コメディ・ライト小説(新)

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本好き聖女の異世界生活
日時: 2022/04/19 22:05
名前: もちもちもっち (ID: bSLQhqZo)

【あらすじ】
生前のあだ名は「図書館」
本を愛し、好奇心のままに突き進み、本に埋もれて死んでしまった少女・神崎美玲かんざきみれいは、死後の世界で神様と出会う。
そして「とある特典」をもって異世界へと転生し、気ままな異世界生活が始まる。

*:..。oƒ *:..。oƒ *:..。oƒ *:..。oƒ *:..。oƒ

よくある異世界転生物です。
少しでもお楽しみいただければ幸いです。

プロローグ ( No.1 )
日時: 2022/04/20 10:29
名前: もちもちもっち (ID: sRcORO2Q)

 気付いた時には、知らない世界に立っていた。
 どこまでも続く真っ白な世界。何も無い空間。そこに、私は立っていた。
 なんでここにいるのか、ここはどこなのか、全くもって検討がつかない。……そもそも、私は誰だっただろうか?
 真っ白な空間に溶けるように、全てが曖昧になっていく。体も、意識も、自我さえも。
 このまま溶けて、ひとつになっていくのかな…それもありかもしれない。
 目を瞑り、穏やかな幸福感に包まれ、その曖昧に溶ける感覚に身を委ね…ようとしたその時。

「眠らないで。目を覚まして」

 不意に、幼い少年のような声とが聞こえてきた。
 その声に引き戻されパッと目を開けば、そこは先程とは打って変わって、神秘的な…黒い空間に青い光が無数に浮かぶ、これまた果てしない世界だった。
 その中の、ひときわ強く輝く光に惹かれ手を伸ばすと、再び少年の声が聞こえた。

「あぁ、触らないで。ここにある光の一つ一つに、世界が入ってるんだ。壊れたら困っちゃうよ」

 そう言ってどこからともなく現れたのは、光と同じ青い髪に鮮やかな緑の瞳を持った、美しい少年だった。
 少年がこちらに向けて歩けば、青い光が弾かれたように広がり道を作る。それはまるでモーゼのようで、不思議と神々しさを覚えた。
 ゆったりとした歩調でこちらへ向かってきた少年は私の前まで来ると足を止め、緩く微笑む。

「初めまして、神崎美玲さん。僕は魂を司る神、アレス。よろしくね」

 そう言って少年──アレスは私に手を差し出し握手を求めた。
 私はそれに応え、あぁなるほど、と一人納得をする。
 これは手の込んだドッキリ…もしくは、最近人気の「異世界転生前の神様との面談」なのだろう。希望は前者だが、名前を忘れていたことと言い自我のうすれるあの感覚と言い…可能性としては、きっと後者の方が大きいだろう。
 そう思案すれば、まるでこちらの心を読んだかのように彼は「その通りだよ」と笑った。

「申し訳ない。君は本当はもっと生きれるはずだったのに、こちらの手違いで寿命を残したまま死んでしまった。そこでお詫びとして、君に特別な力を与え転生させてあげよう!……っていうのが、ここでの僕の定型文。でも、本当はもっと色々あるからさ、その長話に付き合ってくれない?おもてなしはするからさ」

 少し申し訳なさそうな顔をしてそう言えば、彼はパンパンと手を叩く。すると光以外何も無かった空間に、オシャレなテーブルと椅子、そしてアフタヌーンティーのセットが出てきた。
 彼は椅子に座ると向かいの椅子を指さして、私に座るように促す。言われるがままに椅子に座れば、もはや驚くこともない、突然紙の束が現れ私の手元に納まった。

「それは、君に見せることが出来るギリギリの情報を束ねた資料だよ。それを見ながら、退屈をもてあました神の話を聞いてくれるかい?」

 空間に合わせてなのかは不明だが、鮮やかな青のお茶を淹れつつ、彼はそう言った。
 神様も退屈をするらしい。まぁそらもそうか、人気者の邪神様も退屈で人を弄ぶのだ、そういうこともある。

「人の話を聞くのは好きなので、いいですよ」
「ありがとう。君は随分と落ち着いていて、僕を受け入れてくれるんだね。とても嬉しいよ」

 嬉しそうに笑う彼は、外見こそ子供だったが、自分よりはるかに歳上なのだろうという思いを抱かせた。神を名乗るのだ、事実私よりずっとずっと、気が遠くなる程に年が上なのだろう。
 落ち着いている…と言われると、少し違う気がする。あまりにも現実離れしすぎていて、あまりにもこれが小説的で、まるで他人事のように感じているところがあるのだ。
 受け入れることに関しては、この状況が、多くの異世界転生小説で煎じられ続けただのお湯になった導入と同じだから。それにこの空間も、何も無い場所から出現する数々の品も、手品やドッキリにしては手が込みすぎている。
 ならばもう、認めるしかないだろう。自分が死んだのだろうという仮定を、彼が神だということを。
 実際にこの思考を口に出した訳では無いけれど、さすがは神様と言うべきか。まるで全てを見透かしたかのように「君ならそう考えると思っていたよ」と彼は言った。

「ひとつずつ説明していこう。ここは複数存在する死後の世界のうちの一つ。こちらの手違いで死んでしまった全ての魂が送られ、新たな道を選ぶ場所。周りにある光は僕が管理している世界で、壊れると世界が滅びるから、気をつけてね」
「そんな危ないものをここに置いとかないでくださいよ」

 世界が滅びる、と言われ、最初に手を伸ばした瞬間のことを思い出す。あのまま触っていたら、下手したら滅ぼしていたかもしれない…って事か。怖いな。止めてくれてよかった、まぁ移動する時は勝手に離れてくれるみたいだけど。
 というか、死後の世界…ということはやっぱり、私は死んだのか。でもどうやって死んだのだろう?生前のことも…あまり、思い出せないな。

「ねぇ、私って、どうやって死んだの?」
「うん。君は、本に埋もれて死んだよ。君の部屋にあった沢山の本たちが降ってきて、頭をぶつけて死んでしまった。………君が愛した本が死因になるなんて、皮肉だね」

 そう言われて、全てを思い出した。
 家族のこと、友人のこと、私自身のこと、そして…死んだ日のこと。
 あぁそうだ。私は神崎美玲、あだ名は、常に大量に本を持ってることから「図書館」。親は本好きの私の為に家にあった倉庫を改造して私の本置き場にしてくれて、友達は私の本にハズレはないとよく借りていた。何不自由ない、幸せな日々だった。

「全て思い出したみたいだね。ここは自動的に魂が浄化されるようになってるから…忘れていたのも無理はないよ」

 記憶を取り戻し溢れる涙には触れず、彼は優しく頭を撫でてくれた。その手が優しくてまた泣いて…親孝行が出来なかったことが悔しくて、悲しい思いをさせたことに対する申し訳なさにまた泣いて…泣いて泣いて、泣き続けた。その間彼は、ずっと寄り添い体を撫でてくれていた。
 ようやく落ち着きを取り戻したのは、かなり時間が経ってからだと思う。まだまだ思うことはあるし泣きたい気持ちもあるが、泣いてばかりはいられない。私は姿勢を正し、再び彼と向き合う。

「私は、これからどうなるんですか?」
「落ち着いたようだね、良かった。いいかい、君には今、3つの選択肢がある。資料を見てもらえるかな?」

 そう言われて資料に目を通せば、『手違いによる死亡者に与えられる選択肢』と書かれた項目が存在した。
 長々と説明が書かれていたが、要約するとこうなる。

1.『神の奇跡』を起こし、死んだ体に魂を戻す。但し一度死んだ体に戻すということは本来禁止事項である為、今までのように五体満足に過ごすことは出来ない。又場合によってはこれまでの記憶の全てが消える場合や、別の体へと入り込んでしまう場合がある。
2.死後の世界に留まり、神になる。年数が経てば力も徐々についてくるが、信仰心が得られないと消滅してしまう。消滅した場合転生は不可能。
3.異世界へ転生する。この際特典として望む力を付与し、ある程度能力値を底上げすることが出来る。但しこの場合、元の世界に存在したあらゆる痕跡が消滅し、人々の記憶から抹消される。

「おすすめは三つ目の異世界転生だね。もちろん決めるのは君だけど、他二つは色々と厄介な事があるからさ」

 読み終えると同時に声をかけてきた彼は、あっけらかんとそう言った。
 生き返ることが出来る、と見た時にはすぐさまこれを選ぼうと思った。けれど…今までと同じ生活は出来ないと断言され、他にも危うい可能性があると記されてしまえば、それを選ぶには勇気が必要だった。
 家族に会いたい。またお母さんの料理が食べたい。お父さんにありがとうって言いたいし、友達にも会いたい。けれど…

「全部、忘れちゃうかもしれないの?」
「うん」
「どれくらいの確率で?」
「そもそもここに来ることが珍しいから、はっきりとは言えないけれど…半分以上の確率ではあるよ。ほかの体に入り込むのは、珍しいけどね」

 半分以上の確率で、私は記憶を失ってしまう。
 それは、私の望むことじゃなかった。記憶を失うことで両親を悲しませたくないし、両親との思い出は絶対に忘れたくない。
 それに、確率が低いとはいえ、他人の人生を歩まなければならない可能性があるのも嫌だった。私は私だ、他人の人生を歩きたくはない。
神様になるのも嫌だ。そんな大層なものになりたいとは思わないし、それに…

「結局私の大切な人は、悲しんだままなんだよね」
「そうだね、そうなるかな」

 結局行き着くのはそこだった。
 家族には会いたいし、やり残したことは山ほどある。けれどそれ以上に、家族や友人を悲しませることが嫌だった。
 なら、私が選ぶ道はたったひとつ。『異世界への転生』、これだけだった。
 私が生きた証も、私との思い出も、みんなから消える。消えてしまう。それはとても悲しくて寂しいことだけど、残してしまったみんなを悲しませるよりは、ずっと良かった。

「決まったみたいだね」
「……うん。私、異世界に行く」
「ふふ、真っ直ぐな目、いいね。どこまでも優しく、家族や友人を思うその気持ち…最高だよ。ここに来る人はだいたい即受けいれ異世界最高!って人ばかりだからさ、ここまで悩む子って居ないんだよね」

 やれやれ、と彼は肩を竦めてそう言った。
 なるほど確かに、異世界転生物における神様との面談は、私の知る限りではだいたい即受け入れて異世界に喜んで飛び込んで行った。現実でもそれは同じで、私のようにあれこれ悩む人はいなかったらしい。みんな前向きなようで大変よろしい。

「僕の話を疑わず、全て聞き入れ、最後まで皆を想い悩んだ君を、僕は気に入った。よって、転生者の特典以外に、僕から加護を授けようと思う」
「気に入る基準低くないかな…?貰えるものは貰うけど…加護ってどんなものなの?」
「君みたいな子は初めてだからね、仕方ないね。加護についてだけど、まぁ色々ややこしいから一言で言うんだけど…聖女の力、って所かな」

 聖女の力。これもまた異世界召喚や異世界転生でよく見るヤツだ。
 聖女の能力としては、祈りの力や加護の付与、浄化の力がメインだよな…?それを使えるようになるってこと…?

「簡単に言えばそんな感じ。でも本当の聖女とはちょっと違うし、力は並の聖女とは比べ物にならないくらい強い。何せ神直属の加護だからね!詳しくは生まれた世界で調べてみてよ、好きでしょそういうの」
「確かに好きだけど…転生者に全部任せるのかぁ」

 でもまぁ、転生してからやりたいことができるのはいい事だ。それを目標に頑張ろうと思えるし。
 神の加護…うん、なんかちょっとかっこいいし、嬉しいかもしれない。

「喜んでもらえて何よりだよ。それじゃあ、次は転生者特典について決めようか。何がいい?何が欲しい?なんでも出来るよ。君の持ち物をあちらに持ち込むことだってできる」

 なんでも出来る。持ち込むことも出来る。加護だけで十分な気もするけれど、貰えるものは貰う主義、どうしても悩んでしまう。
 なんでもいいのか…持ち込むことも出来る……どうせ持ち込むなら本がいい、こちらに残した本でまだ読めていないものが山ほどあるのだ。
 そこまで考えて、思いついた。そうだ、元の世界の本を、あちらに持ち込んでしまおう。

「決めました。私のいた世界の本を、異世界で自由に出し入れできる能力をください」
「おっと予想外のものが来たなぁ?」

 彼はうーん……と酷く悩み、しばらく頭を抱え、絞り出すように答えた。

「悪いけど、本そのものの召喚は出来ないかなぁ…物の行き来には代償が必要だから…召喚魔法でも、魔力や血液を消費して何かを呼び出すでしょ?それと同じで、自由に出し入れは無理、かなぁ…」

 酷く申し訳なさそうに絞り出されたその言葉に、打ちひしがれる。
 そんな…本が、持ち込めない…?なら、全ての本を、異世界に持ち込むしか…?いや、この世に何冊本があると思ってるんだ。そんなことは無理だ、出来ない。
 でも、でも…本は欲しい、持ち込みたい…どれも素晴らしい作品なのに、厳選なんて私は出来ない…
 今度は私が頭を抱え悩んでいると、彼は一つ提案をしてくれた。

「じゃあ、君の携帯端末を特典にしよう。そこには君のいた世界と、これから向かう世界、両方の世界の全ての書籍が入れる。それだけじゃなくて、別の特殊能力も付与しておくよ。それでどう?」

 まさに神様。その手があったか、と目から滝のように鱗が落ちた心地だった。
 紙媒体が好きでずっと紙のものを買っていたけれど、そうだ。世の中には電子書籍という便利なものがある。それを活用すればよかったのだ、盲点だった。
 両方の世界の全ての書籍が読めるとは、なんて幸せなのだろう。
 別の能力についても気になるけれど、それ以上に、『全ての本が読める』という事実が何よりも嬉しかった。
 あまりの嬉しさにぴょこぴょこ小躍りをしていたら、彼がまたやれやれと肩を竦めてため息を吐いた。

「僕の加護よりずっと嬉しそうだね…知ってたけど、ちょっと妬けるなぁ。……それじゃあ、異世界に向かう覚悟はいいかい?」
「もちろん。私はできてるよ」
「君はあちらで、赤子から生きることになる。端末は君が成長し扱えるようになったら現れるから、気長に待ってね。………では、良い異世界ライフを!」

 彼が手をかざせば、青白い光に包まれ、意識が遠のく。
 さようなら、お父さん、お母さん。さようなら、友達の皆。さようなら、私の過ごしてた世界。
 そして…こんにちは、私の異世界ライフ。


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