コメディ・ライト小説(新)
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- ちいさないのち
- 日時: 2022/05/28 15:19
- 名前: 月雲 瑠依 (ID: Ryt8vfyf)
目次
注意喚起&1話はこちら!目次の下
1話→「やっと、ままにあえたね」
>>1「ぼくの宝物」
>>3 巫の少女
>>4「ゆうきの おにいちゃん」
>>5「ミライ導くキーボード」
>>6「狂い狂われmarionnette」前編
>>7「狂い狂われmarionnette」後編
>>8「あなたの宝物」
>>9「きずな 十人十色」
>>10「愛らしい 少女」
>>11「凛々しい 少年」
>>12「また あした」
>>13「運命」
※まだ投稿されておりません、暫しお待ちくださいませ
・誤字脱字ある、かも?
・台詞は殆どありません
・心が温まる!を目指してますが、そうならなくてもごめんね!
・更新頻度は速かったり遅かったり…生活に負担にならない程度に進めていきます
・3話辺りから暗い悲しい、黒めなシーンが出ます。苦手な方はバックをお願いします
「やっと、ままにあえたね」
わたしはもうすぐうまれる。もうすぐ、もうすぐ、ままに会えるんだ。はやくままに会いたいな。
わたしは早くままに会えるのを楽しみにうまれる為の準備をしています。いますぐにでもいいんだけれど、もう少しまっていてほしいから、わたしたちはその存在に気づいてもらうには「ちいさないのち」
けれど見えていないだけでほら、貴方にもいる、そのいのち。わたしがままの元へ行くための準備をしているあいだに、キミには、この日記を読んでるキミには、お兄ちゃんがうまれたときの様子をみせるよ。
ままのお兄ちゃん、それが今回のもちぬしさん。だからわたしのお兄ちゃんにもなるんだね。お兄ちゃんはキーボード。ままのお兄ちゃんが大切にしてるキーボード。
昔、その昔、ままのお兄ちゃんが5歳のころ、お誕生日にもらった、キーボード。ままのお兄ちゃんは今年20歳になるんだけどね、今でも大切にしてるんだ。この子供用の音の鳴らなくなってしまったおもちゃのキーボード。ままもそのキーボードで遊んだ事があるって言ってたけど、あまりおぼえてないみたい。そんなキーボードがわたしのお兄ちゃん、大好きなお兄ちゃん、お兄ちゃんがうまれたとき、その時はキーボードの音が鳴らなくなったその瞬間。
音が鳴らなくなったって、ままのお兄ちゃんはそのキーボードをもちつづけた。そもそも音の鳴らないキーボードって、楽器としてダメダメだよね。そのせいなのかお兄ちゃんもダメダメな時がある。でも、ままのお兄ちゃんを支えていただけあって、お兄ちゃんは強いんだ。そんなお兄ちゃんを私は大好きです。ままと同じくらいに。はやくままに会いたい。
ーねぇ、キーボードくん、君は音が鳴らなくたってずっと『なかよし』だよ?ー
お兄ちゃんはままのお兄ちゃんのこの言葉に涙を流した。そこからこの2人は、時々、たまに、ほんの少し、ちょっぴりだけ、意思疎通ができるようになりました。
そう、自分が大切にしてたキーボードに「ちいさないのち」が宿っていた事に気が付いたのです。ままと私もこんな風になれたらいいな。さぁ、うまれる準備ができました。会いに行こう、ままに。はじめまして、まま!
ー私はパスケースのつくもがみー
もちぬしの名前はるい。
るいちゃんは遠くに出かけるのが好きだから、パスケースの私も大事に大事に扱ってくれたんだね。バスに乗る時、電車に乗る時、ピッてすると私の中のカードにあるICチップが動く。すると私の心もゆれ動いて私を使ってくれてると、少し心が温まってきもちいい。るいちゃんと出会い会うことが出来たのは彼女が中学生の時。そこからは高校に上がっても毎日いっしょ。塾へ登塾する時もそう。
こころ、ゆれうごく。
でも学校でも塾でも旅行でも、ずっと一緒だったけど、仕事を見つけて暫くしてから忙しくなって旅行へ行かなくなりました。
恋人と結婚して、子どもができて、本当のママになったんだ。私のこころはゆれ動く、不安、ふわふわふあん、安心の中で不安。
でもでもままは、その旦那さんと幸せいっぱい。だからやっぱり安心です。これからも、ままを、いいえ、るいちゃんをしあわせにしてあげてね。彼女は照れ屋だから言わないけど、本当はいっぱいかまって欲しいと思ってるの。心から愛しているの。私がままを好きなように。
ままの中からは「パスケースの私」は消えていってる。だから私も消えゆく。
私のこと、無くしてしまうのかな。捨ててしまうのかな。けど、けどけど忘れないで私はずっとそばで、るいちゃんを見守っています。るいちゃん、今までありがとう。
さようなら。
つくもがみは大切なものの愛のあかし。
証だから、見えなくてもそばにいる。この日記は沢山の人の心。あなたの物語もあるかもしれない…それではまた会える日を願って。
- Re: ちいさないのち ( No.3 )
- 日時: 2022/02/18 18:24
- 名前: 月雲 瑠依 (ID: Ryt8vfyf)
私は巫。
ここで働く巫。アフリカで言うシャーマン。
私にはチカラがある。霊を観るチカラが。
人間に最も身近な存在である霊的異物って何だと思う?それは付喪神だよ。
私は嫌いだ。この忌々しい存在が。
私は嫌いだ。人間を脅かすお前が。
私は嫌いだ。巫が、この私が…。
私は嫌いだ。この世の理から外れたお前たちが。
だから。だからだからだから…
この日記を書こうと思う。消えそうな付喪神と、そのもちぬしを追った日記だ。
いや、記録手帳と呼ぶべきか。
だが、一応のため日記と記そう。
今回追ったのはパスケースの付喪神と、もちぬしのるいさん。
付喪神とるいさんはお互いを信頼して愛し合い、育っていた。
けど、るいさんは最愛の「人間」を見つけたから付喪神を捨てた。
捨てられた付喪神は付喪神で、るいちゃんが幸せならそれで良いって感じで消えるし…
ほんと、追ってきた私の身にもなってくれない?って言いたいとこだけど、消えかけ付喪神を追いたい私には好都合ってワケ。
でもこれじゃ、私が悪役みたいね、そうだ、この日記は付喪神って存在を広めるためのものだと偽りましょうか…ええ、そうしましょ、それがいいわね!
てな具合で、るいさんとその付喪神には説明してこの日記の1ページ目ができたってわけ。
次は誰を追いましょうねぇ…?もうすぐ消えそうな付喪神、そうねぇ?この日記を読む君たちもどーせ好きでしょ?…そう、その存在は必ず物語には付き物。いいえ、彼女を追うのはもう少し後。今はそうね、るいさんの兄でも追ってようかしらね?たしか、キーボード。
じゃあそうしましょ、そうするべきね。
さよなら、キーボードの付喪神。
さよなら、人間をおびやかす付喪神。
さよなら、巫のチカラ、今の私。
さよなら、此の世の理から外れた付喪神。
巫の力が私を巡る、一部の巫のチカラが抜けて消えるのを感じる。
このチカラが無くなれば私もきっと元の清い存在になれる。
あんな忌々しいモノを見なくて済む。
あぁ、付喪神。お前は何故、存在、何故、姿を表す。
何故その姿を私に晒す。裏切ったのはお前たちだろう?
私から、恋人も、家族も…仲良しも!奪ったのはお前。
だから罰せられるべきなのはお前たち。
だから消えそうな付喪神を追って日記に記す。
消えそうな付喪神はキーボードの付喪神のようにチカラを操り消す。
そうして付喪神たちの贖罪、この彼らの生命を生贄にした贖罪が完成するのだ。
ふふ、私は悪役なんかじゃ無い、正義の味方。るいさんも、付喪神に騙されていたから救った、それだけなのよ。
…決して、悪役なんかじゃ、ないわ。
この日記を読む人には危害を加えない。付喪神の恐ろしさを伝え、広めてくれるなら私は大歓迎だわ。
……だから、もう少し付き合って頂戴、あなたには、不利益なんかにならない、させない。
古から伝わる巫のチカラで、あなたが死んだその時に、幸せの楽園へ導くから。
だから見てて頂戴。付喪神の贖罪を。悲しい私の物語を。
- Re: ちいさないのち ( No.4 )
- 日時: 2022/02/19 09:41
- 名前: 月雲瑠依 (ID: Ryt8vfyf)
「ゆうきの おにいちゃん」
出逢いは彼が5歳の時。巡り、めぐり、巡り会う。
キーボード。5歳の誕生日プレゼント。巡り逢う。
出逢いは春。運命られた私と彼の軌跡の物語。
悠輝くん、それが私の、このキーボードの付喪神の愛するもちぬしの名前。
ー悠輝くん、誕生日おめでとうー
お母様のそのセリフと共に彼の手に渡された物こそ、この私、キーボード。悠輝くんは私を気に入ってくれたようで。毎日毎日使ってくれた。
最初はチューリップのような簡単なものから。次第に悠輝くんの成長と共に弾ける楽曲数も増えていった。
その度に悠輝くんからの私への愛も、私からの悠輝くんへの愛も、溢れていく。
悠輝くんとは沢山の愛を育みました。
楽曲を、私の身体を通して。
彼はいつしかピアニストを志しました。キーボードとは似て非なるもの、ピアノ。
バンドとかなら分かるけど、なんでピアノなのかはちょっと気になる。…でも、ピアニストになる事を志したからでしょうか。
少しだけ、ちょっぴり、意思疎通ができました。とても嬉しい出来事なのです。えへへ、これからもこうして一緒に……。
ある日悠輝くんとこころを繋げながら、絵本を読んでいました。それはたしか…10歳の頃だったような…?
その絵本には幸せになる方法が描かれていました。私たち付喪神の存在も明記されてて。
………幸せの日々は崩れ去る。
………幸せな時間は戻らない。
………幸せって、何だろうか。
………幸せ、愛、キセキの印。
………幸せを求むは、私の心。
愛し愛される事だけが"それ"ではない。本当に愛してるの?愛されてるの?
幸せになる方法、教えます。
付喪神。"それ"を壊しゆくモノたち。
____________________
愛。愛。幻想。幻。幻。泡沫。夢。
崩れ去る。泡のように。いつか消え去る。
儚いものだ。その存在は形を留められない。
____________________
私は危惧しました。危険を感じました。
あの巫の少女…様子がおかしい。
巫ってあんなものだったか…?あのチカラ以外は普通の少女と変わらないはずなのに。
いいえ、放っておいても良いでしょう。だって私には悠輝くんがいれば良い。
音を奏でられなくなった私。壊れ狂った私。…それでも、でもでも、愛し続けてくれたのは悠輝くん。
だから…私もそばに居て守り続けるわ。
…
……
………
…………ゆうきくんっ…!
時は流れゆく。時代は移りゆく。
悠輝くんはもう25歳になる。
嗚呼、この空はなんと素敵なんでしょうか。私の心は空っぽになってしまった。
この、空の蒼を心にいくら詰め込んでも…私の心は空っぽだ。私のもちぬしは…いない。
だから私、もうすぐ…。
この…美しい蒼を、私の愛した人と…
見たかった。
私は消えない…まだ…だって…
るいちゃんがまだ、そばにいる。
るいちゃん、見捨てないで、お願い…
アナタの兄のように捨てないでっ!
私!アナタのパスケースの付喪神と違ってまだまだ働けるわ!……いいえ、無理もあるよね…私、もう…音を奏でられない。
やっぱりいい。私、消えるわ。
ありがと、ごめんね、るいちゃん。
…だけどせめてお願い。るいちゃんにも幸せになってほしいけど…あの子も…悠輝くんも幸せになってほしいの。
だからたまには彼の事見守っててほしいなぁ、だなんて…思ったり…してるわ…。
私は消えゆく。消え去っても日々は変わらない。この世で誰かが死んだって、日々が変わらぬのと同じ事。
私の心は空っぽ…身体もからっぽ。
あたまもからっぽ。
あいして…くれて…あり………と…。
ゆう……く………ん……。
私が消える時、チカラを感じた。
いつか一度出会った、巫の女の子のチカラを、微かに。
…けど、神様のチカラも感じていた。
………巫の子に…憑依でも……してたのかな。
付喪神は光の粒子となり、天に姿を隠した。
こうして1人。また1人。付喪神が消えた。
愛に依存したキーボードは可哀想な結末…だと思う?ねぇ、蒼空の元逝けるのは名誉あることよ?巫の私があなたも、いつか導くわ。
この日記を読み、悪魔について周りに広めてくれるならね。
…キーボードの付喪神が、私の事に気づきかけたのは焦ったけど、無事に他の人に伝わる前に消せてよかったわ。
さぁ、早く次を巡りなさい。次のページへ進みなさい。今は見えずとも、いつか開かれるわ。この物語の最終回まで。付き合って。
- Re: ちいさないのち ( No.5 )
- 日時: 2022/02/22 08:11
- 名前: 月雲 瑠依 (ID: kDko/hPR)
「ミライ導く キーボード」
ーわぁ!おかーさま、ありがとう!ー
その日は5歳の誕生日の時だった。お母様から頂いたのは誕生日プレゼント。母との思い出の中で1番大切な記憶。
そのキーボードは身体が黒で、白色の鍵盤を目立たせる、少しシンプルなデザインのものだった。
見た目がシンプルでカッコいい。そんな単純で子供らしい理由で、俺はこのキーボードを毎日弾くようになった。
新しい曲が弾けるようになる度。
新しい音を紡ぎ出せるようになる度。
俺はこのキーボードと心と身体が一つになって恍惚とする。
優しく、美しく、綺麗な曲を奏でられる度。
難しく、厳しく、大変な曲を奏でられる度。
俺はこのキーボードと成長して、覚醒てゆく。
気がつけば将来の夢はピアニストになっていた。何故バンドマンじゃなくピアニストなのか。それはきっとピアノの音色に、心奪われた。そんな事が理由だろう。
俺には妹がいる。可愛くて愛らしい。
一人旅が大好きで、ちょっとおっちょこちょいで、照れ屋な可愛い妹。
そんな妹にも、俺にも、共通点がある。
親が一緒、とかそんな当たり前な事じゃなくてだな…
共通点「ちいさないのち」のもちぬし。
共通点「ちいさないのち」が大切という事。
俺が20歳の頃だ。
妹は成人の歳である、18で結婚し外の世界へと旅立った。
妹は20歳になる前に子供を授かっていた。
少し前の成人の歳。
妹の娘は翠彩。妹の大切にしていた翠彩のパスケースの色と同じ。つまりは自分の大切な「ちいさないのち」と同じモノを最愛の人との愛の結晶に名付けたわけだ。
何故その名前にしたのか。俺には分からないが…きっと俺と同じ理由…。付喪神が原因。付喪神を好きだから。
付喪神。古来より日ノ本により伝わりし妖怪。妖。もののけ…。
大切なモノに宿りその命の花を咲かす。
妹、るいのパスケース。
兄、悠輝のキーボード。
そのふたつに宿しは付喪神。
気がつけば俺はもう24になってしまった。
ずっとピアニストとして世界を旅し、コンサートを開き、音を奏でる。
でも…25になる頃だろうか。
ある日何もかもが嫌で嫌で仕方なくなってしまった。…あの、キーボードでさえ。
大切な、キーボードでさえ。
捨ててしまったんだ。
…
……
………
…………
嗚呼、この空はなんと素敵なんだろうか。俺の心はからっぽになってしまった。
この空の蒼をいくら心に詰め込んでも、俺の心はからっぽだ。俺はもうもちぬしじゃない。
…キミを…裏切った…情け無い俺。
あぁ、河川敷で光の粒子がチラつく。その粒子を見ると空っぽの心は満たされた。そして涙溢れる。きっとあの光の粒子はキーボード。
俺のキーボードの付喪神。
俺の愛した、あの付喪神。
キーボードを裏切る憐れで惨めはこの俺で。
ぁ…光の粒子が舞ったところにいるのは…妹のるい…。
るい、るい…あの光の粒子を!この空の蒼に届けないで!捕まえて!俺の…元に…。
ごめん、諦めるよ。
…人間の感情には27種あるらしい。その一つが"諦念"諦めの心。
俺は諦める。無くした付喪神はもう帰ってこない。
潔く諦念しよう。傍観しよう。
諦めはひとつ。またひとつ。俺を成長に導く。
諦めはひとつ。またひとつ。俺を後悔に導く。
嗚呼、綺麗だよ…付喪神よ。
次はもっと幸せになってほしい。…俺以外の誰かと。____愛してる。
諦念。諦め。言わば人間が救済されたいがためにうまれた概念の一つ。自身を守る手段の一つ。
ああ、あんなに心通わせ意思疎通をしていた俺たちは、どこで間違えてしまったんだろうな。きっと俺のせい。ただの一瞬の気の迷いのせい。
すまない、付喪神よ。
大好きな、付喪神よ…。
俺の宝物、付喪神よ……。
……俺は神社の境内で、1人の巫の少女が、こちらを見ているのを、今は…まだ、知らない。
こうして1人。また1人。
消えゆくは愛しい付喪神。
こうして遠くから見つめるだけでこの兄妹とその付喪神たちには呆れさせられるわ。
この2人の付喪神を消すだけで5年も月日が経ってしまった。お陰で私はもう18歳よ?
はぁ…まぁいいわ、この間にも着実に、決定的に、悪魔の贖罪という名の刑罰の準備は進めた。
次はどの子にしましょうね。
次は____の付喪神。
キミに決めた。だって、あなたの付喪神、とても輝かしい。
だから…消すの。これも贖罪、運命付けられたのは、____の付喪神。
私は悪役なんかじゃないの。だって、だって、当たり前な事をしているわ。
私は正義。だから間違えたりしない。こうして悪を祓うは神様の力。
神様の依代の私は抵抗せずに受け入れる。
大嫌いでそれでいて愛しい。嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い。大好き。
愛しい私の神様。あぁっ…神様を受け容れるこの快感っ!私の中に神様が溶け込むの!
あぁ…ゾクゾクするぅ…。
私の嫌いな、この力に支配される。
その快楽がとてもとても…
大嫌い。
- Re: ちいさないのち ( No.6 )
- 日時: 2022/03/03 11:37
- 名前: 月雲 瑠依 (ID: 3nvfRNC5)
「狂い狂わされmarionnette」
前編 巫の乙女が狂う舞い踊る時
マリオネットのように。
狂う、踊る、踊られ、狂わされる。
ひぃ…ふぅ…みぃ…あれ、1つ茶菓子が足りない。これ絶対食べたのは麗華だ。
ここ、人の家だよ!?…私の家なのにっ!
茶菓子を買い直し…。
彼女を呼び出すと白状した。
どうやらお琴の練習の合間に1つ、食べたらしい。このお饅頭、確かに美味しいんだけど。でも食べないでよね!
そして麗華はこう言い笑う。
ーお饅頭が食べてって言ってたのー
なんじゃそりゃ…でもそういうところが彼女の気さくで親しみやすいところのひとつである。まぁイラっとくる時もあるには有るけどなぁ…。
これはそんな可愛らしい麗華が狂い狂わされてゆくお話。
両親を巫覡として持ち、娘の自分もその身を神に捧ぐ巫…アフリカやシベリア、モンゴルなどではシャーマンという。そんな少女の物語。
____________________
学校遅刻だ。やらかした。完全に夜中まで、ずっとマイ筆を愛でてるのが悪かった。
私は麗華。家は神社、職業は学生と巫。…とは言えども御琴や舞なんかの練習で忙しの見習い。自分で言うのもだけど、明るい性格…だと思ってる。
年齢は…12歳。ちなみに小学生。
まだ若いでしょ?この翠彩のランドセルが似合うの!…ちょっと角の辺りとかボロボロだけど。
お気に入りのモノは御習字の時に使うこの筆。いつも一緒だ。
今日も変わらない日々。舞の練習、お琴に…生花…茶道もある。部活なんてせず即帰宅だ。今日は筆を愛でる時間もないだろう。
そう思ってた。今日は、違ったんだ。
筆。私の大切な、筆。
「それ」からなんだか声がした気がした。
ー麗華ちゃん、麗華ちゃん!ー
ふぇぇ、わたし?…
ー私は筆の付喪神ー
それは突然の出会いでした。
私の大切で愛する可愛い女の子の付喪神である筆の付喪神。私は今はまだ、その裏切りを知らない。筆と意思疎通でお話しが出来るようになってからはそちらに熱中していました。
そもそも神様をその身に宿す。
そもそも神様にその身を捧ぐ。
それが巫の役割。それが巫の使命。
だから私の神様にも、身体を差し出すまでは仲良く、時には友達のように、時には恋人のように関わり続けました。
でも。
舞わなくなり。琴を丁寧に扱わなくなり。
生ける花は千切り。湯呑みは割るという。
そんな生活にもなってしまいました。
付喪神の筆がいたせいです。そのせいで、早く会いたくて疎かになってしまったのです。
でも、何一つ悪い事だとは思いません。
だって私、神様とお話ししてる!
そんな春の日々。桜咲く出逢い。
ある日、お稽古の一環で、俳句を詠みました。
【花咲きし 桜見ゆるは 出逢いの日】
…あまりお上手ではありませんが。
様々な花が咲き、春の花の代表格である桜。
その桜が見えたら4月になる。4月は出逢いと別れの季節。新たな出逢いに…。
新しい出逢いは筆の付喪神。
新しい夢の時は筆の付喪神。
退屈だった、刺激の無い日々は見事に覆りました。お稽古で日々忙しく、友達が居なかったのもありましょう。
私は浮かれていました。今考えると、この身捧ぐ相手にこれだけ気を許す自分が馬鹿馬鹿しく感じます。
…その楽しい日々は長く続きませんでした。
真夜中。
ガラスの割れる音がしたので私は××へと向かったのですが、そこにいるのは…
いえ、そこに「ある」のは…
私の筆。つまりは筆の付喪神でした。割れたモノは壺…。
この壺はとある霊が封印されていたモノ。私と同じく巫であった母がその身を犠牲にし、封印したもの…。
…付喪神の裏切り。
そう言うしか無いのだ。嗚呼、呆れさせるわ…この私に。付喪神に。
この霊がこの現に呼び覚まされた事で危険に晒される事になったこの世界。
それを救う為にその身を犠牲に晒したのは私の父親。それで両親は居なくなった。
そうその時は13歳、まだ中学2年生。まだ幼く、この世の理も理解できていない幼子の復讐劇の始まり。
ねぇ…わたし、どうしたらいいのかしら。
嫌いで大好き…でもやっぱり嫌いな付喪神。
好きで好きで好き、でもでも大嫌いになってしまった、あの…付喪神。大切だった筆の小さな神様。
私のそばに居る「ちいさないのち」
壺が割れた時、封印が解かれた時。そのチカラのせいか、消えてしまった私の筆の付喪神。
あの子の代わりになる、制裁を。
付喪神の贖罪。大好きな大嫌いな、あの子のために。
この世の中に溢れる付喪神の贖罪は私の手で、今…始まるの。今…始めるの。
- Re: ちいさないのち ( No.7 )
- 日時: 2022/03/11 11:21
- 名前: 月雲 瑠依 (ID: Ryt8vfyf)
「狂い狂わされ marionnette」
後編 覚醒の巫女が狂う、舞い踊る時
付喪神による贖罪。
そうは言えども何処から始めたら良いかなんて解らない。だから神様、私の家の神様に頼る事にした。
神様はこの話を、贖罪の話を聞くと、豪快に笑った。この声に、この笑顔に、ドキッとした。筆の付喪神と出逢った時とは違う。…このドキドキは何?
この神様の為に頑張りたい、この神様の言う事なら何でもしたい。この身を捧ぐ神様は彼が良い。そう、思ったの。
愛しく感じた神様に、私は聞いた。どうしたら付喪神たちの贖罪を手伝えるのかを。
聞いた。この身を捧げ、契りを交わす事を条件に…。
そういうことをするのは初めてだからとても恥ずかしかったけど、愛しい神様となら構わない。
付喪神の贖罪を手伝う。それは神様のチカラを借りて、誰がもちぬしか、判別をする、更に必要とあらば、チカラでもちぬしと付喪神の仲を良く無い方へ導くキッカケをつくる。
そこからは少しずつ私が関わり仲を引き裂いてゆく。
関わる方法は、日記を書く為の取材という事にした。取材ならば、付喪神の話を聞けるし、言っても何ら問題はない。
更に、日記を付喪神を広める為と言う。
付喪神がどれほど悪いモノなのか、知らしめる為に使いたいから偽りなど無い。
こうする事で私も。付喪神も。神様も。
みんな幸せになる。そう思ってはじめたのがこの日記を書き上げると言うものだ。
書き始めて2日ほど経った頃だろうか。
見つけたのが「るい」という名前の少女。
もうひとりが「悠輝」という名前の青年。
彼女は、彼は、兄妹。
るいという少女はパスケースを。
悠輝という青年はキーボードを。
付喪神をそのモノに宿し、少女は「なかよし」として青年は「こいびと」として親しみを込め大事に扱っていた。
特にるいちゃんは私と年齢があまり変わらない。そう、るいちゃんも中学2年生。
兄はたしか…大学2年生だ。20歳になる。
るいちゃんは今年からもちぬしになった。
…兄はもちぬしになって、10年近く経つ。確か小学5年生の時、付喪神の存在について気付いたという。
私の神様は言う。
付喪神の存在について気づく人間は少ない。だから兄妹揃って気づいたという事は何かしらのチカラがあるという事。
特に妹はチカラを強く宿している。
……どんなチカラかは、神様にも分からないようだ。
るいちゃん本人もその自分のチカラについて気づいて居ないようだ。だが、悠輝お兄様は気付いているように見える。
どうやってこの兄妹の付喪神の贖罪を手伝おうか。神様と繋がり、チカラを注いでもらう事にした。
私のこのチカラと神様のチカラできっと平和に導いてみせるわ。私ならできる。
この私が、付喪神への憎しみと愛がある私が。
…いいえ、私だからこそ、やってみせるの!愛しい付喪神への…愛しい付喪神への私からのプレゼント…。
だって、確かに楽しくて幸せな時間を届けてくれたのだって、確かに悔しくて辛い時間を届けてくれたのだって。
全て全て付喪神。
ふわふわ。
ふわふわゆれる…こころゆれる。
ふわふわふあん…。
このミッションを完遂させられるのだろうか。不安だ…ふわふわ不安。
私が私じゃなくなってゆく。
華道やら琴やらに精を出していた時代はどこ?筆の付喪神と一緒にバカな事を言って笑い合ってた時間はどこ?
私何処からこんな壊れたの?
私何処からこんな狂ったの?
神様と交わる前なら戻れたけど今更は無理だから。
…だから。だから。
やっぱり…この日記を完成させる事。付喪神の贖罪を手伝う事。
この2つが私のやり遂げ無ければいけない事だって思ってる。
だから、見守っていてね。この物語を見守るあなたなら、私の事、分かっててくれるって、そう信じてるから。