ、ありがとう。後、お前担任に呼ばれてたぞ。」
マジか。我ながらそこまで問題児ではないと思っていたのだが。
帰りのホームルームを適当に流して担任の近くまで行くとそのまま職員室まで連れていかれる。もしかすると結構大事かもしれない。
職員室の面談室まで来ると僕に着席を促し自身も着席した担任の大槻は徐に口を開いた。
その内容は、「僕がサウザーにいじめられてはいないか。」と言うものだった。
サウザーは中学生の頃から悪名高く、高校への内申書にも要注意と書かれていたらしい。そして、他のクラスメイトが「僕がサウザーに絡まれている」と
通報して、この事態になったらしい。クラスメイトの心配はありがたいが、別に僕はサウザーにいじめられているわけじゃないし、彼の事は別に嫌いじゃない。
大槻先生にその旨を伝えると安堵したようだった。新卒2年目の彼女にとっていじめなどと言う問題は御免だったに違いない。「心配をかけてすいません」謝罪を済ませ、部室へと急ぐ。
すでに一年生の部員は二人とも揃っており、
サウザーに「遅ぇよ」と悪態を吐かれる。
誰のせいだ、誰の。
「担任に呼ばれてたんだから仕方ないだろ」
お前のせいだ、と言いたかったがぐっと堪えて理由だけ説明する。
桐生院は僕が言葉を少し選んだのを察したのかクスクスと笑った。
それを見てサウザーは舌打ちをした。桐生院がなぜ笑ったかわからなかったからだろう。
こいつは自分の理解の及ばぬ事、それによって疎外感等を感じるのが何より嫌いだ。
でも決して自分から理解しようと歩み寄ることはない。
思考してダメなら答えを無理に聞き出すか悪態をついて諦めるかのどちらかしかしない。
そう言う男だ。
そんなことしてるうちにぼちぼち2年生の先輩達が顔を出す。と言っても2人しかいないのだが、それぞれ香川先輩、矢野先輩と言う。
この2人も僕たち同様に楽だから、とこの部に入ったクチで、出席率はあまりよくない。
そして部長の高柳先輩が現れる。相変わらずむさ苦しい髪型に古ぼけた眼鏡をかけている。三年生の部員はこの人だけだ。そして僕を「才能がある」とか言って勧誘した人でもある。
そんな「1999年の秋葉原から連れてきました」と言った見た目の高柳先輩が現れて早々一席ぶった。
「現在この文学部では、部員が減少傾向にある。このままでは予算が降りず夏恒例のりょこ…合宿もできない。そこで、君達には部員集めに奔走してもらいたい。できれば女子部員がいい。では、解散!」
特に文学的な事をするでもなく20分ほどで部活が終わった。何はともあれ部員を集めなければならないらしい。
方法を考えつつ、僕たちはゲーセンへと向かった。今日は鉄拳をやろう。
- Re: 文学的青春の過ごし方 ( No.1 )
- 日時: 2022/02/07 21:26
- 名前: 単位落太郎 (ID: QR80N2ur)
第2話 論理的ブレイン・ストーミング
高柳先輩の例の演説(?)から3日が経った日曜日、僕達文学部は学校近くの喫茶店で部員集めのアイディアを出し合っていた。
ところで洞察力に自信のある人なら既に気づいているかもしれない。
「5月に部員集めるのは手遅れじゃね?」と。
これは僕達の通う学校に存在する少々特殊なシステムが関係している。
それは、「入部説明会を6月1日に行う」と言うものだ。
この学校では帰宅部が認められておらず、必ず全員なんらかの部活に入っていなくてはならない。
しかし、キツイ部活に入ってしまった結果テストや勉学が疎かになる生徒が増加し、その対策として初めてのテストが終わるまで入部は強制せず、テストの結果を鑑みて入る部活を決めるように促したのだ。
とはいえ、運動部には入学前から入る部活を決めているようなエリートルーキーも多いため、入部自体は4月からできるようになっている。
とはいえ、僕達のように文化部に4月から入る生徒はかなり珍しいらしく、先生達は勿論、
勧誘した張本人である高柳先輩までもが驚いていた。本人曰く、「キープしようと思っていたがまさかすぐに入るとは思わなんだ」らしい。
兎も角、そう言うわけなのでこの時期に部員集めの事を考えるのは正常なのだ。
長々と誰に聞かせるでもなく説明臭い事を考えていたが、それが出来たのは、案がまだ一つも出ていなかったからだ。
この会議の発案者である高柳先輩は開始早々
「入部説明会でいかに部員を呼び込むかがカギとなるだろう。」と分かりきった事を言って、
矢野先輩に「んな当たり前のこと言われても…」と突っ込まれて以来ダンマリである。
沈黙に耐えかねて桐生院が三杯目のコーヒーを頼んだ時、サウザーが口を開いた。
「っつか俺あんま知らねんすけど、この部活って何させる部活なんすか?」
形骸化した無残な敬語だが質問自体は彼にしては珍しく僕も桐生院も疑問に思っている至極真っ当なものである。
問われた高柳先輩は徐に口を開き説明を始めた。
「この部では主に二つの活動がある。一つは執筆。自分で小説を書いて部員内で共有してアドバイスを基に推敲したりコンクールに出したりする事だな。高校生の全国大会みたいなものがあるんだ。」
サウザーが
「えっ自作小説読み合うのかよ?ヤバっ…キモッ…」と小声で悪態をついた。
いつものように大声で堂々と言わないのがサウザーが熱苦しい高柳先輩を苦手としている事を表している。
聞こえなかったのか高柳先輩が続ける。
「この部でも5年ほど前に1人小説家を排出している。『心臓を喰らう悪魔』の中野昼、と言ってわかるかな?」
「中野昼」と言う名前は聞いたことがあるが鮮明には思い出せない。サウザーや矢野先輩、香川先輩も同様らしく、首を捻っていたが、桐生院は知っていたらしく、説明してくれた。
曰く、3年ほど前にネットの小説投稿サイトで大ブレイクし、ドラマ化までしたのだがそのドラマの視聴率がよろしくなく、また本人のその後の作品も鳴かず飛ばずで、典型的な一発屋となってしまったらしい。野球部で言ったら三年で戦力外通告を受けた元プロ選手を有名OBとして扱うような物で、紹介する必要はあったのか、と思ったが敢えて突っ込まなかった。
微妙な反応を察してか、高柳先輩は中野昼の話題を終え、部の活動に話を戻した。
「そして二つ目が文学の考察。こっちは漱石や太宰やドストエフスキーなどの有名作家の作品を読んで考察したりして深く味わう事だな。大学生になってから役立つ事もあるかもしれないぞ。」
こっちは比較的まともそうだ。サウザーや桐生院も安堵している。
高柳先輩の説明が終わった後、香川先輩が渋々、と言った感じで口を開いた。
「でも、それを入部説明会で言っても多分部員は増えませんよ。去年みたいに。」
その発言は核心をついていたのか高柳先輩は顔を曇らせた。
つまり去年の説明会では今言ったような事を説明して、結果2人しか来なかったのだ。
改善の余地あり、というか改善の必要性ありである。
桐生院の頼んだコーヒーが届き、それに少しのミルクが入れられた瞬間、話題は「どうすれば部員になりたいと思われるような説明会にできるか」と言う本題へと移った。
黙っていても時間の無駄だと察したのか、サウザーや桐生院、2年生の先輩からいくつかのアイデアが出る。
「先輩が前言ってた旅行を大々的に宣伝しては?」
「ゆるい部活である事をアピールするとか」
「入部したら見返りがあるようにしたらいいんじゃないっすか?金とか勉強教えっとか。」
高柳先輩はそれらをメモに書き写し、こう告げた。
「よし。それじゃ今言った事をまとめてスピーチを作成する。一年生の3人は各自勧誘もしてみてくれ。じゃ、今日はこれまで。」
会議が終わり漂っている緊張が解けていく。
各自、昼食がわりに食べるメニューを頼む。
サウザーは途中で噛みそうなほど長ったらしい名前のパンケーキを頼んでいた。
確か「ハニーストロベリーミルクチョコソースかけチョコチップバニラアイスシロップパンケーキ生クリームトッピング」とかだったかな。
届いたそれは見た目にもごちゃごちゃして甘ったるそうで、こぼしたら蟻が真っ黒に集りそうな程だ。その糖分の塊を眺めているとサウザーに「何見てんだよ。やんねぇぞ。」と言われた。
別に食べたくて眺めてたわけじゃないので、
「ショッキングすぎて見てただけだ。食えるのか、これ?」と返す。
「人の食うもんにケチつけんな、死ね」
言葉は悪いが今回は僕にも非がある。
黙って暴言を受け入れる。
会議が無事終わってさわやかな気持ちだったが甘ったるいパンケーキの匂いとサウザーの暴言に水を差されてしまった。仕方ないからソーダを頼もう。勿論、バニラアイスの載ってないやつを。
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