コメディ・ライト小説(新)

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パティシエールと甘党男子。
日時: 2022/05/01 16:15
名前: 樫原 柚貴 (ID: 2QKCGrb9)

四月。
────チリリリ、チリリリ、チリリリ………
 もう朝か……。
 ベッドから手を伸ばして目覚まし時計を止めようとするけれど、届かない。自棄になって手を振ってたら、目覚まし時計を叩いちゃって。        
 目覚まし時計がガシャンと音を立てて、床に落ちた。
「姉ちゃん、うるせー」
 下の階から、弟が叫んだ。
 はっ、今日、学校じゃん…!
 ベッドから跳ね起きて、急いで制服に着替える。
 ダダダダダ、と音を鳴らして階段を下りると、また弟に「姉ちゃん、うるせー」と言われた。
「お姉ちゃんはっ、今日、学校っ」
「しらねー」
 弟は、知らん顔。
 洗面所で身支度だけ整えて、家を出た。
「いってきまーす!」
 後ろから、「気をつけるのよー!」とお母さんの声が聞こえる。
「はーい!」
 車の横に停めてあった自転車にまたがって、通学路を走らせる。温かくて、冷たいような春の風が心地よかった。
 桜並木に見惚れながらしばらく進むと、わたしの通う高校、碧杷高校が見えてくる。ベージュのレンガ造りでいかにも洋風って感じだ。
 校門に近づいていくと、正装をした親御さんたちと真新しい制服を着た、新入生がいた。
 そう、今日は入学式だ。
 でも、わたしが新入生ではなくて、迎えてあげる側。
「おはよぉ。架奈ちゃん」
 と、声をかけてきたのは、吉坂優衣ちゃん。
 優衣ちゃん、目が大きくて、顔が小さくて、とっても美人さんなんだ。同学年からも先輩からもたくさん告白されてきた学年のマドンナ(わたしが勝手に呼んでいる)なんだよ…!
「優衣ちゃん、おはよ。ついに後輩ができるね…!」
「ねぇ~! でも、ゆい、身長ちっちゃいから1年生に間違われないか心配~」
「大丈夫だよ~」
 わたしたちは、高校2年生に進級する。先輩たちは、一番楽しい時期って言ってたからワクワクでいっぱいだ。
 優衣ちゃんとの会話はいつもまったりしている。だからこそ、この雰囲気がわたしに合っていたのかもしれない。
 優衣ちゃんとは、高校1年生のときに出会った。入った部活の料理部が一緒で、初めての活動で知り合いが誰もいなかったわたしに声をかけてくれた。クラスは同じじゃなかったけれど、今は一番仲が良いと思う。
 今年こそ、同じクラスになれますように。
 そう願って、昇降口の名簿表の中にある、わたしの名前を探していく。
 水瀬架奈…水瀬架奈…1組…いない。
「どうしよ! 吉坂優衣がどこにもない! 誰か探して!」
 隣で、優衣ちゃんが騒いでる。そういえば、優衣ちゃんは、探す系が苦手なんだっけ。
「あっ! 見つけた!」
 自分の名前を見つけ、思わず大きな声で叫んでしまった。
 同時に、優衣ちゃんの名前も探す。
「優衣ちゃん、あったあった! 同じクラスだよ!」
「やった~!」と、優衣ちゃんが喜んだから、わたしも優衣ちゃんに抱きついた。
「お前ら、同クラか」
 と、後ろから声がしたのは、優衣ちゃんにストーカー? 的な行為をしている、藤川くん。
 優衣ちゃんは、「うげっ」と言って、そそくさと階段のほうに行ってしまった。
「あ! 待って! 優衣ちゃん!」
 わたしは慌てて、優衣ちゃんを追いかけた。


 初日だからか、ちゃんとした授業はない。
 1時限目は自己紹介、2時限目はプリント配布とか、そんな感じだ。
 本当は、午前中で終わるんだけど、新入生に部活紹介みたいなのをしないといけないから、だいたいの人がお弁当持ちで午後までだ。
 でもわたし、寝坊して、お弁当作る暇なかったから、購買行かなきゃ。
 優衣ちゃんにそれを伝えて、家庭科室から出た。
 料理部は、今日、パフェを作ることになっている。火を使うのは危険だし、大変だから、好きなものを選んで作れる式にした。もちろん、作ったものは食べられる。
 時間、気をつけなくちゃ。始まる前までに戻らないと新入生に巻き込まれちゃう。
 そう思って、廊下を小走りしていた。何、買おうかな…。わたしもパフェ食べたいしなぁ。
 考え事してたら、こっちにむかってくる人に気づかなくて。
───ドンッ
 階段の踊り場でぶつかったらしい。
「ったあ」
 廊下に尻もちをついたわたしは、相手に謝らなきゃと思って顔を上げた。
「わっ」
 そしたら、目の前に顔。
 ぶつかった相手は、男の子だったみたい。
 首からタオルを掛けていて、青色のユニフォームを着ている。だとすると、テニス部かな。
「あ、あの…ごめんなさい。怪我とかないですか?」
「怪我は大丈夫。お前は? てか、誰?」
「怪我っていうか、尻もちついただけなので、平気です」
 いやいやいや、心配してくれるのは良しとして、名前の聞き方よ。
「2年3組の水瀬架奈ですっ」
 ちょっとムカついて、冷たく言ったら。
「僕、北原菜月。あ、2年6組」
 同じ学年か。これから、気まずいなぁ。
 丁寧に返されちゃって、冷たく言ったのを少し後悔した。
 …てか、この態勢いつまで続くのよ。
 わたしは、尻もちついたままで、北原くんは、しゃがんでわたしの目の前にいる。
 めっちゃ、顔近いんですけど。
「は、離れてくだ──」
「いー匂いする」
「は」
 北原くんがわたしの肩に顔をうずめて、匂いを嗅いでる……。嗅いでるっていうか、吸ってる……。
 ちょ、これはどういう状況? は、これは、助けを呼ばなきゃ!
「優衣ちゃっ……」
 喋れない…!
 ちょっと、何してんの!?
 北原くんが、わたしの口をおさえて、助けを呼ぶのを阻止してくる。北原くんは、わたしの肩に顔うずめてるだけだし。
 「ぷはっ」
 強引に手をどけて、思いっきり北原くんを睨んだ。
 北原くんも顔を上げて、もう一度、同じことを言った。
「いー匂いする」
「それ、どういう意味よ」
 嫌みっぽく言ったら、ニコッと笑った。
「チョコレートの匂い、甘い匂い」
「チョコレート…? あ、あれじゃない? さっき、パフェのトッピングにするためにチョコ砕いたり、溶かしたりしてたの」
「パフェ?」
「そう、パフェ。わたし、料理部なの。あなたも暇があったら食べにくれば? 部活紹介終わったら、在校生も来れるじゃない」
 北原くんは、なぜか、目をキラキラ輝かせてわたしを見ている。
「うんっ、食べにいく」
 とびっきりの笑顔でそう言うから、なんだかドキッとしてしまった。
「あ! わたし、戻らなきゃ! 新入生、来ちゃうよ。北原くんも戻ったほうがいいんじゃない?」
 慌てて言うと、北原くんは、こくりと頷いて、
「バイバイ、架奈。あとで行くね」
 と、言った。
 わたしも北原くんに手を振って別れた。結局、購買は行けなかったけれど、まぁパフェ食べればいっか!
 ん? それにしても、なんで北原くんは、わたしの口をおさえたんだろう? 周りにバレちゃまずかったのかな…。しかも、最後、架奈って呼んでたし! よく考えたら、わたし、北原くんに顔うずめられたし。なんだかちょっと、恥ずかしい…。いや! だいぶ恥ずかしい…!
 なんだか、深緑色のブレザーの右肩にいつまでも熱い余韻が感じられた。


 新入生への部活紹介が終わって、みんなもうヘトヘト。
 たくさん来てくれたし、喜んでくれたから、結果的には良かったんだけど。スイーツのサービスだからか、たくさん人が来すぎて大変だった。
 この後は、在校生も部活紹介を回ることができる。わたしと優衣ちゃんは、1年生のときのクラスで惜しくも別行動になってしまった。
「いってらっしゃーい」
 優衣ちゃんを送り出して、机にヘナッと寄りかかった。
 幸い、家庭科室には誰もいない。
「わたしもパフェ、たーべよっと」
 準備室に行って、パフェ用のグラスを取りに行った。
「あ、あとスプーンか」
 引き出しを開けて、スプーンを取ろうとしたら、準備室の扉がガラッと開いて、北原くんが現れた。
「よっ、架奈」
わたしは、鍵の閉まっていて外側から入れない準備室に、誰かが入ってきたのが怖すぎてスプーンを床に落としてしまった。
「あっ」
 拾わなきゃと瞬間的に思って、しゃがんだら、また目の前に北原くんの顔。
「わっ」
 危ない…! と思った瞬間、もう遅かった。ぶつかる──。
 ───ゴンッ
「いってえ」北原くんが、額を押さえながら言った。
「架奈の頭、かってー」
 それはどーもすみませんでしたぁ。
「て、てか、なんで勝手に入ってきてるの? ここ、準備室で外から入れないんだけど」
 北原くんは、額を押さえたまま答えた。
「架奈の匂い」
 ん? んんんんん?
「はぁ!?」
「だから、架奈の匂いがしたんだって。んで、鍵ガチャガチャやってたら、壊れた」
 ちょ、っと待てよ…。理解が追いつかん……。
 わたしの匂いがして、家庭科準備室に来たら、鍵が閉まってたから、壊したってこと?
 いくらなんでもおかしくない……!?
「わたし、全然意味分かってないの。ええと、北原くんはパフェを食べに来たのよね?」
 北原くんは、ふるふると首を横に振って、縦に振った。
 もっと意味が分からなくなってるんですけど。
「パフェを食べに来たんじゃないの?」
「そうだけど、違う。メインディッシュは架奈」
「わ、わたし、食べものじゃない…!」
「違うよ。架奈に会いに来たってこと。もちろん、パフェも食べるし、架奈も食べる」
 ん? 今、おかしなことが聞こえてきたような……。
「わ、わたしを食べるの?」
 爽やかな笑顔でこくりと頷く北原くん。
 サラッと変なこと言わないで…! やっぱりわたし、食べもの扱いされてる!
「と、とりあえず、パフェの準備するね。北原くんは、家庭科室で待っててよ。色々聞きたいことあるし」
 振り向いて、歩こうとした瞬間、石けんみたいな香りに包まれた。
 背中に人の体温を感じる。
 北原くんが、わたしに抱きついてる。
 それだけは、理解できた。
 理解して、顔中が真っ赤になってくのを感じる。
「やっ……めて…」
「なんで?」
「ドア、開いてるっ…」
「だいじょーぶ」
「離して……っ」
「やーだ」
「なんで…?」
「んー、やだから」
「っ、離れて……!」
「…………いーよ」
 ようやく、解放されて。
 心臓がものすごい音を立ててる。
 わたしは、危険なものから遠ざかるように、家庭科室に入っていった。

 結局、一緒にパフェを食べて、色々なことを聞いた。
 彼は、2年6組の北原菜月くん。1年生の頃は4組でわたしは2組だったから、あまり関わりがなかった。そもそも、存在自体を知らなかったらしい。わたしもだけれど。
 男子テニス部に所属していて、今は、2年の中の副部長をやっているらしい。正直わたしは、「微妙な位置だなぁ」と、思った。
「あ、それから、なんでわたしのこと、架奈って名前呼びなの?」
「呼びやすいから」
「はぁぁぁぁ」
 思わず、大きなため息。
 北原くんの答えは、だいたい意味が分からなくて、こっちが工夫して質問しないと会話が成り立たない。
 もうだんだん疲れてきちゃったよ。
 一人で机に突っ伏してたら、北原くんも同じことしてきて。バチッと目が合っちゃった。
 さっきのことを思い出すと心臓がまた跳ね出す。でも、どうして今日出会った女の子なんかに抱きついたりするんだろ……?きっと、北原くんはちょっと、いや、随分変わってるんだわ……。
 しばらくボーッと北原くんの目を見てたら、北原くんがわたしに寄ってきた。
「わっ…! ち、近いです……!」
 そんなことはガン無視。
「架奈はどーして僕のこと『菜月くん』って呼んでくれないの」
「え?」
 そ、そんなの知らないよぉ……!
 で、でも、これだけは言えるハズ!
「出会ったばかりの、よく知らない男の子を名前呼びするのは、良くないと思いますっ!」
 そしたら。また、ふわっと石けんの香りに包まれて。
 そして、耳元で。
「じゃーあ、僕のこと、教えてあげる」
「ひゃっ……!」
 囁かれて、くすぐったいし、恥ずかしいし。色んな感情が出てきて、変な声出ちゃった。
「やめて……!」
「どーして?」
「だ、誰か来るかもしれないでしょっ……!」
「ふふ、だいじょーぶ」
 って、北原くんは笑うけど。
 そしたら全然大丈夫じゃなくて。
「ただいま~」
 家庭科室に優衣ちゃんが帰って来ちゃった。
「あれ? 架奈ちゃんと菜月、何してるの?」
 わたしは北原くんから、スススッと離れた。
「一緒にパフェ食べてただけだよ。北原くんが遊びに来たから」
 すると、優衣ちゃんがニヤニヤしながら、
「ホントにそう? なんだか距離が近かった気がしなくもなくもないけど」
 とか言うから、「ち、近くないよ…!」と言い返した。
「じゃ、僕戻るね。バイバイ、架奈」
「し、しーゆー」
 慌てすぎて、日本語喋れてないわたし。
「ちょ、架奈ちゃん! 何英語で返してんの!? しかもめっちゃカタカナ!」
 わたしの発言がそんなに面白かったらしくて、爆笑してる優衣ちゃん。
 今日は恥ずかしい思いをいっぱいした日。北原くんのことを考えると、少し、ドキッとして鼓動が速くなる。
 でも、一つだけ疑問があって、優衣ちゃんが北原くんのこと、名前で呼んだとき、どうしてこんなにモヤモヤしたんだろう?


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