コメディ・ライト小説(新)

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ヨイヤミ
日時: 2022/03/05 18:28
名前: むう (ID: 0Es57R/Q)

 「宿泊料は、『あなたのなかのナニカ』を頂戴します」
 ―--------------
 夜の闇に呑まれた不思議な町、宵闇よいやみ
 提灯の仄かな灯り。頭上に怪しくきらめく星々、そしてどこか影を残す人々。
 あなたもいずれ、この夜の匂いに慣れてくるでしょう………。


 ★自己紹介★
 こんばんにちは、むうと申します。通信制高校に通う1年生です。
 二次創作(紙ほか)版でろくきせシリーズや、コメディのほうでいろいろと書いていた人です。
 ここ1,2年は忙しくあまり小説執筆が出来ませんでしたが、ようやく時間が取れましたのでぼちぼち上げていこうかなあと思っております。よろしくお願いします。


 ★注意点★
 こちらの小説は、自分の1次創作をSNSで参加者様企画にしたのち、主催者である私がそれをもとに小説化したものです。なので、参加者様のキャラクターも数名お借りしてお送りいたします。(事前許可をとらせてもらっています)
 ご覧になる場合は、参加者様のキャラクターおよびこちらの作品に誹謗中傷など、不快な思いをするコメントは控えてくださいませ。

 それでは、愉しい夜の街へ。

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 ◆本編◆
 □第1夜:ヨイヤミ
 第1話「出会い」>>01>>02>>03
 第2話「対価の支払い」>>04>>05

Re: ヨイヤミ ( No.1 )
日時: 2022/03/04 14:36
名前: むう (ID: LGYhX5hV)

 カツンカツンと、かかとの高い靴が響く音がして、僕はうっすら瞼を開けた。
 虚ろな視界の奥で、何かがちらちらと動く。あれは何だろうか。
 身体が重たいが、動かないことには何も始まらないのでゆっくりと起き上がる。制服についた埃を払い、改めて周囲を見回した。
 
 暗い。
 それが、この場所に対する第一印象だ。
 街灯もなく一面が闇に閉ざされている。上を見上げると、宙には無数の星。
 右横を見やるとどうやら駅のホームで、線路に停止している電車にもうっすらと汚れがついている。廃車なのだろうか。人気は全くない。

 そもそもここはどこなのだろう。体感、この場所の時刻はかなり遅い。深夜を回っている。
 おかしい。学校を出たのが午後四時くらいのはずだから、寄り道をしたとしてもそこまで遅くなるはずはない。
 たとえ、今日が期末テストで六時間目が国語だったからと言って、疲れて時間を忘れるほどじゃない。

 考えられる状況は二つ。
 単純に僕が移動中にうっかり寝てしまって、気づいたら夜だったパターン(いや全く笑えないのだけれど、あくまで可能性の一つだ)。
 二つ目はあまり考えたくはないのだが、本来行きつくべきではない場所に迷い込んでしまったパターン。

 アニメや漫画、ゲームに毒された15年の人生。一応ある程度のホラー耐性は取っている。
 異世界転生とか、タイムリープとか、そういう設定も頭に入っているし、このあとは大体お決まりの美少女が助けてくれるシチュエーションだってちゃんと覚えている。

 ただ仮に自分が異世界転生、または異世界転移したとして……最初の舞台にしては華やかさの欠片もないな。
 田舎のコンビニの駐車場なみに駅の駐車場は広いわ、人影はないわ、明かりもないわ……。そして初期装備は、学ランにリュックサックというありさまだ。
 これで戦えったって、無理な話である。

「………まあ現状はまだよく分かんないんだけど……」

 いや、戦えるかの話に関してみれば僕はキックもうまく当たらない気がする。
 クラスでも机でひたすら絵を描いている、地味な人間だ。得意教科が美術で苦手教科が体育。運動が無理なら他の勉強なら得意か、いや、主要五科目どれも毎回平均点以下。

 そのうえ名前が田中たなかたいらである。あんまりじゃないだろうか。
 日本人で最も多い苗字の次くらいに多い田中プラス、平凡という意味の平だ。そりゃ平べったい人生も仕方ないか。

「………はぁ」
「………これで98人目か」

 ため息をつき肩をおろしたのと同時に、涼やかな声音が聞こえてきて僕は思わず振り返る。
 誰もいないと思っていたのに人がいたとは。さっきまでの独り言を全部聞かれていたという事か!? いくらなんでも恥ずかしすぎる。

 目線の延長線上に一人の少女の姿があった。青みがかった黒髪をボブカットにしていて、紺色のパーカーを着ている。目は若干吊り目で、冷静な様子が伺えた。
 女の子は右手に持った手帳にペンで文字を書き記しながら告げた。

「初めまして。ヨイヤミへようこそ」
「………は?」
「まあ最初は誰も同じ反応をなさいますから、少しずつ説明していきますね」

 聞きなれない単語に首を傾げた僕を、さらっと受け流す。ずいぶんと手慣れている。
 女の子は顎に手をあてながら続ける。

「ここはヨイヤミという町になります。私は、涼代碧芽すずしろあおめといいます。来訪者様に毎回説明をしている者です」
「………ヨイヤミ、町?」
「はい」

 そんな町、市内ににあったかな。見たことも聞いたこともないぞ。
 記憶の棚を漁ってみても、そのような名前の町は覚えていない。耳に残りやすい、語感が良い名前だ。一度聴いたら忘れない気がするが、市内にも日本にも、ヨイヤミなんて町はない。

「もしかして、ここは海外デスカ?」
「あなた頭おかしいんですか?」

 碧芽から向けられた視線は軽蔑だ。
 僕のこの一言で、彼女の自分に対する初対面の印象はいっきに下がったも当然だろう。
 僕は冗談ではなく、本気で言ったのに。この現状をいち早く理解しようとして口から出たのが、たまたまあの言葉だっただけだ。そんな目で見ないでくれ。

「ヨイヤミは日本にあります。どこにでもあって、どこにもない町です」
「………は?」
「普通の人はこの町の在処ありか、行き方も知らずに生きていきますが、ごくまれにこの町に辿り着ける人がおられるのです。貴方みたいに」
「………うぅん?」

 どこにでもあってどこにでもない町? それは人間の記憶が作りだしたとかそういうこと?
 だどりつける人が限られてるって、福引の当たりみたいなもん? それに当たったと?

 煮え切らない態度にしびれを切らしたのか、碧芽はふうっとため息をついて、さっきよりもより強い口調で言い放つ。

「貴方は今までお会いした方の中でもダントツに物分かりがひどいようですね」
「逆にみんな飲み込み早いの!?」

 あり得ないだろう。ヨイヤミ町に迷い込んだ人間は、みんなアニメやラノベに精通していたのか?『ここはヨイヤミです』『あなたは無事辿り着けました』と突然言われても、「ああラノベで読みました」「そういう設定ですね」と素直に納得できる人がこの世に存在するのか?

「………いえ、ただいつもは先輩が一緒に説明をしてくださったので、時間短縮ができただけです」
「はぁ」

 二人いたところで、僕の反応は変わらないという考えは心の中にしまっておく。
 数秒前に向けられた冷ややかな眼差しに、背筋がゾッと凍ったからである。もともと女の子とさほど会話しない立ち位置である。あんな、魔王のような態度とらなくたっていいじゃないか。

 碧芽はまだ、むずかしい顔をしている。仲良くするのはなかなか難しそうだ。
 しかし説明が丁寧で要点が整理されている喋り方から、きっと真面目で心優しい性格だということは理解できる。
 ちょっと触れてはいけないところに触れてしまっただけで、少し経てばまた調子を取り戻してくれるはずだ。

「まあ、来られたばかりなので仕方ないですね。おいおい慣れていただければ」
「そ、そう、だね?」

 予感的中。

「つきましてはこの資料を確認したのち、そこの欄に指名の記入をお願いします」
「偉い本格的だな」

 手帳に挟んでいた二枚の紙を渡され、文字の細かさに「おうっ」という変な声が漏れた。
 来訪者……というのが何歳対象なのか知らないけれど、年齢を問わないのであれば、ご老人は髪に顔を近づけながら読まないと内容を把握できない。
 それくらい小さい、ゴマ粒みたいにつらつらと文字が並んでいた。

 【来訪者様へ】
 ●この町には朝がありません。暗いのは目をつぶってください。本気でつぶってください。
 ●この町は好きなようにお使いください。飛ぶなり走るなりバク転するなりご自由にどうぞ。
 ●町の中央に交流所がありますので、宿泊や娯楽はそこをご利用ください。地べたで寝る人もいましたが次の日風邪ひきましたので、寝る場所は選んでください
 ●朝7時になると、強制的に元居た場所に帰還されます。その際、ヨイヤミのことを喋ってはいけません。喋ったらおしりぺんぺんしたのち、しっぺをします。

「なんだろう………面白いと思って行った映画が全然面白くなくて、上映中真顔でスクリーンを眺めた時のような…………何とも言えないむなしさがここに」

 
 


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